小川山合宿(裏烏帽子岩ムササビルートほか)


期間2010/8/21〜22(前夜発1泊2日)
隊員:L渡辺、高橋、小坂、細谷、黒岩(会外)


 
敵を知り己を知れば百戦危うからず
 
中学生でも知っているような箴言を、我々は未だ理解できていなかったようだ。
小川山クラシックの恐ろしさを知らず、そして花崗岩に対する自分達の実力も知らなかった我々には、20時テント場帰着は必然であったのかもしれない。
 
 

8/20 アプローチ

元々は錫杖「注文の多い料理店」のはずだった。出発当日の金曜昼、たまたま現場が赤坂だったナベリーダーと、勤務先が赤坂の高橋隊長で鳩首会談。大気が不安定なので、イッパツ降られたら終わりな錫杖からの変更が決まる。
20:30、西国分寺に集合。本当に小川山でOK?と念を押し、須玉の小坂亭へ。


 
8/21 須玉→廻り目平→分散 
    
渡辺隊(渡辺、高橋、小坂):烏帽子岩右岩壁「むささびルート」  細谷隊(細谷、黒岩):屋根岩2峰「セレクション」
 
 早朝に須玉を発ったが、約40分のアプローチを終えて烏帽子岩に着き、さらにムササビルートを発見した頃には11:00前であった。でも烏帽子岩のアプは新版100岩場の通りで迷うところも無く簡単です。

 
【ムササビルート 6p,5.10a】 11:00取り付き 16:00いたちクラック基部 17:25懸垂開始 20:00廻り目平
 
1P目 40m 5.10a 高橋→渡辺→小坂→高橋 フェース&コーナー
 
 裏烏帽子岩基部を右から回り込み、沢状を詰めると岩峰の手前に赤テープがあるのでそれを頼りに右にトラバースすると取り付き。取り付きの下にはV級程度の小滝(もちろん涸れている)があり、正面の顕著なコーナーの右のフェースを登る。
 高橋隊長が出だしのフェースを越えるが、その先、壁の中に走るクラック手前で力尽きる。クラックまではなんとか行けそうだが、はたしてひん曲がったピトンまで行ってその先どうするの?という感じで全く見通しが立たないとのこと。
 第二弾のナベは高橋さん死亡地点の手前で死亡。同じく、この先のぼれるんかいな?という感じ。
 第三弾。小坂さんはクラックのひん曲がったハーケンにたどり着き、そこから、カンテを経由してコーナーに入るがそこで昇天。既に敗退モードであったナベ&高橋は、あの見通しの立たない状況でコーナーまでザイルを伸ばした小坂さんに畏敬の念を抱きつつも、「これで行かざるを得なくなったか…」的感慨も。コーナーは閉じておりカムは入らず、小川山ということでピトンを持ってきていない我々は残置ピトン頼りなので恐ろしくて仕方が無い。
 第四弾。2回目の高橋さんがコーナーを登る。相当難しいのに残置はリングの伸びてしまったリングボルト様や古いハーケン君などしかないらしい。コーナを進んでから左のカンテを越えてバンドを左トラバースするのだが、乗り移る時が難しい。トラバース後は腐ったルンゼを登り大木でビレイ。
 このピッチ、基本、プロテクションが残置ハーケン&リングボルトで、カムなどでの補強も難しい。それでいてムーブは確実に5.10a以上はあり、そしてルーファイがわかりにくい。クラックから一旦カンテに入ってからコーナーに入るのがポイント。
 …というか、こういうルートは普通「Y級」と記述されるのが正しいし、そしてそう書かれていたら我々は来なかったでしょう。R&Sはもう少し出版物としての責任を果たして欲しい(この間の「小川山でクラックマスター」も5.10cスタートだし)。このままでは「初心者は、とりあえず冬の屏風を登れば冬山のなんたるかが分かるであろう」とか書いている小西様の域に近づくであろう。

ムササビルート取り付き 果敢にザイルを伸ばす小坂さん 
ムササビルート取り付き 果敢にザイルを伸ばす小坂さん

 
2P目 45m 5.9 ナベ スラブ
 ビレイ点から左のルンゼを上がり、その後正面のスラブを貧弱な残置で直上(一箇所ナッツで補強できた)。途中から右に出るようなのだが、一番登りやすいラインを登っていたら次第に左端の木の生えたルンゼに追いやられ、なんとか岩に戻ろうと右上するバンドからスラブ中央に出たが、そこからリングボルト1本で意味不明ムーブをこなす自信が無く、クライムダウンして左のルンゼから垂直の木登りでいたちクラック下に出る。都合のいいクラックからカム2個でビレイ。どうやら2〜4P目をまとめて登ってしまったようだ。5.9というよりはX級といわれたほうがしっくりする。ビレイ点では高橋隊長がしきりに「ダイヤモンド化」したスラブ(セレクションのダイヤモンドスラブの如きランナウト)をよく登ったと褒めてくれた。
 
