谷川連峰/湯檜曽川支流/西黒沢

メンバー:渡辺(記)、高橋、荒井
2011年8月21日(前夜発日帰り)
形態:沢登り

自他共に認める適当男、高橋。その適当さは、息子に対する名付け方でも容易に理解できる。
これにもう一人、似たような評価の男が加わった。
ドラゴン荒井。この男もかなり適当である。
そもそも同じ早大探検部出身という時点で「真面目君」ということはありえない。
少なくとも遡行中にコンパス振って地形図見てたのは俺だけだった(他2人はタバコをふかしていた)。
「コイツら、地形図持ってきてないんじゃ…」と思ったが、口に出して「いや〜、実は…」とか言われたら困っちゃうので聞かなかったが。
両人に共通するのは「適当、だけど(だから?)強い」事か。
ドラゴン荒井は、どんなヤバイ状況でもヘラヘラしてヤバさを微塵も感じさせないだろうし、もちろん高橋さんはそうなる前に帰っているだろう(笑)。
素晴らしいフィールドと素晴らしい仲間に恵まれ、かなり微妙な天候の8月最後の日曜は、最高の日曜日となった。

8月20日 
21:30和光市 23:50ロープウエー駅1F駐車場
高橋車で高橋さん・荒井さん・渡辺に加え、土合から朝日経由で土樽まで縦走する武井さんを乗せ、関越道をぶっ飛ばして土合のロープウエー駅へ。
湯檜曽から先は雨が降っており、「こりゃ2ルンゼは無理かな…」という気配が濃厚。
まあそれでも4:00起きとして24:30ごろ寝る。

8月21日
4:00起床 5:00出発 5:30入渓 6:00白鷺の滝 7:00ごろザンゲ沢出合 7:15 入渓後初めて巻いた滝 7:50階段状大滝の下 9:00ごろ地形的本流と水量的本流の二股 10:30ヤブコギ突入 10:45西黒尾根登山道 11:25オキの耳 13:40マチガ沢出合(厳剛新道入り口) 14:05谷川岳山岳資料館(指導センター下)

朝起きて外を見るとガスっている。
武井さんは予定通り縦走に出発。
我々の方は、一応、天気の回復次第では南稜や中央稜も視野に入れていたが、ここはすっぱり諦めて西黒沢に転進。指導センターに計画書を提出して西黒沢出合へ。それにしても眠い。
西黒沢は、しばらくは田尻尾根へ向かう林道と絡み合うようにして流れるので、遡行すると当然橋を越える事になり著しく興を削がれる。よって橋を3つくらい越えてから入渓しよう…と話していたのだが、2つ目の橋から見えたナメが面白そうだったので速攻で入渓。意外とヌメる。高橋とナベはアクアステルスなので死活問題。まあそれは置いといて、意外と水量が多くて期待が持てる。土管の埋められた橋は全てスノーブリッジと呼称することにより興が削がれる事を避けようとしたが萎えるものは萎える。
まあでもいい感じの渓相の中を気分よく遡行すると白鷺の滝8m。楽勝で左から登るが、なんと上にステンレスハンガー(フィックス社のラッペルステーション)が設置されている。アホか?ちょっと横に木も生えているぞ。

高橋「ガイドって、何でもやっていいのかね…」

この先はしばらく明るく開けたゴーロが続く。ガイドがボルトを設置する問題について色々思索を巡らすのにちょうどよかった。

極論すると、ああいうボルトは金のために打っているわけで。
ボルトに関しては、突き詰めて言えば打たないのが一番良いわけで、それを体現したのがイギリスなり室井氏の瑞牆三部作なのだが、それはボルトに慣れきった我々にはあまりにも厳しい。まあ「NPや木で簡単に取れる所はボルト打つの止めましょう」というあたりが2011年現在の一般クライマーの落としどころ、というか最低限のモラルだと思うのだが、それを無視して、「登れる人」としてクライアント(笑)から尊敬の眼差しを受けるガイドがそういうモラルとかガン無視って、クライアント(大概初心者、あるいは自立できていない人)の教育に悪いよな〜。

