■関越/越後荒沢山東面 足拍子川風穴スラブ

2005.5.21

鮎島仁助郎
 どぅやら、「越後山屋」を自負するヒトには荒沢・足拍子山群はハズせないらしい。そのようにこだわりを持った人の文章を読むとどうも行きたくなる。そのなかでも気にかかったのがこの「風穴スラブ」。なにしろ、出合がゴルジュで残雪期ではないと登れないというのがよい。また、途中洞窟があるというのもよい。しかもそれほど難しくなさそうだというのもよい。“よいよい”づくしだが、不安点もある。まず、単独だということ。そして、ブロックだ。
 実際、山登魂MLではいろんな計画・お誘いが飛び交っていたが、私は妥協しない。今年のモットーは「自分の山行計画に妥協しない」こと。モチの高いときはできる限り自分の希望に沿った山行する。まぁ、無理はしないよう楽しみましょう。

風穴の由来の洞窟
 朝一番の新幹線に乗るためには、実は自宅で寝ていては間に合わない。そのため前夜に新宿のマンガ喫茶へ突入。しかし、これよくない。結局一睡もせずマンガを読みきってしまった。不覚。6時半大宮発の上越新幹線に乗り、しばしまどろみ7時半越後湯沢到着。そそくさとタクシーに乗り、大源太キャニオン方面へ。最後は林道を走るが、ここの林道を通るのは10年ぶりとのこと。フレンドリーなおじさんで、最後はサービスとして缶ジュースをもらった。
 小沢出合あたりから足拍子川の右岸林道を歩く。経木ノ沢までしっかりした道がついてあり、そこから足拍子川へ下るとすぐ雪渓となる。あとは雪渓を歩くだけ。雪渓を歩むと感じる冷たく心地よい風に大学時代の剱岳合宿の想い出が蘇る。若きしころY峰を登るべく長次郎谷を駆け上ったように足拍子谷の雪渓を一歩ずつでも確実にあがれば、すぐ右に前手沢が入り前衛スラブ、二ノ沢が順々に入り込む。そして風穴スラブが。ここまでタクシーを下車してからちょうど1時間。一息入れるため、腰を下ろし、メット・登攀具を装着し、いただいた缶ジュースを飲みながら、辺りを見回す。もちろん誰もいない。しかしこの荒沢山東面、私の妄想では谷川岳一ノ倉沢を少しショボくしたものだったが、それ以上に見栄えがなく正直少しがっかり。風穴スラブも西ゼンや金山沢なみにもう少し幅広でかっこいいものだと思っていたのだが・・。幸い、心配していたブロックなどは見当たらないので不問に科す。
 取り付きはしっかり雪がついている。平蔵谷でシュルントに落ちて亡くなった先輩を思い出す。慎重に慎重を重ねるに越したことはない。右から木をつかみながら無事とりつく。この後はしばらく階段状で怖くない。もちろんノーロープ。しかしそれも30m登ると傾斜が強くなる。だんだん怖くなる。それでもノーロープで慎重に越えるといったんテラス。その上には幅が狭くなったスラブというよりは“滝”という感じのものがある。しかし、それも今さっき越えた傾斜の強い壁以上のものではなく、やはりノーロープで。っで傾斜が強くなり始めたところで後悔。ここまでウォーターテニーできていたのだが、それがあまり効かないのだ。実は下のテラスでフラットソールに履き替えるかどうか迷っていたのだが、やはりこういうときは強がらないほうが後々悔やまないことは昨年の秋に身を以って知っているのだが、いざ現場に来ると高揚感から頑張ってしまうものだろうか。いまさら下のテラスまで戻るのも怖いし、やはりノーロープでテニーで進むが、その結果もっと後悔度倍増。傾斜強いし、ガバもないし、フットホールドは外傾しているし・・。自分でまいた種だがシマッタと思う。傾斜の弱くなるところまで目測15m。手のひらから発汗し、息を止める渾身のクライムを確実にこなし・・脱出。フラットソールに履き替える。
 フラットソール最高。こんなに違うものか。金山沢のときにはテニーの威力に驚愕としたものだが、このフラットソールの威力に比べるとやはりまだまだBAByだ。ちょっとしたものでもホールドになることに、なんでもっと早く履かなかったのかと思うこと思うこと。傾斜も緩くなり俄然スピードアップすると、右手に洞窟が。これが風穴の由来である通称「トマの風穴」か。ここから下を眺めれば、見栄えよきスラブが続き奥にはまだ雪を纏った巻機山が見える。これまた良し。
 上にはまだスラブがつづいており、フリクションで進もうとするが、これまでとは塩梅が違う。なんか風化しているのだ。少し安定したところでルート図を見るとみんな風穴の左端の藪リッジを登って最後まで抜けているらしい。ヤバイ、調子こいて行き過ぎてしまった。いまさら下れないし、仕方ない。左のリッジから登ろう。こういう場合、後悔するのがいつものパターンだが今回は大丈夫。自分のルーファイが正しかった。もういちど、本流に戻り10m順層ヌルヌル滝を慎重に。その上はやっぱり風化している。傾斜的にはフリクションでいけそうな気もするし、実際足を踏み出しかけたが、これまでのパターンを考え、ここは自重。成長したなぁとなにげに感慨耽り、右のリッジに逃げる。といってもこのトラバースが結構いやらしい。慎重に慎重に。あとは快適なリッジ&藪を5分弱行くと関越道が見えた。すなわち稜線である。時計を見れば、まだ10時。結局、取り付きから1時間で登りきってしまったことになる。ロープをつけなかったからとはいえ、予想よりも早い。
 土樽には15時までに着く予定だったが、これはかなり早く付きそう。早速Iモードで時刻表チェック。12時16分水上行き。よし、これがちょうどいい。荒沢山に登り、さっそく下山開始。
 稜線沿いは踏み跡らしきものがあり、間違えようがないが、それでも最近誰もきていないのだろうということが偲ばれる踏み跡だ。そして資料には土樽方面から荒沢沿いに登山道があるはずで、それを下る予定だったが概念図だけでどうにも地形図にも載っていない。さらに概念図の場所ではここのはず・・というところだがまったくわからない。しかたない。荒沢には雪渓が上部まで続いているのでこれを下ることにする。
 しかし、これまた後悔。テニーちゃん。まったくステップが切れない。怖い怖い。概念図を見ると右岸に登山道が走っているはずなので藪をこぐが、どんなに漕いでもまったくわからん。しかたなく藪沿いに下りるが、面倒くさくなってやはり雪渓に降り立てば、傾斜も緩くなり落ち着く。が、いやな瀬音が。滝がでている。藪を漕いで巻く。3度ほど、藪を伝って滝を巻き下りると雪渓はおわり沢。今シーズンはじめての沢が溯下降とは。ヌメヌメしてテニーにとっては最悪の渓相をそのまま下降。10分下ると林道が横切った。11時40分土樽駅。緊張感から解き放たれ、帰りの電車内はひたすら眠った。

