■会越/御神楽岳水晶尾根

2014.5.17-.18
佐藤、他
 一週間前の鳴沢岳スキーの帰り、鮎島が「この時期は雪渓利用のスラブでしょ」と話していた。そうか、スラブかあ。
 そのとき私の頭に浮かんだのは御神楽岳湯沢のスラブだった。しかし湯沢は…あの恐ろしい雰囲気、無理無理無理。でもいつか行ってみたい。行くならこの時期だ。じゃあ、湯沢を眺められるところで、登れそうなルートに行こう。というわけで、どこをどう探したのか、それとも記憶の中から出てきたのか覚えていないが、水晶尾根が出てきた。。
 早速ネットで検索すると、3件見つかった。2つは古いし(1994年と昭和56年)時期が秋だけど、新潟山岳会のブログは2年前のもので同時期だ。こちらには写真もたくさんあって、見た瞬間、「これなら行ける」と思った。しかも、東京の人間がシーズン初めに奥多摩の沢に行くようなノリなのもすばらしい。
 ところが、登山大系を見ると、なんともつまらなそうに書いてある。これには大いに迷い、隣の本名穴沢の方が楽しそうに思ったりしてなかなか決められない。決められないうちに例会になってしまったので、水晶尾根をエリアと方向性の1つの候補として計画を挙げた。
 「御神楽岳で、雪渓が利用できて、"ド"スラブでなくていざとなれば帰れそうな易しい岩ルート」である。撤退可能な易しいルートは必然的に灌木が多めになるので、やぶ山とも言える。
 その後いろいろ悩んだ末、水晶尾根に確定したが、登山道ですらエクストリームな御神楽岳のバリエーションルートだし、雪渓の状況など不確定要素も多いので軽いのりでは行けない。そんなこんなで、少しずれた動機でスタートした計画ではあったが、出発するころには、思い入れのあるルートになっていた。
御神楽岳水晶尾根
マップ
御神楽岳水晶尾根
どこに水流があるのかわからん
御神楽岳水晶尾根
らくだの窓
御神楽岳水晶尾根
たまにはツェルトもいいね
御神楽岳水晶尾根
トマノ左俣へ
御神楽岳水晶尾根
ここは緊張
御神楽岳水晶尾根
ここはロープ使用
御神楽岳水晶尾根
向こうには山伏のドーム
御神楽岳水晶尾根
バーンとピークが見える
御神楽岳水晶尾根
小ギャップ
御神楽岳水晶尾根
本谷奥壁
御神楽岳水晶尾根
湯沢奥壁。また来るよ
5/17

 朝発で東川口駅6:00集合、登山口の駐車場には10:40頃についた。
 林道は途中、轍が水流で浸食されたような深い溝があったりしてかなり悪い状態だったが、なんとか登山口近くの駐車場まで行けた。

 天気予報で午前中は雨となっていたとおり、霧雨が降っているし風もあるので、収まるまで車中で待つ。
 昼飯を食べたり着替えたり昼寝をしたりして待つこと二時間、霧雨は残るものの小鳥のさえずりも聞こえ、回復が感じられたので出発する。

 湯沢出合いまで1時間。ここでいらない荷物をデポし、偵察に向かう。
 以前本谷を遡行したときは、最初から沢の中を進んでいたので気にしていなかったが、実はまずまず歩きやすい道がある。
 水が冷たいし、支流からのデブリの山のアップダウンが激しいので、道を利用してできるだけ水平に歩いた方が楽だ。
 本来の道はずっと左岸のようだが、雪渓を通って右岸にわたって進んだりもする。デブリの山はものすごい量で、この下に本当に本谷の水流があるのだろうか?と感じるくらいだ。
 道がわかりやすいのは笹倉沢出合あたりまでで、その後は踏み跡程度になってしまう。このあたりからは少し沢に入って進む。

 ラクダの窓沢の出合の手前の雪渓上から目指す水晶尾根が少し見える。上の方だけわずかに見えた水晶尾根に、正直しょぼいとというか、ただ「ああ、あれだ」と思うだけだった。