などと考えていたら、ナメ滝やらナメやらが出てくるようになってきた。
いやこれは素晴らしい。
明るく開けた沢、そしてナメ。これぞ谷川連峰の沢。
そう言いたくなる素晴らしい渓相だが、それぞれ「こりゃいいねえ」などと美味しんぼの副部長みたいな、貧弱な感想しか出てこないのが哀しい。
右奥にザンゲ沢が見えてきた。確かにザンゲしそうな雰囲気?要は奥のほうが暗ったい。出合付近は非常に谷全体が広く、西黒沢とザンゲ沢の間の尾根はしばらくの間かなり低いので、「気が付くとザンゲ沢に入ってた」なんてこともありえそうなので注意。
その後はちょっとした滝が出てくるようになるが全て簡単に登れる。
何個か滝を登ると、いかにも難しそうな10mくらいの滝が出てきて、さすがにこれは右から巻く。アクアステルスなのでこういう時は楽勝。これを越えてちょっと行くと、ほぼ1:1に分かれる二股となり、右股は階段状の大滝となっている。なお、このあたりから高橋・渡辺が、前夜の睡眠不足からひっきりなしに休憩を要求するようになり、ペースががた落ち。ドラゴン荒井だけ元気。

ナベ「いや〜すまんね、足引っ張っちゃって…」
荒井「いや〜、そんなことないっすよ、ボコボコっすよ」

とアメスピ(洋モク)をフカしながら適当な事を言ってニヤニヤしている。全く…

右股に入り、階段状の滝を気持ちよく登る。上の方でちょっと傾斜が強くなるが、左の草付きに逃げて問題なくクリア。
滝の上からは、天神平からその上に上がるロープウエーがよく見える。興が削がれるというより、高度が確認できてありがたい(笑)。
ここまではデート沢と言っても過言ではなかったが、ここからはオジカ沢を簡単にしたような、登攀的な内容となってくる。
10m前後の滝を次々と側壁登攀やシャワークライムで突破。高橋さんはTシャツ一枚で激シャワーを登っていた。マジかよ…ドラゴン荒井も、簡単に巻ける滝を修行僧みたいに浴びたりさらにシャワーで登ったりと楽しんでいた。ナベはもちろん節電モード。

やがて遡行図通り、左から水量的な本流(大体4:1)が滝を架けて出会う。ちょうど側壁が3mくらいぶったっているゴルジュの中で左から滝を架けて出会う形なので、地形的には水量の少ない正面が本流。
面白そうなので地形的に本流の正面遡行を続ける。
その後もシャワーが2回くらいあり、これを突破するとハングしたチムニー状の滝が出てきた。さすがに突っ込む気にならず、右からザイルを出して高巻いたがそこそこ悪かった(V+)。ザイルは50mの真ん中にラビットノットを作って2本引っ張って、落ち口のCSにカムかませてビレイしたが、探せばスリングを岩に巻いたりでも十分だったろう。

この後は涸れかけた沢を遡行。やがていつの間にか尾根に突入。いわゆるひとつのヤブコギである。はるか左手に天神尾根(と登山者)が見える。切ない…しかもなぜかこの頃から雲に隠れていた太陽が我々を虐め出した。
が、15分くらい頑張っていたら、すぐ右手にも登山者が見えるようになる。いわゆるひとつの西黒尾根である。ワイルドなドラゴン荒井はそのままなぜかまっすぐ進んでいったが、ナベおよび高橋は右トラバースを開始し、西黒尾根に出る。もちろん荒井さんもすぐに到着。
槍の穂先を余裕で見送った高橋さんも今回はピークを取るとのことでとりあえずトマの耳へ。天神尾根と合流後はすさまじい混雑。
トマの耳まで来ると

