■日光/雲竜瀑[アイスクライミング]

2005.1.29-.30
治田敬人、佐藤益弘
 日光雲竜瀑。昔から氷の大滝として名が通り馳せていた。近年アイスブームにより各地の氷の大滝が続々発見され、いわゆる単体の大滝登りが実践されているが、この雲竜瀑の登攀的な歴史は古巣の筆頭といえるだろう。氷壁登攀技術としてカッティングと垂直部はアブミの架け替えで登られている。今でも厳冬期にこの氷結した大滝を見んとして続々と人が入る。人々を魅了して止まないその容姿は、規模、冷厳さと風格、氷柱具合、どれをとってもぴか一で、左右の虚空の大岩壁との相乗効果で、辺り一体の空気がピリリと違うと感じるほどそれは厳しいものがある。
 過去の雲竜瀑の状態はともかく、今年のそれは一見絶望的だ。下半分の真ん中が口を開き、水がジャージャー。基部からよく見れば左に可能性が見出せそうなラインがある?という感じだ。滝全体の威圧感から来る恐怖を飲み込み、体から吹き上がる闘志を抑え、さらに確実なラインを読み込む。
1P目(40m・ピラミダルV+、取り付き下部X−、上部X+)
 下部三角のピラミダルから左の氷に取り付き直上。左に少し移り右斜上後さらに直上。テラス下が急傾斜で90度よりは強いか?あとは緩くなったフェースはどこでも自在。「よっしゃ、行ける。」こわばりながら虚勢の笑いをかます。
 そうそう、今日は地元日光警察の方が氷雪技術の訓練をしており、40人ぐらいが雲竜瀑の左岸の雪壁で登降している。僕はそんな喧騒は意識の外にずらし気を集中してリードする。ピラミダルから先は奈落の底への空間が隠されている。落ちないように慎重に左ラインに移り2本目のスクリューをねじ込む。まあ、垂直に近いが、下で見ていたときより長いと感じた。それに大変嫌なことが判明する。それは頭上のツララの幾本もの存在である。3m前後だが、今日の高温で崩壊したらまず直撃だ。首が折られ基部へ叩きつけられて一巻の終わりだ。一瞬、降りようか迷うが、平気だと言い聞かせ登る意志を堅持した。
 テラス下はツララ状に細くなり打ち込みづらい、ここで僕は攻める前の確実な支点をこさえる。また、久しぶりにフィフィで体を仮固定した。これは腕を休めるのにはうってつけで、後ろめたい気分もあるが、前腕が張りまくり疲れた状態では、この先の突破は不安に思えたからだ。
 さあ、気分一新、いい感じで極めまくり乗越成功。やっと核心のONEピッチ終了だ。
2P目(50m・Wから上部はV)
 肩とヘルメットしかみえない佐藤がくたびれながら上がってくる。そのまま目一杯50m伸ばしてもらう。ぐっと傾斜が緩くなり安心だが、続けてなので疲労も相当だから慎重にいくしかない。途中真新しいアバラコフを見つけ、今シーズンは2登目かと少し残念がる。上部2段目の滝下で2ピッチ終了。
3P目(30m・V〜W−)
 最終ピッチは、これまた中央が口を開いている薄氷で、気分的に嫌なもんだ。それでもじっくり落ち着いて登れば問題なし。
 落ち口に立ったときは、まず嬉しくはあったが、第一ステージ終了とやや冷めていた。それは、この大滝の下降が控えているからだ。以前うちの山崎・高田コンビが登攀したときも下降に苦労し、右岸の大岩壁を空中懸垂の連続で下降したらしい。目の前には、今週登ったらしい先行者のスノーボラードが残骸として存在している。
 さて、どうしよう。
 まずやはりボラードの強度が不安なため岩壁の下降を考える。細いバンドから右へ移り懸垂しながら立ち木のある岩壁帯の下降ラインに入ろうとしたが無理なため諦める。また、その支点からアイスラインへの懸垂での振込みを考えたがこれまた危険なため断念する。
 おそらく右岸の岩壁帯下降ラインはいったん壁のルンゼを少し上がりバンドをかなりトラバースして空中懸垂に入るらしい。
 僕らは先行者のとった行動を真似ることにする。長い方の佐藤のロープが8.1ミリと細く、雪を切りそうで怖い。先の巻きのさいに拾った枯れ枝2本をボラードの補強とするがまったく安心できない。覚悟を決めて降りてゆく。その末端でスクリューで自己ビレイ後、慣れたアバラコフの作成だが、状況は今まででいちばん悪い。足元のない高度感満点の空間でそっと静かに行動の一つ一つをこなしていく。佐藤と合流後のロープのやりとりはさらに慎重に行う。
 神様に祈りを捧げるように、豪快なアイスラインの懸垂。平坦な地に足が着けば、まず無事に降りられたことに大感謝。次に雲竜瀑がやれたことの感動が湧き上がる。

 二日目、友知らずもあまりにも細く、土と日でつららの崩壊があるので90〜80度2段25m滝をトップロープで練習。それから帰りの林道のゲートが締められて、僕の愛車が閉じ込められ警察騒ぎ(勝手に早く開けてくれと騒いだ)。宇都宮から日光の警察にゲート開放をお願いしていたら、なんとハイカーが秘密のゲート用バールをもっていた。これも運が悪いのかいいのか。愛車救出作戦は成功し事無きを得た。悲喜交々いろいろあったが、人の優しさにもふれた山行だった。

 正直、ここまでとは思わなかった。嬉しいがこんな状態の雲竜はもう2度とやりたくない。これで白髪が1000本増えたようだ。さらに白髪だけに留まらず、佐藤のロープが回収不能。末端は解いたのだが、キンクが強かったのでアバラコフの結び目近くで止め結びのようになったのではと推測する。残念ながら雲竜の風の下、寂しく揺れるロープに別れを告げる。
 日光雲竜瀑。2段100m(2段目を緩傾斜と見ると3段の滝と言える)。登攀距離は120mで3ピッチ。経験からいえばルート5級下、ピッチX+というところか。その歴史に恥じず関東において押しも押されもしない豪瀑の最右翼といえるだろう。また下降が難しく、登る人は竹ヘラなどのスノーボラードの補強具や落ち口の雪の状態によってはボルトがあっても良いかもしれない。
 今後も各地域に名を馳せる名瀑・大滝探訪の旅を続け、氷に身をまとったその姿に自身の足跡を刻みたいと切に感じた。

治田 記

【記録】
1月29日(土)
 林道終点発8:30〜雲竜瀑10:30終了16:00〜下の河原16:30
1月30日(日)
 発8:00〜練習12:00〜駐車地14:00下のゲート開放15:00