■八ヶ岳/立場川本流〜ししが岩第2尾根

2004.10.11
鮎島仁助朗
 舟山十字路を右に曲がり、段差があるところで車を停める。登山を始めた大学1年の涸沢・真砂沢以来の高揚感。なんだか登山を始める前から既に目的を達成していたりする。
 朝4時半、タマらず起床。旭小屋へと向う。この時、アプローチで使う予定の立場川本流の水量にはかなり不安に思っていた。日曜日は広沢寺に行ったのだが、いつもは簡単に渡れる小川が台風の影響で土石流一歩手前の濁流となっていて、その渡渉にたいへん苦労しており(ウォークマンが敢え無く溺死)、どうせ八ヶ岳も同じような感じでとても1日で水は引いてくれるとは思えないし…。それでもここまで来てしまったものだから仕方がない。まぁ水が少しでも濁っていたら阿弥陀南稜を青ナギまでいき、そこから下って取りつこうと考えていた。しかしそれは杞憂というものだった。だんだん明るくなってきて旭小屋の手前で川を渡ろうとすると、なんと川がまったく濁っていないではないか。確かに水量は多いような気がするが、メチャ多いほどではない。そんなわけで川沿いRiBer Side。
 少し、川の右岸に走る林道を歩くとすぐ終わって連続した堰堤となる。左岸のしっかりした道で2つとも巻いて、次の堰堤も左の明瞭な道から巻く。そこからは、平凡な渓相となり、どんどん歩いて行くと、ちょっとしたゴルジュの渓相。左岸に朽ちた梯子のようなものがあり、そこからまいて途中で下る。なおも、紅葉の美しい中をどんどん歩くと、左岸からノロシバ沢が流入。その先で一本いれる。なかなか良いペースじゃないの。
 メット・コンタクトレンズを装着し、すぐ現れた8m滝を右から巻くと、またしばらく平凡な渓相。左岸から不動川のような火山性ゴルジュの渓相でガマ滝沢が流入してくると、立場川大ゴルジュのはじまりはじまり。
 大ゴルジュは下部・上部に分けられるようで、下部ついて“大系”には左岸から巻け、直登する場合は濡れる覚悟が必要と書いてある。確かにゴルジュの中に3mの滝が2個連続してあり、2個目は木が架かっていて簡単そうなものの、1個目はちょっと気合入れる必要がありそうだ。それでも右壁をヘツリのぼり、そこから2m落ち口へ飛び降りて突破。2個目は目測通り木を渡って通過すると、下部は巻くことなく濡れることもなくアッサリ通過できた。
 これなら、大ゴルジュ上部も実はアッサリ行けるんじゃないと思って行くと、やはりそうは問屋は卸さない。なんと上部“大ゴルジュ”は久しぶりに見たハイパー陰惨なスーパーゴルジュだったのだ。並みじゃない。大盛りでもない---。。。さらに1人でいると余計に圧迫感も増して
「♪イカズや不動川なんて明るい方♪」
って大それたことも思っちゃたりする。左岸側壁は135度のハングでオオイカブサラレているのだ。たとえて言うなら……。イカン!下ネタしか思いつかん。R-18になってしまうのでここでは割愛ぃ。っで、そのR-18ゴルジュ内には見える限りで2m、3m、6mと滝があり、その最初の2つはあまり苦労せず抜けられそうだったが、6mはかなり厳しそうぅっっっでその上は???だ。塩ノ川といい、立場川といい、“大系”ではサックリ書かれているところが結構、アナ場だったりするわけだ。ウンウン。1人で納得。
 今回はこんな凄いもんだと思っていなかったし、6m滝を越えるには泳ぐというわけではないが濡れるのは確実そうで、まったくその心構えもできていなかったので定石通りに右岸を巻く。巻きはそれほど難しくない。かすかに道らしきものもあるような気もする。巻き道からは水線が見えそうで見えないのが残念のチラリズム。途中でルンゼからノーロープで沢へおりると、なおもゴルジュ地形に小滝とナメと続き紅葉とのコントラストの美しい渓相となっている。その中を少しいけば、キレットから沢が大きい流れで一本入ってくる。そのあたりの右岸がししが岩。
