胎内川・本源沢
高橋です。
留守本部ありがとうございました。天気予報からご心配をお掛けしていたと心得ています。
現地から無事の下山を報告しましたが、内実は予想を裏切る展開の連続で最終日は悲壮な脱出行と化しておりました。
9月22日(水)
天気予報によると、秋雨前線が通過する時期にあたり期間最終日の日曜くらいしか晴天が見込まれない。前日から電話・メールで”なんだかねー”
とやり取りしていたが、それじゃどこが晴れかというと日本全国おなじようもので、そうであれば胎内にいってみるしかないと一応の方針はみてい
た。さて21:40に東所沢で3人集合し、また”なんだかねー”となったが、結局はみんな同じ気持ちで、増水していても、途中からショート
カットすることはせず、出合から進めるところまで期間一杯で行こうと思っていることを知る。そりゃそうか。浦島を見ずして何が胎内か。深夜早
朝2:30に胎内ヒュッテ手前の胎内第一ダムの管理事務所の玄関に雨からのがれて仮眠テントを張る。まずは入山の祝杯を挙げていると人がいな
いと思った事務所に明かりが点いてパジャマ姿の兄ちゃんが二人出てきた。こんな時間に起こされれば俺だってぶちきれそうだが、二人は”こんな
雨の中移動しろとは言えないですね”だと。義理と人情でこの世はまわる。はるばる来た甲斐があるってもんだ。
(21:40 東所沢駅 - 02:30 胎内第一ダム)
9月23日(木)
着替えて奥のヒュッテまで車で移動し06:30出発。つり橋をわたり頼母木川に降り、少し下って胎内川の出合い。この緊張感がたまらないなー
と言い合いながら遡行開始。水はひざ下までしかない!不安が解消されていくのがたまらない。雲もきれ、晴れ間ものぞきかけているではないか。
しかーし、進むわれらを待っていたのはゴルジュ側壁に空けられた導水管の巨大な穴。仰げばはるか上空に赤い鉄橋。3人は深山でひそかに進行す
る工事現場を探る潜入ルポ隊の様相を呈してくる。突然、堰堤にさえぎられのでないかと心配はつのり、角を曲がるたび祈るような気持ちになる。
考えてもいなかった展開その一だ。結局は流路をさえぎるものはなかった。スクラムを組む必要はないが何度か飛び込み、短い泳ぎを交えながら楢
ノ木沢出会いを通過し作四郎出合い。ここは気持ちのいい空間となっている。さあ、ここからだと気合をいれて出発すると偽浦島は存在しなかっ
た。薬研沢からいよいよ本命浦島が始まるのだが、大物の宝庫/胎内の種沢とものの本で読んでいた薬研沢で竿を出さないわけには行かないだろ
う。3人適当に準備しはじめるが、高田はそれとは知らず伸ばした竿を担いで浦島に突入してしまった。あの直線水路でポイントがあるわけもない
が帰ってきたのを聞けば”え!あれが?”とのたまわく。浦島を思いもよらなかった11:30にはや通過すると、団子河原までは広葉樹の森が広がる
なか、清流をのどかにほのぼのと皆で釣り進む。テンバは名高い団子河原川岸台地にある歴史と風格に溢れる巨木に囲まれた聖地である。イワナを
焼き焚き火を囲んで一杯はじめると、今日のあっけない展開を回想し”もうもらいましたねー”と、どこからか聞こえてくる。”これじゃ、くいた
りねー”といってるのも高田だ。石川は”さすがにすごいですね”といってくれるが、俺は”いつまでもこのままで続いてくれれば最高だなー”と
思いもそれぞれだ。夜、小便に起きると、河原は月の光に照らされてライトがいらない明かるさで、川霧が水面に漂っていた。月の反対側には星も
ひかり明日の晴天を確信しまた眠りにつく。
(06:30 P発 - 11:30 浦島出口 - 14:30 団子河原泊)
9月24日(金)昼間
よく寝て、明けて金曜日は雲ひとつない青空。下界では皆が出勤の朝と思えば、天国はここにある。(天気予報と日程の為であろう、他のパーティ
は連日気配さえなかった)。焚き火を起こしなおして、天気予報はどう変わっているんだろうかと話しながらお茶漬けをすすって出発。西俣沢出合
