■東北 岩手山鬼ヶ城本峰バットレス「右側スラブ状ルンゼ」ルート

2005.9.24
鮎島仁助郎
 新幹線で北上する。仙台までは曇り。天気がよくない。本当に晴れるのかどうかと疑っていたら、盛岡につく10分ほどまえから外は晴れ間がさしはじめた。
 駅でレンタカーを借りて岩手山北面、県民の森を目指す。約1時間で到着。
 早速登り始める。登山口には岩手山まで9.5kmと書いてある。こんなに距離があるとは思わなかっただけに、ちょっとがっくり来た反面、少し気合が入る。あまり時間がないことを意識しているのでガンガン飛ばす。幸い、それほど傾斜は強くないので、思い切り飛ばせる。温泉の湧いている地獄谷を通り過ぎ、御苗代池まで1時間で到着。ここからみる岩手山の雄姿は確かにすばらしい一方で対する鬼ヶ城は「…………」と沈黙せざるを得ない。「City Hunter」のカラスも飛びそうな勢いである。唯一の資料である登山大系の概念図がそもそも全然詳しくない上に、太陽を背としているので日陰になっていることも加味されて、いったいどれが本峰バットレスなのか、いやそもそもどこに壁があるのか、、、。まったくわからん!!!多分、そこだろうと見当をつけたところは確かに紅葉に染まりつつあり、綺麗ではあるのだが、でもつまりそういうことは樹木があるということで…。さっさと頂上を目指して、鬼ヶ城バットレス登るのやめようかな、という気持ちにさえなってしまう。しかし、それはそれ。これが岩手山の本質でもあるのかもしれない。
 勘でここかなというところで登山道から外れ、すぐに焼切沢右俣と書いてあるところ思われる沢筋に入る。はっきり言ってどれがCガリーなのか分からないし、さらにスラブ状ルンゼへと導かれる涸沢も見当が付かない。
 当初は一番簡単な本峰バットレスのチョックストンルートに行こうと思っていた。が、ここまで来てもういちどトポを睨めっこするとどう考えても右側スラブ状ルンゼルートの方が面白そうだ。また、確かにW+と書いてあるが、記述を見る以上スラブだし、先々週の阿蘇山でルートが不明になって迷い込み思わぬ困難に嵌ってしまって、グレード以上にルートを迷うことの方を避けたかったこともあり、ルートを間違える心配もそれほどないルンゼルートがなんとなくよい気もした。
 とりあえずルンゼなので、沢らしきを行くが、ちょっと行くとどうやらここはCガリーのようだ。戻って戻って、下流のやはり沢状のところを藪をこいでいくと今度はスラブ状ルンゼとCガリーの中間。もっと右へと藪をこいでいくとようやくスラブ状ルンゼのナメ滝となった。やっと一息つく。っと思ったら、あれカメラがないぞ。
 大事なデジカメ。手で持ち歩いていたのが悪かったか。そういえば途中からなんだか手が軽いなと思っていたのだが…。あーあ、どこ行ったの?これまで2年苦楽をともにしたのに。とりあえず御花畑まではあったことは確実なので、そこからここまでの道跡をもう一度くまなく探す。およそ1時間かけて。しかし、ない。ない。なーい。まぁこれだけ探してないのだから、諦めるとしよう。
 前置きは長くなったが、ようやくクライミングシューズを履き、ヘルメットを被り、ハーネスを装着し、ロープをつける。今回、まるっきりロープを使うことは考えていないが、そう思っていた阿蘇山でも結局使うことになったし、いざというときの下降にも備えてやはりもって行ったほうがよいのだ。いつもそう思って持ってくるが、やはりロープは重い。それに輪を加えたように、水筒のふたを閉め忘れ、水筒に入れた水が全部をロープに零れてしまったものだから、さらに沁み込んで重い。それをザックに入れて登るのは苦痛であり、ロープを引きずっていこうというわけである。
