■西上州/毛無岩「烏帽子岩直上」ルート[登攀]

2008.11.8
鮎島仁助朗、渡辺剛士
 R口とセミを突破しただけでは、西上州を語れはしない。やはり、かの場所の特徴といえば奇岩峰。これらを何個か登ってみないことには、西上州へ行ったとはいえぬ。今年4月にタカノス岩北稜に行ったが、適度な緊張感とともに(実のところかなりビビった)、この西上州の奇景を楽しんだものだ。沢のシーズンも終わってしまった11月。もういちど西上州の岩を訪れたい気持ちになった。当初はあの"ディープインパクト"狙いも、春に延期。これを期にもういちど西上州の資料を漁ることから始めると、あるわ、あるわ、魅力的な岩々が。タカノス岩北稜のような岩稜もあるし、トランゴ(一本岩)、フィッツロイ(鹿岳南壁)、ドロミテ(立岩)などの岩壁もある。その中でも、ナベが付き合ってくれることになったとあれば、岩稜よりは岩壁。西上州岩壁ルートの最右翼はやはり「未踏の大岩壁」毛無岩の"ボレロ"だが、資料をよくよく読めばX級A1か・・。うーんビビる。他は・・と探せば同じ毛無岩にW級A1の烏帽子岩直上ルートというのがあるでないか!しかもその登攀ラインもボレロに負けず劣らずとっても美しい。また、クラックも走っていてカムが利きそうに見える。こっちの方がよくない?とナベに持ちかけると、まったく異論なくこれを目指すことにした。
毛無岩全景と登攀ルート ハイライト7Pを登るナベ
 道場の集落を越えて林道の終了点近くに広場があり、そこに車を停める。
 前橋山岳会の「毛無岩登山口」の看板から登山道を進む。この道、途中まではいいが沢を横切るとわかりづらくなる。二俣となったところ左の沢の左岸に大きな岩が見えたので、あぁアレが毛無岩かと思って左の沢に入り、踏み跡らしきを5分ほど歩くと、全然方角が違うじゃん。我々は西に進んでいるが、アプローチで西に進むことはありえないのだ。さっきの二俣まで戻ると確かに右の沢にケルンがあった。致命的になる前に気づいてよかった・・。あとは適当に右の沢を辿っていく(全然道がわからない)。結構遠いなぁと思いつつ1時間半ほど歩くと、いつの間にか毛無岩の基部についていた。基部から潅木帯を右に回りこんで、顕著なルンゼの前のカンテが烏帽子直上の取りつきだ。あぁそれにしても寒いなぁ。風が冷たいなぁ。じゃんけんで初めてナベに勝った鮎島から。

1P(鮎島、V、45m)
 傾斜のきつい壁を木を頼りに登るが腐ってる木があるので注意。中間点ぐらいで岩セクションがあり、実際簡単なのだが、突如としてあるとちょっと怖いものだ。ロープ一杯伸ばした立ち木まで。
2P(ナベ、V、40m)
 1Pと同様に基本は木登り。但し、1箇所だけ岩部分があるところは1P目と同様、ちょっと怖い。コルっぽいところの立ち木まで。
3P(鮎島、V、20m)
 このコルっぽいところからは上部岩壁や下部岩壁など見晴らしが良く、また休むのに適当なところだが、コルなのでやたら風が強く吹き付けてくる。うぉぉ、寒い!寒すぎるぞ。というわけで、さっさといく。3ピッチ目から上部岩壁に取り付くが、まずは20m登ってリングボルトが2本打たれてあるバンドまで。ごくごく簡単。
4P(鮎島、5.7、25m)
 ここからが核心ピッチとなる。資料ではワンポイント人工とあり、確かに出だしがちょっとハング。それに実際に抜けそうなRCCとバッチリ利いてそうなリングボルトが上に近い距離で打たれていて納得。でも、それを支点に使えばなんだかフリーでもいけそうだ。ナベがまず行くが、厳しいらしく交代。私はガンガン生えている菊に似た植物を強引にホールドとして使ってそのハング部分をクリア。あとはW‐くらいのスラブ登り。それにしてもこの出だしだけでなく、スラブにもあれ?というくらいボルトが打たれている。1〜2mくらいの間隔でまったく怖くない!もちろん、彼らを無視できるほどの精神力も実力もないので、全部使ってリードしてしまった。枯れ木のバンドまで。この枯れ木でビレイ点を作ったが、よくよく見ればそのすぐ右に3本ボルトが打たれている・・。なお、寒い。
5P(ナベ、5.8、25m)。
 はじめはハーケン・ボルトがしっかり打たれたクラックを5mほど登り、あとはスラブを10m登る。このスラブはいかにも崩れそうな結晶に立ちこむところのが怖い。が、なんと言ったってこのボルト間隔。しかも、しっかり打たれていて、安心して登れるぜ!ただし、リードはこの崩れそうな結晶の立ちこみにビビッたのか、それとも半端じゃない風の吹き付けに手が悴み、時間をかけて登るより早く抜けたい気持ちが勝ったのか、初登と同じ登り方でさっさと抜け、しかも、その上でステレオ程度の岩を落としていた。スラブを上りきるとハングっぽいところだが、そこはバンドが走っているのでバンドを右にトラバース。するとこれまたしっかりしたビレイ点がある。フォローはフリー。体感5.8(X級)ぐらい。なお、ヤバい程、寒い。
6P(鮎島、V、20m)
 2つ目の凹角を目指し、左上する。簡単。だが、途中ヌンチャクや、フレンズなどが残置されている。ヌンチャクは回収した。ビレイ点までつくと風の死角なのか風は当たらずそれなりに寒くない。
7P(ナベ、5.7、20m)
 ハイライト。烏帽子直上だ。このピッチの写真に惹かれてきたようなもの。実際に小川山レイバックみたいな感じでカッコいい。ビレイ点から5m登るとその凹角に入る・・。でもね、資料はやっぱりA1で登っているので、クラックの横にボルトがベタ打ちされているんだな・・。今となっては、クラックの横にボルト連打なんてありえないし、あっても無視したり引っこ抜いたりするスタイルがカッコいいとされている風潮だけれど、ナベは、「よっしゃ、ここにもボルトありました〜、越沢バットレスより緊張感ないぜ!」とうれしそうに迷うことなくボルトにヌンチャクをかけて登っていくのだった。それも1〜2m間隔。だから、ちょっとレイバックしたり、思い切りを必要とするところもあるけれども、精神的に全然怖くないぜ!もっともクラック幅がでかいので、ボルト無視するならカム#3.0以上を2セットぐらいは必要でしょう。でも、あまり登られていないので変なゴミが多く、目や口にそれらのカスが入ってきます。また落石も多い(でも落石があたらない場所に下のビレイ点があるので安心です)。チムニーを左から越えば、毛無岩の一番上の縁にたどり着いて、終了。はい、グレードもそこそこでなかなかおいしいピッチでした。

