南アルプス/釜無川中ノ川右股遡行〜鋸岳縦走


期間:2009年7月18〜19日(前夜泊1泊2日)
隊員:渡辺、佐藤
形態:沢登り

7/17 曇り

七つ釜手前の花崗岩を攻めるトーマスさん


秋葉原に集合し、どんどん悪化する天気予報を踏まえて、東北方面から南アルプスへ転進を決意するも、佐藤さんは鋸岳縦走も一気にできる釜無川中ノ沢(地形図では中川)を、俺は一回も行ったことがなくて興味津々の中ア大田切川を主張して10分くらい折り合いをつけようと話し合い、結局、この天気でゴルジュ系はヤバイということで中ノ川に決定。首都高でループしたり渋滞に巻き込まれたりしたが無事釜無川林道ドンづきのゲートまで行き、テント張って寝る。


7/18 曇り 風強し
6:00起床 7:30ごろ出発 9:00中ノ沢出合〜入渓  10:05一つ目の大滝 12:20二つ目の大滝 13:00最初の堰堤  14:00林道(堰堤地帯)
15:30荒沢・中ノ川二股にてビバーク

朝、人の声で目を覚ます。テントから顔を出すと、ゲートの横にある採石場に既に職人が来ており、さらに登山者と思われるオッサンがなにやら話している。「もう30分もしたらダンプがくるから早くどいてくれ」と言われ、撤収していると、先の登山者はゲート突破を諦め車でどこかへ消え、代わりに林道工事の監督が車でやってきてゲートを開けた。

「すいません、中ノ川を沢登りに来たんですけど、車で林道入っちゃだめですかね?」

「この林道は関係者以外はダメなんだよね」
「うーん、じゃあこのゲートのあたりに車停めてもいいですか?」
「工事の邪魔になるし、先週窓ガラス割られてたからやめたほうがいいよ」
「え、車上荒しが出るんですか?」
「いや、車上荒しかどうかはしらねえけど」
(何だあ、ひょっとして「そんなとこ停めるとカチ割るぞ」って脅すつもりか?)

浮世の世知辛さに入山前からげんなりしてしまうが、実際ゲート前は狭くて迷惑になるので、ちょっと戻って謎の「釜無一作」の銘を彫った岩のある小屋(ひょっとして家の表札なのか?)の少し下の空き地に車を停め、本当に車上荒しが出て窓をカチ割られたら困るので対策として鍵を施錠せずに出発。エアリアに「2時間半」と書いてあった林道だが、中ノ川出合までは1時間半で到着。
さっそくガチャをつけて入渓するが、いきなりのチャートゴルジュに期待が高まる。
浸かったり、へつったりでかなり楽しい。
やがてものすごい大滝。爆風(本当に爆発しているみたいな風)がすさまじい。
右岸大高巻きが簡単そうに見えたが、左岸はもう少し小巻けそうだったので、滝の右のルンゼに入る。が、このルンゼがとっても悪い。
2Pザイルを出してルンゼから尾根に出た。
そこからそのまま大高巻きすればよかったのだろうが、トラバースするラインらしきものが見えたのでそこに行く。
すると、さらに1本ルンゼが入っており、悪絶の一言。しかしここが行けなければ、引き返すのも不可能なので進退窮まってしまう。ナベリードで突破を試みるが予想通り悪く、投げ縄で上の木に引っ掛けようとして落石を誘発して左腿を強か打ってしまった。が、なんとか太い木を掴み、トラバースラインに入ることができた。
フォローを考えるとそのままトラバースはやばいので、一段上がってピッチを切り、佐藤さんは一回アンザイレンをはずして懸垂し、ルンゼで改めてザイルを付け直してフォロー。予想通りヤバく、ピッチの切り方が奏功した形となったが、大高巻きしていればこんなに苦労せずにすんだわけで無駄な登攀であった。
1ピッチの懸垂で本流に戻り、少し登るともうイッパツ大滝が現れる。
今度のは斜めの滝で、丹沢あたりにあったら登られてそうな感じではあるが、もちろん我々は巻き。
左岸のルンゼ(支流?)からゴルジュ状に入り、ちょっと登ってから左側のルンゼを上がってトラバース。明瞭な巻き道(鹿道か?)となっていて楽勝であった。
この先、右岸は大岩壁となっており期待は高まるが、なんとその先には巨大な堰堤があった。凄い光景だ…。
堰堤を越えるとお約束の砂溜まりとなっており幕営適地ではあるが先を急ぐ。
いい感じの小滝が連続し楽しいチャートゴルジュ遡行。
そろそろ疲れたかなというころにドカーンと林道&堰堤が見えてきた。
いやもう、あきれるしかない。
二人ともお疲れモードだったので遡行スピードが上がらず、ちょっと心配していたのだが、約2キロにわたって続く堰堤を眺めながら、その脇の林道を利してあっという間に荒沢二股まで到達。ここで幕とする。
佐藤さんは竿を出したが全くつれなかった。

