■八ヶ岳/横岳西壁中山尾根[登攀]

2008.1.13−.14
高橋弘、寺本久敏
 一年前の2月、青山・寺本・高橋で取り付きで強風下のあまりの寒さに即決敗退した因縁のルートである。あの時は夜行日帰りの上に美濃戸山荘までの坂道を車が登れず余計に1時間登ったので取り付きに着いたのも遅くなってしまって先行パーティを待つ時間的余地は残っていなかった反省を踏まえて今回ははなから1泊2日の予定である。八ッで1泊2日というのももったいないが体力がないので仕方がない。因みに年末赤岳主稜は強力な牧野号のおかげで山荘まで上がれたので夜行日帰りが可能だった。
 日が昇ってから東京を発つ。途中ETCカードを落として使用不能手続きをしたりして時間がかかったが今回は高橋号が山荘まであがってくれたのでLOSSはチャラパー、お釣が来るくらいだ。途中南沢小滝・大滝を見物したが両方とも人が多く取り付く余地は残されておらず、そのまた脇の3Mくらいのナメ滝で遊んだ。寺さんがスクリューをぶら下げて挑んだが残念ながらプロテクションを取る必要のあるところではなかった。山から下りてくる登山者に聞くと昨日は雨から霙、今日は稜線強風で大変だったということだ。霙の後の大寒波で岩が凍り付いているんじゃないかと不安がつのる。行者小屋近くで横岳西面が白い荘厳な姿をあらわし暫し見とれる。肝心の中山尾根は遠望する限り下部岩壁の方が傾斜が強く難しそうに思えた。くそ寒い夜だった。

 明るくなって出発するときにとなりのテントも登攀準備を整えていたので話をすると昨晩は中山尾根の上部にビバークのヘッデンが灯っていたそうだ。やなこと聞いたぜ。彼らは赤岳主稜に向かった。冷え込みは厳しいが晴天で何より風がない。昨夕偵察していた中山尾根下部樹林帯はトレースバッチリでノンビリ登ると取り付き。早速岩のコンディションを確かめると、ホールドは堅い雪でパックされて、手で払いのけられるようなものではなくピックで掘り出す必要があった。が氷ついていないだけよしとするしかない。先行パーティ1組くらいいるのがベストだった(出発時間もそうなるように調節したのだが)が先にも後にもこの日は我々だけだった。おかげでホールドを掘り出すのは苦労したがピーカンのもと煙草をやりながら自分達のペースで登れて気持ちいいこと。北アルプスは南のはじからから北のはじまでくっきりと見渡せる。

1P(高橋、25M)
 正面にはぺツルが連打されているがこのコンディションではとても難しそうなので、右から越えようとしたらこれまた2Mくらいなものだが登れず、結局一段右に下がった凹角から左上。正面に廻りこむあたりは高度感もでて気持ちいい。
2P(寺本、30M)
 頭上の凹角は凍りいていそうなので、左の草付きから廻りこむ。こちらのほうがNATURALに感じる。下部岩壁終了
3P(高橋、45M)
 ただの歩きだがザイルを解除するのもコンテにするのもめんどうなのでそのままつるべで延ばす。
4P(寺本、45M)
 雪稜。傾斜が立って来たので灌木でランニングを取りながらのぼる。この3/4Pはガンガン登るのでFOLLOWするのも息があがる。
5P(高橋、20M)
 上部岩壁取り付きまでの歩き。(やばい、上部岩壁のセクションが回ってこなくなった BY 高橋)
6P(寺本、20M)
 いよいよ核心と言われる上部岩壁。右の浅い凹角から左上してかぶった短い凹角下まで。フットホールドが細かくてこれぞアイゼン登攀。トレーニングの成果がきっちりあらわるピッチ。寺さんカッコよかったです。
7P(高橋、30M)
 垂直の凹角は短く、壁にアイゼンの前爪の痕がくっきり残っていて笑わせてくれる。岩は5Mくらいで終わるがそのまま雪稜にザイルを延ばす。これで上部岩壁終了で大休止。この先は見る限りどうにでもルートはとれそう。煙草がうまい。
8P(寺本、45M)
 左の草付から回り込むのが楽でそうすると思っていたら、寺さんはダブルアックスで岩交じりの草付を一番見栄えのするほうへ右上していく。うーん、いいラインを行くね。ザイル一杯伸ばし、小ハング下まで。
9P(高橋、20M)
 寺さんは、"高橋さんにいいところ残してやったよ"と笑っているけど、この小ハングの乗越しはちょっと厳しいっすよ。ありがた迷惑とはこのことです。乗り越したところにハーケンを打ち込んであとは鶏冠リッジ基部まで雪壁のトラバース。フォローはハーケンが抜けず往生した。
10P(高橋、60M)
 通常はここからトラバースして縦走路にでて終了するのがほとんどのようだが、8P目のラインできたからには日の岳頂上に突き上げてフィニッシュせねば。5Mくらい右にトラバースしたところから下部を岩に守られた雪の詰まったルンゼに突入。入り口の岩の乗り越しは今回のルート中一番難しかった。50Mで足らなくなり、ビレイヤーに岩の下まで前進してもらい頂上に出てフィニッシュ。縦走路から外れた静かな山頂で成功を祝う。

 リベンジ(この甘い響きよ! 敗退もまた楽し)を果たした上に、厳冬期、ダイレクトフィニッシュ、大寒波(しかし風が無く快晴)&他パーティ無しとおまけ付で会心のクライミング。確実に去年よりは経験をつんでいる自分達を感じた。登攀当日の朝6時から14時までの平均気温は麓の原村1,017M地点でマイナス5度風速1。つまり行者小屋から稜線までの部分はマイナス13-16度くらいだったことになる。実感そんなとこだろうと思う。敗退した昨年2月14日の原村の記録はプラス0.6度ながら風力4。あの時はとにかく風が強かった。



















高橋 記

【行動概要】
1月14日(日)
 行者小屋発0700-中山尾根-日の岳-地蔵尾根-行者小屋戻り1345

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