■戸隠/裾花川地獄谷

2007.8.4-.5
鮎島仁助朗、治田敬人
 今回、出だしはモチベーションが低かった。おそらくきっと今回、高橋さんと2人でいったら敗退もしくは転戦していたんだろうな。
 21時45分に高橋さんと顔をあわせたときの一声が「やっぱり“現地まで”行くんだよな」だった。その後・・「いくらかかるんだろう・・」「天気予報の笠マークが開いてきたな・・」「新潟では100mm雨が降るそうな」「下越地方には大雨警報でたな」「やめるんだったら土曜日に帰りたいな、そうすればイヒヒッ・・長嶋さん悪いな。」まで飛び出す始末。私も最初からモチが低かったが、さらにやる気なくなってきたぜ。今、気付いた。これまでも高橋さんと2人で行ったときは敗退率が高いんだよな。っというか、いまだかつて高橋さんと2人で行って目的のところにいけたのはあの3年前12月の丹沢悪沢しかないじゃん・・。
 半信半疑で信濃町ICを下りて戸隠牧場で治田さんたちと合流。ま、まぶしい。なんて楽天的なんだ。高橋号にはなかった明るさだ。おぉ、そうだ。思い出した。高橋さんとは対照的にこれまで治田さんと行ってきたところはなんとこれまで成功率100%なんだよな。鳥甲だって逆河内だって利尻だってすべて成功させてきてるんだよな。っで今回。今回アプローチは高橋さんと2人だけれど、実際に一緒に登るのは治田さんなんだよね。となると・・、やっぱり行くんだろうなぁ。


地獄谷F1を登る治田
 はい、やっぱり。行くことになった。頼りの雨がないのだ。しょうがない。戸隠牧場に高橋号を置き、治田号で奥裾花に向かう。途中なぜか奥裾花入り口で一人400円入場料を取られるがしょうがない。木曾殿アブキ入り口の脇林道に車を止めて、準備をする。やはりモチが低かったせいか、ヘッドランプ・片方の沢スパッツ・軍手を忘れていた・・。
 ゴルジュ入り口。簡単に2個ほど越えるとここから地獄谷の出合までの核心の峡隘部に樋状3m滝。最初は水に浸かるところだが、足がつく。水もつめたくない。しだいには流れが速くなる。高橋さんは怖いトラバースでぬけていったが、水量が少ないのでツッパリとともにロープを出さずに越えていく。ただ、落ち口のところは水流が強く、気を抜いたら流されそうだ。ここを越えるとすぐに地獄谷の出合い。ここで高橋Pと分かれる。
 前々から裾花川だったら本谷よりは地獄谷へ行きたかった。媒体からの情報解析をすると、どうも本谷の魅力が地獄谷のそれよりも劣っているような気がしてならなかったのだ。その地獄谷はいきなり8m滝で治田さんリードで取付く。ボルト2本が打たれているが、上が少しヌルっていて怖い。甘めにWとつけておこう。続いて5m滝10m滝と続くが、5m滝は滝をくぐって右から登れったが、10m滝ははちょっと無理そうだ。5m滝を戻ったところで左岸巻きに入るが、これが悪い。ロープを出して15m。そこから普通に登って懸垂下降20mで滝上に出るが、ロープを出してそのまま巻けば、懸垂は必要なかったかもしれない。
 この滝を越えてしまえば沢は明るくなり、河原に青いナメが時折といった風情となる。幅広5m滝は簡単に右を巻けそうだが水流左から直登。とはいえ、細かいうえに滑りやすいという理由をもって私は3度ドボンした。
 その後も河原とナメが続き、岩質も泥岩や花崗岩などなどいろいろあって面白い。二俣を左に行き、ナメゴルジュを簡単に過ぎると10m滝となる。左岸から苦労すれば巻けそうだが、記録(R&B)を見ると登っている。っでそのラインを見ると、私には登れる気がしない。治田さんがリード。シャワーを浴びつつハーケンを打ち、細かいホールドにたえながら左へ上がり、そこから草と潅木を頼りに右へトラバース。いやらしい。
 その後も河原とナメが続き、岩質も泥岩や花崗岩などなどいろいろあって面白い。ここからがハイライトのナメナメ300mそのあとに10m滝が続くさまはちょうどよく晴れ間ものぞき本当に地獄ではなく天国だ。10m滝は左から登れそうだが、右から簡単に巻けるのでそっちで妥協してしまった。この滝上が、すばらしい幕営ポイントであるが、翌日のことを考え先へ進む。
 すぐ上で二俣となりこれまた左へ行くと(右には40m滝がかかっていた)小滝を2つ越えると大滝2段40mがかかっている。1段目は左岸から巻く感じで登り、2段目のテラスからロープを出す。15mほどでカムが利くクラックがあるがうれしいが、これまた滑りやすく、また高度感もあるので緊張する。これもまた甘めにつけてWといったところか。
 ここから幕営地点を探すことにしたが、なかなかいい場所が見つからない。結局水枯れまでいってしまったが、ええところがない。しょうがない。平らといえば平らだが、水流上10cmの石がごろごろしているところを整地し、さらに辺りの草を刈り払って敷き詰めて、何とか快適にする。それにしても虫多い。焚き火はするが、もちろん濡れていて燃えずらい。ほとんど虫除けの煙しか出さない。そのうち雨が降ってきたので、そそくさと退散し、始めた鍋は味噌汁の素、おでんスープ、カレースープ、醤油ラーメンスープ、かつおのたたきのタレ、ウナギのタレ、わさびドレッシングがすべて合わさる初めての味で、おそらく二度と出せない味。また、下界で食べればはおそらくおいしくない部類に入るのだろう。

