帝釈山脈の沢の彷徨

【日程】

2015/7/18 - 20

【メンバー】

治田、伊藤

【報告】

昨年は一本も沢には行かなかった。いや、行けなかったのだ。4月に前々から調子の悪かった膝が もの凄く痛み出した。原因は打撲やひねりなどの突発性の外力からのものでなく、長年使ってきて 加齢とともにガタが来たということだ。医者嫌いだが、調べてみると半月板損傷ということらしい。

日常はしゃがめない、階段の下りでは手すりがほしいとまったく山登りどころではなかった。 いろいろとリハビリをやった。軽い日帰りハイクを続けて膝の様子を見た。何とか行けたが、とても 不安定な動きが入る沢には向かえなかった。

きっかけは今年の光来出沢の会山行であった。途中までで戻るというもので、これに向けて調整をして 見ようとなった。所は尾瀬だ。一ノ瀬川の柳沢を登りセンノ沢を下降した。雪代で水が多く冷たく、ナメと 小滝を歩き、上部で残雪を駆け巡ると少しは沢の感覚が蘇ってきた。「やっぱり、沢はいいな。」

会山行でも何とか動けたので、そんなに難しくない登高距離の少ない癒し系の沢をチョイスするようにした。 甲子の二俣川を選んだ。そこはナメが多く、実に楽しめた所だった。

気を良くしたワイは、もっと充実した沢で、でも何とか今の力でもやりきれそうな計画を練った。 帝釈の沢の継続だ。昔から延々と沢を繋げる行為は試みでいたが、稜線に道のない帝釈は好都合だった。 いろいろ考えたが、三つの水系を2本づつ遡下降して一周するコースを考えた。 @舟岐川黒沢火打石沢 ⇒ A鬼怒川黒沢門石沢 ⇒ 同トウガン沢 B実川赤倉沢右俣 ⇒ 同支沢 ⇒ 舟岐川曲沢 で戻るという具合だ。 参考文献として登山体系で机上の行動プランを練る。誰もいなければソロでやるつもりでいたが、ありがたい ことに、やる気あふれる伊藤さんが参加を希望してきた。二人の方が荷が軽くなるし、酒も美味くなる。

7月18日

前日まで福島は降雨があり、水量の多い舟岐川となる。本流だけに河原も石も大きくて、腿まで浸かり 渡渉していく。支沢の水量が多いので現在地がわかりにくく、伊藤さんのGPSが非常に頼りになる。 ナメと小滝が多く、苦労しないで火打石沢となる。釣りをしてみるが、魚がいるのに、木々が茂っているので ポイントに近づけずに魚に気づかれてしまう。釣りは下手くそなうえ竿の扱いがダメなんで、一気に遡行スピード が落ちてしまう。

それにしてもこの火打石沢、本流にあたるわけだが、明るくて開豁さもあって、実にいい。源流最上部もナメが 続きヒタヒタと詰め上がる。藪漕ぎなしで福島栃木の県境引馬峠に立つ。

昼前より小雨が続いていたが、小降りなってきた。ここより下降して門石沢の上部を泊り場とする。 良き場所は見つからないが、枯れ木を引きつめ、草を引いてツエルトを張り寝床をこしらえる。 河原も薪もないので、濡れた体を酒で中から温める。伊藤さんもかなり鍋の具を担いできており、初日頑張った 分の栄養を補給できた。熱いラーメンも胃に沁みるし、酒がすすみ飲みすぎた。

7月19日

今日は3本の沢をこなすべく気持ちを入れて出発する。地図で急に傾斜の出てきた地形は沢沿いは下りにくい ので左岸側の樹林を歩き下る。2段の滝が出現したら、コンスタントに滝が出てくる。クライムダウンを基本として 何滝もやり過ごす。ここは舟岐川の渓相とは逆に左右には大きな壁や崖などが続いて陰湿だ。どこでも歩けない 地形は神経を研ぎ澄まし、滝や側壁の弱点をつかないと追い込まれてしまう。

そのうち側壁の規模も大きくなり目の前に空間が現れた。覗いて見ると、ストンと吸い込まれるような直瀑が現れた。 左岸しか弱点がなく急斜面をトラバースして難場を切り抜ける。谷筋から滝を見れば、巨大な岩が谷の真ん中に 乗っており、その右を先の滝が落ちている。これが、沢の命名になった所と直感する。 『門石沢』とは、この途方もなく巨大な石が門のように存在し、睨みというか威厳を放っているところから名付けた ものであると思う。

その後も延々と側壁は続き、出てくる小滝をひたすらクライムダウンする。3〜7mほどの滝を幾つ越えたのか。 緊張から疲れの出てくるころ、右岸からトウガン沢が合流してくる。

