霧ヶ峰〜美ヶ原 山スキー縦走

2005.2.26-.27日
鮎島仁助郎
 深田百名山、美ヶ原&霧ヶ峰。そもそも百名山だったけ?と訝しがる人、実のところ霧ヶ峰&美ヶ原これに北八ヶ岳の配置・距離感覚がゴッチャになっている 人も多いはず。実は私もその一人だ。
 仕事上夜発はできず妙高をドタキャンしたのち、この週末どうしようかと終電内で考えた。それにはいろいろ附帯条件がつく。名のある山、公共交通でいける ところ、単独、、、、、。一気に百名山を2つ取れ、スキー場発、天気予報もいいし、いざとなればヴィーナスラインを通ればよい霧ヶ峰主峰「車山」から美ヶ 原主峰「王ヶ頭」までのルートは最適のように思われた。

 久しぶりに電車である。5時半に家を出て八王子から各駅停車松本行きにのり茅野到着9時半。10時の車山高原行きバスに乗り、終点のスキー場に11時。 やはり効率が悪い。
 甲府までは快晴だったが、現地は曇。だが視界は悪くない。車山高原スキー場のリフトを2本乗り継ぎ車山山頂まで。これで深田百名山通算41山目。超お手 軽である。頂上から沢渡までとりあえず滑っている。っというか後になって思えば、全行程中ここしか滑れたところはなかったような。沢渡から少し登ってまた シールをはずし、休業中のヒュッテみさやま。そこから丘を回り込めば八島ヶ原湿原で、だだっぴろい平原が続いている。視界が悪けりゃ最悪だろうが、時折雲 目から晴れ間が覗いているので問題なし。30分かけて縦断するが、わずかに上りなのでつぼ足で。そう雪面が硬いのよ。そのあたりにツアー人がちらほらいる が、スキーを履いているのは私だけ。みんなスノーシューである。今回も自慢のセミファットスキー。フリートレックで来ようかとちょっと迷ったが、青山さん の雲取山の話を思い出し本格的山スキーで来たわけであるが、、、。もしかして失敗した!?
 八島ヶ原湿原の北限から和田峠へ向かう。ここで通行止めのヴィーナスラインに入って進むか、それとも稜線沿いに進むかだが、迷わず稜線へ。1時間かけて 鷲ヶ峰に到着。あぁ、荷物重い。妙高パーティーのようにツエルトではなく、一人のクセして2、3人用テントを持参だし、いつもは夏シュラで頑張っているの だが今回は寒気が入っているとの情報にヒヨって本格的冬シュラだし、一人ですべての荷物を持っているし…で20kgはゆうに越えている。鷲ヶ峰の山頂から は岡谷の市街・諏訪湖の眺望を独り占め。なかなかだが、問題はその下り。おい、ヤセ尾根じゃねぇか。しかも雪面が硬いときている。しかも急斜面ときてい る。しかも木が出ているときている。…要はスキーで気持ちよく滑れないということ。まぁそれでも頑張ってシールをつけたまま下るが最高に面白くない。ホウ ホウの体で何とか下りそのまま2つの登り返したたが、もう嫌になってヴィーラスラインに下ることにする。それにしても雪質最悪。重い重すぎるぞ!
 稜線から苦労してヴィーナスラインに下り立ち、和田峠に漕いで漕いで漕ぎまくって到着。あぁ下には車がビュンビュン通っている。ここが霧ヶ峰と筑摩山地 の境。和田峠には潰れるのも頷ける規模のスキー場跡があるが、そこに記念碑発見。「第9回村制100周年記念…」何のこっちゃ。ひとりツッコむ。
 時間はもう15時。出発した時間が時間で仕方がないがもう15時かよ。でもまだ頑張るもんね。次の峠、扉峠まで頑張ろう!でもこの先、扉峠まで詳しい地 図がなかったりする。持参してきていたのはエアリアマップ「八ヶ岳」だけで、その裏には霧ヶ峰と美ヶ原の5万図は小さく載ってあるものの、その間が途切れ ている。つまり、20万地図?しかないのである。まぁ思いつきなので仕方がない。視界は悪くないし稜線を進んでも多分大丈夫なんだろうが、地図の問題より この頃から重いスキー板が原因で足に疲労物質がたまり始めているのでヴィーナスライン沿いに扉峠まで進むことにする。つまり、地図がないことを言い訳に ヴィーナスラインに行くことにした。
 ヴィーナスライン。楽チンと思っていたが、クネクネした上りでショートカットもコンクリート壁で厳しかったりする。あぁフリートレックって軽いんだろう なぁ。かなり板の選択で後悔してきている自分がいる。三峰レストハウスまでがそのような上り。困憊。17時。まだ陽は出ているし、これからは下りなので、 気合を入れて予定通り扉峠まで行くことにする。さて、ヴィーナスラインから見る三峰山は白くていかにも山スキーに向いていそうな山に見えるが、きっと雪質 が重く不快に違いない。そう思い込んで、この行程中唯一の山スキーポイントを何もせずに通過。三峰レストハウスからのヴィーナスラインも下りに見えたが、 実際は気が向いたときにだけスキーが走ってくれ、大部分はまたも漕いで漕ぎまくる。しかも扉峠直前は上り。最悪。あぁ足が重い。なんとか扉峠の建物近くに たどり着いて適当にテントを張る。18時。もう宵である。
 いやぁ、一人で2、3人用テント。広いゝゝ。今頃、あっちじゃ狭いツエルトで宴会なんだろうなぁ。こっちは、1ヶ月前にビンから移し換えたブランデーが なんか薄いんじゃないのとグヴィグヴィ飲むとさすがに酔った。AMラジオから流れる知っている歌片っ端から一人カラオケオンパレード。

