■奥三河/天竜川 大入渓谷

2005.8.28
鮎島仁助朗、鳥本真司
 8月27日土曜日。18時、浜松駅に集合。自転車で出向いたところ、
 鮎島「ん!?なんでザックしょってるの?クルマじゃないの?」
 鳥本「だって、電車でいくんじゃないんですか?」
 …さっそくの以心「不」伝心なり。寮に戻り、クルマに乗り換えて浜松駅にて再度合流。まず、釣具・アウトドア用品店「上州屋」へ。鮎島氏の粋な計らいでライフジャケットを買っていただく。私の卒業祝いということである。卒業したのはもう半年も前だが。おまけに、今回の沢登りは「鳥本卒業記念」ということでOBOGのやりとりがされたというのだから、思わず苦笑してしまう。
 二人は浜松北部を目指す。向かう先は大入渓谷。運転手・鳥本のヘッポコMT車運転に鮎島氏は思わずやきもき。途中、大衆食堂にて地元特産らしき「駿府丼」を食したが、これは値段が5百円代と手ごろなわりに美味なり。桜海老、しらす、わさびの組み合わせは殊のほか絶妙だ。
 国道473号から大入渓谷へとつながる都道府県道429号へと入ると、まもなく「進入禁止」の電光掲示が現れた。道は塞がれており、
 鮎島「なんだこりゃ、先に進めねえじゃねえか。今日はここで泊まりだな」
 どうも台風の影響で、落石が多発しているようだ。仕方なく、まだ入渓地点からある程度距離はあったものの、そこでクルマを駐車させることになったわけだ。午後10時前後だったろうか。今晩はここで車中就寝だ。久しぶりの再会を祝して、乾杯。まもなく就寝する。

 4時半、起床。外はまだ暗い。そして、まだ眠い。気持ちを奮い立たせねば、と朝食のカツ丼をガツガツ。朝食を終えた鮎島氏は道脇に用をたしにでかける。しかし、その束の間、ところにクルマが一台近くまでやってきた。慌てて戻ってきたところ…ハプニング!「うわああああああ………」悲鳴がこだまする。車内から様子を眺めると、黒色の大型犬が彼に飛び掛っている。絶叫する鮎島氏。…こちらが見たところ、襲うというか、じゃれてるかんじだが、鮎島氏のビビリかたは半端ではない。犬を連れてきたおじさんは車中から無事を問い、やがて犬とともに戻っていった。どうやら犬の散歩だったようだが。トイレを妨害されたどころか、珍客のために肝を冷やすことになった鮎島氏は顔面蒼白、「このままケツもふけないで死ぬのかと覚悟した」。さりとて、車内で観察していたこちらからは、妙にユーモラスに映りまるで即興の喜劇のようであった。
 さて、そうこうしているうちに夜も明け、徐々に明るくなってきた。必要な荷物以外はクルマに置き、出発。入渓ポイントへは徒歩30分程度。沢の左右をつなぐ橋がかかり、道にゲートが設置されているのが目印といえよう。入渓してまず思うことは水があまり冷たくないということだ。過去の記録でも「おしっこの混ざった子供用プール」のような水温と表現されており、これは言いえて妙なり。もっとも、進んでいけば場所によっては妙に温かかったり、逆に冷たかったりしていたように感じた。沢の水は、台風通過後ほんの数日にもかかわらず、美しく澄み通っており雑魚がいたるところでスイスイと泳いでいた。美しく、野性味のある沢だ。
 この沢の特徴は際立って「泳ぐ沢」であること。水の量、流れともに穏やかであるものの、深い淵がいくつも口を開いており、こうした淵をへつるのも限界があるから、次々と泳ぎ泳いで突破することになる。一方で、ロープを張るような滝は皆無であり、我々が進んでいる本流に対して、支流として流れ込む細い滝が風景的なアクセントになっているのみである。
 過去の記録から、この沢のポイントは通称「小入道」と「大入道」の二つであると予測された。実際、第一の関門、「小入道」は両岸そり立ち、暗く深い、この沢で最も威圧的な廊下である。もっとも、難易度はさほどでもなく、雰囲気的な部分が先行している感あり。ともあれ、ここを思い切って通過すれば、この後連続する淵泳ぎの感覚がつかめてくるともいえる。
 「小入道」のあとは深い淵が相次ぎ、次々と水泳を強いられ体力的にはややハード。特に「小入道」直後の淵は距離が長く、コース中でももっともいやらしい場所かもしれない。だが、それ以上にいやらしかったのは、実は沢に生息する無数のアブだったともいえようか。特に鮎島氏はこの沢のアブに好かれ、常に付きまとわれている状態で、泳いでいる最中に隙をつかれて刺されるなど相当悩まされた様子。
 その後しばらくは平凡な沢歩きとなるが、150mと長い瀞をもつ「大入道」とその後の2つの淵は後半の正念場。たぶんライフジャケットがなかったら体力的に、そしてそれ以上に精神的に辛くなってくるはず。しかし、そこはライフジャケット様々、深い淵の中にいても体が常に浮いている状態だから余裕をもって泳いでいける。本当にありがたい道具である。
 遡行中はずっと快晴で、気持ちのよい沢登りが満喫できた。この沢は一部に暗い箇所があるものの、基本的に明るく開放的な雰囲気だ。沢はまだ上流まで続いてゆくが、「小入道」「大入道」ほかいくつものポイントで沢泳ぎを楽しみ、鮎島、鳥本ともに満足。適当なところで右岸をよじ登り、沢に並走する林道へと合流。1時間半ほどの林道下りをして、駐車場まで帰り着く。下り道は単調で、徐々に爪先が痛くなってきてつらい部分もあったが、蝉たちの大合唱にすぎゆく夏を惜しむ風情を感じ、心に潤いを与えてくれた。…そして忘れがたきは、前方でプルンプルンと揺れるおしり。…鮎島さん、いくら素肌の方が気持ちいいからといって、“ビンぼっちゃま”スタイルはやりすぎです。夢に出てきそうだ。

記:鳥本真司
8月28日(日)快晴
 起床0430、 出発0530、 遡行開始0625、小入道0800、大入道0930、 遡行終了1030、 駐車場所1225

@下部


A中部


B上部


C終了点にて