 そこから5mも歩けば登山道で、登山道を50m歩けば頂上だった。なぜか頂上は風は強くないので、大休止。足元の紅葉は美しいし、浅間山はやはり堂々と煙を上げている。静かだ。いいところだ。
 帰りはいちど稜線を東に辿り、一気に下り、落ち葉に埋もれた稜線の登山道をかえる。途中の見晴台から見る毛無岩は大迫力で、辿ったルートもすごい。実際に木登りに過ぎなかった下部もカッコよく見える。いやいや、よく行ったものだ。アプローチでこの景色見てたら絶対に萎えてたな。帰りでよかった。落ち葉でわかりづらい道を拾いつつ行けば、道場の集落。そこから10分林道を登り返せば、駐車地だった。
 いや、寒かった。風が冬壁なみに強く、赤岳ショルダーリッジ(八ヶ岳冬季バリはここしかやったことがないので・・)を思い出しました。いや、寒かった。
 終わってみれば、5P目リードのA1さえなければフリー化達成、烏帽子直上フリールート「烏帽子エボルーション」(勝手に命名)完登だったけれど、もともと狙ってなんかいなかったし、現実的にそんなことよりもとにかく早く抜けて温泉に入りたかった・・。だから、これっぽちも悔いないです。
 でも、いいルートですね。恥ずかしながら残置もとてもうれしい。これだけの残置があればフリーでも緊張感なく楽しくトライできると思います。誰か、「エボエボ」やってくれないですかね。毛無岩、本当にカッコいいですよ。そして、辿った烏帽子直上ルート、マジカッコいいですよ。そんなに脆くないし、クライミング内容も適度な難しさで面白いし。ただし、小岩はよく剥がれるので他パーティがすでに取り付いているならやめるべき?もっとも、他パーティがとりついているということはないだろうけれどね・・。ボレロ??毛無岩はもう私のターゲットから外れました・・、烏帽子クラシックで満足です。次、目指すはフィッツロイ?トランゴ?・・。興味ある方、大募集中!
 ナベ。『「寒いね」と 話しかければ 「寒いね」と 答える人の いるあたたかさ』という俵万智の句を思い出しました。今回も**クスでした。

2008.11.11 鮎島 筆

【記録】
11月8日(土)曇 風強い
 駐車地0710、取付き0845、頂上1145-1210、駐車地1345

【使用装備】
 ロープ(8mm×50m)2、クライミングシューズ各自、(アブミ)
※下部は立ち木、上部はボルトが支点。カムやハーケンはいらず、スリング・ヌンチャク多目のほうが良いと思われる。
※アブミを使っちゃったけれど、必要ないと思われる。
※4・5・7ピッチは精神的圧力がほとんどなく、この記録ではRCCではなくデシマルでグレード表記させています(実際に5P目はA1でリードしたので表記はウソやけどね)。チョイ甘めかも。


【写真】
毛無岩全景と登攀ルート 2P目終了点から上部岩壁
核心5P目。ロープがごちゃごちゃです ハイライトの7P目
ハイライトの7P目。クラックの横にボルトあります ハイライトの7P目。レイバックへ
終了点にて満面の笑み

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