 ラクダの窓沢は、二つの峰に挟まれた谷になっており、下には雪渓が広がっていて、見応えがある。半分くらい雪に埋まった沢の遡行は新鮮でなかなか楽しい。

 水晶尾根へのアプローチは、本名穴沢の支流、トマノ左俣だ。
 本名穴沢は出合から雪に埋もれている。出合いは狭いが少し登ると開けた雪渓になる。雪渓はだんだん傾斜が強くなるもののアイゼン無しでもなんとか登れる。帰りの下りはちょっと怖い。

 トマノ左俣も二手にわかれているが、右側のルンゼが今回の登路だ。「ああ、ここね」とすぐわかったのも、新潟山岳会のブログのおかげである。
 雪渓から取り付く部分が今回のポイントの一つだと思っていたが、ルンゼへの取り付きの少し前で雪渓が割れており、巻くしかなさそう。

 取り付きまで偵察することにし、巻きに入る。雪国の沢にありがちな柳のような灌木頼りの急斜面だ。明日はいやというほど味わうことになるのだろうか。
 さて、取り付きのスラブを見ると...濡れてる。新潟山岳会の写真ではこんなのじゃなかったような気がするので、小雨のせいだろう。明日は乾くといいなあ。

 偵察を終え、BPに戻ろうとするが、二人とも行きに辿ったルートを覚えていない。通り過ぎた後で「行きは反対側を行ったよね」とか「偵察した意味ないじゃん。」とか言っていたり。でも、こまかいことは覚えてなくても問題なしだ。
 偵察をしたおかげで、取り付けることはわかって見通しが立ち、明日の行程への不安はだいぶなくなった。

 テント場まで戻ると、たいして歩いてないのに1本沢を登ってきたような疲労感と充実感がある。というか楽しかっただなあ。うまい酒が飲めそうだ。
 まずツェルトを張る。当初タープの予定だったが、天気予報の気温を見て寒そうだったのでツェルトに変更した。
 一時小雨が降ったがすぐ止み、星も出た。そろそろ寝ようと時刻を確認すると21:30...。できれば早めに下山したいので予定より早め起きようと話していたけれど、あきらめた。


5/18

 4:00起床。さっさと準備して出発する。
 昨日の偵察のおかげで、取り付きまで一時間弱。途中本谷で水を汲んだ。この先水を汲めるところはない。

 取り付きでルンゼを見るとやっぱり濡れてる。天気も小雨がぱらついているし、なんとも湿っぽい。しかも、少し登ると水が出ている小滝があってウルイが生えていたりする。この小滝の下はテラスとなっているので休憩した。
 その後はスラブのような、灌木帯のような感じ。それでも大半はスラブ登りだったと思う。足回りは二人ともアクアステルス、またはイドログリップなので、クライミングシューズを履く必要性は感じない。
 一部、高度感もあるが、ぎりぎりロープ無しで行けるレベル。もちろんこけたらアウトだが、滑るような感じではない。
 休憩出来る場所は少なく、「ここを過ぎればテラスが...」と期待しながら行くと、何度も裏切られた。ウルイのテラスから一時間後、5mくらいのドーム状スラブを超えると広いテラスがありやっと休憩。ここは緊張した。

 テラスから灌木の藪を少し登ると水晶尾根に乗った。
 周りを見ると、右下に気持ちよさそうな乾いた綺麗なスラブが見える。アプローチはあっちの方がよかったのかもしれない。でも下で雪渓が割れて滝が出ていたから難しいか。
 尾根に出てすぐに、岩峰が2つ連続する。このあたりが御神楽槍だ。一つ目はロープ無しで登れる。2つ目はクライミングシューズに履き替え、ロープを出して右側から巻き気味に登った(20m,III)。支点は灌木で十分だが、残置ボルトが2つあった。

