谷川岳 一ノ倉沢 滞在日記


2004.10.1〜7(記 青山)

前章  これで谷川が好きになった

9/9.(木)
快晴
湯檜曽川本谷
マチガ沢の東屋発5:30---入渓6:00---魚止滝7:20---8:40十字峡---七つ小屋沢別れ9:20---大滝の上11:00---上の二俣12:30---JR土合駅17:00

せっかく関東に来たからには谷川へ行ってみなければと思っていた。湯檜曽川本谷は、記録を見るに大滝と手前の滝は一人では難しいのかもしれない。けどまぁ湯檜曽川を見るだけでもいいし、無理せず引き返せばいいし。

前夜土合の駅を降りたとき、構内がガスっていて階段が上まで見えなかったことと、もう一人降りたはずの乗客の姿が消えてしまったことがやけに無気味だった。マチガ沢手前にちょうどいい東屋があったので、そこのベンチで泊。

一ノ倉沢出合のだいぶ手前から入渓。白い石、広い河原、森は大きな木がまばらに生えて美しい。ここで焚火をしながら一日二日過ごしてもいいかなと思いかける。だらだら歩くうち、川が曲がりすぐゴルジュ地形となる。水がゴウゴウとながれており、一歩やだなと思うところにはハーケンがしっかりある。それからは河原あり淵あり小滝あり。手を変え品を変え魅せてくれる。

谷が急遷、十字峡。ここのは見事。大倉沢も抱き返り沢もいつか登ってみたい。滝が出てくるものの、難はなく楽しく登れる。懸念の10m滝は、右からトラバース気味に水流横へ向かいトラバースできそうだ。ザイルを出すまでもないけれど、残置のぼろいハーケンに一応シュリンゲをとって登った。難しくなかったのでほっとする。じき大滝。中間のテラスの残置支点に、なぜかザイルがセットしてあり、シュリンゲ・カラビナ・確保器が残置してあった。ちょうどいいので、そのザイルをその先の確保に使わせてもらった。テラスから数歩真上に登るのは緊張したが、そこから傾斜がゆるくなり大丈夫そうだったのでハーケンも打たずそのまま登る。トラバースに移るところでザイルは置いていく。滝と草付きのトラバースはしっかりしていて問題ない。これで一応問題の箇所はおわり、引き返さなくても大丈夫そうだとほっとする。常に、クライムダウンできるか入渓地点まで帰れるかを気にしながら進むのと、先のことだけを考えて進むのでは気疲れが違う。

二俣は、いまいち狭いし、まだビバークするには時間も早いので先へ進む。しばらくナメが続くがそのうち平凡となる。打ち切りにして支流から登山道へ出ようかとも思ったが、忠実に山頂までつめた方が充実するだろうと進む。そこからがやたら長くて飽きてくるが、徐々に高度を上げて景色が広がってくると、これこそ沢だ、こっちに来てよかったと思う。最後はヤブ少し進むと池糖の広がる高原で、じき朝日岳山頂に着いた。地図を見ると、急がなくても最終列車には間に合いそうだったので、泊るのはやめて下山に向かうことにする。白毛門岳経由の登山道は眺めのいい稜線を登り降りする。ここを歩くだけでも十分楽しい道。反対側の谷、宝川にはナルミズ沢がって、利根川源流があって、いつかいきたい武尊山もある。 遡下行を繰り返し山域を移動していったら楽しいだろうと想像する。アップダウンと最後の急降に疲れながらも土合駅にはちょうどいい時間に着いた。

好きな沢はたくさんあるけれど、なかでも湯檜曽川本谷はとても気に入り、谷川岳一帯も好きになりそうな気がするし、谷川岳に近い関東も毛嫌いしていたけれど悪くないなと思うにいたった。





湯檜曽川本谷以来、一度あの辺にじっくり腰を落ち着けてみたいと思っていた。
ちょうど一ノ倉沢や幽ノ沢を登ろうという話もあったので、ついでにしばらく滞在することにした。


