■北ア/後立山北嶺 稗田山崩(浦川金山沢)
2006年10月22日
鮎島仁助朗
崩壊地。登山者の多くはこれを意味なく嫌う風潮にあると思う。少なくとも登る対象であるとか見ていないようだ。が、私はそうではない。逆に、崩壊地も日本の風土を彩るひとつの原風景であり、さらに言えば珍しも素晴らしい風景とも言えるのではないか。いろんなところを見てみたいと常々考えている自分には、崩壊していようがなんだろうが関係ない。そのようなところはいろいろ足を運び、実際に登ることでその風景に食い込んでみたいと常々考えている。
しかし、崩壊地にも「日本三大」と冠がつくものがあるらしい。そのことを知ったのは恥ずかしながら大谷崩に行った際の看板だ。曰く、「大谷崩は鳶山崩・稗田山崩とともに日本三大崩と呼ばれます」なんて。鳶山崩は立山カルデラを知っていたからなんとなく想像はついたが、でも稗田山は・・。皆、知っているだろうか?稗田山を。少なくとも私の知識にはそのような山は一切浮かんでこなかったし、ずいぶんホームページを検索してもなかなかヒットしない。何だこの知名度の低さは?。大谷崩にせよ、観光資源にしているというのに何で漏れ聞いてこないのか。偏屈な私はそこにまず興味を持ったというべきだろうか。ようやく、白馬コルチナの北側がどうもそれのようだとわかったとき、いずれは行ってみたいと思っていた。
06月。鹿島槍北壁から敗退した午後、まずは稗田山を偵察することにした。見ればここも激しそうだった。いつかは登ってみたいと思う地形だった。そのような前座もあって、今年の大目標、伯耆大山南壁二ノ沢リベンジの足らなしとして今回、挑むことにしたわけである。
初夏に来たときは橋の手前で工事をしていたが、もう終わったようで難なく車は橋まで入れる。橋の手前に車を置き、橋の左側から沢に下る。
今回、稗田山崩を登るという野望を持ってやってきたが、何を持ってそれとなすかが実は難しい。そもそも「崩壊登り」というジャンルすらない以上、自分で定義づけをしなければならないからだ。まぁこれはある意味楽しみでのあるのだが、今回、稗田山について私が選んだのは金山沢だ。稗田山直下にあって崩壊が激しそうな地形をしているし、初夏見たときも結構そそられる地形だったからで、おそらく自分以外のヒトが見てもおそらく納得できるラインであろう。
金山沢は、まずはずっと河原である。灰色の大きな岩がゴロゴロとしている。この金山沢は、よく崩壊地形にある堰堤などは堰堤などは橋より上には一切ないところに特徴があったりするのだが、まぁそれはともかくこのゴーロを歩いていく。沢はあちこちで崩壊のような渓相になっていくが、沢は途中で二分する。私としてはどちらでもよかったが、地形図を見ると右を行ったほうがなんとなく良さそうだったので、右を選択した。
ここからは完全に崩壊地だ。それでも、いきなりの落石の危険があるかというと、そうでもなく気楽に崩壊地形を楽しむ余裕がある。だんだん水流は細くなっていき、一つ5メートルほど滝があるが、なぜか岩も硬いし、まったく難しくない。超えるとまたも水流が二つに分かれる。今度は左を選択。
ここからはなんだか、厳頭という雰囲気になって稜線まで見渡せる。完全な崩壊地である。といってもそれほど傾斜があるわけでもなく、気をつけてその崩壊を登っていく。崩壊地の核心は最終的な稜線の乗り越しにあるということは私の中では常識と化しつつあるのだが、ここでもそうで、ちょっとしたバランスクライミングの後、デッドポイントで木の根っこをつかみ、後はそれを元にゴリゴリ登って稜線に立つ。案外早くついたが、稗田山まで行こうかと思うが、稜線には登山道などなく、やめてしまうことにした。
帰りは往路を往復するのみ。帰り、ずっと前に見える山は果てしなくきれいで、それが雨飾山だった。あぁ、いい山だなぁ。今度はあそこを登りたいなぁ。
まぁ三大崩の一角を登ったという実績だけは作れたのでよかったが、この山については、期待値が高かった分、なんだかガッカリ感が強い。
それでも、この時間が果たして無駄だったかと問われれば、この意見については反論したい。日本にある種のパイオニアワークがすでにないといっても過言ではない以上、なかなか事前のワクワク感を持たしてくれる対象は少なくなってきている。その中、そのような感情をもたらしてくれただけでも私はうれしいのだ。この稗田山崩という場所。Thanks。
さて、偵察のときにすでに発見したのだが、ここには幸田文の石碑がある。幸田は「崩れ」という随筆を書いているらしいのだ。まったく知らなかったが、6月早速本屋に走った。これまで、なぜ私が崩壊地に対して興味を覚えるのかその感覚を明確に説明はできなかった部分があるが、幸田は明快にしていた。そうか、そういうことかもしれない。これからはこの言葉をかみ締めながら、登っていきたいと思っている。
【記録】
10月22日(日)快晴
金山橋0800、稜線0930、金山橋1030
2008.4.11 鮎島 筆