■北ア/穂高岳 梓川下又白谷[登攀]
2005.9.18-.19
鮎島仁助郎、太田幸介(日本山岳会青年部)
予想外に金冠谷が早く終わってしまった。まぁアドベンチャーであるからしょうがないが、代案を考えようにも、なんも資料を持っていかなかったのは正直失敗だった。あるのは記憶だけ。
明星山に行こうとか、いろいろ考えてもみたが、下又白という案が提案され、それに乗った。しかし残念ながら、資料はない。なんとか寄ったカモシカスポーツ松本店にお願いしても、やはり売り物はコピーさせてくれず、しょうがなくインターネット喫茶にいって木下さんの記録を取得。沢渡へ向かう。
F4をユマーリングする |
沢渡から乗合タクシーで上高地まで。一人920円。それなりにお徳であるし、時間も早い。いつの間にか釜トンネルが新しくなっていて、完全に片側2車線になり、すれ違いの待ち時間がなくなっていた。
明神からは明神橋を渡り右岸の工事林道を行く。明神橋を渡ったところでおばさんから「山に行くの?」と尋ねられ、返答に困ってしまう。とりあえず「ハイっ」と答えるが、どういう返答を望んでいたのであろうか。見るからに登山という相貌を見せているつもりなのだが、、、。日本語って難しいと思う。
全然出合が分からないが、とりあえず1543地点と思われるところから、伏流となってただのゴーロと化している沢を登り始める。しばらくすると水流が出てきはじめるが、なおも行く。前壁が現れ、沢が右を折れると、ようやく雪渓が出現。奥にはF1が見えるが、どうやらそこまで雪渓が繋がっているようなので、一度左岸の岩で堆積している壁を登って雪渓の上へ降り立ち、そのあとはそのまま雪渓を詰める。目標は右のルンゼ。しかし、もちろん運良くそこが繋がっているわけもなく、見事にラントクルフトとなって切れ落ちており、安易に取り付けない。結局、雪渓に枯れ木を埋め、それにシュリンゲをかけて懸垂下降して取り付く。二人ともこういうことをするのは初めてなので、できるだけ空中懸垂とならないところを選び、埋めたところに必要以上と思われるほど石を10個ほど置いて安全を期す。15m懸垂。荷下げして空身で行くが、それでもセカンドで下りるのは、やはり緊張する。なんとか無事に降り立った。しかし、それはそれでよかったものの、ロープを引き抜いてしまえば退路を断ったのも同然で、それを引き抜くのも度胸がいる。が、そこは覚悟を決めて引き抜く。その後は右へとトラバースしてルンゼへ入る。
ルンゼは総じて難しくはなく、ノーロープで約100mほど登る。そこからロープをつけ、左へとトラバースをするが出だしがよくない。その後は、草をつかみながら40mトラバースしてピッチをきる。最後の5mは木がしっかり生えているものの、下はすっぱり切れ落ちてやはり怖いところだった。そこから2ピッチ目となるが、ほんの5mで懸垂支点であった。残置はなく、シュリンゲを残置して懸垂下降35mで沢へ降り立ち、F1の上へ出る。
しばし休憩。昨日の天気予報では本日は傘マークがついていたのだが、それどころか「雲はどこにあるの?」というほどの秋晴れである。
F1の上で1つショルダーで登るところがあり、それをこなして、F2へ。
F2は出だしショルダーから水流右脇を登り始めるが、ツルツルであまりよくなく、右のリッジへと移り、そこを伝って25mほど登ったところにある残置ボルト、ピトンにキャメ紫で補強してビレイ点を作成。Fixと荷揚げ。そこからF2の落ち口へと行くが、かなりシビアそうである。しかし、そこは5.13の実力。スルッといって、落ち口で再びFix&荷揚げでフォローはユマーリング。しかし、ここのピッチは浮石が多い上、それなりに傾斜が強く、苦しいクライミングだったに違いない。かなり登った後はヘロヘロになっていた。