 夜は寒かった。ラジオからは低温注意報が流れている。冬シュラを持ってきて正解だった。起床後1時間で出発。
 扉峠からヴィーナスラインを外れるがいきなりの急登。雪面が硬い。途中、急傾斜なところではつぼ足でスキーを引きずる。スキーアイゼンをもって来ればよ かった。苦労して無木立の稜線。風はなく天気も快晴。遠く槍ヶ岳までも見渡せる。そして、自分の車山から歩いてきた山々も。縦走の魅力とは何かと人に問わ れたとき、それは「振り返ること」と私は即答することにしている。なんだか自分がすごい人間に感じられるからだ。これは快感だ。この先もルンルン♪と稜線 沿いに行くかといえばそうではない。変な藪に雪まみれになり、硬い雪面にスキーが逆走したりで、ヘロヘロになりながらようやく美ヶ原南端の茶臼山に到着。 ここから見る自分の足跡も快感だ。茶臼山から王ヶ頭方面を見るとなんだか電波塔やホテルが立っている。八島ヶ原湿原もそうだったが、一面何もない平野だと 距離感覚を惑わす。茶臼山から王ヶ頭まで目算では1時間。しかし、1時間たってもまだ半分も進んでいない。ラッセルがないにもかかわらずだ。っと、ピロピ ロ携帯電話受信。“今日パンプ行かない?”とジムのお誘いだ。もちろん断りを入れる。そうして!
1時間か けてのシール歩行でようやくホテルの裏庭のようなところに山頂。深田百名山42山目。眼前には松本市街。あぁ車山から遠かった(意外とこの2つは遠く、 帰ってから地図を見れば上高地から三俣蓮華岳ぐらいあるようだ)。よし、ようやくこれから快適スキーだー。
 いえいえ、そんなわけにはいきません。下る予定の三城方面登山道をみれば、急傾斜・林・固い雪面。。。スキー三重苦だ。はい。素直にクワガタで下りま す。が、いざ下ってみると意外とツボ足だと潜るのよね。10m下ってやっぱりスキーで下ろうとスキーをつけたがやっぱり厳しい。ちょうどそのとき、下から 登ってくる登山者がいる。“この先スキーでいけますかね?”と聞くが、笑ってムリムリと即答される。はい、やめます。トレースがあるのでずいぶん楽になっ たが、木にスキーが引っかかって引っかかって最悪。俺何のためにスキー持ってきたんだろう?今回、持ってきてよかったと思ったことはここまでなかったよう な。自分の見通しの甘さに反省。
 でも1時間半かけて車道まで下りれば、あとは車道を颯爽に6、7kmほど先の大和合バス停までスキーで滑降できるはず。そう、このときのためにスキーを 持ってきたのだ!と気合を入れなおし、引っかかる木も根こそぎなぎ倒し(ウソ)、車道まで出てみれば、なんと・・・・・・・・・完全除雪されていて雪がな く、アスファルトむき出し。やはりとっさの計画、ここまでは計算してなかった。はい、この先もクワガタ決定。でもね、できればヒッチハイクしたいなぁ、と 思って自分の持っているものを見て唖然。そういえば、長いスキー持っているのよね。あぁ、むさい男、スキーつきではかなり成功率低いんじゃいないの?この 山行中、スキーのために不快になったこと数知れず。スキーめ、呪ってやる!
 アスファルト上をトボトボと歩くこと15分。その間4台ぐらい車に追い抜かされ、その都度試みるも無視されていた。そして運命のときが訪れた。音もなく 私をランクルが抜き去ったのだ。鮎島、一代の不覚、こんな良車に親指立てなかっただなんて・・・。余計に惨めになるが、なんとそのランクルが自発的に止 まってくれた。“おい、スキーのアンちゃん乗って行くか?”このとき私は満面の笑みだったに違いない。運転者をよく見てみれば、頂上直下ですれ違った登山 者だった。やはり美ヶ原から三城にスキーで降りようとしていたのはインパクトが強かったのか覚えていてくれた。呪ってごめん。スキーちゃん。そうか、私が スキーを持ってきたのはヒッチハイクしやすくするためだったのか!ってなんか空しい。
 この人、20年前山に登るために博多から松本に引っ越してきたという気合の入った71歳の老人。まだまだ気合が入っていて天気が良いので居ても立っても いられず単独で“ウツクシ”に来ちゃったらしい。車内では山の話で盛り上がり松本駅まで送ってもらった。感謝感激雨霰。13時。まだまだ昼である。

