■南ア/深南部 寸又川逆河内[溯行]〜遠山川梶谷川[下降]

2005.8.13-.16
治田敬人、鮎島仁助朗
 南アの谷には幾本も通うが、深南部の逆河内は長大な沢旅の決定版といえる。岳人新百名谷では外れてはいるが、どうしてどうして。林道から荒れたのではという想像で、一見に値する延々と続くゴルジュの渓相を見逃すことは愚かだ。
8月13日
 寸又温泉から約10キロの林道を快適に飛ばす。
 千頭ダムからいよいよウエットタイツで身構え渡渉を繰り返すが、ラッキーなのか水量が少ないようだ。流芯の流れに重さがない。広大な河原を歩き、本流と別れるが出合は貧相といえる。その先の上西河内からなんとなく良い感じの渓相となる。浅いゴルジュ状で谷を構成する要素がりりしくなる。滝は小さくても規模はでかい。だが遡行者の技を求めるところはない。
 雷が響きだすころ時間切れでタープをはる。肴の魚は釣果なしで残念。

8月14日
 昨日はけっこう降ったが増水はしてない模様だ。今日はあの逆さ部分の核心部通過に全力を尽くす。
 大石のゴルジュが続き、柿取沢、大沢を越え、さらに暗くなった渓相にハートもときめく。左岸がえぐれてハングした4m滝に出会う。逆部の第一難関。過去の記録では巻きや左凹角攻めで越えているようだが、ハングを伺えばガバがありそうだ。落ちたら釜の瀑水に巻き込まれる恐れがあるので、下流にひきずり出すという対処法で攻めてみる。アングルピトンを決め左に体を移動する、足が決まらず猛烈に怖い。落口の左手と左足が決まれば一瞬の勝負は決着する。X−というところか。
 次の難関は高さ1.5mの白泡の淵付き滝だ。相棒の山田は右トラバースで行けるという。そんなバカな。どう見てもそんなラインは見えない。奴は淵に落ちたら引っ張れる優位性に立ち飛んでもないクライムで突破した。もちろん僕も試みるがこれはギブアップ。X+はある。土佐衛門になりたくないので右巻き懸垂であっさりとやり過ごす。
 まだかまだかと気を揉ますがその先も長い。ようやく名声高い最狭のゴルジュが登場する。それは幅2~3mの20mほどの淵で、壁は低く威圧感はない。神が創りしこの空間、なぜここだけが最狭なのか不思議だ。さっそく左側壁を掴みながら渡渉し、足が浮いてきたらそのまま横泳ぎでジワジワ攻める。途中で右側に移りわずか1mのナメ滝を登ればもうおしまい。あっけないが水勢如何ではとても突破はかなわないだろう。
 ゴルジュはまだ延々と続くが、右に林道の存在を感じ始めれば明河内は近い。
 その出合から先はおとなしい。良質の魚肉たんぱく質を確保し、暗いゴルジュ手前で泊りとする。

8月15日
 朝一番からゴルジュの巻き。右から巻くが稲妻のように小滝が三連ほどつらなり落ちている。釜伏のゴルジュはその上で、初めは泳ぎからナメ滝の直上。次の滝は右側壁を快適にクライム。また釜の泳ぎからナメ滝を登り、直瀑を右から越えると、最後のハングした4m滝。こりゃダメだ。自然な登攀ラインは見つからない。仕方なく右から巻くが樹林帯に入るまでが嫌らしく微妙な登攀になる。巻き戻れば次の10m滝も右からの大巻き。
 河原からしばらくで谷は険しくなり何やらでてきそうだが、案の定、大滝のご登場。50mで上部は2条。貫禄充分で対面できて素直にうれしい。通過は右のザレた沢を簡単に巻ける。最上流部の二俣はすぐ目の前。左は火打沢、右は僕らが登る岳薙沢。ここまでくるとさすがに規模が小さくなる。ゴーロ帯がしばらく続いたあと滝の連続が始まる。そのほとんどが直登でき快適だ。右折地点のCS滝は右の岩稜から高巻く。最後の分岐の三俣は右に進路を取り、乾いたガレ場から針葉樹林の急斜面をグイグイ登れば待望の稜線。
 低い笹をザワザワと踏んで静かな中ノ尾根山。三俣山までも踏み跡はあるが迷いやすい。
 急傾斜のザレを落石に注意しながら下る。この梶谷川は下降に適した沢で全体に滝は少ない。中上流部で最後の夜を灯す。

8月16日
 中流部の大滝は右岸からその下のゴルジュは左岸から巻き下れば、あとは中だるみの河原状と下部ゴルジュを右岸からの踏み跡を辿れば梶谷集落まで一投足。ただ、林道に出る直前はもの凄いヒルの生息地。危険と感じ急いで通過したにもかかわらず二人で40匹近く体に引っ付かれた。最奥の一軒家にタクシーをお願いし車中の人と相成る。
 逆河内は綺麗な秀でたところは少ないが、ただ長い。滝は低く、曲りくねり、行けども行けども暗いゴルジュの勢いは減じない、それがとにかく良い。名渓探訪に満ち足りた4日間だった。

治田 記

【記録】
8月13日
 寸又集落8:45〜千頭ダム11:05〜幕営地16:00
8月14日
 幕営地6:45〜大沢8:30〜不通10:30〜明河内13:15〜幕営地16:00
8月15日
 幕営地6:40〜二俣9:35〜稜線12:35〜三俣山14:15〜二俣15:50〜幕営地16:10
8月16日
 幕営地7:15〜トサカ沢8:20〜梶谷集落11:10