只見 大白沢シロウ沢ワカゴイ沢

2003.9.13-.15
治田敬人、寺本久敏
 只見の沢のイメージはどうもピンとこない。雪に磨かれたエグイ豪さのある越後とか、やや助長のあるまったりする南会津の中間のようで、ここにはとんでもない側壁や大滝の存在を求めても無理で、またゴルジュも凄みがないもんが多いようだ。僕は幾つも入谷してないので何ともいえないが、これが只見の沢だと代表するようのなものがなくて、どうも連想しずらいものは感じていた。
 こんなもんだろうと予想を立てたワカゴイ沢の渓相も、規模の違いはあったにせよ、滝やゴルジュは予想通り。いうなればどっちかと言うと貧弱という表現が似合う沢であった。でもしかし名渓谷だと僕は思う。


ワカゴイ沢源頭部
 砂子平に車を置き、只見川を下って出合に立つ。うーん、大白沢は予想以上にスケールがある。待ちに待った沢旅のはじまりはじまり。
 今回もそうガツガツと登らず、谷と森との融合を求めて、遡行することにする。ナメとゴルジュが続き飽きも来ないでシロウ沢の出合に着く。
 本流の良いのはここまでで、クロウ沢と分かれ、一気にしぼんだシロウ沢の遡行と相成る。いったいこれはどういうことだ。さびしいし背中の釣具も泣いている。水量も極端に減ってコビキノ滝も悪いが迫力なし。スタコラと歩は進まず、それでもえらく早く大ハゲ沢に着。水もぬるく、着用のウエットタイツのせいで気持ちよく浸かりまくれるのが楽しい。物足りない遡行が続きやっと核心の80mゴルジュが登場した。なるほど小滝の連瀑と巻きづらいゴルジュがストレートに抜けている。落差もないのでノーザイルで左残置スリングの綱渡りの連続で1つ目はクリア。1分もかからないが初めてこれを開いた先人はアブミでじっくり攻めたと思う。その苦労は並大抵ではない。僕がその状況にいたら大巻きを選んだ可能性はえらく高い。
 2発目の滝に先行者が取り付いている。見れば右側壁にいっぱいの支点でトラバースで滝頭に抜けるようだ。
 僕は調子もまずまずなので、他のルートの可能性を追う。即座に流水の左側ないし中央の岩の間に弱点があると感じた。早速取り付く。泳ぎが入ると思ったが胸ほどの深さで水流に突っ込めた。その裏側に体をもぐりこませ、狭い空間でザックからザイルを出し、空荷で登ることにする。岩と岩との間が弱点で右手をジャム、左手を目一杯伸ばして顕著なガバがつかめれば一瞬の勝負はケリがつく。
 3発目は先行者の動きを見てから取り付く。簡単そうなのでノーザイルでいったが問題はなかった。
 勢いついて2段20mの滝の中間リッジに取り付く。初めに寺本が取り付くが難儀をしている。それではと僕と交代するが僕も行き詰る。
 残置ハーケンの頭に乗り、さらに攻めるためハーケンを打ちたいが薄刃クロモリがなく、アングルだけ。これでは攻めるに攻められない。フリーではとても限界に近く、支点は墜落を止める確かなものとはいい難い。当然落ちれば極めてヤバイ条件であることは誰が見てもあきらかだ。無理は禁物である。
 先のゴルジュで出合った彼らにルートを譲り、僕らは右凹角涸れた流水溝に登路を変更する。ここもかなり悪く体を側壁に付けながらの全身フリクションクライムでX級近いワンムーブで抜ける。打った支点も甘くヒヤヒヤもんだった。
 中間リッジの方は2点ほどハーケンを打ち足場にして抜けたそうだ。
 彼らにも意地があり、よくやったと感謝の念を送る。
 もうここを抜けるとしばらくで赤柴沢の出合だ。時間は14:00。いい幕地は探したがないため出合に泊。水線からプラス30センチあるかないかの所だが予報では台風の影響はないはずだ。
 今宵も至福。焚き火と岩魚なしの豪勢なつまみで酔いしれる。
 かなりのほろ酔いで床に就くが20:00頃の当然タープをたたく強烈な雨粒の音に飛び起きる。これでは30分持たないと判断し、寺さんに着替えていつでも動ける状態で待機と指示する。濡れたウエットと足袋を履き転がる。豪雨は10分も続かず小雨となる。時間差で増えだした水流もしばらくで止まりまずは一安心。その後も振ったりやんだりで朝まで持つかと思われたが、限界が来た。また強烈なのが23:40過ぎにきた。もう未練はない。即タープを外し、セットしていた逃走用ロープに身をゆだね一段上に避難する。ハーネスや登攀具を身につけ安全地帯を求め夜中の赤柴沢へ移動する。
 なんとか横になれる少しの高台を見つけタープを張って落ち着いたら、なんと今度は沢音が尋常でなくなった。濁流がこの対岸までぶつかってここの場所も時間の問題で流水に洗われる。一刻の猶予もない。見れば先ほどから上部で張っていたパ-ティも大移動に迫られてる。
 寺とまた安全地帯を探し出す。すぐ上の高台が良さそうなのでまた移動する。少し小雨になり落ち着いたのが2:00過ぎ。熱いスープを飲み、タイツのままシュラフカバーにもぐりこむ。
 おそらくこの日入った4パ-ティ8人はどれもタジタジで避難したに違いない。特に下流に泊まった連中とワカゴイ沢に入った連中はいい避難地があったかどうか心配になる。もっとも僕らもそんな余裕は今もないのだが。

