■越後/金城山高棚川ツバクロ岩S字スラブ[クライミング]

2009.5.16
鮎島仁助朗、大部良輔
 やっぱり5月も中旬というと「オフ」もしくは「足慣らし期間」という感じがするのは一般常識なんだろう。でも、実のところ5月から6月というのは越後のスラブをやるには一番の適期だということを忘れてはいけない。アプローチに苦労するところも、雪渓を利用すれば簡単に取り付けるのだ。中には逆に夏には取り付けないところもあるくらいだから。
 「越後スラブ」・・。まぁ登山大系を読めば、本当にいろんなところがあることに驚かされるわけだが、今回の金城山高棚川ツバクロ岩は登山大系にすら載っていない超マイナーなところである。
 この岩場の存在を認知したのは「わらじ」の年報。しかし、この「ツバクロ岩ダイレクトスラブ右俣右稜」の記録は宮内さんの「週末に刺激がないと一週間やってられないよ」という印象的なお言葉以上のことはまったく参考にならず、逆に好奇心を刺激してくれたが、「金城山ツバクロ岩」で検索しても2・3件ぐらいしかヒットせず、しかも具体的なことはまったく不明。とりあえず「あらかわ山の会」というフレーズが導き出せたので、ググることにしたら、これがホームラン。まぁ山岳会のHPはそのような地域研究をアップしていることは少ないし、失礼ながら聞いたこともない山岳会の名前だったしで、全然期待もしてなかったのだがその地域研究が丸ごとアップされているではないか!。このような地域研究をホームページに載せてくれているところなんて、他に富士宮山岳会ぐらいしか知らないからね。とてもうれしい限り。
 というわけで、さっそく計画。例会で反応を探ると、オーブ氏が興味を示してくれた。ルートはダイレクトルンゼ右俣右稜が一番メジャーらしいが、それじゃ面白くないので、一番奥のS字スラブ狙いで。奥なので概念もわかるし、レベルも概して高くないように思われるし、という選択である。