 実質、はじめてソロをし、結局痛い目にあった八ヶ岳ししが岩。そのときの記録のあとがきにこう書いた。
「今回、本当に下手をすればDeathだったが、実は懲りていない。始めてのソロは予想通りというべきか、久しぶりの高揚感をもたらしてくれて、それはマンネリに陥りがちだった最近の山行に新風を吹きこんでくれた。今後も1年に幾度かはやってみたい。まだ、ネタもいくつかある。」
 今回はべつに単独をしたくてしたわけでなくはからずもソロだったが前回同様のワクワク感。これだけでも価値はあった。そして単独だからこそ身を以って得られる教訓もあった。
@後悔するかなと思ったことは、必ず後悔する。
A思うよりフラットソールの威力はすごいぞ
 結局、今回もフリーソロとなってしまった風穴スラブ。ひとつ強がりを言おう。実はここ、わざわざ行くところではない。なんとなく予想はできていた。それでも行ったのはJRの5月末期限の2割引券を有効活用するため。。。。なーんてね。でも楽しかったし、ワクワクしたし満足マンゾク。まぁ当分、越後山屋の聖地「荒沢山」に踏み込むことはないだろうが。「荒沢岳」になら・・・。
 勝手に考えている「晩春スラブ三部作'05」の第1幕、風穴スラブ。なかなか。初としては場所の選定がうまくいった。今後の2つにうまくつなげられるはずだ。

2005.5.23 鮎島 筆

【記録】
5月21日(土)晴
 越後湯沢0730、小沢出合0800、風穴スラブ出合0900、荒沢山1000、土樽1140

@風穴スラブ出合


A風穴スラブ下部


B風穴スラブ上部