 ようやく夜もしらみ朝のお茶タイムがやってきた。雨はやんでいる。ほとんど一睡もしていないが、興奮しているせいで眠気はない。
 増水はややしているがかなり減水した。これなら遡行に支障はない。
 飯と熱いラーメンを喰らい、やる気を起こして出発だ。
 ワカゴイ沢に入って少しでラーメンやらつまみやらが流れて流木にかかっている。これは上のパーティの昨晩の被害状況と見たが、上にいっても続くのでかなりやばい襲われ方をしたと推測する。
 3段30m滝を左岸まきで巻き、しばらくで上部の核心部。小滝だが難しい一歩がある。これを3つ抜けると前方にでかい土の塊が谷をふさいだ。雪渓にどっぷり土砂が乗った巨大なもので、本流の濁りの原因はこれだった。
 高さ20m以上長さは300mはあるだろう。これを超えるのもいやらしい。切れた隙間から覗けば、とんでもない深さに流水があるし滝もあるようだ。
 最後は右岸にジャンプして雪渓をやり過ごす。ここから一気に明るくなる。左岸の幅広ナメ滝が出合う地で前のパーティと休憩。拾った食い物を彼らに渡す。
 聞けばとんでもない状況で危機一髪だったようだ。テントに泊まり夜中背中を水が流れているようなので慌てて入口を開け立ち上がると、一気にテントが持っていかれ、その人は逃げられたが、相棒はテントに包まったまま流されたというのだ。
 その人は完全に相棒はやられたと思い、また流された相棒も初めは何かにつかまり必死に抵抗していたが、どうにもならないので流されたというのだ。体をそこいら中ぶつけ運良く段差に止まったところ切り抜けたらしい。靴も食料もみんな流され夜中と朝方捜索して装備は回収したらしい。恐ろしい増水の一幕である。
 あの時の状況ではテント泊は外の状況がつかみづらいので不利だと思う。
 僕らも大酒飲んでテントにいたら流される可能性は大きい。
 多段100m滝はどれがどの滝かよくわからんが落差があるので慎重に左を登る。
 続くゴルジュの10m滝はシャワーをくらい右から左に抜けて上段はクラックを登る。
 ここは先のパーティのザイルを借りてタイブロックで安全を期して取り付いた。
 最後の直瀑は立っており、皆巻いているようだが、左に弱点が見出せそうなので試みる。
案の定上部は垂壁で、アングル一本打込んで、縦方向に効くホールドをつかんだら体を振って外に出す思い切りを要求されるムーブで切り抜ける。
 セカンドの寺に聞いたら打ったハーケンは全然効いてないって。まいったねこりゃ。
 もう後は小滝しかなくつめの笹薮をこげば頂上台地の湿原に導かれる。平が岳に12:00である。ゆっくり腰をおろす。
 今宵のねぐらを考え、頂上を散策するがいいところなし。稜線のタープではまったく風雨に弱く、それをカバーできる場所が皆無だ。
 僕にはここでいい案がヒラメイタ。以前、恋ノ岐川を遡ったとき台倉尾根を下りオホコ沢から本流に戻ったが、そのとき緩い尾根の台地部分の記憶がよみがえった。
 針葉樹がかたまって植生していれば、その下は下草がないのが体験からわかっていた。

 一般道をハイカーに混じりながら楽しく下る。しかし、いくら探しても先の僕の案の条件は見出せない。しかし、ふと見上げたオオシラビソの塊にここだと笹をこいでわけ入った。驚く事にそこには想像以上のすばらしい空間が広がっていた。
 30畳はあるだろう、ぽっかりあいた下草のない平地。もう自分の勘がドンピシャと当たりほくそえむ。夕飯は焼肉とゲスパだ。酒もなくなるまで飲み、今宵も至福だ。  3日目は、もう下るだけ。鷹ノ巣からの往復ハイカーで痛みに痛んだ登山道。オーバーユースを考えさせられる典型的なものだろう。下台倉山から急降下になると道の荒れは収まり、気持ちよく下れる。

 いろいろあったが、只見の沢は優しく僕らを包んでくれたと思う。僕らもそれに対し礼を尽くして対面した。そつなく飾ることなく気負うことなく融合できた。シロウ沢には、もう満足で未練はない。

【記録】
9月13日
 砂子平 7:30 赤柴沢14:00
9月14日
 発7:00 平が岳12:00 尾根幕地15:00
9月15日
 発8:00 鷹ノ巣11:00 砂子平12:00