■北ア/称名川称名滝

2006.9.30‐10.1
太田幸介(日本山岳会青年部)、鮎島仁助朗

2P目を登る太田
 実は太田さんは土曜日に女の子とのBBQに誘われていたらしく、直前までどっちに行こうか迷っていたらしい。俺の気持ちは一体なんだったんだ?まぁそれでも断腸の思いで楽しいパーティーを断って称名滝に来たのだからよしとしよう。
 さて6時半に桂台のゲートについた。7時の開門を待つ車がすでに5台ほど並んでいる。夕方のゲートは18時に閉まってしまうが、それまでに出られるかどうか不安だったので、準備を済ませて、開錠待ちの車に交渉して称名滝駐車場まで乗せていってもらうことにすると、前から2台目の車に乗せてもらうことに成功した。「っで、どこ登るの?」との問いに、素直に「称名滝」と答えるとあれこれ詮索されるのは必定なので、適当にごまかしておく。
 駐車場まで乗せてもらってお礼を言った後、一番乗りで遊歩道を歩き出す。30分ほど歩いて滝見台へと掛かる橋だが、それを渡らずにくぐる感じで落ち口の河原へ。あとからあとから早朝だっちゅうに続々観光客が来るので、彼らからは見えづらそうなところ準備しようとするが、それが滝の瀑風をモロに浴びるところしかないのは悲しいがしょうがない。ウェット、雨具を装着する。ロープは通常ダブルでいくところだが、下降はないこと、既成ルートであることからあえてシングル1本にした。なお、クライミングスタイルは、基本的にすべて太田が空身でリード、セカンドの私はすべて荷揚げを込めてユマーリングで上がることにした。これには明らかに差があるこの滝へのモチベーションとクライミング能力から両者合意によるものである。

1P目(35m)
 見た目簡単そうで私でもリードで切るんじゃないかと思っていたが、ホールド、スタンスともに外傾しておりガバはなく、カムで支点が取れそうなクラックもなく微妙な体勢でのピトン打ちが必要かつ濡れている。最後の右トラバースは特に嫌らしそう。太田さんが言うには怖かったらしい。1P目のビレイは絶えず水しぶきが当たるため、寒い。私はミトンを装着していたが、本当に助かった。
2P目(30m)
 右に一本走るクラックをフリーで。やはりサクッと登っていった。こちらのグレーディングは1P目より高いようだ(5.9らしい)が、ランナーがしっかり取れる分、こちらのほうが気分的に良かったらしい。
3P目(40m)
 右上に10m登ったあとに人工で登っていった。ビレイしているこちらも怖い。ユマーリングして登ると、この垂直部の人工よりもその上のスラブも嫌らしそうだ。そして最後の左トラバースも。エイドは久しぶりだったらしく、怖かったらしい。このあたり、2P目・3P目は滝見台から丸見えだ。
4P目(35m)
 スラブをひたすら直上。乾いていて、それほど難しくはなさそうだ。
5P目(30m)
 階段状の草付を直上で4段目の落ち口のバンドまで。それほど難しくはなく私でもリードできそうだ。到着13時50分。なかなか順調だ。このバンドはものすごく快適なので大休止する。
6P目(35m)
 ここからが3段目となる。2人とも1段上がったところでロープを出して登り始める。左のフェイスを8mほど登ってあとは右にトラバース。最後の10mぐらいのところが草がついていて嫌らしそうだ。こういうトラバース主体のところはユマーリングは苦労するのだが。
7P目(35m)
 右上に登って行って水流に下り、完全にヌメヌメとなっているスラブを登り、最後は左のフェイスに登る。完全にロープに水が沁みて重くなってしまった。ビレイ点には残置があった。
8P目(35m)
 3段目最後のピッチ。傾斜が強く、最後は右にトラバース。このピッチ、もちろん声が届かないのでロープを5回引くことが登っていいとの合図にしていたが、このピッチはロープが複雑に屈曲しており、意思疎通ができずかなりタイムロスをしてしまった。途中一本ナイフブレードを残置。私がようやく登りきったときには17時50分。完全に日暮れてしまって薄暗かった。
 3段目の落ち口は河原となっているが、どこもかしこも瀑風が吹きすさぶところだ。ヘッドライトを頼りに適当にいいところがないかと探すと、いきなり見つけた。岩小屋で下が砂地。少し岩が出ているが、まあ風も当たらずこれ以上のところはないだろう。ツエルトを張って飯を食べ、寝る。私は完全に上半身、筋肉痛だ。確かに精神的な疲労はないが、ユマーリングも体力使うのよ。お酒はなくとも眠れるがやはり夜は寒く、途中マルタイの夜食を作った。

