大源太山αルンゼ

2014.6.15
佐藤、佐野

【報告】

大源太山は私の中ではいつか登りたい山の一つだった。「上越のマッターホルン」と言うが、言い過ぎではなく、とくに積雪期は本当に見栄えのする山なのだ。 何年か前にコブ岩尾根に向かって敗退したときも、今年平標山や柄沢山に山スキーに行ったときも、その姿を見るたびに、あーかっこいいなあ,いつか行きたいなあと思っていた。

少し前に佐野さんが大源太山αルンゼを提案。そういえば、私は積雪期のことしか考えていなかったので、無雪期のルートは北沢くらいしか知らなかった。調べないとなんとも言えないってことで保留にしていたが、調べても大した情報が見つからない。ちょっと情報が少なすぎて怖い。 αルンゼのことはなんとなく頭の片隅に置きつつ、季節の移ろいを感じながらあちらこちらの山に行くこと一月、ネットでαルンゼの写真を見つけた。う...藪っぽい。だけど、これなら行けそう。 そこで、インスボン帰りの佐野さんに「いけそうな気がする」と誘いをかけたところで、計画が発動した。「藪っぽいねー」だって? Yes! I love It!

ところで、佐野さんはどこからαルンゼを見つけてきたのか?秘密の情報でも持っているのか?と聞いたらやはり登山大系で見ただけとのこと。大源太山に登りたくてどこからがいいかなーって調べたらよさそうなルートがそれだった、とか。おお!シンプル! 秘密の資料(?)は寧ろ私の方にあった。昭和35年発行の山と渓谷アルペンガイドである。一般ルートの紹介の位置づけながら、新潟県の山は未開で登山道が少ないと言い訳してほとんどがバリエーションルートの危険なガイドブックである。 直接参考にするのは危険だが、主観的で正直な記述は生々しく信用できるのだ。αルンゼはとりあえず悪くなさそうだとわかる。 悪いところの記述は、例えば隣の三ルンゼについては、「うしろからシッポをつかまえて馬に乗るような姿勢をしなければならないところ」とか意味不明だし、「稜線からの救援を求めて越えた」とか最早ルートのガイドになっていないのだが、それでも十分に悪いと分かるのだ。

さて、出発の日、佐野さんは昼から飲んていたそうで、予定外に飲み過ぎたと言って登場。そのわりにはシラフだったけど、これからよくわからんバリエーションルートに向かうのにいいのかね。 といいつつ私も、慣れない自転車トレなんかしてしまったものでケツが痛く、いい勝負である。心配事は佐野さんが入山祝いのカンパイに付き合ってくれるかだけだった。 「いけそうな気がする」と思った時点ですでに不安はなかったし、特に天気との精神戦に勝利したのが大きいか。 当初、天気の予報が思わしくなく、転進先を具体的に検討して決めていたくらいなのに、直前に晴れ予報になっていたのである。

和光市駅に20:30集合で塩沢石打ICで降り今年何度も使った17号のローソンによって、清水23:30くらい。当然291号線の奥まで入れるつもりで行ったが、清水の集落を抜けたところで通行止め。行程に往復6kmの道路歩きが追加されてしまい、少しがっくりだ。仕方ないので路肩に車を止めて飲む。佐野さんは、私の心配を知ってか知らずか、さんざん飲んだはずなのに入山祝いに付き合ってくれてありがたい。

車が奥まで入れなかったので早めの4:30にアラームをセットしたが、あと5分〜とか言っていたら4:45起床。5:30出発。 駐車地でふと登川の対岸を見ると、見慣れた土と白いものが混じった堆積物が...。なんと、こんなに標高の低いところにも雪が残っているのか。

登川は河川敷が思いのほか広い。ところどころ川幅も広い。ほんとうに渡渉できるのか心配になるが、謙信尾根末端の丸ノ沢出合付近は川幅は10mもなく、深さもひざ下程度だった。 少し緊張するが、もしもこけても大丈夫だろう。ただし、水はものすごく冷たい。 謙信尾根の一般道に行くためにはこの渡渉をこなさなければならないので、かなりやばい登山道だろうと思ったが、道自体はかなり整備されていていいらしい。(山頂で会った人による)

丸ノ沢に入りしばらく進むと、北ノ沢に入ると沢が大きく右に曲がるところで大畠沢に出合う。大畠沢は、ただのガレにしか見えないので要注意だ。藪っぽく、水の枯れた小滝がちょこちょこある沢筋を進んでいくと、ときどき隣の丸ノ沢の音が聞こえる、かなり近いようだ。 ニセ4ルンゼを分けて、雪渓が出てくると、ルートの全容が見えはじめ、二又となる。目指すαルンゼは明るい緑色に光っていて草原のようだ。