いは長兵衛沢・本流東俣と3本の沢の合流点となっている為、3人それぞれ岩魚を求めて沢に散る。いくら待っても西俣に入った石川が戻ってこな
い。呼びに行くこと2度目で岩魚を下げて戻ってくるのに出会った。ここからは連瀑帯がすっぱリと立ったゴルジュのなか、終日きれめなくつづく
ことになった。ザイルはじめは堰堤状7Mを石川が右凹角から越える。帰ってこなかったぺナルティだ。フォローすると黒くぬめっていていやらし
い。その後は3人で交替しながら滝を越えていく。大釜を持つ6Mくらいの滝は高田がかっこよく流水右を突破。V字の狭間から直瀑を落とす12M
は右岸から巻き懸垂30Mで降りる。左岸から中段バンドに出て落ち口に出るルートもあるようだが、3人には全く見えなかった。両岸がますます
覆いかぶさるようになってくるとどこがどこだかもうわからないが、ああ、これが胎内潜りだ。青黒い淵を泳ぎ登る。龍の棲むという4−5Mの滝は
高橋が突撃。飛び込んだあと、渦をクロールで突破し滝裏の洞窟にはいり、頭をねじ込んでチョックし右にトラバースする変態ムーブからCSめがけ
て直上。カムを決めたと思ったら、足を滑らせひっくり変える格好で滝つぼに沈没。皆のところに戻ってくると、寒さで震えがいつまでも止まらな
い。石川・高田とつづいて試みるがカムまでたどり着けない。突き刺さったままのカムを残置するわけにはいかない。再度のトライで高橋が人工3
ポイントで落ち口へ。落ち口から顔をだして目の前に広がる久しぶりの河原は素晴らしい。ハーケン一枚は回収できず、無様にスリングつきで残置
となったのは申し訳ない。そこから本源沢出合いは一投足。暗い感じの本源沢を横目でみて、いかにも本流といった趣の坂上沢奥深く侵入し滝を見
物して戻る。本源沢は最初の一瞥どおり、暗い悪い滝が連続する。高田先頭で出合いの滝を右から越えていくと、あとは覚えていない。が、帰京し
てから腕/肩がよく動かなくなったのでそんな連続だったはずだ。こりゃダメだの8M滝が最後に立ちふさがる。滝すぐ左のルンゼ状スラブを高田1
ピッチ目。側壁の乗り越えの難度がまきとして異常だが、高田によれば飯豊ではこんなもんだというから従うしかない。案の定、乗り越えると、退
却用と思えるぺツルのボルトが打ってあった。2ピッチ目は高橋が泥の乗ったスラブにザイルを伸ばすが、ガバの木が乗り越せない。力尽きて、ま
た高田にバトンタッチ。下から見ると何てことないのだが、高田も乗りこせず苦労している。そうこうするうち石川がもう4時を回ってますとい
う。そういえば、夕方だ。付近を見渡せば、テンバは一切存在しない。カラビナを残して沢に降り、下流に50Mほど戻ると右岸に簡単に巻きに入れ
る箇所があった。巻き終えるとゴルジュは終わっていた。17:30着。資料にはどこでも張れるとあったが、確かにそうだろう。しかし安全とは
いえないのは誰でもわかる。ポツリポツリと点在する河原からはどこも草つきが立ち上がっているだけなのだ。だが、これまで水量は少なかったの
だし、降っても秋雨がしおしおと降るのだから大丈夫だろうと言いながらタープをはる。というよりそこしかないのだ。不気味に流木が積もってい
る。(結果的に言っているのではなく、そのとき皆でそう話していたのである)。張り終える頃には雨がポツリポツリとやってきて、焚き火をあき
らめフライの下で一杯やりながらカレー飯を作っていると皆、充実した顔がそろう。今日は朝からあっというまに過ぎた。高田は最後の巻きで苦労
してうれしそうだ。石川もワインが尽きて、”高田さんウィスキーもらえますか”などとやっている。明日は大滝を残すだけで雨でも大丈夫だろ
う。雨は降ったり止んだりしながら少しづつ強くなってくる。
(06:30団子河原発 - 17:30本源沢ゴルジュ上泊)
9月24日(金)夜
寝る態勢を取ろうとしていた8時ごろ、突然の稲光と雷鳴。その後にバシャバシャと降ってくる。仕方なく外に出て岸から2Mくらい上の最初の木
に念のためシュリンゲをむすんでねる。ほどなく雨は弱まった。10時ごろ。またさっきと同じような雷と雨。まだ、川に変化は見えなかった。12時
