■足尾/庚申川笹ミキ沢〜松木川仁田元沢(下)

2013.11.2-.3
治田

見事な2段30m滝。
左から簡単に越えられる

鑑賞用30m滝。
左のルンゼ〜岩場を登り急下降で越す

大釜滝。
右割れ目から登り滝右上の岩をトラバース

源頭のナメ。心が休まる。
明るい渓相がしばらく続く

台風豪雨の影響か水量が多く、
上部で山腹から水が吹き出している

庚申から笹尾根を下る。
皇海山が三角に天を突く

今宵の宿。
設営後は酒を食らい、たき火で一人宴会

トイ状のナメ床。
見せ場は少ない仁田元沢の一面

堰堤の手前の滝。
登りは楽だが、下りとなると苦労する
 フリーの岩から晩秋の沢へ流れてみる。相反するような活動の流れ、そんな自由?な忙しい時間を過ごしてみたかった。


11/2

 岩はなじみの古賀志岩。本年春秋と続き3回目。
 若手(会員外)はジムでのやりすぎで背中を痛めて急きょ不参加。細谷組長も午後になるそうだ。当日の早朝メールでは変更もできない。ま、現地に行ってどうにかするべ。

 岩の基部で体操しているとなじみの地元クライマーや過去に岩場であった山岳会の方たちに出会う。東京都の北陵山岳会に申し訳ないが組んでもらうことをお願いする。
 条件は勝手ながら、相手方に迷惑はかけない。出しゃばらない。手伝いをする。というような構えをもって話してみる。
 男性2名、女性3名のパーティであるが、何とか受け入れていただいた。感謝である。

 実は、その数分前に、一人でボルダーのトラバースをやっていたときにバランスを崩して落ちそうになった。
 悲鳴が出たよ。垂壁のろくにホールドのない所で体がはがされそうになった。止めるホールドはなく、静止してまた戻ったのだ。まったく冷や汗が噴き出した。

 そんなわけでロープをビレイしてくれる北陵には頭が下がる思いだった。リードとTRで何本も練習した。主に垂壁カチのルートをこなす。初めて組む北陵の皆さんもやる気満々でワイも勉強になる。

 そのうち細谷組長も来てさらに賑やかになる。苦手なルートにも挑戦し夕刻の薄ら暗くなるまでクライムした。


 近くの銭湯で汗をぬぐい、単身足尾に向かう。2回戦の始まりだ。  今週も何かと疲れていたので、駐車地ではテントを張って酒を食らい、しばらくで横になる。単独の沢の遡下降はどんなグレードであれ気は抜けない。早めの睡眠で体力を回復したいのだ。


11/3

 準備は時間がかかる。岩の装備から沢の装備に確認しながら変えていく。

 林道1時間で笹ミキ沢だ。きれいな水だが、膝以上は浸かりたくない。それで釜がある滝場は小巻き。
 たいしたことのないところだが、下降が難しく懸垂下降をする。安全第一だ。

 写真でおなじみの2段30mは見事であるが鑑賞用だ。簡単な左まきで越えていく。

 次々に滝がかかるが景観もいいし、すぐに次の大滝だ。これも左まきだが、岩場を登るので少し悪い。
 さらにしばらくで釜が深く登れない滝が登場だ。側壁も高く左巻きだが、鹿道もあり、わかりづらい。
 それを越えれば源頭に入いる。ナメも続き、泊まりたい雰囲気がたっぷり。
 伏流になり、荒れた火山の源頭手前で、庚申山のお山巡りの山道に抜けるべく、左の尾根に這い上がる。藪漕ぎ数分で山道だ。

 古い地図では簡単にトラバースで山頂に行けるようだが、これが大誤算。
 曲がりくねり上り下りも多く、頂には予定よりはるかに時間がかかり着いてしまう。時は13時半。
 ゆっくり休んで飯を食い。尾根を下る。

 庚申山から広い笹尾根を下り鞍部から右側の仁田元沢の源頭に進路を変える。
 緩く藪も薄く、鹿の鳴き声を聴きながらリズミカルに下るとちょっとした小平地があった。水も少ないが薪も何とかある。即決めでツエルトを張る。

 一人の夕餉は寂しくて哀愁が漂うものだ。酒は美味い。暗くなれば焚火こそが暖かさと気持ちの安定を誘う友となる。しめにコーヒーを一杯。
 夜更かしはしないてツエルトに潜り込む。

 夜半は相当雨が降った。風も強く、増水するかな?と思うくらい降ったが、夜明けまでじっと丸くなりひたすら「待機の哲学」を学ぶ。


11/4

 薄明るくなると雨も上がり笑みがこぼれる。時節柄雨中の行動はしたくないものだ。それから熱いコーヒー。これは寝起きには格別で、次の具たくさんラーメンの欲をそそるのだ。

 仁田元沢はその昔遡行はしているが、何もないような記憶がある。確かに悪場もなく下りやすいが、それでも大岩巨岩地帯の通過や滝の巻きも幾つかある。
 やはり慎重な足運びが大前提だ。雑な下りでは登山道歩きはともかく、沢の遡下降にはそぐわない。腰を低くし膝で重力を抑えながら静荷重で降りるのだ。

 巨大な堰堤二連発を右から巻いて廃道の林道に出る。

 銀山平へは、また沢を登り、沢を下らなければならない。小さな沢だが、どんなもんか?
 蓋を開ければ、この小沢は最高に良し。小滝が延々と続きグイグイ行ける。わずか200mの高距なのにほとんどを滝で稼ぐ感じだ。これはにはびっくりだ。

 藪漕ぎなしで峠に抜け、そのまま反対に移動。落ち葉の斜面は結構急で一か所懸垂下降。あとはガラガラの谷筋を一下りで林道に到着。

 嬉しかった。とにかく嬉しかった。
 人はたいした沢ではないと思うだろう。でも僕はそう思わない。求めて向かった山行はどれも響くものだ。

 それにやはり沢はナメられない。癒し系でルンルンみたいな気も多少は抱いてはいたが、初日からそれは崩され、下降でも慎重さは求められた。
 正直、これだからいいのだ。これだからコンスタントに行かなければならないのだ。下界の生活にどっぷり浸かってたまに沢にいく。
 口説かれて連れられていくのなら、ま、しょうがない。しかし、自ら求めて沢に行く、沢の力をつけたい、デカい沢やりたい。こう願うのなら、向かわねばならない。
 たまに行くなんて危ないだけだ。変化する生きている山に踏み入るには、それを読み取れる力を付けたい。

 岩から沢の試み。乾いたスポーツ的なフリーから地味な誰にも出会わない沢の遡下降。
 異色な取り合わせだが、ともに味わえる自分も捨てがたい。歳だけは取り、口も達者になってきた。さらに腰も膝も痛んでいる。
 でも、それなりに山に入り、これからも山を続けたいのだ。

記:治田

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