道具魂 Vol.4 軍手


<治田氏、軍手について大いに語る>

<はじめに…>
 なんでこんな事まで書かなくてはいけないのか。軍手なんて、何か記すことはあるのか?と読者諸兄は疑問だろうが、これがまた奥の深いものでもある。ワイにはこだわりの軍手がある。
 おっと軍手は炊事のためでないよ。行動中に手を守るために装着するもの。といいたいところだがそうじゃない。

<沢で軍手をする意義>
 行動でもグリップを確実に良くするために装着するものなんだ。素手よりもはるかに濡れた岩に吸い付く。
 単純に微妙なナメ滝の登りを考えて見てくれ。素手で登る奴が多いが、足も裸足で登ったらどうだろうか。フエルト足袋やアクア靴より確実にフリクションは裸足のほうが落ちるだろう。裸足では立ちこみが弱いという面もあるが、そういう見かたではなくて吸い付きという面から捉えると決して最高の履物は素足とはいえない。
 乾いた岩には当然素手だが、濡れた岩には軍手が最高だ。

<軍手 こだわりの逸品…>
 しかし、どの軍手でも良いとはいえない。そこで良いわらじ悪いわらじがあるように、良い軍手を選ばなくてはいけない。
 良い職人は、良い道具つまり鋸や剪定鋏やその他のものも高いものを購入している。それが結果的に長持ちし、自分の腕の技を披露してくれるものだからだ。自転車もそうだろう。安物ではフレームからブレーキから全てが弱く、長く走りこむ一流の脚力についていけない。同じように軍手もね、ピンからきりまであんだ。選ぶポイントは二つ。
@綿と化繊の割合
 混合は綿の割合が高いほうがいい。しかし高すぎると縮まり使いにくい。8割程度がいいようだ。
A撚り本数
 3本撚りよりは4本撚りの方が持ちがよく、今の愛用は5本撚りのものを使っている。

 ワイはジョイフルホンダあたりでいくつかの軍手を沢で使い込んだ。結果、高価品、高価とはいっても高々のもので1ダース800円程度のものを使っている。
 愛用の軍手には絶大の信頼を持っている。一緒に行ったみんなはわかっていると思うが、数々の微妙な登攀でホールドを確実なものにしてくれた立役者がこの軍手だったのだ。


5本撚りの軍手。
あまり売っていない逸品(?)
<ほかの軍手…>
 沢屋にはいろいろな軍手を使っているものがいる。ワイなりの意見を述べよう。
(1)安物軍手
 安物は薄く小さく、熱に弱い。構造は三本撚り(軍手を形成している一つの繊維が3本の束ということ)で、綿でなくポリプロピレンの割合が高く、摩擦熱に大変弱く溶ける。つまりこの手の軍手は焚火での鍋や飯盒をじかに触ると溶けてしまうことがある。行動でのグリップもやはりやや滑りやすい。多少使って毛羽立ってくると濡れた岩に吸い付くようになるがそれでも綿の割合が低いので今一だ。
(2)表面ゴムつき軍手
 ほかに会員では表面ゴムつき軍手を愛用しているものもいる。確かに長嶋番長からの軍手はサイズが小さいことと耐久性に多少難はあったが、使いやすい優れものの一品だった。
(3)ネオプレーン型の指出し手袋
 さらに他にも、高価なネオプレーン型の指出し手袋なんぞも売っているが、高い割りに吸い付く力が上がるわけでもなく耐久性があまりに低い。数を行く沢屋さんには経済的にも厳しいものがある。ワイ自身も過去2つほど使用したが、沢用手袋の類なんぞは、5本撚り軍手に全ての面で勝っていないな、と思ったものだ。
(4)軍手の指先カット品
 軍手の指先をぶった切ったものを愛用しているヒトもいるだろう。確かに、「フリークライミングの感覚に近く、細かいカチが持ちやすい」というメリットがあるという意見もあるだろう。
 実際、私自身、過去にそういう考えから指先のカットも相当し実践したが、結論としては「いい軍手ならまったくもったいない」の一言だ。
 とにかく、わざわざ切るのがもったいない。良い軍手も使い込めば自然に指先から穴が開き、完全に穴が開けば、その軍手は私の感覚ではおしまい。捨ててしまいます。始めから切るのはナンセンス。それぐらい指先においても、素手よりはフリクションが効く軍手があるのだ。正直それをやはり体感してほしいな、と思う。

<結びに…>
 ワイも当然、皆と同じように素手時代が長かった。手袋はずっとしなかった。でも、ある時期から指と手の保護から使ってみた。そしてなぜか不思議だが、作業服屋にだまされて5本撚りの最高級軍手を使ってみた。
 そして驚いた。食いつく、吸い付く、耐久性もある。素手よりもコケ、ぬめり、何もないスラブに強いと痛感した。
 水を含んだ厚手の軍手はわらじのごとく、岩に手をかけ圧を掛ければ水を吐き出して吸い付いてくる。指先も圧を掛ければ、生地から水がジワッと出てその後に確かなフリクションが来る。それがワイの言っている軍手の良さだ。だがしかし、これも人の感覚により絶対とはいえない。
 ただ、安い高いのでの製品でなく、足まわりも昔から、わらじの稲からポリプロやフェルト、さらにゴムのアクアと変化進化している。それでいてどれが一番良いかは何とも言えない。そんなことから、素手がいちばんいい、という感覚はどんなもんか。
 フリークライムは素手だが、液チョー&粉チョーは無くてはならないものだ。ワイの感覚では、濡れた岩には、濡れた軍手がチョーグットなのだ。
 再度また言う。
 軍手は保護という意味でつけるのでなく、スラブのへつりや滝の登攀に最高のグリップを求めて使うものだ、と。

 以上、ワイの独断的意見を申した。ただしかし、いちばん言いたかったことは、山の店に売っている道具だけに振り回されないで、自分の目で見て、装着して肌で感じて、より優れた道具をいろんな分野から発見してほしいということだ。

―――END―――

<編集より>

 要約すると、
「軍手は、フリーにおけるチョークである」
「裸足でフリーを登るのがナンセンスなのと同じように、素手で濡れた岩を登るのはナンセンス」
「沢登り界の格言」として50年後にも残ってるかもというくらいです。これはぜひ、私も高級品を買って使って、使用感をレビューしなければなりませんね、会報で。

 ちなみに、近所の金物屋、池袋の東急ハンズ、後楽園のタウンドイトなど、近所で軍手を売っている店を回ったが、3本縒りのポリが多い安物しか売っていなかった。金物屋のオヤジに聞いたところ、「今はそういう軍手は売れないので置いていない」とのこと。仕方ないので懇意にしている金物屋に頼んで仕入れてもらった。綿100%の5本縒りである(※)。
 10双で1000円。早速妙義のアプローチの際に使ってみたが、確かにフリクションは安物より上に感じた。まだ本格的に沢で使用したわけでないので断定はできないが、確かに苔のついた滝で使ってみたくなる代物だ。
 ただ、今まで素手で触っていたものを、比較的厚手の軍手で触るのはやはりフィーリングが悪い。普段やわらかめのクライミングシューズをはいている人が、硬めのシューズに替えたときに感じるアレに似ているかもしれない。まあこの辺は慣れか。治田さんは「縮む」と言っていたが、洗ってみたものの大して縮まなかった。この辺はモノによるのだろう。

※編注:縒り本数は素人目には判断できない。量販店も個人経営の店も、結局は問屋から仕入れているので、見せてくれと言えば問屋のカタログを見せてくれるのでそれを見て判断しよう。カタログには縒り本数や材質がすべて書いてある。


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