 天気予報では午前中まで天気が持ちそうだ。さっさと登ることにする。とは言え、まだ1日目よりも時間の余裕があるので太田さんの温情で3Pほど簡単なところをリードさせてもらった。私としては太田さんにオールリードの記録を作ってもらってほうがうれしいので逆に簡単なところでもリードしようという意志はさらさらなかったのだが、太田さんはそんな記録にまったく拘っていないようだし(どうやらシングルロープ初登というだけで満足しているようだ)、「せっかくだから登ったほうがパーティーとしてもうれしいよ」との一言に揺り動かされて、それなら簡単なところやらせてもらおうかなという感じのノリである。
9P目(35m)
 私がリード。まぁ難しくはない。途中取ったランナーがどれもユマーリング時にピンピン抜けたらしく、ユマーリングする際に体重を預けてよいか不安だったらしいが、アンカーは大丈夫。
10P目(30m)
 ここも私がリード。乾いたスラブで簡単。こういうのがいいね。最後は右にトラバースするところのバンドでアンカーを作ってビレイ。
11P目(25m)
 ここから太田さんリード。右へ上がって、クラック部分を登っていった。嫌らしそうだがうまくカムが決まるらしくフリーで抜けていった。3段目の落ち口は噂の瀑風テラスだが、1段上がると快適なテラスがあり、そこでビレイ。ここはまったく飛沫を当たることはない。
12P目(20m)
 乾いたクラック10mをフリーで。5.9くらいらしい。普通に面白いらしい。テラスのビレイ点にナイフブレードを残置してしまった。
13P目(35m)
 大まかな節理を登っていく。ようやくゴールが見えた。
14P目(30m)
 最終ピッチ。おいしいところ本当に申し訳ないが、私がリード。いや別に私はやりたいわけではなかったのよ。譲ってくれたのよ。快適なピッチ。乾いているし。スラブだし。階段状だし。眺めいいし。上でカム3つでアンカーを作って、あとは登ってくるのを待つのみ。ここまでくれば、下の展望台がまたも見えるが、下からはこちらが視認できるだろうか。
 雄たけびを上げるでもなく、涙を流すでもなく、岩にKissをするでもなく、静かに祝福し合う。おお神よ、ありがとう。きっと女の子とのBBQを断ってまで来た太田さんの人徳だね。恒例の落ち口のお茶は昨晩、暖を取りすぎたためかガスがなくなり「温泉でこれなら長く浸かれるね・・」というぐらいの中途半端な暖かさ。まぁそれでも称名廊下から絶えず吹き付ける風から身を温めるのには役立つ。称名廊下はすごかった。「登るのはともかく下ることはできる」と太田さんは言っていたが、少なくともこれだけは何度誘われても辞退させていただこう。

 ジョグシュに履き替え木登りで2pほどロープを出したのち、ほのかに踏み跡がついたリッジを薮漕ぎ。少し行くと泥壁でここでやはりクライミングシューズに履き替えてロープを出す。いやらしい草付きを1P20m、2P目は木登りのあと簡単な草付30m。この頃から雨が降り出す。そのあとはハーネスを片付けて藪漕ぎをしていくと傾斜がなくなり、草原に出た。一度沢を渡って再度薮こぎするとまたもや草原でそうなると木道はすぐそこだった。
 あとは登山道を1時間で称名滝への遊歩道にでたときには大雨だった。時間があったので滝見台まで行って見物。改めて遠くから見るとどう考えても登れなさそうに見えるのだが。から不思議だ。本当に初登した人ってすごいなとつくづく感じた。あとは、車道を雨の中テクテク下って桂台まで。

2006.10.5 鮎島 筆

【記録】
9月30日(土)晴のち曇
 取付0800、4段目落ち口1350、3段目取付1420、3段目落ち口1750
10月1日(日)曇のち雨
2段目取付0700、1段目落ち口1140、大日平1400、駐車地1700