 私は百名山はフカキュンが独断と偏見で決めたものだし、それに異論を挟むのは邪道だと考える。だからこそ、私は百名山を日本百名山とは言わずに深田百名 山と呼ぶことにしている。霧ヶ峰と美ヶ原。どちらも深田百名山に選定されているものだが、現代ではなんかなぁ。少なくとも鮎島百名山には入らないのは確実 だ。逆コースはヤセ尾根の下りが続いて厳しいだろうから車山から入って正解だったが、スキーははっきり言って大大大大大失敗だった。スキーアイゼンをつけ たフリートレックで行けばよかった。
 今回の目玉である霧ヶ峰と美ヶ原、どちらも個別にくれば冬でも全く苦もなく登れる山である。簡単に登れる山になんだかわざわざ苦労しに登りに行った感が ないわけではないが、とっさに思いついた山でも本当に充実したから満足だ。よく歩いたなー。無風快晴の美ヶ原から霧ヶ峰の眺望の感慨。これは縦走したから こそ味わえる。縦走、いいもんだ。

2005.2.28 鮎島仁助郎

【記録】
2月26日(土)曇ときどき雪
 車山高原スキー場1100、鷲ヶ峰1330、和田峠1515、扉峠1800
2月27日(日)無風快晴
 扉峠0600、茶臼山815、王ヶ頭1030、三城1200、松本駅1300