 夜、寒いぜ。治田さん、唸っているぜ。正直うるさいぜ。とはいえ、わたしも内臓が痛くて、うめいていたのでお互い様か・・。
 6時に出発。早々虫の洗礼だ。早速、水枯れになってガレを登っていく。それにしても虫多いぜ。虫を払いながら登ると最後の二俣。R&Bでは右に行っているが、登山体系では左へ行っているし、見た目もやはり左がスッキリしたスラブに見えるので左を行く。それにしても虫多いぜ。もくもくと無視しつつ登るとスラブの基部に着いた。ここで休憩。とはいえ、虫多いぜ。いや、ちょっと多すぎではないか。ねぇ治田さ・・ん。うげぇっ、すげぇことになっている。なんだこれ。きっとおそらく、私もこんな感じになっているのだろうな。恐ろしいことになっている。とりあえずまとっている虫の数を想定してみる。100?200?300?いや400はいるだろう。2人で1000匹のヌカカ、ヤブカ、シマカ、ブヨ・・。思い出しただけで発狂しそうだ。高橋さんが、原小屋沢を「屈指の内容」と称したが、それと同様に「本邦屈指の内容」といえる。少なくとも今まで行った沢でいちばん多いぞ。目にも耳にも口にも入ってくるので、まさしく閉口あるのみだ。
 まったく休まった気にならず、スラブ登りを始める。出だしは細かくV+。あとはV−〜Vのスラブを150mほど。もちろんノーロープ。まるで西ゼン第2スラブを思い出させるような快適スラブだ。まったく予期していなかっただけに、非常にうれしい。やがて薮に突入するが、猛薮だ。とはいえ稜線まで10分程度。とはいえ、稜線に道があるわけでもないので、昔々きり払いされたようなあとをさらに10分ちょっと登って乙妻山山頂となる。この十三虚空蔵から鞍部の池塘を越えて高妻まで縦走する。途中から地獄谷が見渡せ、自分らが登ってきたラインが見える登山道だ。こういうところがうれしい。っで確認。まず目に行くのが、乙妻奥壁ともいうべき最後我々が登ってきたスラブ。登ってきたらしきところは明らかに圧倒的で絶望的にノーロープで登れるラインにはどうしても見えないが、どう考えてもそこしかない。ぉぉ俺たち凄いぜ。絶対に佐藤さんは高妻山に登っていると踏んでいたが、そこはもちろん頂上にいて合流し、登ってきたラインを自慢する。そういえば、あれほど行きの車内で不安がっていた天気もいつの間にか快晴だ。素晴らしい。

 戸隠山に行っていた高橋さんと一不動で合流し、みんなで牧場へ下る。大勢の家族づれのなか、ヘルメットを揺らし、ソフトクリーム。真夏の下山後はこれがたまらん。まぁ、イチゴミックスもよかっけれど、ちょっと未練は“そばソフト”・・。次回はかならず。

 以前、“縦走の醍醐味は振り返ること”と書いたが、それは沢・岩・雪稜・スキーと問わない。山登りは登っている最中も重要だが、登ったあとの余韻はより重要だとおもう。それを写真で感じとるという手段もあるだろう。が、それよりは登ってきたラインをその空気のもと遍歴を探り、その環境の中余韻に浸れれば、これ、幸せなること甚だしきなり。
 地獄谷は沢の中も変化があり素晴らしかったが、なにより高妻山より眺む風景、地獄谷を眼下に見下ろす風景が素晴らしく、我々の足跡を頂上から思い出させる。“振り返り可能な沢”は際立って少ないと思うが、その点でも屈指の名ルートといえるだろう。

2007.8.5 鮎島 筆

【記録】
8月4日(土)曇一時雨
 木曾殿0900−地獄谷二俣1100−標高1800m付近幕営地1530
8月5日(日)曇のち晴
 幕営地0600−乙妻山0800−高妻山0900−戸隠牧場1215

【使用装備】
ロープ50m×1、カム3、ハーケン2、ウェットスーツ、幕営具