雪の状態が中途半端で案外疲れるが、雪渓歩きで末端壁の下まで来た。ここでハーネス等、登攀具をつける。 さて、どうするか?見た感じ左の灌木帯を利用すればロープなしでいけそうだ、ということで登り始める。意外にすぐにスラブっぽくなり、部分的に傾斜もあるが軽快に登っていける。気持ちいいところだ。 そういえばクライミングシューズに履き替えるの忘れてた。履き替えれば良かったかと思っていると中段バンドが近づくにつれ、また、土っぽくなるのでやっぱり沢靴で良かった。

中段バンドからは、登山大系の記録と同様に一旦βルンゼに入ってからトラバースしてαルンゼに入ることにする。ここでクライミングシューズに履き替える。 もう少しノーロープでいけそうな雰囲気だけど、ここをノーロープで登るのは不健康だろうってことで、ロープをつけることにする。 灌木を支点にしたが、あとで横に残置ハーケンがあることに気が付いた。なおルート中で残置ハーケンを見たのはここだけだった。

1P目 45m、IV-、佐野

ブッシュで支点をとりながらβルンゼの左端を登る。途中少し立っている2mくらいの壁を登るが脆くて怖い。壁の手前でαルンゼに向かってもよかったかもしれない。その場合はIIIくらいと思う。

2P目 45m、III-、佐藤

1P目のビレイポイントまで行かず5mくらい下から左にトラバースして灌木帯を超え、αルンゼのスラブに入りロープいっぱい近くまで登る。V字状に開けており、出た瞬間、思わず「おお!」と声が出る。草原に見えたところだが意外に岩っぽいじゃん。少し段になっているところでハーケンと灌木でピッチを切る。

3P目 45m、IV、佐野

核心ピッチ。左右に草のいっぱい生えている岩溝状のルンゼが入っているが、ルートは真ん中のルンゼ。見た目より傾斜は強く、左右の灌木でランニングをとりながら登るが岩が脆くリードは悪そうだ。フォローは中央を快適に登っていけるが、傾斜の強いところは少し砂っぽく風化した白い花崗岩だった。傾斜が緩くなった灌木帯でピッチを切る

4P目 40m、II、佐藤

このままずっと藪漕ぎかと思ったら、また露岩が出て来た。稜線直下で激藪になるが、なんとなく弱点が左に続いており、5mほど辿ったら山頂にでた。道標でビレイ。 やった!どんぴしゃで山頂だ! 景色も良く気分最高!

今日は快晴、山頂からの景色もばっちりだ。今年スキーで登った柄沢山、苗場、平標もよく見える。昔滑った芝倉沢もちょうどこちらを向いておりよく見える。 山頂から登って来たルートを眺めようとしても藪に遮られて見えない。反対側には北沢の上部のスラブが見えるが、なかなか気持ちよさそうだ。 誰もいない山頂でのんびりしていると単独ハイカーが2人上がってきた。どちらも渋い山をやってる雰囲気がある。大源太山って渋いよなあ。

見晴台に寄り道してから大畠ノ沢を下降する。出だしから雪渓が続いているが、思ったより硬くて急で、沢靴では全くエッジが聞かず、降りられない。結局しばらくは藪の中を降りた。 αβγルンゼへの沢との出合で、もう一度登ったルートをじっくりと眺める。行きに見た時よりなんだかいい山に見えた。

ここから先は往路と同じだが、来たときより水量が多く感じられた。とくに丸ノ沢に出てからは、何度も徒渉を繰り返し、こんな所あったかなあ?という感じだった。実際融雪で朝より水が増えていたのかもしれない。

登山大系に「天気さえ良ければ申し分ない」と書かれていたが、まさに良い天気のなか登れた。 いい天気の中、いいルートから憧れの山頂に登れて幸せである。 日帰り可能だし、それほど悪いところもなく、大源太山の山頂を目指すルートとして、もっと登られてよいところだと思う。

【使用装備】

ロープ50m、ハーケン、アクアステルスまたはイドログリップの沢靴、クライミングシューズ、虫よけスプレー
※カムは使えるところがなかった
※ブヨ対策が重要。とくにビレイ中は拷問である。クライミングシューズに靴下必須。裾のルーズなジャージでは侵入してきた。

【記録】

清水駐車地530 - 登川渡渉620 - 北ノ沢出合700 - 大畠沢出合710 - 下部取り付き900 - 上部取り付き9:30 - 大源太山山頂1130
下山開始1200 - 北ノ沢1400 - 登川1430 - 清水1530

佐藤益弘

【写真】

↓積雪期に見た大源太

積雪期の大源太山東面

↓丸の沢に入ると大源太が見える

大源太山

↓大畠の沢二股よりルートを見る

大源太山東面

↓下部の快適スラブ

大源太山東面スラブ

↓中間バンドより。左の草付がαルンゼ

αルンゼとβルンゼ

↓1P目。見た目より悪い。

βルンゼ

↓2P目、V字に開ける

αルンゼハイライト

↓3P目、この上が核心

αルンゼ核心部

↓4P目、道標でビレイ

大源太山山頂

↓大畠ノ沢の下降。最初は藪

大畠ノ沢源頭

↓あそこを登ったのか

大源太山東面

【ルート】

ルート