 ししが岩の中央ルンゼへと向う小沢を詰めると、
「し、、、ししが岩・・・。結構デ、、、デカイんじゃないの!!!」
って当たり前か。なんて言ったって登攀距離200mだからね。いや〜それにしても脆そうな岩だなァ。ブッシュも抜けちゃうんじゃないの。!っん!、ということはどうやってソロクライミングするの?だいたい、ソロクライミングをするということは、登り返しをするということで、それは一旦下るときには懸垂下降をしなければならないという意味するわけでー、そのつまりは、その時は完全に信用できる支点から…。っっっ!!!っっっ!!!しかし、どこをどう見渡しても安全な支点は取れそうもないんだな。明らかに岩は脆そうで、カムやハーケン類は信用できないし、立派な木も生えていないし、ボルトも少し持ってきてはいるが、岩ごともげそうだし、なんかなぁ…。敢えて、ロープを出して何度も登り返しをするより、傾斜も緩いしフリーソロをして抜けた方が明らかに安全のような感じっ♪。フリーソロしちゃおっかなっ♪。まぁせいぜいV+だしねっ♪。
 登り始めは、できるだけ簡単なところを選びながら、フェースから右のリッジへと向ってクライミング。しかしこれ、結構イヤらしい。脆い岩と剥げそうな草。それといらないギアいっぱいのザック。凄怖の思いを抱きながらもなんとかリッジまで行けば、あとは快適リッジクライミング!確かに赤岳の天狗・小天狗が一望できる景色を占有できるのは爽快そのもの。でもねっ、このリッジ、脆い上に木や草も剥がれそうやんケ。確か大系にはリッジ上は快適フェースクライミングと書いてあった気がしたけど、これが快適なら剱岳の剣稜会の快適さはなんと表現すればいいんだ!?
「残置物に導かれるでもないクライミングは自由か?否。ヘッポコクライマーに取り、それは少しでも簡単なところを強制的に登らされるに過ぎない。」
なんちゃって法則を発見しつつ、それを証明するかのようにごまかしごまかし、少しでも簡単そうなところをンガンガっと上がると、終了点のような稜線が見えてきた。うぉぉ〜終わりかと思って、最後ぐらいは稜線を忠実につめようと思った。ここは『神々の山嶺』で出てくる羽生丈治がアイガー北壁で落ちた時の心境と同じか…(大げさ過ぎ?)。リッジはそのまま5mほどの岩場となって終わりという感じで、その岩場を登ろうというわけ。左へ廻り込めば簡単に抜けられることができたのだが…。
 この5mの岩場の基部で細いブッシュを掴んで取りつこうとしたところ、抜けた…。その瞬間はなんとか止まっているようの思えた。が、実際はすでに落ち始めていて、“あ゛〜”という鈍鳴をあげていた。落ちている最中は、
「本当に落ちている時には“あ〜”という声を上げるんだなァ」
と思ってたりして、結構冷静。落ちているのは短い時間だけど、すごく長く感じると言うのはアレ、ホント。こう心境を吐露することができるのも、漫画のようにうまい具合に10mほど下に立派な木が生えており、本能で掴まって立場川まで落ちなかったからでだが・・・。っで、スライディングの要領で(?)足から落ちており、頭などは打っていなかったが左足が痛い。なんとか安定できる場所まで行ってクライミングシューズを脱ぐと結構腫れている。しかたなく、沢シューズに履き替える。左のアウトを使うと痛い(小指の骨が折れていたのがあとで判明)のでインサイドをなるべく使うようにして左のルンゼを本当になんとか登り詰めるとそこが確かに終了点だった。
