■富士/潤井川剣ヶ峰大沢<岩樋部>

2007.10.20
鮎島仁助朗、佐藤益弘
 大系第4巻。「富士山」の項。そこでのちょっとした記述に、剣ヶ峰大沢の岩樋部は「4kmにわたるナメ床と、40m大滝をはじめとした小滝の連続」と書いてある。ホ、本当なのか!?まずは、検証あるのみ・・というわけで前々から行きたいリストに入っていた。10月下旬。ベストなタイミング。例会で、大系をちらつかせながら、佐藤さんを説得すると、意外にも多大なる興味を持ってくださった。うれしい。このような「外れ」リスクが高い計画に、そもそもパートナーがいるというだけで、まずは成功したようなものだ。

ショルダーハーケン滝
 朝霧高原の道の駅で一晩明かしたあと、富士桜自然墓地霊園へ。しかし、なんと、開門時間が9時。しょうがないので、予定地までクルマで行けなかったが、傍らの林道を行けるところまで行く。
 舗装林道を15分ほど歩くと林道終了点で、地図ではそこから登山道があるかのようだが、わからん。まぁとりあえず、左へ左へとトラバースするように、植林地帯を歩いていくと、ちょうど大沢の古ぼけた堰堤のところに降り立つことができた。ここには照明などが仰々しくある。この下にも、ちょっとゴルジュっぽいのがあるが、まぁここからでよかろう。
 天気は快晴だが、樹林に覆われ、薄暗い。また、この時点ですでに、頑張る気持ちがなければ、いくらでも逃げられそうな雰囲気がある。せっかくここまで来てしまったので、とりあえず気合を入れるべく、
  「5メートル以下の滝は、すべて直登だっ!」
というリーダー指示を下す。ただし、
  「登れそうもない滝は6メートルと定義しようね」
というザルも設定しておくのは愛嬌ということで。
 川底を歩いていく。底には、土砂が溜まっており、ときおり、ズボッとすねまではまり、ズボンがドロドロとなるが、かまわず進むと、すぐに2メートルチョックストーン(CS)滝。といっても、水はチョロチョロ流れている程度だが。しかし、これが2メートルと侮るなかれ。ツルツルだ。結局、両者、空身・荷揚げで登るよりほかない。ついで、3メートル樋状滝。・・・。出だしに弱点がない。しょうがない。ショルダーだっ!。ジャンケン!。負け。佐藤さんが肩に乗るが・・。「まだ、下、大丈夫?」と聞いてくる。どうやら肩に乗ったはいいけども、その上も何もないらしい。「まだOKです。」と答えると、カンカンとナイフブレードを打ち出した。で、スカスカのようだが、横リスのようなのでそこにスリングをかけて、抜けていった。おぉー、ショルダーでハーケン打っているの、初めてだ。なんだか感激である。これでこの廊下帯を越えると、開けて、今度は5メートルのCS。但し、チョイ戻れば簡単に巻けるのだが、ここはディレティシマである。CSの左を行こうとするが、なんとも渋い。そのうち、佐藤さんがCSのなかに入り込み、出口はどうも石でふさがれているようだが、そこを掘って(邪魔な石を落として)抜けていった。ちょうどその隙間、わたしの腹回りサイズ。ナイスです。
 またちょっと、河原を歩くと今度は本格的なゴルジュ帯。ひとつ、樋状滝をこえると、ほとんど光が当たらない中での4メートルのCSハング滝。どう見ても4メートル。完全にハングしており、フリーで登る弱点もなく、普通なら、絶対に登らない類のものではあるが、当初の宣言をしてしまっており、またこの後もゴルジュが続いており、これを巻いてしまうとゴルジュを全部巻かなければならないわけで、しょうがなくトライ。一段上がって、キャメ#1、#0.75、エイリアン黄、赤で何とか越えた。4メートルと短いが、私としては、約2年ぶりのカムエイドで結構しびれるクライミングだった(チョロチョロ水がモロ顔面に降り注ぐし・・)。佐藤さんにはユマーリングで登ってきてもらって、すぐそこに6メートル滝。これは簡単に越えると、次は4メートル。またショルダーか?と思うが、佐藤さんが1段上がってハンマーピックを手がかりに何とか越える。ついでCS3メートル。これは、出だしをショルダーで越えるとゴルジュを抜け出すことができた。
 実はここまでが核心部で、ここまでは詳しく覚えているが、このあとはダラダラ(?)と同じような渓相がつづく。すなわち、河原、ツルツルの樋状の滝、河原、CS状滝みたいな。そして、小滝が出てくるたび、その都度、「またショルダーかよ」みたいな雰囲気になり、もし、それが避けられてもツッパリで、もしくは靴のフリクションで越えていくみたいな。はっきり言って、すべてを川底主義で直登しようとすると“疲れる”が我々はあえて疲れる登り方で越えていった。しかし、やがて、崩壊していて登れない滝が三つほど顕著にある。一つ目は右巻き、次も右巻き、三つ目は左巻きだったと思う。特に三つ目は「大滝」といわれる20メートルほどの滝だが、これを登るのはよほどの勇気が必要だ(崩壊しているため)。巻きは概して簡単。これらの登れない滝以外はすべて5メートル以内の「登れる滝」で、それらはすべて川底主義で突破したつもりだ。最後、3メートルの出だしがハングした滝を練習を兼ねて、佐藤さんが大きめカムのエイドで越え(ショルダーでも可能だろう)、5メートルほどの樋状の滝をフリクションで越える(フェルト靴じゃ厳しい)と、沢は右に折れ、林道が横切るのが見える。そして、その奥には雪が被った富士頂上が。非常によい景色である。この林道横断地点で溯行は終了。
 結局、ゴルジュの4メートルのハングを登るかどうかが結構大きいのかもしれないが、我々としては「外れ」の期待値が高かった分、かなり楽しい(疲れる)溯行で、30分ほど、この眺めの良い終了点で余韻に浸る。富士山を見とれながら。(西側から見ると富士山って、少し左に傾いているのね。)
 下山は大沢の左岸の杣道を。ところどころ、不明瞭なところがあるが、忠実に大沢の左岸を外れないように進めば、1時間ほどで入渓点に戻れるが、そこから駐車地は案外遠かった。結局、墓地を少し漕いだが、バチは当たらないことを願う。
 評価「特B」。
 やはり、B級の沢は抜け出せていないが、11月にも溯行可能な沢としてはAランクでしょう!!すべては直登できなかった(できるはずがない)が、5メートル未満の滝はすべて直登したつもりだ。そして、クライミング内容もなんでもありで、実に奮闘的。クライミング残置物が一切ない(ゴミは多いが)、楽しいクライミングをすることができた。なかなかロケーションもいいし、天気も良いし、下山も短いし、もう、満足。
 富士山の沢なかなかいいではないか。来年は、もうひとつの大物?深沢に焦点を絞るしかない。

2007.10.23 鮎島 筆

【記録】
10月20日(土)晴
 駐車地0700、入渓点0730、林道横断地点1135、駐車地1325

【使用装備】
ロープ50メートル、ナイフブレード、ロストアロー、アングル、キャメロット(#0.75〜#3)、エイリアン(黄、赤)、ユマール1S、アブミ1S
(なお、ロープは20メートルあれば充分、靴はフェルト靴よりもラバー沢靴のほうがオススメ。)

【写真】

潜り抜けCS滝

取り付きハングをカムエイド

終了点の林道にて富士山を眺める