10/1.(金)
快晴
白毛門沢 鼻毛の滝見ながら昼寝
JRを乗り継ぎ、水上そして土合へ。やっぱり遠いよな。
台風一過の快晴で白毛門沢に入ったものの、水量があまりに多くて二俣までで引き返した。
それだけでも必死の渡渉やら、ヘツリやら、薮コギで1時間半。川幅のナメいっぱいに水が流れて、傾斜のないところでさえへつりには緊張する。下降ヘツリ中、一度滑ってナメをウォータースライダーのように流された。景色がグルグル回転して、目でとらえられるスピードなのに、何をつかもうとしても止まらない。危なかった。
鼻毛の滝はすごい迫力。乾いたスラブの上で昼寝しながら、滝見物。こんな日は昼寝に限る。

入渓点にデポしていたテントや食糧を持って、一の倉沢出合へ向かった。
以前一度だけ来たときには、ドライブがてらの観光だったけれど、一ノ倉が威圧感たっぷり陰惨に見えて慰霊碑だらけだしいやなところだと思った。また来てしまった今日も、やっぱり圧倒的な雰囲気に気おされる。けれどどちらかというと、大きくて美しいものを前にしているという感じ。あんなところ、明日登れるのだろうか。
今日は一の倉沢も増水していて、林道のずいぶん横まで水が流れていたらしい。林道脇にテント設営。



10/2.(土) 快晴
一ノ倉沢 3ルンゼ   メンバー 神谷さん(東京YCC)・青山
一ノ倉沢テンバ発4:30---中央稜取付5:50---南稜取付のテラス6:00---3ルンゼ取付6:30---国境稜線14:00---マチガ沢出合16:50---一ノ倉沢出合17:20

本チャンは初めてに近いので緊張。しかも見上げる谷は大きくて、登れるのだかまったく自信がない。
暗闇の中出発、白んでくる中、ヒョングリの滝をまき、テールリッジを登ったテラスで
ちょうど太陽がのぼってきた。まだ夜の青と朝の赤とのグラデーション、真正面に赤い太陽。世界がいっせいに輝き始める。快晴の一日が劇的にはじまる。
南稜取付からザイルを出し、6ルンゼへ入りかけたりもしながら、3ルンゼ取付へ。

1P(神谷)本谷の滝というか湿った岩の左から取付。簡単そうに見えるけれどそうでもなく思えた。支点は少なめでカムも使いながら。この先滝はいくつも出てくるが、いわゆる水が勢いよく流れるような滝ではなくて、ほとんどが雫がたれている程度。
2P(青山)滝?の左、右どちらから行くべきか迷いつつ右から行くが、左が正しかったようだ。
3P(神谷)右壁をトラバースしてルンゼ中の平なところに出てザイルいっぱい。どうも4ルンゼに入りこんでいるらしい。見下ろしても本谷が見えないし。
4P(神谷)そのまま草つき壁をトラバースしてとなりのルンゼへ。3ルンゼのF1の上にでた。
5P(青山)しっかりした終了点があったので短めにきる。
6P(神谷)傾斜のない草つきスラブでどこでも行けそうだが、適当に左から行くと支点もなく恐る恐るのクライムダウンで戻る。右から行くと支点も終了点もあった。
7P(青山)F2。多分核心。支点が少なくハーケンも打ってもきかず、ランナウトに緊張する。水流沿いに支点があるが濡れいており、ルート図には壁側のクラック沿いを行くようなことがかいてあったが、そちらも濡れてぬめっており行きたくない。最後にしっかりしたハーケンをとれるまでこわかった。
8P(神谷)適当に歩いていける次の滝とのつなぎの傾斜のないスラブ。
9P(神谷)F3は小さな水流で濡れていて直登はとても無理で、右のクラックから。テクニカルで支点はたくさんある、という面白さでは核心のピッチ。ルートが立体的に曲がるのでロープの流れがとても悪くなった。
10P(青山)岩のごろついているスラブ。これで実質終了。ここまでレストなしで一気に来た。岩登りってそういうものなのかと思った。振り返れば一ノ倉沢出合もきれいに見えるし、テントが並んでいるのも見える。気持ちのいい眺め。
11P(神谷)草つきというかスラブを上へ向かってつめていく。たまぁに隠れた支点がある。ランナウトしてもそんなに怖くない、かといってもちろん気も抜けない。
12P(青山) 続き
13P(神谷) 続き
14P(青山)上部岩壁を左に回りこんで、薮の尾根に出た。
以後 コンテで適当にいくが、踏み跡がよくわからない。
残置がぽつんとあって、何箇所か嫌な感じの草つきスラブを登るうち、薮に突入。
薮をこいで稜線に出た。昨日不安に見上げた壁を、無事に登れて、ちゃんと登れて、とてもうれしい。