 ようやく南稜。はぁ、ようやく道があるぞ〜、あとはこれを下れば良いんだと思っていたが、よくよく見ると南稜はもう一本右の尾根。ということで、そこまで藪こぎ決定。ガックリ。でも悲壮感はまったくない。足が痛いことを除けば、晴れているし、まだ10時前だし、南稜はこの4月に歩いているし、ということで乗り物を呼ぶという考えは毛の頭ほどもない。1時間ほど藪こいだり、獣道を歩いたり、懸垂下降をしたりして、青ナギへと辿りつけば、そこからは本当に道がある。うれしいものだ。立場山へと少し登れば、そこからはひたすら下り。ミヤビな下山開始かと思いきや、杖にしようと企んだ枯れ木はどれもポキポキ折れやがる。
「くっそ〜、酸性雨のせいだ。京都議定書を批准しないアメ公のバカヤロウ」
とこの瞬間、反米思想に傾くのだった。それでもなんとかよい枯れ木を発見しそれを杖にして足を引きずりながら、なんとか旭小屋につく。
 運良く旭小屋にはきのこ狩に来ていた地元の方がいて、大歓待してくれた。マツタケの香りを嗅がせてくれ(食べさせてはくれなかった)、おまけにそこから歩けば30分ではすまなかっただろう林道歩きもジムニーで送ってくれた。ありがたいこと天上に勝るともなし。車に乗りこめば、右足はまったく不都合ないので自分で運転して自宅まで戻るが、中央道は3連休の最終日渋滞。道志みちを使って自宅へは18時頃到着。
 左足を痛めてから4時間も歩いたので、まさか骨折はないだろうと思い、車に戻った後もすぐに病院には行かず、自宅へと向ったわけだが、自宅へと帰ると歩けない…。こりゃヤバイなということで救急の病院に行くと、まさかの入院。左足距骨と第5中足骨の骨折で、それ自体は大したことがないらしいが、それを10時間ほど放っておいたのが悪かったのかかなり腫れあがってしまって、それが神経系の障害を残すコンパートメント症候群の恐れが高いということで、それから4日ほど入院生活を余儀なくされた。
 今回、本当に下手をすればDeathだったが、実は懲りていない。始めてのソロは予想通りというべきか、久しぶりの高揚感をもたらしてくれて、それはマンネリに陥りがちだった最近の山行に新風を吹きこんでくれた。今後も1年に幾度かはやってみたい。まだ、ネタもいくつかある。また、立場川本流の大ゴルジュ。いつかは絶対に完全溯行してみたい。これは誰かとパートナーを組んでだが、熱意をもって示せば誰か来てくれるだろう。日帰り範囲内だし。
 ただ今回の教訓として実感したのは、支点も満足にとることのできない場所でソロはすべきではないということ。残置があればいうことはないが、そんなもの無くても少なくても岩が固かったり、木が生えていたりして信頼できるところでソロはすべきだ。これは今回の左足首を折ってまで得た収穫の他ならない。それに、今回はフリーソロをしたくて行ったわけでは決して無いが、仕方なくそのほうが安全だということでやったわけで、やっぱりフリーソロはよろしくない。運良く、木があってそれにしがみついてなんとか骨折だけで済んだものの、次はこのようなことはないと考えなければならない。少なくとも岩の固いところでソロをやろう。でも本当に懲りてないもんね。今回も怪我はしたけれども、敗退したわけではないしヘリを呼んだわけでもないし警察沙汰になったわけでもないし、自分としては「事故」という認識はないもんね。会社には迷惑をかけてしまったけど。

2004.10.21 鮎島筆

【記録】
10月11日(月)曇のち晴
 旭小屋0530、ししが岩基部0800、終了点0930、青ナギ1045、立場山1115、旭小屋1330

写真集

1、立場川大隘水路。

 

2、エギーユ・ディ・ライオン

 

3、マッタ−・レッド

 

4、The second ridge of Shishigaiwa rock