 登り切ると、ピラミッドのような湯沢の頭がばーんと見える。なかなか立派である。目指すピークが立派だとうれしい。
 天気が今一つなのが残点だが、御神楽沢本谷奥壁や山伏尾根、本名穴沢のスラブなども見えてきてテンションが上がる。
 ここに数ミリ程度の細かい水晶がたくさん生えている岩があった。水晶尾根というくらいなのだからあちこちにありそうなものだが、気が付いたのはここだけだった。

 以降は見えている通りに歩くだけという感じだ。ナイフリッジっぽいところや小ギャップがあったりと適度に刺激はある。
 面倒なのでクライミングシューズのまま歩いたが、濡れた沢靴に履き替えるよりも良かった。

 実は、小雨が降ったり、風が吹いたりして、寒かったのである。炎天下の長時間の藪漕ぎクライミングと時間切れビバークを覚悟し、水を本谷から2.5gも担いで来てしまったが、1gもいらなかった。
 登山大系に3カ所悪いところがあると書かれていたが、御神楽槍、小ギャップへの下降、それから、どのあたりか忘れたが岩壁を左から巻いた所だろうか。
 山伏の頭で、ここで見納めかと、登ってきた水晶尾根を見下ろす。ここから先、傾斜がゆるくなり、藪っぽくなるので水晶尾根が見えなくなるのだ。  湯沢の頭へは最後に藪の一掻きがあり、こちらはからは「やったあ!山頂だ!」という感じたが、登山道側からはただの道の途中にしか見えない。本峰を目指して登山道を歩いていれば気付かずに通りすぎてしまうだろう。
 いちおう「湯沢の頭」と書かれた風で飛んでいかないのが不思議な金属プレートが落ちていて、三角点の残骸のような石が倒れていた。

 下山は、栄太郎新道だ。以前より鎖が増えていたが、危険なところには無い。設置しづらいのだろうか。
 わかりにくいところもあった。赤テープに導かれるままに下ったら一カ所道を間違えた。どうも切れた赤テープで、もとは通行止めを知らせるために張ってあったようだ。

 栄太郎新道は、湯沢の奥壁をしつこいくらいに見せてくれる。あいかわらず湯沢のスラブ群はやばい雰囲気で登れる気がしない。
 特に各スラブルートの門となる断層帯が恐ろしげな雰囲気を醸し出している。その断層帯は山伏尾根上ではドームとなっている。そういえば、今回、登りも下りもずっと山伏尾根が見えていた。なかなか魅力的だし、登れそうな感じがする。よし、いつかあそこに行こう。

 山らしい山をやった気がする。沢をたどり、尾根を登り、ピークに立つ。それは原始的な山登りだ。
 終わってみれば大したことがなかったが、情報が少ないし、登っている最中も先が見えないので、とにかく登ってみるしかないという状態で先へ進み続けたのである。しかも結構距離が長い。

 下山連絡で「地味な藪岩稜」と書いてしまったが、いい山だった。登山大系で「完全なやぶ尾根である」とか、「すっきりしたものではない」とか、ろくでもない書き方をされていることにがっかりしたものだが、やはり「藪岩稜」としか言いようがない。愛を込めて

佐藤 記

【記録】
5/17(土)雨のち曇
 林道終点駐車地12:40-湯沢出合13:40-本名穴沢出合15:00-トマノ左俣スラブ取り付き15:30-湯沢出合16:30
5/18(日)曇ときどき小雨のち晴
 湯沢出合5:20-トマノ左俣スラブ取り付き6:20-水晶尾根上8:00-山伏の頭10:10-湯沢の頭10:30-湯沢出合12:40 -駐車地13:50

【備考】
※足回りはアクアステルス、イドログリップ。ロープ50m
※風呂:みかぐら荘。ただし、食事は14:45ラストオーダーなので間に合わなかった。
※飯:次男坊亭。天重セット(蕎麦付き)は山菜の天ぷらがgoodだった。この時期だけかな。R49沿い、IC1km手前、パチンコ屋の隣

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