7/19 曇り時々雨 風強し
6:40出発 7:25七つ釜入り口 8:20七つ釜の上 9:10上部二股 10:40中ノ川乗越 11:15第二高点〜(鋸本峰は記録失念)〜
14:15横岳峠 17:30ごろ駐車場

出発してすぐに花崗岩のナメ滝が連続し、楽しい。基本ヌメヌメでフェルトソールでないと厳しいと思われる。
ナメを楽しみつつ遡行していると七つ釜に到達。
ちょっとだけ「何とかなるかも」と期待していたのだが、スベスベの釜と滝が連続し、両岸V字谷となっている光景を一瞥して巻きを選択。左岸から明瞭な踏み跡を辿り(なぜかワイヤーが部分的に残置)、釜が終わった直後のルンゼから50Mザイル懸垂1発で本流一段上の樹林まで下降し、さらにもうイッパツ懸垂で沢床に降り立つ。60mザイルなら1発か?この懸垂、降りるところを間違えると恐怖の空中懸垂登り返しとなるので慎重に囲う地点を選定したが、いやあよかった。

大系には「平凡な河原となる」とか書いてあるが嘘。いい感じのナメ滝が続く。
と、なんと他パーティが焚き火しているではないか。
(のちに、今春鋸で行方不明となったクライマーの捜索に入っているパーティだと人づてに聞いた)

挨拶もそこそこに遡行を続け、大系で二股となっているところで右の沢に入りショートカット&ルンゼ登攀をもくろむがこれが大当たり。沢全体が滝みたいで、部分的に悪いが概ね快適。
やがて沢はガレとなってきたが、右へ右へとトラバースしながら上がっていき、樹林の生えた沢上地形を詰めると中ノ川乗越だった。佐藤さんの読図の冴えに乾杯!

しかし稜線はすげえ風&ガス。
気を抜けば速攻で迷いそうな、複雑な登山道だ。フィックスで懸垂したりプルージックで確保したりと全然気が抜けない。
横岳峠についたときは本当に「安全地帯」って感じだった。
あとは適当に下り、長い林道をハイペースで下った。


ここまでで終わればめでたしめでたしなのだが…

ゲートを越えると車を停めたオッサンが困った顔で何かを待っていた。
挨拶して通り過ぎると、下からパトカーがやってきた。
「まさか鋸縦走登山者が事故ったのかな?」と思ったがさにあらず。
我々も当事者となってしまった。

車に戻ると、座席には名刺入れ(カードホルダー?)が散乱し、佐藤さんのバックと、なぜかテントポールが消えていた。
車上荒らしに遭ったのだ。そして、さっきのオヤジも被害に遭い、パトカーは通報を受けて上がってきたのだろう。
やるせない気持ちで110番し、現場検証やら、交番で事情聴取やらを受け、終わった頃には帰る気ゼロ。日野春駅前でオープンビバークとなったのであった。


使用装備 ザイル50m1本、ATC、ハーケン薄刃1本、スリング、カラビナ、タープ、鮎タイツ


<教訓>
・18日朝に数台が車上荒らしに遭ったらしい。他の車は全て窓を割られたそうで、そういう意味では助かった。ヤバイところでは鍵は施錠しないほうがいいというのは本当らしい。
・金目のものは持って来ない。佐藤さんはたまたまPSP、データ通信用の機器などをバックに入れており、金額的に結構痛いことになっていた。点とポールは釣竿と間違えて持って行かれたようだ。
・もし金目のものを持って来てしまっていたら、ゴミ袋か何かで防水して、藪の中にでも隠しておけばいいと思う。あとで車中で二人してあーだこーだ言っているときに思いついて後悔したが、そもそも佐藤さんが金目のものを持って来ているなんて知らなかったので、やっぱり話し合いって大事だねと思った。



<写真>

下部ゴルジュ。チャートのいい感じなゴルジュです。 一つ目の大滝。爆風がすごかった。
一つ目の大滝概略。ルンゼのトラバースが悪かった。 二つ目の大滝。滝左を攻めれそうだが、無理せず大系の記述どおりに右から高巻き。
いきなり堰堤。 堰堤の先、砂の溜まった河原を抜けるとまたゴルジュ。
そして突然現れる堰堤地帯。2kmくらい続く。 荒沢との二股で幕。そしてやはり焚き火。
二股から先は花崗岩のナメ沢。 七つ釜入り口。取り付くシマもない。
七つ釜を出口から。 七つ釜の先も花崗岩のナメや滝が続き飽きさせない。
上部二股で、中ノ川乗越へと突き上げる右沢へ入る。倒木バイルを決めるトーマスさん。 一部渋いところもあったが概ね簡単に登れる滝が多く、大当たり。
鋸岳鹿の窓
ガスの中、結構怖い登山道をゆく。 鋸岳縦走名物・鹿の窓。
ふざけるなその1、フィックスで懸垂。こんなん降りれんで。 ふざけるなその2、完全にクライミング。



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