10/3.(日) 小雨
湯檜曽川 白毛門沢
入渓6:10---二俣6:40---山頂10:40---下山12:10

朝4時半に一ノ倉のテントを出発し、明るくなるまで入渓点でごろ寝。そのうち雨がざぁざぁ降りはじめる。おとついは台風の増水後入渓した際は、渡渉ポイントを探しさがし、どこもかも川幅いっぱいの恐怖のジェットスライダーとなっていた。まだ水量は多いものの、今日は優美なナメ歩きから始まる。おとついは、きわどいヘツリと薮こぎで1時間半もかかった二俣も鼻歌まじりで30分で到着。一歩一歩慎重に歩けばこわいところもなく、巻きもしっかりしている。

昨日は一ノ倉を登り大汗をかいたので、今日は絶対上で水浴びをしようと思ってアカスリまでもってきた。大滝を登るうち、しかし水が一気に冷たくなりすぎていることに気付き作戦変更。大滝の上の大石の先で、鳥肌をたてながら水浴。当然ながらしばらくふるえがとまらない。見ていると湧水が冷たいのだ。登るほどに水はぐんぐん冷える。

次々登れる滝というかスラブが続き、息が切れない程度に進むうち、草原のような大スラブ帯となる。ガスっていて見渡せないのが惜しい。適当に北方向へつめていくと白毛門岳山頂付近にきれいに出た。おぉ!大したものだ。

5分ほどして見覚えのある黄色のカッパ、と思えばナルミズ沢をつめて降りてきた治田さんと寺本さんだった。驚いた。多分入ってられるだろうとは思っていたけれど、それにしてもすごいタイミング。再会を喜び、一緒に下山。そして温泉へ向かい、ついでに一ノ倉まで送っていただいた。
温泉最高。あたたかい湯で全身ぬくまり、せっけんやら化粧水やら。雨の日はいっそう文明はいいなと思う。幸せな心地でテンバに戻る。でもまた、雨の山やテントはそれはそれでいいものなのだ。



10/4.(月)
散歩
終日雨だったので、一ノ倉沢近辺を散歩。
白い幹の森が、雨でどの木も黒い幹になっていることを発見。
それだけで一日終わり。
まだ新しいテントのポールが、風もないのになぜか折れた。



10/5.(火) 雨/くもり
湯檜曽川 赤倉沢
一ノ倉沢テンバ発8:40---赤倉沢出合9:20---稜線12:30---下山15:00

朝方まで降っていた雨も小降りになり、明るくなってきたら寝ているわけにもいかず出かける。

地形図を見て適当にみつくろった沢。まさかガレだけではないだろう、かといって行き詰まる大滝もないだろうと予想をしていたが、そのとおり下半分はひたすらガレた沢、中流は見事なナメ滝の連続。続きすぎてこわくなる程で、ガスっていなければ高度感もあるはずだ。余裕なく途中でキョロキョロしてしまって草付きに逃げる始末。8mの滝が出てきて、少し気合のいるずるずるの木登りと草つきのスラブのトラバース。といっても、結局ザイルもハーケン類も使わなかった。全体にざれた雰囲気が強くきれいな沢というわけではないが、スラブだけならなかなかのもの。二俣で行きやすそうな右滝を選んでしまったので、笠ケ岳には出ず、白毛門との間の稜線に出た。最後黄葉した灌木混じりのヤブが高度200m30分以上続いて、しかも傾斜が中途半端で方向がつかみづらかったんで疲れた。昨日に続き同じ道から土合橋へ下山。今日はロープウェイ乗場でビールを買い、一ノ倉沢までテクテク歩いて帰った。



10/6.(水)
ナカゴー尾根〜谷川岳〜厳剛新道
一ノ倉沢テンバ発---JRで土合→水上6:51---水上出発7:10---二俣9:10---ナカゴー尾根---
谷川岳肩の小屋12:30---厳剛新道---マチガ沢14:40