前にまた雷雨、今までで一番強い。起きて辺りを見回すと、テンバの脇にさっきまでなかった水溜りができている。3度目の雷雨なのだ。皆を起こ
し、ウエットを着ようと呼びかける。率先して履き始めると、茶色い水があっという間に銀マットの上を流れ出し、シュラフと着替えはあっという
間に水没。戦場と化したテンバで皆、流れ去ろうとする装備を足で踏んづけ、股ではさみ、口でくわえ秒刻みで悪化する状況のなか着替えを済ませ
る。ザックにはもう手当たり次第に何でも突っ込む。タープはとっくに足元で漂うワカメになっている。ハーネスを着けおわると、ひざ上の濁流の
中に沈んだテンバからシュリンゲを結んでおいた灌木まで這い上がった。セルフをそこから皆でとり、もう一段上の木、さらに一段上と上がると人
一人座れるようなテラス(?)があり、そこでやっと落ち着く。時間は12時30分をまわっていた。引き続き雷光はあたりを切り裂いているがまずは
助かったのだ。3人で滑り落ちそうになるテラスでひざを抱え、それぞれ銀マットやタープをかぶって雨の中、夜が明けるのを待つ。時々石川に”
何時だー”と聞くがさっぱり時間がたっていなくてがっかりするばかり。まれに予想より時間がたっていたりすることがあったりすると、それが今
望める唯一のうれしいことだ。雷とともに寒気もやってきた様子で寒くて仕方がない。遅れに遅れた前線が今通過しているのだと考えるが、いつま
でつづくのかわからないのが不安でたまらない。雷雨というと一過性のものだと思っていたが、もう3度か4度やってきたのだ。うつらうつらしなが
らふと気付くとここ2時間くらい雨はやんでいる。
(24:00避難開始 - 24:30避難完了)
9月25日(土)
長い夜にやっと終わりが見えてくると沢は大分水が退いた様子だ。周りが見えるようになって河原に降り、行動食を放り込む。目指すは大滝を越
え、水量を2分する二股までだ。5時前、薄暗い中出発しようとするとまたも稲光と雷鳴が。もう5度目くらいの雷雨だ。やり過ごしてから出発も考
えたが、待って待ってやっと来た朝だし、とにかく動いて温まりたいのだ。ここにいたって今日1日雨かもしれない。大滝は最初から巻くつもりで
あったが、這い上がる場所が見つからない。抜け道はここしかないと決意して高橋が大雨の中、水流右のカンテに取り付くが、辺りは出発時よりも
暗くなり最初のハーケンを打ち込んでいるとさらに水量を増し、ザバーン、ブハッとぶつかってくる水に飛ばされそうなって、情けなくもそのピン
で退却してしまう。この窮地を脱出する為にはどうするればいいんだか、判断停止状態に落ちそうになった。が、高田が左岸を必ず這い上がるとい
う。”頼みます”と大声でお願いする。ビレイする石川と高橋の足元は激流に飲み込まれようとしている。2度目はない。落ちてこないのを祈るだ
けだ。2ピッチ伸ばして落ち口へ到達。そこには樹林帯がおりてきていて昨晩から緊張しっぱなしだったのがやっと一息つける場所だった。感謝あ
るのみ。うれしかったなー。その後、沢幅一杯に流れる水の際を地道に進み、二股を右に入ると雨もやみ水も白くなってくる。ラーメンを料理し、
茶をたくさんわかす。暖かいものが腹にしみ、力がわいてくるのがわかる。石川のザックからは昨晩食べれなかった岩魚が出てきて、”岩魚の餌に
ならなくてよかったなー”と今回釣れなかった高田がいえば、他の2人は心の底からうなずく。これからは釣った魚は食べれなくなったら、せめて
すぐビニールからだして川に戻すことにしよう。稜線へは突然でる。笑顔がはじけ、健闘をたたえ合う。胎内尾根は忘れられなくなる尾根で、た
どった誰もがそう思うはずだ。6時間近く下りに要した。
(05:00発 - 06:30大滝上 - 11:00稜線 - 胎内尾根 - P16:30)
NOTE:
- 24日だけでも、西股沢/長兵衛で半分水をわけ、さらに坂上沢に本流を持っていかれているので、めったなことで本源沢が溢れるとは思ってな
かった。