 さて、大系ではナメ滝と書いてある最初の壁。どうみてもナメという傾斜ではなく、あえて言えば“スラブ滝”なんですけれども。右のルンゼのほうから取り付き、少し登って左へトラバースあとはホールドを拾っていって登り、1段目のテラスでロープを引っ張る。ここまで25m。そこからは微妙な傾斜のそれこそナメ滝8mで落ち口に立つ。下部は傾斜はあるものの、ホールドもしっかりありそれほど難しくは無い(V)。落ち口近く8mは傾斜は無いものの、それなりにホールドが無くV+というところか。大系に書いてある通り確かに嫌らしいが、W+は感じられない。全体的に残置が豊富にあり、最後はビレイ点用のリングボルトがしっかり打たれてあった。
 15mほど歩いて、50mはありそうなルンゼの基部へとたどり着く。御花畑で危惧したスッキリしない壁はルンゼを選んだことにより、逆にけっこう見栄えがある。いいルートを選んだものだ。さて、“スラブ状ルンゼ”、言葉どおり見た目は傾斜が強くないが、いざ登り始めると、嫌らしい―――。何が嫌らしいかと言えば、最近味わうことの多い岩の“脆さ”ではない。逆に、岩は今年一番の硬さの手ごたえを感じているほど。今回の敵は「ヌメヌメ」。ヌメっている。コケが生えかけているのだ。そうか、ルンゼだからか。ルンゼを選んだことで容易なルートファインディングとスッキリした壁に来ることができた。その代償としてのヌメヌメか。しかもまた、コンクリートに石を埋め込んだような岩質でそれ自体は硬くていいのだが、見た目以上にガバもカチもあまり無く結構パーミングが多い。い、いやらしい――。
 気をつけながら、なんとか1段目7mを登り、ロープをたくし上げ、2段目を登る。6m登ったところで、左足がスリップ――――。おうぅぅぅ。ふぁいとーいっぱぁっっつ。両手パーミングの三点支持でなんとか耐える。あぶねーあぶねー。乾いているように見えたところに足がおいたが、よくみると完全に濡れていた。耐えられなかったら骨折は免れなかっただけによかった。
 あとはなんとか本当に慎重に慎重を重ねて登る。途中、よく残置ハーケンがあるのがイジらしい。ずっとルンゼ沿いに、最後は左へ行くとようやく一段落できる小テラスとなる。ここまで30m強ほどはあったか。うん、核心であった。V+。
 そのあとは左の木の生えかかったルンゼを10m行って藪となるがそこからまた右へと行くとスッキリしたルンゼとなる。そこを10mほど行くと、CSとなる。ここは唯一脆くて緊張するところだ。完全に浮石であることは分かっているところに何とか崩れないことを祈りながら足を置いて越えると、あとは本当にスッキリしたスラブが続いていた。できる限り、ルンゼ状のところを進み、左へといくとコルに着く。後はハイマツの波を50mほど泳いでいけば、鬼ヶ城本峰だった。うん、なんともよい。天気もよい。盛岡の市街地が一望できる。
 あとは、縦走路をたどって不動平。水を零してしまい、潤いが足りないもんだから、そこに置かれてあったほかの人の水筒から水泥棒して飲んで(ゴメンナサイ)、岩手山山頂へ。頂上は見えているのに、やたら遠い。ヘロヘロになりながら頂上へ。名山斯くあるべし。下界で見て良し、下界を見下ろしても良しだ。あとは走って走って県民の森へと下る。

 鬼ヶ城バットレス。
 どうせみんな「ふーん」とか言って、興味もわかないかもしれない。しかし、私にとってはとても意義あるものなのだ。

2005.9.27 鮎島 筆

【記録】
9月24日(土)晴
 県民の森1045、スラブ状ルンゼ取付1230、鬼ヶ城1440、岩手山1545、県民の森1730