■石鎚山/面河川北沢〜第一幕岩

2005年11月13日
鮎島仁助朗
 最近、モチベーションが下がり気味である。それは金山沢奥壁、大山南壁、七面大ガレと敗退が続いたこともあるだろう。研修での疲れもある。幕岩なるところがどんなところなのか資料もなかったし、なんだか行ける自信もなかった。ただ、早々に四国行きのチケットをとってしまったという、行かねばならぬという状況から、そして生憎にも天気も快晴という状況、そして石鎚山への魅力が、唯一のよりどころで面河峡へ行く。
 面河峡の第一駐車場。朝、隣に軽トラがくる。「石鎚山?」と聞いてくるが、「川沿いに行きます」と返答。「水流多いのに渡れるの?一人で?」とか聞いてくるが、面倒なので「わたります!」と返答して、そそくさと遊歩道を歩いていく。
 熊淵で登山道と別れ、なおも続く遊歩道を行くと、橋を渡って立ち入り禁止のロープ。もちろん無視して、そのまま進む。渡渉しなければならないところが出てくるが、石跳びで大丈夫。それでもしばらく行くと、左岸に道が出てくるし、途中ある堰堤2つも右岸にしっかりした踏み跡があって簡単に進める。むかし、登山道があったとのことだが、それも納得の道である。遊歩道終点から30分ほどで左岸から、笛吹川西沢の西のナメ沢みたいな支流が入って、少し行くと多い水量で金山沢が左岸から流入してくる。
 もう少し行くと左からまた支流が入ってくる。そこを超えると再び、昔の登山道だったらしき道がはっきりしてきて、最近整備されたのかしっかり赤布も赤テープもある。それにしたがって、ときおり右岸へ左岸へ行くと、魚止めの滝を眼下にいつのまにか巻いており、沢がおおきくうねったところで沢へ下りた。それからは沢沿いに行く。
 南沢が左岸から入ってきて少し行くと、御来光の滝。これは素晴らしい。確かに3段100mはある大滝でスンゴイ。ただ、ラインは見え、おそらくそれほどシビアな登攀をしなくても、登れるのだろうと思うが、こちらは一人だし、それほどモチを持ってきておらず、さらにヘルメットもないので、またまたはっきりした右岸の巻き道から登る。巻き道というよりも登山道という感じである。しかし、約1ヶ月ぶりの登山。もう、ふくらはぎが攣りそうである。
 赤布に導かれるように沢へ下りて、下流へ50mさらに下ったところが、北沢・中沢・西沢の出合で、そこからその支流を溯ること3分でその3つが分かれる三俣である。大系を読むと中沢が一番ポピュラーで良さそうな印象を受けるが、なんだか北沢へ行きたい気分だったので一番左の沢を選ぶ。北沢は難しくはないが、第一幕岩と第二幕岩の間を抜けるというのがなんとも自分としては魅力だったわけだ。
 伏流を少し行くと水が出てきて、20mくらいのナメ滝を左岸から行って、滝も難しくなく越えると2本並んだ30m滝。右の左岸を登ると簡単と書いてあるので、そこを行くと、ここに来た人もそれなりにいるのか、スリングが残置されており、それもスペクトラだったので、ありがたく頂戴する。久しぶりの巻きらしい巻きだったので緊張したが、終始木登りに徹していくと、落ち口にたった。なおも水流をすすむと、藪っぽくなってくる。
 大系にはすぐ第一幕岩とぶつかる印象があるが、そんなこと全然!かなり行って、どこが幕岩かとずっとおもいつつ、バテた足をなんとか上げること上げることようやくで、それらしきものがある。が、それは自分が登っているところの少し左。基部を右へ右へと回り込むと書いてあるので右の沢を選んでしまったが失敗だったようだ。笹薮を左へ漕いで基部となり、それを伝って右へと登り進む。幕岩。左端は15mほどの高さで、まぁいいフリーのルートをつくれるな、開拓できるなという感じ。おそらく5.9ぐらいのルートならわたしでも何本か開拓できそうだ。だが中央へ行くにしたがい、高さもあり50mは越す。中央部はいい感じのルンゼで、フリーソロでも登れそうだったが、なんだか…。「ガッシャンガッシャン」との音が。落石ではなかった。ベルグラだった。まだまだベルグラがぎょうさんついておる。こんなところをメットなしで登るのはアホである。定石どおり右へ右へと基部を回りこんで、もうエエやろというところから木登り・笹薮漕ぎで強引に上がり始める。
 しかし、登ったところは第一幕岩の切れ目ではなかった。というより、センターからチョイ右といったところ。やがて、立ち木も少なくなり、完全にスラブとなった。みるとハーケンというのか楔というのかわからぬ始めて見るものが打ってある。もう戻るのも嫌だし、かと言ってトラバースもできない。しょうがない。登る。傾斜があって高度感があるスラブを20m弱で再び藪へと入った。V級くらいだが久しぶりだし、靴はウォーターテニーだし、ふくらはぎはもう攣っているしで怖かった。あとは太ももさえ痙攣してくるなか、なんとか這い上がって、東稜へと出ればすぐそこが南鋭峰で天狗岳も1分の距離だった。
 わんさかヒトがいる弥山をさくっと通り過ぎ、面河への登山道を一人テクテク下る。本当は走って下りたかったが、ふくらはぎ、太ももだけでなく、ふさしぶりの登山でもう内臓もボロボロで、それどころではない。途中、登山道からは石鎚幕岩がよく見渡すことができ、自分が登ったラインを見る。ウーン。ナイス。もう満足である。およそ、これ以上の登りっぷりはないはずだと思うカッコいいラインだった。最後はほとんど意識がなくなりつつも、なんとか駐車地へ。朝、誰もいなかった面河峡は、人で溢れていた。もう紅葉も終わりの時期である。
 この面河川。全然期待もしていなかったが、かなり綺麗なところで、うれしかった。昔行った笛吹川西沢という感じである。きれいな花崗岩のナメ、まさに西のナメ沢のごとく入り込む支流群、紅葉溢れる中流れる大河の雰囲気、ご来光の滝100m、そして石鎚山。ホラの貝のような猛烈ゴルジュはないし、道もしっかりしているし、短いし、といろいろダメなところも見つけられるが、これもまさしく名渓であろう。すっかり楽しめた。
 そして、幕岩。登りたい気は少ししかなかったが、本当に満足いくラインで登れた。もはや石鎚山にはこれ以上思い残すことはない。そういうラインで、そう自画自賛できるラインで、名山の頂を踏めたこと。まさにこれ、万感の悦びなり。
 モチベーションを取り戻すのにも、よいところだった。もう一度、書く。ただただ、吾、充足せり。


【記録】
11月13日(日)快晴
 面河峡0645、御来光の滝下0900、石鎚山1130、面河峡1345

2005.11.16 筆