- テンバはそこしかないのだから、選択の余地はないとおもわれる。着替えの決断/タイミングが遅れたことがとにかく反省すべき点。夜間の増水
は皆始めての経験でこんなにあっという間に増水するとは想像していなかった。最初の雷のとき、去年治さん・寺さんが増水で3回場所を移動し
たってどういうことなんだろうと話題にのぼったが確かウェットを着込んでの待機だったよなと思い出したのが役に立った。
- 最初の2回の雷雨までは全く増水しなかった。2回で保水能力一杯に達し、それからは鉄板の上を流れる水のように、降った雨がすぐ沢に出て、止
むとすぐ水が引くといった状態になったのでは。ある地点で急に増水する。
- 当日の近くの二王子岳の観測点の雨量は;
24日
1-17時:0MM
18時:7MM
19時:2MM
20時:5MM
21時:8MM
22時:0MM
23時:7MM
24時:17MM
25日
1時:8MM
2時:2MM
3時:0MM
4時:0MM
6時:12MM
7時:5MM
8時:2MM
9時:2MM
10-16時:0MM
- 私は参加していないが、高田さん/石川さんが大沢ゴルジュで去る9月4日雷雨にあっているが当日の藤原の雨量は;
6-14時:0MM
15時:1MM
16時:17MM
17時:5MM
18時:4MM
19時:1MM
20-24時:0MM
- 同9月4日、私はナメラ沢の帰り勝沼でワイパーのきかない豪雨で道路がナメ滝と化していたが勝沼の雨量は;
19時:3MM
20時:32MM
21時:5MM
- 大沢のときと体感雨量は一緒だったのだろうか?
- 繰り返すが、避難は場合によってしようがないことであるが、早く準備して、着替え/シュラフをぬらさないことがまず大事か。
以上
記:高橋
写真集
一日目
いよいよ出発。出会いにて。
下部ゴルジュ帯。ニセ浦島、浦島よりも厳しかった。
高田さん、高橋さんが泳ぐも突破できず。高橋さんが左岸を登って突破。
ニセ浦島周辺。朝までの雨の割には増水は少なく、問題無くクリア。
イワナの宝庫と呼ばれる薬研沢。
が、、高橋さんの一匹のみ。どうしたんだ胎内!
浦島。膝上程度の流量でこちらも問題無くクリア。
団子河原の広いテントサイト。
釣れたイワナは高橋さんの3匹のみ。
二日目
そのまもズバリ「堰堤滝」。上もプールになっており堰堤そのもの。
堰堤滝右の凹角にて石川リード。
続いて大きな釜の滝は高田さんリードで突破。
この上でツルツルの岩を飛び越える部分があり、怖かった。
つついて登れない滝。右岸を高巻き、懸垂で落ち口に立つ。
いよいよ胎内廻りの核心。奥の滝は泳いで取りつき突っ張りで突破。
まだまだゴルジュが続きます。
普通は巻くであろう「竜の住む滝」4m。
高橋さんがカムとハーケンの人工で突破。
凄すぎる!!
石川も試しに取りつきましたが、下部のトラバースでドボン。
話になりませんでした。
竜の住む滝上部のハングを抜ける部分。フォローでも非常に辛かった。
東沢本流出合あたり。周辺には豪快なゴルジュが広がっています。
東沢本流の瀞。奥も偵察しましたが、15mクラスの滝×2段がありました。
これから進む本源沢の渓相。一段目CS滝は突っ張り、二段目は右側を上り左へトラバース(怖い)
三段目はトイ状で登れず、左岸を巻きました。
三段目落ち口より。凄まじい光景でした。
三日目
夜0時に発生した増水の為に、側壁に上がり悪夢のビバーク。
ビレイを取りマットをかぶりながらの5時間。
寒く、満足に座ることも出来ず本当に辛かった。
(でも、写真は楽しそう、、)
寒さに耐え切れず、明るくなって早々に登攀開始。
大滝30mを登る高橋さん。ただいま朝5:55分!
が、登ってるうちにも水量がさらに増え撤退。
この後、高田さんが左岸巻き2Pを登り落ち口に立ちました。
大雨の中、難関を終了し一安心。
その後、増水の源頭を進みます。
水涸れ周辺の二股で左側(堰堤状の滝が有る)を選び、薮漕ぎ無しで登山道に出ました。
本当に御疲れ様でした!!
(ただこの後の胎内尾根もかなりしんどかった)