F2の上は積極的に水流に入れば、それほど難しくはなく、ほとんど突っ張りで越えられる。続いてF3となるが、1段目は別に難しそうもないのでノーロープで二人とも上がってからそこでロープを出す。
F3の2段目。スタンスはないが傾斜は緩く、順番にキャメ赤、エイリアン緑、アングル、エイリアン黒、エイリアン青と入れて、エイドで抜け口に立つ。ナイフブレードとキャメ黄でビレイ点を作成・荷揚げ&Fix。
3段目。遠めで見るとかなり嫌らしそうであるが、実はずっと残置ピトンがあり、基本的には曲がっているのでタイオフしないといけないが、下部はそれを伝っていけば問題なさそうである。しかし、上部はそれが一気になくなり、嫌らしそうである。
落ち口に立ち、そこからはF4の落ち口まで。整地してツエルトを張る。評判どおり、徳沢の灯りが下に見える。夜は寒かろうということで盛大な焚き火をすべく、近くF3〜F4の河原にあった薪をほとんどすべて集め、夜に備え、盛大にやる。今シーズンここに来る人は、あまりの薪のなさにガッカリするだろうなぁ。まぁ、他人のことはこの際、考えないことにする。
5時起床。夜はそれほど寒くなかった。ツエルトから外を眺めると、それほど天気はよくない。滝からの水しぶきが来ているのだと思っていたが、それはどうやら本当の霧雨のせいであった。予報の天気が1日遅くなって現れてきたのだろう。徳沢は見えるが、上部は見渡せない。
まずはF4。記録ではショルダーで上がるとか書いてあるが、そんなことをまったくせずに重荷を担いで1段上がってからビレイ。全然難しくはない凹角を念のためロープを出して残置シュリンゲが掛かっている木まで25m。そこから木を使って人工をこなしながら15mでピッチをきる。本人曰く、よほどF2の登攀のほうが嫌らしく、このピッチはそれほど難しくはなかったそうだ。そこからカンテを越えて緩傾斜の滝をロープ40m伸ばしてF4の落ち口へ。確かに微妙な傾斜で念のため1本だけナイフブレードを打ってランナーとした。
またF5となるが、ロープを出して左から20mのフリーで越えるが、少し嫌らしそうだ。W−ぐらいだろうか。
これで一段落。お茶を沸かして一息つく。
あとは、ガレを右へ右へと1時間ほど辿ると茶臼のコルでそこからすぐに奥又白池であった。残念ながら眺望はまったくない。池の周りは確かに快適でここで1日中ボーっとしたらなんと幸せな1日を過ごせるのだろうと思うのに難くない場所である。加えて、そこに佇む穏やかな老夫婦がやけに映える。ただし、池の水を飲み水にするというのには池が汚すぎるような…。
下って新村橋、徳沢経由で上高地まで。
どうやら、F1も登ることができるらしい。が、あの状態じゃ取り付けもしないし、取り付こうという想像もできなかったのだから、しょうがない。
それを抜きにしてもかなり楽しい沢だった。連続する滝も巻きではなく登れるという点できっと人間様にとって楽しむことのできる谷なんだろう。アルペンティックな沢は甲斐駒の赤石沢につづいて2度目であったが、ただ痛めつけられた記憶のある昨年とは違い存分に楽しめたと思う。垂直のゴルジュ―――、確かに特異な沢である。きっと穂高では焚き火を堂々とできるのはここだけで、屏風岩よりも楽しいところに違いない。
まぁ、穂高の近くで贅沢なことをさせていただいた。これはこれで満足なことは間違いない。よい想い出にもなった。
2005.9.21 鮎島 筆
【記録】
9月18日(日)快晴
上高地0700、F1取付0930、幕営地1600
9月19日(月)霧雨ときどき曇のち晴
幕営地0630、奥又白池1030、上高地1500
【使用装備】
ロープ50m×2、エイリアン各種、キャメロット〜#1、ハーケン(ナイフブレード、ロストアロー、アングル)、クラミングシューズ各自、アブミ各自、ユマール2、幕営具