あわよくばヒツゴー沢へ、と思い早起きをしてJRの始発に乗る。毎日一ノ倉から通勤している気分だ。雨がやむ予報だったのに、ずっと降り続いて出合の二俣に到着。今日はもしかして水が引いている?と期待してきたけれど、すでに登山道が水流の下だったり、伏流とされている地点で水がゴーゴーと流れていて増水は間違いない。快方に向かうといっても、いまだ降り続いているのでヒツゴー沢はやめにする。
この地点まででも十分森が美しくて目を奪われる。雨にうたれて落ちたての赤色の葉の絨毯。ナカゴー尾根は岩尾根で左右の谷が見渡せる。まさに、秋。草も木も。

上部は風が強く、ガスが尾根を越えると共に強風が吹き荒れる様が笹の並で一目でわかる。巻き込む気流にあわせて風下側の斜面では笹が上へ上へとなびいていく。最後、耐風姿勢とまではいかないものの、低姿勢で笹に隠れるようにして登る。肩の小屋、気温5℃。強風で体感温度はもっと低いだろう。手がかじかむ。ガスっているので厳剛新道への降りはじめのところは、聞いていたとおり分かりづらかった。4日前通ったばかりだからよかったけれど、はじめてだったら迷うだろうと思う。

マチガ沢へ下るうち雲から抜け降り、相変わらずよい眺め。わずか4日前に比べ山全体が一気に紅葉していた。



10/7.(木) 快晴
幽ノ沢 中央ルンゼ   メンバー 神谷さん(東京YCC)・青山
一ノ倉沢テンバ5:00---幽ノ沢出合5:15---中央ルンゼ取付7:00---終了点10:00---堅炭尾根10:30---芝倉沢出合12:00---一ノ倉沢出合12:30

雨が続いたけれど、久しぶりに快晴。晴れの日をねらって神谷さんがまた来てくれた。連日のことだけれど暗いうちに出発。幽ノ沢出合から二俣までの沢のヘツリが、微妙かつ滑りそうで緊張する。アプローチというが、すでに本番の大変さ。神谷さんはすいすい行くのだけれど。沢靴で来ればよかった。
出合からはあまり見えなかった壁も、二俣を過ぎると大きく広がる。うわぁきれいだ。明るくて、奥行きやスケール感が一ノ倉沢とはまた違う。今日もまたちょうど太陽が昇り、幽ノ沢の壁が輝きはじめる。来てよかった。登る前から気が早いが既に満足を覚える。
中央ルンゼといっても、目の前のすっきりしたスラブからはじまる。横にある滝沢大滝も、”岩”で言う滝と”沢”の滝は違うなぁと思うような、水量のない滝。下部スラブは適当に歩き、小垂壁からロープをつけて登り始める。

1P(青山)テンションがあがったまた、さぁ登ろう!と落ち着き無くとりついたら、支点をとってすぐ足を滑らせる。いかんいかん。落ち着いていこう。ハングを越えるが、とくに悪くはない。
2P(神谷)易しいスラブ。支点は少ない。50mいっぱい。
3P(青山)続き。さらに大ハング手前まで。カムも使う。
4P(神谷)大ハングを越えるのかと思いきや、右から横へ出てしまうらしい。
ごく短いが、その横に出る手前で切る。上からシズクが落ちて寒いところ。
5P(青山)右のカンテへでてすぐ、終了点がいくつかあった。さらに10mほど登ったところで切る。
6P(神谷)ビレー点すぐ上が、A1の箇所。フリーで行けないこともなさそうだけれど、たっていてアブミを使用。その先、支点が見えず、様子もわからないため、つっこむのが怖い。登ってみれば残置があったのだけど、行ってみないとわからない。核心らしい核心のピッチ。
7P(青山)草つきスラブ
9P(神谷)草つきスラブ  途中からコンテ  広場になり終了。

他に誰もいない美しい谷の壁、岩はしっかりして乾いている、秋色した山に爽やかに風がふいて、ルートは面白く、とにかく快適だった。核心のピッチはフォーローだったこともあり、一番緊張したのは実はアプローチだったかもしれない。
日一日と目に見えて紅葉が進んでいる。一週間前の一ノ倉沢の時と比べると、まるで季節が移ってしまった。こうやって好きになった山域を毎日、雨の日晴れの日、登攀したり、沢を歩いたり、薮をこいだり、尾根を歩いたり、いろいろな形で味わえるのは最高に幸せだ。堅炭尾根から芝倉沢出合までの登山道も気持ちよい。

充実した一週間に満足し、なぜか来たときとあまり変わらない大きいザックをよろよろとかつぎながら一ノ倉沢をあとにした。