■霧島/高千穂川

2006.8.26
鮎島仁助朗
 日本人としての自覚を持つならば一度は霧島へ行かねばならぬ。そういうところなのだろうと思い、ぜひとも一度は行ってみたかった。でも普通に登るのは面白くないので、バリエーションから登ろうと思い始めると、場所は限定される。「九州と沢と源流」で探すと、単独で行くには高千穂川がなんとも面白そうだった。なにせ、霊峰高千穂峰に突き上げているというのが良い。でも、水が流れていないということで、行くのは11月とかがいいかなとか勝手に考えていたものだ。が、ちょうど真夏の8月。宇部に金曜日と月曜日出張となってしまってそれなら西日本に留まったほうがいいということになり、まずは伯耆大山の甲川に行こうと思ったが、やはりパートナー捕まらず、単独でどこか行くしかないとなったとき、この高千穂川しか思いつかなかった。だが、東京からも遠い霧島も、やはり宇部からは遠かった。レンタカーを借りて、夜中に皇子原まで行こうと思っていたが、あまりの眠さに坂本PAで断念。

最上部 崩壊地
 朝、皇子原まで。サンフラワー温泉を越えて舗装林道を少しいくと、すぐ橋が架かって入渓点となる。
 うーん。やっぱり、まったく水が流れていない。まだ真夏だし、天気は晴の予報だし、下界の最高気温は31度の予報だし、干上がってしまわないだろうか。こうなりゃ暑くなる前に速攻で抜けて稜線まで行くぞ。
 1個滝を越えていくと、いきなり堰堤。ちゃんとハシゴがかかっているので、それで越す。上は河原になっている。なおも進むと、涸れ滝となっていくつかあるが全部簡単。そしてまた堰堤、また堰堤、また堰堤。25m滝は左から巻いて、10m滝も左から。基本的に10m以上ある滝は登れない。というか、登れると思った奴がいれば、それだけでも偉大で、尊敬できるというぐらい絶望なボロ壁ハング。なおもいくと、また堰堤。結局5個の堰堤があってどれも20mぐらいある大きなものだが、ハシゴがあって簡単に上に出られる。それでまたいくと小滝があるが全部登れ、二俣っぽいところにかかる8m滝は直登でき、その後の10mは中央のリッジから巻く。今回、ウォーターテニーできたが、なんだか砂上の岩は滑りやすい。また30mロープと15mを持ってきたが、まったく必要ない。最後の100mナメと言われるところは・・。やっぱり水が流れていないときれいじゃなーい。
 まぁそんなに見所なく、源頭までくると、水がなくどっちが本流なのか分かりづらい。いずれ本流は左に曲がるので、不安になってきたところで左へ曲がって傾斜を上げていくと、ドドーンと赤い斜面だ。ここはすごい。やはり、もう少し進むと自然に左に曲がるらしく、そこの本流は崩壊ゴルジュとなっているが、よく見渡せない。どうなっているんだろうか?そのまま左の斜面を登っていき、草がついているところを選んで登っていくが、ここが高千穂川の唯一の見せ場であろう。なんと言っても、上がっていくたびに眼下に拡がる緑の海。絶景である。なかなか本州ではないだけにこれだけでもここに来てよかった。っで、この斜面、少し上がってはずり下がる感じで、絶えず足に力を入れておかないとなかなか登れない、もちろん、わたしが登れば絶えず落石である。苦労してようやく、登山道に這い上がると、御釜と高千穂峰のちょうど鞍部に出た。飛ばしたおかげでまだ10時半。結局、コースタイムは6時間と書いてあるが、その半分で高千穂川を登ってしまった。
 大岩下にロープやらハーネスやらの登攀具をデポして、いざ韓国岳を目指す。今回、高千穂川から高千穂峰を登るのも目的だが、せっかくここまできたのだから、やはり主峰の韓国岳まで登っておかないのだ。でも、高千穂川を上ってしまうとなかなか効率の良い落とし方は見つからず、結局は往復縦走という頭の悪いやり方である。
 さっそく、御釜から高千穂河原まで下る。高千穂河原は駐車場であり、水場などが整備されているのでここで水を汲む。これから中岳から新燃岳、獅子雄岳を経由して韓国岳に向かうが、厳しい。久しぶりに厳しい。荒川岳の縦走を経験したばかりなので、肉体的には大丈夫だろうと思っていたが、予想外にあの高千穂川のつめでふくらはぎやその他足に力を入れすぎてしまったらしく、中岳の手前ですでに足がぜんぜん前に出ない。これは参った。それぞれの山に御釜や火口湖があり、本当にきれいなのだが、そんなの楽しむ余裕もない。まぁ何とか、他の登山者に追い抜かれながら、韓国人とすれ違いながら、ようやく300mUpで韓国岳につく。縦走いいもんだね。高千穂峰があれだけ遠くに見える。っと、大雨が降ってきた。当初は大浪池避難小屋に泊まろうかなと思っていたが、時間的にはまだ早い。と言っても、このまま往路を戻るのも体力的にきついし、面白くない。というわけで、えびの高原に一度下りて、車道を行けば、遅くなっても高千穂河原まで戻れるだろう、高千穂河原のビジターセンター脇に泊まろうと思ってえびの高原に下りると、ちょうど運良く高千穂河原経由霧島神宮行きバスがあった。事前情報ではこんなバスがあるなんて知らなかっただけに、ラッキー!ラッキー!ラッキー!
 16時に高千穂河原に着き、鹿児島だから日暮れまでに時間があるし、<おっ、これならなんとか今日中に高千穂峰を越えて車までいけるんじゃない、ダメなら高千穂峰頂上小屋に泊まればいいんだから・・>と思い始め、高千穂河原を後にする。Auu、でも、登りきつい。ホントにへたばりながら、なんとかエアリアのコースタイム通りに登り、デポした登攀具を回収して高千穂峰に立ったのはちょうど18時だった。しかし、まだ下山のコースタイムは2時間半もある。いくら鹿児島と言っても、日暮れは20時過ぎることはないだろうと考えると、頂上小屋に泊まろうと思い、頂上小屋に行ってみたが・・ガーン・・鍵閉まっている。軒下もない。というか私、ツエルト持ってきていない。こりゃ、走り下るしかないでしょ。
 幸い、下りは得意の部類。走って走って走っていくと50分で駐車地についた。自分の中では記録的快挙だが吐きそうだ。それにアブがひどい。さっさとサンフラワー温泉に入って霧島を後にして、SAでそばを頼むが、それを食べるのに30分かかった。あとはひたすら眠った。

 久方ぶりに疲れた。つかれきった。もう、霧島主峰はすべて歩きとおしたし、もう記録的には思い残すことはない山行をした自信がある。
 しかし、もう一度行くべきなのか・・?と思い始めている。いや、高千穂川ではない。あの上流部の崩壊ゴルジュだ。今回は左から行ってしまったゆえに、本当に登れるかどうかすら見極めていない。もう一度見てみるべきだ。それだけでも価値がありそうだ。今回は霧島という概念を掴むのによかった。そして、そういうところがあるということが分かっただけでもよかった。次回が勝負だ。高千穂川最上流部。あの赤いレンガ色。そこには美があった。きっと、そこにこそ日本のルーツがあるのかもしれないと思う神秘的なところ、そこを見られるだけできっと仕合せなのだ。もう一度行こう。秋だろうか?やはり、秋だな。

2006.9.11 鮎島 筆

【記録】
8月26日(土)晴一時雨
 皇子原0650、御釜1045、韓国岳1445、えびの高原1530、(バス)、高千穂河原1600、高千穂峰1745、皇子原1850

【写真】