S字スラブを登る大部
 カーナビが不調で少し迷ってしまったが、車は林道終点まで入った。それほど道は悪くない。車中泊。
 直前で天気予報が悪い方へ変わり、焦ってB級ルートをいろいろ考えてしまった(おかげで2つ候補が増えた)が、まぁなんとか午前中は天気が持ちそうなので、朝4時おき、4時半出発してさくっと抜けることにする。朝は4時過ぎなら、もうヘッドライトはいらないぐらいに黎明だ。
 堰堤を左から越えて溯行開始。一切、雪は無いが、渡渉すると水はとても冷たく、上に雪が転がっていることは明白だ。本流を忠実に溯っていく。何個かある小滝は、全部巻く。この巻きは基本的に木の枝を掴んで強引に登る感じで疲れる。砥の沢出合あたりはいい感じに沢は開け、確かにBCをおくならとても雰囲気がいいところだ。
 この開けた沢を過ぎると、沢は左に曲がり、雪渓が覆い尽くすようになる。これに乗って少し行くと、奥には平沢との二俣がすぐそこに見えるが、やはり雪渓が途切れ、水流沿いに行くのは難しそうだったので、雪渓からそのまま右岸の藪に入り込み巻く。なんだか踏まれているような藪を水流を見失わないように漕いでいくと、ちょっとしたコルっぽいところにつく。これが資料にあった「小峠」だろう。そこから木を伝って沢床に降り立った。
 もうすぐそこからは、完全に雪渓が続いているようなので、ここで水を汲み、念のため軽アイゼンをつけて雪渓の上を歩く。すぐそこで、右岸から滝の沢、ダイレクトルンゼっぽいところ(出合からは上は見渡せない)、中央ルンゼ(出合からクリスタルフェースと呼ばれる垂直の一枚岩が望める)を過ぎ、上部まで見綿せられるきれいな正面ルンゼのスラブの出合を過ぎる。本流はずっと雪渓に覆われ、大倉沢、高倉沢を右に分けていくが、一番左に入って、いくとすぐにS字スラブ出合である。
 出合近くは雪渓が急で、軽アイゼンをつけていても少し怖いが、何とか乗り移り、緩い草付きを20mぐらい登っていくとちょっとしたテラスだったので、そこでクライミングシューズに履き替えた。なお、ブヨが多いのでその点は要注意。
 クライミングシューズに履き替えては見たものの、それほど傾斜が強いとは思われないので、とりあえず登攀具をつけてノーロープで簡単なところを登っていく。すると、どんどん登っていける。途中、ボルトやハーケンなどが残置されているのが確認できるが、まったくロープが欲しいとは思わない。オーブ君もそうおもっているらしく、どんどん登っていく。さすがに上から下を覗き込めばなんだか高度感があって怖くなるが、下を見なければ、傾斜は緩いし、岩は堅いし、フリクションも利くし、ホールドも多い・・というわけで、Ⅱ+~Ⅲ級のスラブがずっと続いていく。いちおう「難しそうになったらロープを出そうね」なんて言っていたが、ロープは全然、必要とは思わないのだ。スラブが狭まって、滝っぽいところはちょっと傾斜が強くなり、水が流れているクラックを辿る必要があるが、なにせそのクラックの中に挟まったチョックストーンが全部バチ効きにハマっており、甘めにつけてもⅢ+という感じ。結局、ノーロープで越えると、先行して登っているオーブから一言。
「あ、鮎さん。も、もう終わっちゃいそうなんですけど・・」
 ・・。ウソだろっ、だって「あらかわ」の記録ではⅣ・A1セクションがあるので、絶対にロープが欲しいと思うところがあるはずなのだ。しかし、オーブの言葉通り、やはり終わりだった・。あれっっっつ!?時間にして、たった30分弱。「あらかわ」の記録だと、7時間ほどかかっているのだが・・。まぁきっと、草付とかが剥がれて、簡単になったんかな・・。
 抜け出た時点で、時間はまだ朝の7時。う~ん。懸垂して、もう一本やってもいいが、なんかな~。というわけで、藪を漕いで、金城山山頂を目指すことに。再び沢靴に履き替えて、小稜線に出る。そこから、あまりたいしたことがない藪漕ぎを少しやると、残雪がある。それを利用して、主稜線へ。
 主稜線まで出れば、残雪もあるし、ないところも踏み跡が少しあって、たいしたことはない。結局1時間ぐらいで頂上の避難小屋へ。会山行で使用したのは2年も前か。懐かしいゼ。それにしてももっと時間がかかると思ったが、そんなに遠くなかった。
 後は、登山道長崎コースを忠実に辿り、下山。林道に出れば、あとは空荷になって15分で駐車地で車を回収。この時期、意外とこの林道は山菜採りの人が多かった。確かにヒメタケは美味しそうだった。
 なお、駐車地に到着時刻10時半。6時間で一周か。うーん、治田さんとか山崎さんとかだったら「もう一周!」とか言われかねない時間だが、意外と太ももにキテいるので、そのまま帰京した。
 ちょっと、気合を入れた計画だったんだけれど、S字スラブはここまでEasyだとは正直思ってなかっただけに、ちょっと・・いい気分?。まぁ、結果的に、フリーソロ×2というわけのわからないスタイルで初登だろうし。それに結果的に、約30分弱というS字スラブスピードタイムを樹立できたわけだし。それに結果的に、終了後に山頂を抜けて戻るという自分の中ではそれなりに美しいスタイルで登れたわけだし(過去の記録では終了後に山頂まで抜けた記録は見かけせん!)。・・という慰めでよろしいでしょうか!?オーブ氏??
 でも、S字スラブはこんな感じでしたが、いいですよ。絶対にヒトに会わないでしょうし。それにこの時期じゃないと取り付けないところにありますからね。まぁ午後から雨が降りそうだったし、そういう点ではこの条件では、それなりにベターな選択肢だったんじゃないかなと思わなくはなく、後悔はありませんしね。ダイレクトルンゼなどはもっと登り応えがあると思われますから、この残雪期にはいいんじゃないですかね?
 それにしてもよくこんなところを発見し、開拓したよね。あらかわ山の会の方々、記録を参考にさせていただきました。本当にありがとうございました。

2009.5.18 鮎島 筆

【記録】
5月16日(土)曇
 駐車地0430、S字スラブ取付き0610-0630、終了点0655-0705、金城山0805-0830、登山口1015、駐車地1030

【装備】
 沢靴各自、クライミングシューズ各自、軽アイゼン各自
※ロープ、登攀具は一切使用せず。但し、同ルート下降の場合は必ず使用する
※軽アイゼンはあまり効果を感じられなかったので不要かもしれない。

【写真】
雪渓を詰めていく
S字スラブを登る
上からのぞくとこんな感じ
上からのぞくとこんな感じ
金城山山頂にて
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