■戸隠/裾花川本谷[溯行]

2007.8.4-.5
高橋弘、佐藤益弘
 一本儲けた!
 そんな感じだ。
 それも百名谷ラインナップとくれば言う事はないのである。
 出発の金曜夕方に突然悪化した天気予報を受けて、着替え入れバックに転進用エアリアマップを大量に押しこんだ。家を出るとき、どこに行くの?いつ帰るの?って嫁さんに聞かれたので、"一応戸隠山近くの計画なんだけど、俺はそんなとこいかねーからわかんねーや。明日の朝帰ってくるかもね。"と答えたくらいだ。治さんの気合がなければそもそも山田と合流して、関越道にのることはなかったことは断言できるのである。どうしたかって?小室川谷しかないでしょう。
 降りだすのが"いつか"だけが焦点の状況で行くと決まった以上、今日のうちに必ずゴルジュを抜けておかねばならず、釣りしている場合じゃないということで釣竿・餌を携行しないことに決める。入り口の名勝木曾殿アブキを4人で見物してからは、シレイ沢6時45分の男、山田が先頭を引っ張る。両岸は薄い植生にノッペラしたスラブがひろがり独特の景観を見せてくれる。2時間程そんな中をいくとようやく谷間が狭まり待望のゴルジュが始まる。黒い岩で暗い雰囲気でいい感じを醸し出している。泳ぎはわずかに強いられるだけで、体を縦にしてみると胸までの水位で足がつくってのがほとんど。水は冷たくない。滝は小さく危険を感ぜず楽しく水線通しで遡っていける。但し巻きを許してくれる渓相ではなく増水時には遡行不能であろう。地獄谷出合いの滝に貼り付いた治さんとビレイする山田にお互いにがんばりましょうとエールを交わし、こちらもいよいよ核心の様相を見せる本谷に佐藤ちゃんと突っ込む。すくない資料ではココは右岸から巻き気味に越えているが、我々は左岸から釜の淵をたどり滝はそのまま水流右を登る。しばし文句のないゴルジュがつづく。岩棚の隙間を這いつくばって越えると、ゴルジュ出口の右岸ハング滝登場だ。右岸からへつって滝の裏をくぐって偵察してみると左岸にもハーケンが連打されているが、まずは戻って右岸から空身でトライすることにする。水流左のカンテから流心のステップを捉えてあっさりフリーで越えることができた。ここで第一ゴルジュは終わり谷は広がり、走る岩魚を追いながらノンビリと進む。空は朝からあいかわらずの曇天だ。
 第二ゴルジュは門の如く立ちはだかる(大袈裟)10Mの滝で始まる。右も左もいけそうに見えたが一応ザイルをつけて右岸から越える。どこまでがゴルジュなのかわからないままにいつの間にか終わり、一不動乗り越しを見過ごさないように佐藤ちゃんと地形図を確かめながら用心して進む。先々週は二人で丹沢原小屋沢でつめを甘く見て、尾根に抜けてからここはどこ?状態になってしまって失敗しているのだ。木に色あせたシュリンゲが巻きつけてある一不動の取り付きはひろい緩斜面となっていて、どこを目差すかまようところだ。降り始めた雨は次第に本格的になってきて、焚き火もできないし、すぐ上に避難小屋があるんだから、わざわざ無理して谷に泊まる意味がないと意見は一致した。岩魚もあって、天気がよかったら是非沢で1泊してすぐ上の五地蔵山に食い込む谷を登りたいところである。水を汲んで登り始めた沢はすぐ消失し、方向を修正してトラバースすると赤テープの踏みあとがあった。それでも最後は強烈な竹やぶ(笹なんてもんじゃない)に阻まれ気がつくと佐藤ちゃんと別れてしまう。遠くから佐藤ちゃんの小屋に出ましたーの声を聞いたとき自分はいやになって途方にくれ一服していた。体をくるくる回しながらトラバースする新技で小屋よりずい分上で登山道に出ると佐藤ちゃんが救出に来てくれた。
 避難小屋は清潔で羽毛の掛け布団が備えてあって、快適この上ない。飯もうまい。酒もうまい。

 翌朝、佐藤ちゃんは空身で登ったことのない高妻山に向かい、自分はやはり初めての戸隠山に向かった。せっかくだから山頂を越えて有名な蟻の門渡りまで足をのばす。下って上って2回通過したがびびりが入ってしびれる。恐ろしい一般道だぜ。一不動からの高妻はコースターム片道3時間。一方戸隠は2時間。のはずなのだが自分が小屋に戻ってすぐ佐藤ちゃんも戻ってきた。富士登山競争の完走者の実力か。続いて山田。高妻山頂で会ったそうな。地獄谷Pは今朝乙妻奥壁を登って稜線に抜けたそうだ。乙妻奥壁?佐藤ちゃんによると"あんなとこ登れるの?"って感じに高妻山頂から見えるスラブ壁だそうだ。本谷は第一ゴルジュが全てだが、あれがあとせめて2倍長く続いていればなあ。でも裾花川本谷は登った夫々の山とあわせて印象深い旅になった。治さんが少し遅れて到着。

高橋 記

【記録】
8月4日(土)
 入渓濁川合流点08:45 - 地獄谷出合11:00 - 一不動取り付き14:30 - 一不動避難小屋16:00
8月5日(日)
 小屋出06:30 - 高妻山(佐)・戸隠山(高) - 小屋戻10:30 - 戸隠牧場12:00

【アプローチ】
前夜戸隠牧場で2台合流し、翌朝1台に相乗りして奥裾花園手前、木曾殿アブキ入り口に向かう。車で1時間弱。

同時入渓 裾花川地獄谷の記録