谷川岳/一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜


期間:2011年9月12日(夜行日帰り)
メンバー:渡辺(記)、落石
形態:マルチピッチクライミング(本チャン)

土日が仕事で月曜が休みとなったので、月曜どっか行きたいと例会で言っていた落石さんを誘って、平日なら林道も車が入るだろうし、人も少ないだろうという腹で超人気ルート・一ノ倉沢烏帽子奥壁南稜に行ってみた。
やはりその響きから、「お手軽なマルチピッチ」というイメージを持っていたが、実際には、ルート自体は確かに快適であったが、「日本の岩場上」にだまされて入った6ルンゼは激悪であったし、下降中に雨が降ってフリクション最悪となったテールリッジは全部懸垂したいくらいの悪場であった。
グレードとか支点とか色々条件があるが、それ以前に、ここは一ノ倉沢(おそらく日本で一番天気が悪いところ)であるということを肝に銘じて登るべきだったのだろう。我々にはその腹がなかったため、ルートミスにうろたえ、雨にうろたえで全体としては快適な登攀とはいいがたい物となってしまった。帰りには指導センターで「もっとちゃんとした計画書出せ」といわれる始末(プリンターからの出力を忘れたため、高速SAの「お客様の声」の裏側にボールペンで書いた)。全く、一ノ倉は一筋縄ではいかない。


9月11日 曇り時々小雨
20:20前橋 22時ごろロープウエー駅立体駐車

前橋で集合して土合へ。なんと落石さんが酒を買ってない。入山前に酒を飲まない男は本当に久々に見る。ところで、今年から始まった林道閉鎖&バス運行だが、「平日は林道開放されてるんじゃね?」と思っていたが、指導センター前のゲートはガシっと閉まっていた。


9月12日 曇り時々晴れ→午後から曇り時々雨
4:30起床 5:30ロープウエー駅立体駐車場発 6:20一ノ倉沢出合 7:00テールリッジ基部 7:50南稜テラス 8:00登攀開始  13:15南稜終了点 14:25南稜テラス 17:10一ノ倉沢出合

起きると、結構車が止まっており、メットを持っている人もいる。かち合ったらやだなと思って焦る。
落石さんがアプローチシューズに沢タビを出し「一ノ倉に入るまでの林道で痛いんじゃない?」と言ったらドカ靴(重登山靴)を出してきた。ドカ靴なんか重いしスメアはできないし足裏感覚がなくて登りにくいし、いい事ない。でも重かったり登りにくかったりするのは落石さんだしなあと思い、思ったことをそのまま伝えたが、今にして考えればそんな嫌味を言ってる暇があったら頭使って、「一ノ倉沢出合までドカ靴でアプローチし、その辺の茂みに靴を隠して、一ノ倉沢は沢タビで登る」という風にすればよかったと思う。
平日で人はいないだろうと思っていたら10人はいる。一ノ倉沢出合で追いついて、彼ら彼女らが便所とかでモタモタしている間に抜かせてもらい、さっさと一ノ倉沢に入る。
ひょんぐりの巻きで懸垂下降し、テールリッジに上がると、懸垂点で行列が出来ていた。これじゃ休日と変わらんやんけ。
大汗をかきながらテールリッジを登り、中央稜基部からトラバースして南稜テラスへ。ここでアプローチシューズを残置してクライミング開始。
(以下、グレードは体感。濡れているところは甘め、残置豊富orカムが決まる所は辛目です)

<1P目 20m 渡辺 W->
目の前の大岩を右からまわりこんで直上。濡れてて怖い。ビレイしていると後続が6人くらい南稜テラスに上がってきた。半分に分かれて、半分は本谷バンド、半分は南稜に分かれて後続してきている。

<2P目 15m 落石 W〜X>
濡れたチムニーの右壁を登るが逆層で悪い。支点も取れない。

<3P目 35m 渡辺 V+>
この辺りからホールドが乾いてきた。右上するバンドからどんずまりで左にトラバースし直上。最後がややランナウトだが快適。

<4P目 草付き>
簡単な草つきの踏み跡をたどってどんづまりまで歩く。このあたりで後続の3人組の女性に追いつかれる。3人なのに早いなあ…

<5P目 20m 落石 V+>
目の前の緩いフェースから、右側壁のハングをまわりこんだところまで。ひっきりなしに雪渓の崩壊する音が一ノ倉にこだましている。

<6ルンゼ1P目 45m 渡辺 X・A0>
後続がすぐ後に迫っているプレッシャーと、日本の岩場上のわけのわからん記述に騙されて正面のチムニーに入る。途中に立派なアンカー(本当は下降用)があったので、違和感を感じつつも「やっぱりこれがルートなのか」と、そのままチムニーへ。
濡れている上に傾斜が強く行き詰る。ここまで比較的カムやらナッツやらが決まってくれたが、ここから先はプロテクションを取れそうなリスやクラックなさそうな雰囲気だったため、左に逃げた。この際、残置にスリングかけてA0までしてしまった。落石さんが回収してくれたのにはビックリ。よく回収したなあ…

