■北ア/後立山・杓子岳C&R
<杓子岳双子尾根[登攀]〜杓子沢[滑降]〜長走沢[滑降]>

2008.4.12-.13
鮎島仁助郎、佐藤益弘

双子尾根下部をスキー登高
 前夜に二股に車を止めてテントを張る。まわりには10台ほど車が止まっている。その中に5時半からさわやかにハイテンションな一団がいた。ナベとは違うテンションの質にそこに山ボーダーの姿を思い浮かべ、多様化する登山の形態を・・・・まぁそんな講釈、どうでもいいや。
 天気予報は朝方から太陽マークがついていたはずだが、朝方は霧雨だ。「あぁきっと高橋さんは滝谷も見えずに気合はいってないだろうなぁ」と思うが、我々は初日は樺平まで行けばよく、「いつかはきっと晴れるよ」と余裕で舗装路を歩く。猿倉の300m手前で除雪は終了。そこからフリートレックを履いて進む。二股に駐車していたほかのパーティーはどうも皆、白馬主稜とかそっちにいくようで、猿倉台地に上がってくるのは我々の他にはおらず、やっぱり猿倉台地に上がるところで道を間違えた。でも、いかんせんGPSが2つもあるので、すぐに路線修正できるのが心強い。しかし、このあたりからやたら蒸し暑くなる。汗が吹き出てたまらず服を脱ぐため休憩。すると、一気に雲が霧散消飛し、雄大な白馬東面の雪景色がすぐ眼前に現れる。とりあえず、右から順番に金山沢、小蓮華直登ルンゼ、白馬沢、白馬主稜、大雪渓と見ていくが、直登ルンゼは完全にイカれてるね。白馬主稜は穏便だけど、あれも結構傾斜あったのねぇ。それに比べて双子尾根は・・・。おぉ、さらに無難そうだ。それに樺平までスキーでいけそうじゃない?
 気温はともかく、体感温度は果てしなく上昇。雪はすでに腐り、我々の足取りも重い。容赦なく照り刺さる日差しにたまらず、私は上半身裸で登り始めるが、これが後悔させることとなる。休憩して全裸状態で用を足していると、ヌクッと外人パーティーに追いつかれ完全に視られた。ショックっ!気落ちした結果、さらにまったく足が進まず、バテバテでなんとか小日向のコルに到着。ここからはじめて、杓子沢が見渡せられるが、なんとも威圧があり、ヤバそうな感じしかしない。でも、自分が滑った唐松Dルンゼと比較すれば、明らかに“D”のほうがヤバそうで、とりあえずは楽観することにした。
 オーストラリア人?たちは小日向山へと上がって行って賑やかに滑っているが、我々はたっぷり休憩をとったあとスキーで双子尾根を登っていく。樺平までの途中、傾斜があってジグザグできる広さもない2箇所は、スキーを脱がざるを得なかったが、そこ以外はずっとスキーでいけた。というよりも、完全に雪は腐っているので、逆に“ツボ”だったらタイヘンである。
 樺平は本当に岳樺の大木が一本だけある快適な広いコルでまさに別天地だ。まだ時間は早いがその大木の真下にテントを張り、15時前から早々に宴会開始。樺平と奥双子のコルの違い、鑓と槍の違い、マーマレードとジャムの違いについての議論は結局グデグデになったまま時が過ぎ、夜、トイレに立って奥双子の頭を見ると、いつの間にかテントが一つ張ってあった。それにしても肩がヒリヒリする。


