■塩原/横川牧場〜大佐飛山&男鹿岳[山スキー縦走]

2006.2.18-.19
鮎島仁助朗
 なぜ、ここに行きたくなったか、その動機を説明するのはたいへん難しい。ただ、無性に山で泊まりたかった。歩いてみたかった。でも、仲間うちでは誰も週末に泊まりの山行計画がなかった。単独で行くしかない。しかし、冬山単独は恐怖感で一杯。でも、前行ったところはイヤ。それに単独で行くと心の中で決めたら、他人のトレースについていくのもイヤ。その点、塩原連峰はまさに私の非常に厳しく複雑な条件にじつにマッチしていたわけだった。東京に近く、きっと誰も行かぬ。そして、稜線には林道が走り、夏にはまったく興味の失うところだが、幸い、両山には夏道がない。そして、主峰である大佐飛山と男鹿岳は距離が近い。この2つを一気に雪のある時期に落とすことは冬山冥利に尽きるし、また単独で行ってもそれなりに安心して行けそうな気がした。そうなれば、こんなふつうは魅力が湧かない山域もモチベーションが高まり、行くしかないわけだ。
 ずっと下道で那須の道の駅まで行き、そこで就寝。次の日、国道400号〜121号で横川から林道に入り、ゲートが開いていたので、行けるところまで行ってそこに車を止める。
 フリートレックをつけて、林道をひたすら歩く。雪は硬く、積もっている。1時間半ほど林道を行くと川を渡るところにきた。そして、そこには小屋がある。うまくスキーをつけたままジャンプしてわたって、対岸に渡ってなおも川沿いに進もうとするが、なぜかついさっきまでは明瞭だった林道もいきなりその痕跡がなくなった。はてな?。現在地を地図で読み取るが、まだまだ林道が走っているはずのところなのだが。チョット戻って探したりもしたが、結局、川沿いを進むことにする。さすれば、少し行くと左岸に林道が走っているのが見え、それに乗って、さらに奥まで進むが結局なんだったのだろうか。林道は夏道のように姿を変え、またそれは急斜面にいい感じでトラバースするようにつけられているのでスキーで来る人にはたいへん心憎い。順調に高度を稼ぐと傾斜が緩くなって台地になる。すると、どれが夏道なのかまったく判然しなくなったが、適当に上へ上へと行くとそこから1時間で塩那スカイラインへと着いた。
 腹が痛くなったので少し休憩。天気は快晴だ。一応、目標のお昼までには着いたのでなんとなく気が楽になっている。大佐飛山に行くには向かって左へトラバースしながらコルへ100mほど下り、そして300mの急登のあと、緩やかな稜線を進むことでようやくその頂に立てる。
 シールをつけたままで、コルへ下る。しかし・・。この陽気で雪が腐り始め、シールが団子になって、うまい具合に滑ってくれない上に、エッジも効かずもう最悪。どうしようもないので、結局担いでつぼ足でトラバースする。30分ほどでコルにいけると思っていたが、結局1時間も掛かってしまった。
 そこから300mの急な登りであるが、予想外にもシールで登ることができない。シールのダンゴが問題ではない。傾斜がきついのと、斜面が硬いのがダブルで効き、すぐに逆走してしまうのだ。結局、ゼイゼイいいながら、やはりツボ足でえっとこさ登るが、時折かなり潜って苦労する。こういうときは担いでいる重い荷をどうせ戻ってくるのだからデポ進もうかと思わなくはなかったが、これも何かの鍛錬だし、全装備を担いで進む。とはいえ、結局は荷物をデポして、大佐飛山まで行ってここまで戻ってこられるかどうか不安だったからに他ならないのが本音だったりするのだが、それはともかくなんとか傾斜が緩くなったところでスキーを履いて進むと、感動するほど早い。スキーってこんなに早くて楽なんだ。
 ようやく300m登りきり、小ピークに立つが、なんだかガックリである。塩那スカイラインにいたときからずっとこの小ピークから右へアップダウンなしに見える山が大佐飛山だと思っていたが、実は方角が違って、塩那スカイラインから見えないところで少し下ってからさらに登り返すところだと判明したからである。まぁそれでも50mほどシールをつけたまま下って進む。なんだかもう、白神の縦走を思い出してしまう。時折、硬かったり柔らかかったりで2〜3度頭から突っ込んで転び、疲労困憊だ。最後の80mの折り返しはスキーには優しい傾斜で、ようやく16時に頂上と思われるところに到着。標識がないので分からないが・・。
 小ピークと塩那ラインのコルで泊まるんだという固い意志をもって、往路を戻る。小ピークへの登り返しはもうヒイヒイである。それでもなんとかたどり着き、あとは下るだけ。シールをつけたまま下る。スキーをつけては登れなかった急な斜面は踵を固定して下ると小ピークから30分でコルに到着してしまった。それでもすでに夕日は地平線に隠れていた。

 さくっと登って30分で塩那ラインへ。今日も天気が良い。男鹿岳へ向かう。途中までは塩那ラインに乗って歩いて、途中から稜線沿いに進む。小ピークへ登り、そこから左へ進路を取ると男鹿岳だが、頂上直下は雪庇のようになっていて、そこを進むより他なく怖かった。ここにも標識がなく、いちおう最高点かなと思うところで満足し、引き返す。
 今日も、なぜか全装備を担いだまま。まぁそれもいいのだ。塩那ラインへと下って、ひょうたん峠まで。ここでシールを剥して、滑降する。夏道沿いに左へ左へと進路を取れば、昨日の私のトレースにぶつかり、あとはそれにしたがって、疎林の平らを進む。ここは傾斜も雪質もちょうど良く、本当に気持ちが良いところだが、ここを滑ったことがある人はそれほどいないだろう。
 急傾斜のところになると、トレースにしたがってもしょうがない。夏道から下へとゆっくりゆっくりターンしていくが、雪面が固い上、木もあって、コツがいるが、フリートレックで小回りが効いてよかった。緩傾斜になるとあとは夏道沿いに行って、林道に乗る。途中までは勝手に滑ってくれたが、途中からはそうもいかず、漕いで漕いでようやくで車まで。結局、2日間、誰とも会わなかった。
 ひたすら歩いた。たった2日間だけだったが、同じく快晴だった白神の大縦走をすこし思い出す感じで、最高だ。往復しているので、厳密に言えば縦走ではないが、昨年の霧ヶ峰〜美ヶ原の縦走と同じく、ひたすら歩きたいときがあって、その欲求を満たしてくれた点でも満足この上ない。幸せである。また、この山域はやはり予想通り、静かに歩け、またフリートレックも有効に使うことができた。計画冥利に尽きる。そして、快晴であったことにより、周りの山々を見渡し、次なる欲求を吟味することができたのも思わぬ収穫であろう。結論からいえば、南会津には目立つ山がなく、“見た目”で行きたいと心動かす山はなかった。しかし、尾瀬の燧ケ岳と帰りの車から見た日光の男体山・白根山は響く山であり、ぜひ登りたい。塩原連峰は・・大蛇尾くらいかな・・。またこようと思うかどうかわからないが、とりあえず今回は記憶に残るいい旅だった。

2006.2.23 鮎島 筆

【記録】
2月18日(土)快晴
 駐車地0650、塩那スカイライン1130、大佐飛山1600、幕営地1730
2月19日(日)快晴
 幕営地0620、男鹿岳0800、ひょうたん峠0900、駐車地1030

【使用装備】
 フリーベンチャー、テント

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