南ア/大谷嶺 安倍大谷川一ノ沢<大谷崩>
2005.11.23
鮎島仁助朗
大谷崩―――。皆、その名前で萎縮してないか。私も実物を見るまではそうだった。
しかしどうだろう。実際に見ると、植林活動が実をなしたのだろうが、逆にこれは崩壊なのか?と思い始めてくるほど。少なくとも頂上への直線ラインはすでに木が茂っていてなんとも簡単に行けそうなのである。しかし、それでは大谷崩を登ったことにならぬ。目指すは駐車地から眺めても一番目立つ崩壊ライン、一ノ沢。確かに突き上げてはいるのは頂上の肩へだが、一番見栄えが良いのが気に入ったのだ。
林道終点には一番乗りだった。さっそく、キンキンとギアを鳴らしながら、登山道を少し登り、一ノ沢横断点からは、伏流のゴーロというかガレを登って要の滝の基部まで行く。
駐車地からも一目瞭然の滝で、遠くから見ると少し嫌らしそうにも感じられる。しかし、実際に近づいてみれば、10mほどの高さであるがそれほど威圧感もなく、そんなに傾斜もない。水はちょろちょろとしか流れていない。ど真ん中も登れなくはなさそうだが、安全を期して左壁を巻き気味に登って落ち口まで。それでもやはりと言うべきか、岩は脆い。次の8mナメ滝をフリクションを利かせながら登るとそこから上は安定したガレとなっていた。
少し登ると土石流感知装置だろうか、人為的なヒモが張られているところを見ると、やはり人は入っているのだろう。もう少し登れば、三俣みたいなところになる。左へ行けば大谷嶺へと直接突き上げそうであるが、明らかに本流かつ一番安定しているところは一番右。したがって1番右を進む。このあたりから、一面木の生えていない斜面となり、それは気持ちいいが、ゴールとなる7人作り尾根までもすぐそこに見渡せられるのは複雑な気分だ。
予想通り、木の生えていないからの斜面からの落石なんてものは、確かに随時あるものの、5cmとは上回らない大きさのものばかり。恐怖感もなく、安定したガレを、時折5mと越えない簡単な滝をいくつか越え、二俣へ。これも明らかに本流で水さえ流れている右へと進路を取り、3個ほど5m滝を簡単に越えると、本当にすぐそこに稜線が見える。崩れ落ちてきたのであろう大木をホールドにグイグイ上がると、ラストの斜面へとついた。
およそ、想像はしていたのだが、ラストの斜面と言うのが一番厄介である。稜線へと乗り越すところは、ちょうど雪庇のごとくオーバーハングにもなっている。救いはそこに木があることか。しかし、それを掴むまでが…。この山行で一番“崩壊”と感じられるところで、口の中が確かにザラつきながら、ただひたすらに登る。それでも悲しいかな、なぜかなかなか上がらない。あと、1m上がれば木をつかめるというところまできたのに指力では限界のようだ。どうやら、傾斜が40度以上であると、どんなに足の指先で耐えても、ずり落ちてきてしまうらしい。でも、これも予想の範囲内。このときのために用意してきたのだ。最終兵器、12cmクロモリペグを!その3本をサクッと打ち込み、それをホールドにジワリと上がり、足元になったペグは垂直に引っ張ると、簡単に抜けるから回収も簡単。そんなんで、なんとか木をつかみ、オーバーハングを越えて稜線に立つが、最後はこの木が崩壊へ落ちていかないかとヒヤヒヤだった。
あとは踏み跡がたまにあるが、ほとんど笹に埋もれた7人作り尾根を30分上がると大谷嶺。標高、ちょうど2000m。まぁ正確には1999.7mらしいが。山頂に掛かる頃にはもうガスが掛かってきて、ほとんど何も見えなかったが、一瞬晴れたとき、北岳までも見渡せた。ちょっと白いものがあり、霜だろうと思っていたが、どうやら雪の残骸のようだ。ここにもすでに冬が訪れているようである。下山は登山道を伝って、駐車地まで。
最近、いかに簡単であろうと、見栄えの良いラインを登ることに快感を覚えずにいられなくなっているようだ。明星頂上岩壁然り、石鎚第一幕岩然り―。これもそのなかのコレクションの類なり。2005年無雪期を締めくくる山行として、とてもよかった。
2005.11.25 鮎島 筆
【記録】
11月23日(水・祝)曇
駐車地0715、要の滝0745、稜線0915、大谷嶺1000、駐車地1100
【使用装備】
ロープ30m、クロモリペグ[12cm]