小休止の後、再度気を入れなおして遡行する。門石沢より幾分大きめの沢だが、滝が連続しいいムードになって くると下部ゴルジュのお出ました。この鬼怒川の2本の沢はろくに記録もなく、参考するものがないため、現地で見て 判断して進むという当たり前の行動が基本だ。一か所深い淵と滝に泳ぎが入るかなと雨具を準備して近づくと左壁を 登り越せた。ここもけっこう滝が多く、ほとんどが登れ楽しめる。中部より支沢が流入してくるので本筋はどんどん 小さくなっていく。

詰めにたどりつくが、今日は晴れて気温が高く暑い。藪漕ぎでバテないように薄着になる。しかし、予想を上回る密藪 が延々と続く。久しぶりのめげるほどの藪だ。漕いでも漕いでも進まない。何とか国境に到達する。道もなくコンパスと GPSを頼りに、実川の赤倉沢へ下降開始だ。

こちら側は下草程度で歩きやすい。上部の緩い地形から次からはやはり連続して滝が出てくる。こちらも巻きとクライ ムダウンで対応していく。正直、ワイの膝もガタが来ているので、この2回目の沢下降はシンドイものがある。 中流あたりでいい所があれば泊かと考えていたが、小ゴルジュに滝が続いているので良き地が見つからない。 赤倉の左俣まで頑張ることにする。薪は濡れていたが何とか焚火を起こし宴会の始まり。いい感じで酔っていると ポツポツと雨が落ちてくる。止みそうもなく、ツエルトに潜り込んでコーヒーとラーメンで締める。

7月20日

昨日の行動で三日目の今日は疲労満載だ。でも沢から山越えしないと帰れない場所に我々はいる。いやが上でも 気合を入れる。下降してすぐに硫黄沢が左より合わさる。本流は規模が大きくなり綺麗なナメが続きだす。地名と なっているザル滝の上の支沢が登路となる。ここを選んだ理由は七兵衛田代の存在からだった。山上の湿原は疲れた 体と心を癒す最高のオアシスと考えた。

ところがこの支沢、地形図から読み取るのとは全然違い、滝の連続する素晴らしく楽しい沢だった。もちろん急峻な 滝もあり巻いていくのだが、大半はナメ滝であり鑑賞後にグイグイ遡る魅力は名無しの沢とは思えない。 上部で七兵衛田代の小沢に入り藪わずかで目の前にぽっかりと湿原田代が広がった。 「うーん、ナイス、ベリーGOOD。求めていたよ、これを」なんてセンチになってしまう。食虫植物のモウセンゴケを指で 突っつきからかって遊ぶ。

この七兵衛田代の一番上にワイらは出たわけだが、見たところ下に向かって続いており、ほかの田代につながるらしい。 腰を上げると針葉樹が連なる山越えの稜線が伺えるが、昨日の強烈な藪に出会わないように祈るばかりだ。 その祈りが通じたのか、歩き出してみると獣道というのかいい感じで稜線に上がれる。下りでは多少藪が出てきたが 大したこともなく、曲沢の源頭に乗っかる。緩々と源流は穏やかで、急に落ち込む地形で、御多分にもれずそこそこ滝が 出てきた。ここもひたすらクライムダウンと小巻きで攻め下る。膝はガクガクで抑え下るのに辛いが、長年やってきた沢の 貯金で何とか舟岐川本流に舞い戻った。 あまりにいい天気なので釣り竿をだすが、残念ながら空振りで終わる。 広く澄み切った水の流れを渡渉して見覚えのある堰堤に出れば、あとは林道を駐車地へと歩を進めるだけだ。

着替えで足袋を脱ぎ、スパッツを取り、一つ一つ行動アイテムを外していく。 振り返れば、3日間どっぷり山に浸かった。相棒の伊藤さんも集中して沢に通い出しているので安定してきている。 何だか実にうれしい。膝の不安は当然あったが予定通り6本の沢に足跡を残せた。各水系により雰囲気はかなり違う。 傾斜の緩い明るい舟岐川に、ゴルジュや側壁が見事で下りがいと登りがいのある鬼怒川源流、実川はその中間のよう でナメも多く湿原が豊かだ。 充実した帝釈山脈の沢の彷徨。無事に幕を閉じ、また新たな沢の旅路を考えている。

記) 治田

【行動】

7/18 橋7:20〜引馬峠14:50〜門石沢上部 泊地 15:30
7/19 門石沢上部7:20〜トウガン沢10:00〜国境14:00〜赤倉沢二俣17:10
7/20 赤倉沢二俣6:10〜支沢出合6:50〜七兵衛田代9:30〜曲沢〜駐車地13:40

【写真】

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帝釈山脈の沢彷徨
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