<6ルンゼ2P目 20m 渡辺 X>
一段上がってから泥々のクラックをジャミングで。ムーブ的には結構シビアだがカムが使えるので安心。ビレイ点(本当は下降用)に着いてビレイしながら、すぐとなりの南稜にいる女性パーティーに「そっちはどーでした?」と聞くと「超快適よ(^O^)」などと言われてしまう。「一回降りて登りなおすか…」と腹を括り、ここから、今上った2Pを懸垂で下り、改めて南稜に戻った。ちなみにこの女性3人組は一ノ倉岳に抜けていった。

<6P目 30m 落石 V+>
女性3人組の後ろを付いて来ていた男性2人組の後に付く形となった。本谷バンドへ降りていった人たちが、3ルンゼで大ハマリしているのがよく見える。ああ恐ろしい。人間がフォールしたり(3mほど滑り落ちていた)、落石が人間のいる方向に落ちていくのを見るのは背筋が凍る。一方のこちらは実に快適なリッジ。
「セーフティであることの愉悦…!」
先行Pを抜けなかったので、先行Pと同じビレイ点を落石は使ったのだが、狭いリッジの上にハーケン2本という最悪のビレイ点だった。写真写りはよかったが。

<7P目 30m 渡辺 V+>
快適ピッチ。しかし超人気ルートの割には、たまにパカパカ言ってる岩もある。

<8P目 15m 落石 W+>
乾いた垂壁を登って終了点へ。濡れていたらとんでもないだろう。


下降用の6ルンゼは先行の男性2人組がウダウダやっているので同ルート下降。南稜テラスまで降りると時々雨が降りだし、テールリッジに入って本降りとなる。濡れたテールリッジは極めて悪かった。特に落石さんはこういうのに慣れてないのと、足回りがドカ靴なのでかなりペースが落ち、懸垂も何回かしたので時間がかかった。

<使用ギア>
メトリウスマスターカム1S
BDキャメロットC4#0.5〜3(南稜だけなら1番までで十分。6ルンゼでは#2と#3があって本当に助かった)
<雪渓情報>
雪渓は、2の沢出合前後にバコンと残っている。本谷下部は通行不可能。2の沢も取り付けません。
滝沢上部にはもう雪は残っていないように見えました。

<感想>
濡れたテールリッジの下降が悪すぎ。しかも衝立沢&本谷の水が見る間に増水し、ひょんぐりの巻き道に戻れないかもとちょっと覚悟した。幸い雨は止んで、すぐ水も引いたが。そういうことも含めて、「稜線に抜ける」という選択肢を取れるよう、アプローチシューズは担いで登るべきだと思う。
確かにいいルートだったが、下降があまりにも強烈すぎて吹っ飛んだ感がある。山頂も取ってないし…。実は6ルンゼのクライミングが一番充実してたりして。自分で招いたピンチを落石さんに「ほらな、谷川にはこういう怖さがあるんだよ」とかえらそうに言って誤魔化す俺はもう立派なボンボリーかもしれない。ちなみに、あの日の私は、残置をそのまま利用したビレイヤ、各ピッチのテラスが立派過ぎて懸垂時にビレイとらなかったりと、安全面で完全にボンボリーでした。禊をして出直します。

1P目をフォローする落石さん 2P目をリードする落石さん

凹状岩壁1P目を登る他パーティ。ああやってトラバるのね。 5P目をリードする落石さん。この上のハングを左に回りこむ。

間違って突っ込んだ6ルンゼ。右のリッジが南稜。 7P目の渡辺リードをビレイする落石さん。

一ノ倉南稜馬の背リッジ

すごい高度感です。 最終ピッチをリードする落石さん。6ルンゼに比べれば遊び。でも濡れてたら…やっぱり南稜も本チャンだ。

終了点にて。このあと南稜テラスで雨が降り出し大変なことに。 一ノ倉出合にて。




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