■魚野川本流

2013.10.12〜14
治田、田中、伊藤
 魚野川本流。名前そのものだ。魚が野のごとく戯れている。
 そんな印象が、20年前の遡行記憶にあった。
 時は10月。釣はできない。でも、信越の谷の真髄に少し触れたく、野郎二人で晩秋の谷に浸った。明るい、難しくない、深山さがある、ごみが多かった(釣り師の置物)。それを皮切りに、信越もいいかな?で少しは沢に通ってみた。
 渋沢、八間沢、中高沢〜黒沢、ガラン谷、四万川、雑魚外の沢、白渕沢から金山沢、サゴイ沢、熊の沢、釜川三部作(ヤド沢、横沢、左俣本谷)、エビリュウ〜観音沢、足尾沢、鳥甲2ルンゼなどなど。
 どれもまずまずの沢で、ほんの一部を除いて明るく優しくエグさもなく、癒し系が多かった。でもまだまだで踏み込んでいない沢へはこれからも通いたい。

 当初ワイの予定では秩父の東沢右岸の沢の継続を考えていた。左岸はかなり通ってつぶしてきたから今度は右岸という寸法だ。
 でもま、正直一本の沢を今年はやっていなくて継続の遡下降ばっかだったんで、なぜか太めの沢やりたかった。かといって相変わらず仕事や私的に心身疲れていたので、気合と根性を要する沢は望んでいない。つまり癒し系の長い奴が希望だったのだ。

 それで、良き記憶の魚野川。時は同じく10月。釣はできない。
 ワイのわがままに付き合ったのは、田中&伊藤女史2名。ともにでかくて太くて強い。巷にいる女史とはわけが違う。会えばわかる女丈夫だが、求める哀愁の魚野川を2人は感じてくれるだろうか?
 んま、結果を言えば、優しい沢旅の再訪となり、2人にも信越を感じてくれたものと思う。









10月12日

 前日夜の野反湖のP地の休憩所?オープンはありがたい。テーブルで入山祝い。テントも張らずにごろ寝で快眠。

 6:30頃に発。山越えで切明に向かい、潰れた小屋手前の踏み跡から本流に降りる。
 風が冷たい。それなりのいでたちで動き出す。水はさほど冷たくない。また、少な目だ。

 快適に下部の明るいゴルジュ?を通過。

 顕著な印象もなく河原が延々と続く。はて、大昔の記憶でももう少しは谷が狭く暗く深山さもあったような?
 特に黒沢出合から谷は大荒れだ。土砂の堆積が凄く、左右の湖畔林というか谷筋の林がことごとくやられている。自然の猛威による自然破壊だ。
 近場にいった白淵沢の様子から2011の豪雨が原因ではないかと感じるが、過日を知る者には滅茶苦茶という表現が合うほどやられている。さらに釣師の置物のビニルシート青が至るところに残骸で引っかかっている。荷として担ぎそこに置いた残置物が大きな出水で何十と目に着くありさまだ。
 と、ここまで書いて、ゴミはともかくこれも沢の悲しい姿、けなげに浮かび泳ぐ岩魚に哀愁を感じられずにはいられず、これを受け入れ楽しむ自分に変わろうとスイッチを入れた。

 ちょうどよく右岸に砂地のころあいの地が見つかった。マキも豊富で大水にも安全。
 13:30と早いが、「いつ泊まるの?」 「今でしょ!」つうわけではないがここに決定。
 今年の沢は焚火が大当たり。毎回山ほどの薪で晩餐だ。明るいうちから杯を交わし、暮れゆく夕刻を迎え、闇にはぜる火の粉を眺め、言葉が減ったのを幸いにツエルトに潜る。


10月13日

 秋の空だ。曇りの中、枯葉が谷に漂う。今日は一日で上流に向かう。

 朝一発の滝。昨日の大ゼンに続き、滝らしい滝。沢幅いっぱいにすだれ状に落ちるカギトリゼン。過去の記憶では左側が登れる。
 近づけば、緑の苔がのり、上部は水線を登るラインのようだ。早速取付く。小さな凹凸を拾い、チップに指を固める。アクアのフリクション、食いつきを信じて立ちこんでいく。けっこう嫌らしい。釣師の残置のトラロープはあるが遠慮する。ジワッと体の重さを移動して水に流れに入り一気に抜ける。寝ている滝のいわゆる沢特有のクライムだ。
 後続にはロープを投げる。2人して必死で登ってくる。いい感じだ。

 ナメもやっと現れ滝も続きだす。左に、右に、どっちが登れる?と弱点を皆で探し取付いていく。落差はそうないがスリップすれば釜に全身から浸かり下手をすれば流される。そんなんで楽な気では取付けない。どれも味わいながら登るわけだ。

 小ゼン、奥ゼンをわけ、巨岩地帯を短時間で抜け、さらなる上部へ踏み入る。小滝、ナメと岩盤が続く渓相で明るい。

 ほどなく南北の沢の出合に着。昼前だ。ちょうどテンバとして整地されいい感じだ。速いので迷ったがやっぱ稜線では泊りたくない、焚火できないもんね。それにやけに風が強い。白い雲が飛ぶように流れている。強風の尾根はヤバい。ここに決定だ。

 突風であおられる中ツエルトを立てる。ややテント並に完成。  次に薪。少な目の中、皆が上下流に分散してかき集めた。夜は十分いけそうだ。そいで火付け。なかなか広がらない。風もあるのになぜだ。煙いだけだ。
 煙い中で宴は開催。美女?2名になんやかんや言われながら、結局酔いが廻ってしまう。風はあるが何とか外で楽しめる。ありがたや。


10月14日

 早めの起床でしばらくはツエルト内のライトで茶飲みから始まり、ラーメンと来て、また茶で締める。
 今日は南沢を抜け縦走で野反湖へと向かう。

 明るいナメと小滝が続き、いよいよ源頭だ。ネットでのいろんな記録があるが実に参考にできる。先人の藪漕ぎの苦労はなるべく避けたい。
 つうわけでコンパスと伊藤嬢のGPSでつめを読み、あっ、つう間に登山道に抜けた。ほんとに、あっ、だった。

 そこからは縦走。快晴だが、空気は冷たく秋のヨソオイの山景色。
 登高はあるし笹刈りの笹葉が異常に滑りやすいが、それでも五三郎小屋、カモシカ平を経て野反湖へ。
 楽しんだ魚野川。人が大勢入るのがよくわかる。荒れてはいるが、それでも満足な旅となったのだ。


記:治田

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