3P目 40m W+ 小坂→高橋 いたちクラック(転じて初登ルート)
 小坂さんが、見るからに難しいいたちクラックにとりつくが、ダブルクラックが尽きたところで昇天しロワーダウン。「だってワイドなんだもーん」と悲鳴を上げている。
 それを聞き、R&Sのコピーを見て左の初登ラインを入念に観察していた高橋隊長は、小坂さんと同じところまで登るやすぐさま「無理無理」と言い放ち何の未練も見せずに左にラインを取り、顕著なCSを左から越えていった(初登ルートのライン)。ビレイ点は大木。フォローしてみると、傾斜強いですな〜。ワイにいえることは、直上した場合は確実にスーパーレインの核心ピッチより難しいということでしょうか。高橋さんの行った初登ルートはW+程度。CS下の小洞窟に浮石が累積しているので注意。
ムササビルートいたちクラック いたちクラックのダブルクラック
いたちクラック。寝ているように見えますが立ってます! この後右に移りたいのだが・・・

小坂さんと同じところで詰まる高橋さん。 あっさり左の初登ルートへ転進。


 
 本来ならばすぐそこが山頂っぽいのだが、何しろ取り付いたのが11:00くらいで今既に17:00なのである。そして小坂さんに至ってはヘッドランプを忘れている。さっさと下降。スタックが怖かったので25m→25m→25m→50mと刻んで懸垂したが、支点は25m→50m→50mの地点にあった(全て木に巻いたスリングにカラビナ2枚以上が付属)。浮石が多いので、懸垂を終えたものは岩陰や大木の後に隠れる必要がある。高橋隊長が一個デカイのを落とし、ナベの横を通過して行ったが、緊張感なくルンゼの真ん中にいたら多分オシャカだったでしょう。久々に火薬のにおいを嗅ぎました。
 下降自体は明瞭です。R&Sのトポ見ながら適当に懸垂していれば取り付きの右側に出ます。



 サブザックを残置した烏帽子基部にもどったころにはヘッドランプが必要な状況となっており、小坂さんを挟むようにして下降。テント場に着いた頃には20:00となっていた。
 
 細谷隊は、黒岩が全ピッチリードしたそうで、宮崎比叡山や広タキで鍛えられた彼にはダイヤモンドスラブなど問題とならなかったとのこと。まあそうだろうな…。ただし最終ピッチは右に行ってしまったらしい。もったいない。
 

8/22
二日目は、南稜神奈川(高橋・黒岩)とショート(渡辺、小坂、細谷)に分かれて登る。
ショート隊は弟岩頂上のジョイフルジャム(5.8NP)、春の雨上がり(5.9、ボルトルートだがナベはNPで)、兄岩2階のもみじ(5.10a、ボルトルートだが小坂さんはNPで)、マガジン(5.10aNP、ナベ3テン)、兄岩スラブのタジヤンW(5.10a)など。いずれも昨日に比べたらピクニックでした。
 
感想

 R&S最新号で「素晴らしい」と絶賛されていたムササビルートですが、完全な本ちゃんでした。
 Y級ですわ、Y級。かつての(今も?)人類の限界。
 支点整備されない限りはオススメしません。あるいは厳しい本ちゃんとしてオススメします(その場合はハンマーとハーケン持って行った方がいいと思います)。

 毎度のことですが、小川山クラシックは舐めてはいけません。
 セレクション、南稜レモンなどで思い知っているはずなのですがまたやってしまいました。ああいうルートをあんなふうに書くR&Sに責任の一端はあるにせよ、先人達が拓いたクラシックの再登という事の意味をもっとかみ締めていればと今更ながら思います。 数字では表せない難しさが岩登りにはありますが、だからこそそれを感覚的に言うのではなくはっきりと明示する必要があるでしょう。
 分かりやすく数式化すると
 
 小川山クラシック・マルチを登るために必要な力量=対象ルートのグレード+3グレードぐらい上をOSできる力
 
 と感じました。
 今回のムササビの場合は、(小川山ショートの)10CくらいをOSできないと楽しめないでしょう。
 人工壁だと5グレードくらい上か?
 ともかく要修行です。


山登魂ホームページ