杓子沢中間部を滑る
 天気予報だと午後から崩れるようだし、まだ斜面が腐らないうちに双子尾根を登りきりたいし、それに後続パーティーよりも先手を取るぞ、ということで朝4時起床。
 杓子沢を滑って長走沢を下った場合、どうせ再びこの樺平を通るので、テントやシュラフなどデポしていってもよかったのだが、ここは北鎌のプレということで全装を担いで登っていく。朝方の雪はよく締まり、アイゼンは小気味よく音を奏でてくれる。確実に、ふくらはぎに疲労がたまっていくが、風がとても心地よし。杓子尾根とのジャンクションピークで休憩。白馬主稜に3人+4人が取り付いているのが見えるが、我々よりもずっと下にいる。ここまで、柿ピーちゃんが未練を残すことなく一気に杓子沢へ滑落して行ったほかは、まったくノープロブレム。
 資料によれば、ここからが核心のようだが、まずは緩傾斜を登り、ちょっと岩が出ている急傾斜を右から回り込むように登り、忠実にリッジを辿り、雪壁を3m登ったら杓子岳頂上だった。なんともあっけない。ロープが欲しいと思うような高度感はなかったし、担いだスキーが邪魔だなんて一度も思うこともなかったが、辿ってきた稜線は気持ちよいのでGoodだ。でも頂上は風が吹きつけて寒く、そそくさと鑓ヶ岳とのコルへと下る。
 さぁ、杓子沢滑降!・・でも完全にカチコチ。滑ったら滑落する気しかしない。だってまだ時間は8時半だもの。時間がこの雪の硬さを解決してくれることを祈念して10時まで待つことにする。とりあえず弱層テストをやってみたり(雪崩の不安なし!)して時間をつぶしていると、クワガタ姿の3人組が杓子沢より上がってきた。その絶え間ないアイゼン捌きが真剣(マジ)スキーヤーっぽい風格を漂わせ、このコルで少し休憩した後、すぐに鑓ヶ岳の頂上目指して登っていった。おぅ、鑓のピークから滑ろうというのか。それもこの雪質で・・。やるな。
 10時。昨日とは違って薄晴れの太陽さんはまったく雪を緩ませることなく、我らをアイゼンで下ることを強いた。傾斜は強いところで40度ぐらいだろうか。ノドがあるわけでもないし、岩が出ているところもなく、ひょっとしたら滑落しても大丈夫なのかもしれないけど、これまでにスキーで大きな滑落を経験している2人にはどこまでが臨界点なのかを実感済みで、このような雪質の時には「君子危うきに近寄らず(?)」なのだ。でも、杓子沢をアイゼンで下ってゆくと、今度は落石の心配が・・。なんと、石が杓子からも鑓からもガンガン落ちてくるのだ。で、その危険地帯を進むより他ないのが切ないね。実際に小石の打撃を何度か受けながら、慎重かつ急いで下る。コンタ2350mぐらいになると傾斜も雪も緩み、ここまでは落石軍も攻めてはこないようで、ここでスキーをつける。ここからの斜面は本当に快適そのもので、フリートレック独特の滑り方を思い出すのにちょうどよく、杓子沢、最高だぜ。でも、あの3人組は本当に鑓の天辺から滑ったんだろうか・・。気になる。
 標高2000mあたりでシールをつけ岩稜を回り込んで樺平を目指して登る。途中、木の根の落とし穴に見事にハマって言いようもなく悔しいが、佐藤さんのサポートもあって何とか抜け出し、15分程度の登り返しで岳樺に到着。
 だんだん雲行きは怪しくなりゆくなか、さっさとシールをはずし、長走沢へドロップイン。曇っているので傾斜がわかりづらいものの、完全に雪は緩んでいるので不安感はない。傾斜は強いところで30度ちょっとだろうか、我々しかいないナイスな大斜面を存分に堪能し、最後は猿倉台地に上がれば猿倉まではあっという間。猿倉から二股までも、車道脇をスキーを結構使えたのは意外だった。

 帰り、石川さん絶賛の倉下の湯へ行く。私は濁っているか硫黄臭がしないと温泉と認めないが、なんとなく安心感のある「石川さんおススメ」だけなあってここは濁っており、合格である。さて、服を脱ぐとオヤジにいきなり笑われる。何事かと鏡を見れば、上半身が凄いことになっている・・。なんちゅうか、「ゼッケン焼け」という新しいジャンルだろうか。どおりで肩がヒリヒリすると思ったが、湯に入れないし、笑われるしで屈辱的な風呂だった。  飯もこれまた石川さん絶賛のグリンデルへ行くが、こんなに量が多かったっけ・・?900円にしてはトンカツ2枚だし、何と言ってもキャベツが多いぜ。頑張ったら、久々の山行も空しく、完全に体重は増えてしまったようだ。

2008.4.15 鮎島 筆
【記録】
4月12日(土) 霧雨のち快晴
 二股0715、猿倉0900、小日向のコル1200、樺平1415
4月13日(日) 薄晴のち曇
 樺平0545、杓子岳0815、杓子・鑓のコル0830(10時まで雪待ち)、樺平1130、猿倉1230、二股1345

【使用装備】
スキーセット、幕営具のみ
※ロープ・登攀具は使用しなかった。

【写真】
小日向のコルより杓子沢
樺平の朝
JPより双子尾根核心部(?)
杓子・鑓のコルで弱層テスト
長走沢を滑る