高橋「あっち(オキ)の方が高いんだよなあ…」

ということでオキの耳へ。
こちらはちょっとは空いていたのでなんとか記念撮影。
あまりの人ごみに辟易して西黒尾根〜厳剛新道経由で下山した。最後林道歩いていると小雨が降り出し、「やっぱ2ルンゼ行かなくてよかったね」と再確認。
早めに降りれたので、山岳資料館でそれぞれ資料を読みふけっていると、武井さんから連絡があり、土合で合流できた。
関越はやっぱり渋滞した。

西黒沢入渓

入渓してすぐ 白鷺の滝
ヤニーズ 西黒沢下部
ヤニーズ すばらしい渓相

西黒沢ナメ

西黒沢のナメ。素晴らしい。 ため息が出るような渓相が続く

右奥がザンゲ沢と思われる。 ザンゲ沢を分けるとやや登攀的になってくるが、人間に優しい滝が多くて楽しい。

しかし、コイツは右から巻いた。 手前の左岸に入るルンゼ状からあっさり巻いた。
西黒沢二股

二股。右の階段状大滝を登る。 全く持って楽勝だが、上部は意外と立っているので注意。

西黒沢上部

ドラゴン荒井

二股を過ぎると、シャワーで登る滝が多くなってくる。 ドラゴン荒井、修行中。もちろん右から簡単に登れる。

西黒沢上部のゴルジュ

ここもシャワー。へつりでもOK。 上部の二股に近づくとゴルジュってくる。当然激シャワー。

Tシャツで激シャワーに突っ込む高橋

秋はつらいかも。でもその分水量減ってるかな? Tシャツで突っ込む高橋。見てるだけで寒そう。

文字通り水流に突っ込む荒井。 まだシャワーが出てきます(前の写真とは別の滝よ)。

西黒沢上部二股

右股の核心

西黒沢上部二股。左のほうが水量が多いが、地形的には右が本流っぽい。我々は右を遡行。 二股からちょっと進むと出てくるハング滝。核心でした。
谷川らしい詰め。 夏のヤブコギですわ。
沢2本くらい挟んで左手に天神尾根が見える。距離は遠くないトラバースする気は全くもって起きない。 オキの耳にて。


 

 
西黒沢遡行図

遡行図:右に掲載

参考遡行図:http://page.freett.com/sawanobori5/page006.htm
(コチラのほうが詳細に書かれていますが、詳細すぎる分かえって分かりにくいかも?二股と上部二股だけ分かればそれで十分)

テクニカルメモ:足並みの揃ったパーティなら、ハーケンやカムは不要。木やCSで十分。ザイルは2人なら30m1本といったところか。あとは力量に応じてザイル長くしたりプロテクション多目に持っていけばいいんじゃないでしょうか。
足回りはフエルトの方がいいかもしれないが、2回の高巻きではやはり「草付きにはアクアだな」と思うことしきりだったので、ボッカトレに両方持っていって、普段はフエルト、核心と下山はアクアにすればいいんじゃないでしょうか。

<評価>
これほど楽しく、アプローチも下山もいい沢が、ガイドブックに載っていないという理由で登られていないのがウケる。どんだけガイドブック好きなんだよ日本人…。ロープウエー?これが気になるなら奥多摩は1本も登れないでしょう。沢登りのエッセンスが詰まった素晴らしい沢でした。
ちなみに私としては遡行適期は初夏ないし晩夏がオススメです。緑とナメのコントラスト、そしてシャワーを楽しむなら夏でしょう(真夏だと下山で死ぬとみた)。(ナベ)

西黒沢、帰って資料をみたら体系では完全に無視されていて、全く記述なし。昔の谷川ガイド本(古本屋にいっぱいある)には西黒沢のザンゲ沢とガレ沢の案内はあるものの肝心の本流はなし。マチガ、ヒツゴーに劣らない内容だと思うのだけど不思議。相当内容の詰まった山域ってことなんでしょうね。天候を心配してびくびく2ルンゼを登るのとは地獄と天国の違いでしたよ。ナメ、飛沫を浴びての滝登り、詰めの草原と笹原・・・谷川の沢って沢登りのエッセンスがつまってますね。(高橋)

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