■上信越/鳥甲山(トリカブト山)南西尾根
2008.1.26-.27
鮎島仁助郎、高橋弘、長嶋剛、寺本久敏
標高1800m地点 激パウダー
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快晴の志賀高原を車は奥志賀までテクテク進む。途中、次々に現れる巨大なスキーリゾートを目の当たりにして、初めて志賀高原に来たという高橋さんは「あぁ早く鳥甲終えて、焼額山で一本ぐらい滑りたいねー」と言っている。寺本さんも「どうせ早く終わるからそれもいいね」と同調している。私も口には出さなかったが、一日目は時間が余るんじゃないか・・と思っていた。残雪期の記録では、取付き近くまでは奥志賀から1時間半で行っていたし、林道から頂上までの標高差800mも先週の博士山と変わらず、それほど厳しいとは思っていなかったからだ。つまるところ、この時点では、みんなこれほどまでに激しい山になるとは思ってなかったわけである。
林道分岐近くに車を止めようとすると、除雪の邪魔だと怒られ、「どこに行くのか」と聞かれたので、鳥甲にいくというと、バカじゃねぇのみたいな顔で「あれは秋山郷の山だ」といわれる。そんなの百も承知だというのに、いきなり出だし悪いぜ。散々、迷った挙句、奥志賀高原のスキー場に車を止め、林道入り口までスキーで滑ってからが林道歩きスタート。トレースがないのはもちろん想定内。しかし、下りなのである程度滑るだろうと思っていたが、まったく進まないのが想定外。終始、膝下のラッセルだ。結局、ようやく南西尾根取付につくまでに4時間、距離にして9kmほどかかった。こう書いてしまえばあっという間だが、この行数以上の厳しさは、筋肉の悲鳴が物語っている。特に足の付け根筋(?)はヤバイ。この時点で、日曜の昼下がり“ヤケビ”スキーは断念したと言ってもいい。ともあれ、もうここまで来てしまった事実は動かせず、今回で絶対に「とりこうさん」に登らざるを得なくなった状況に追い込まれたわけだ。
尾根はちょっと沢状のところから取付いて、次第に尾根に上がる感じ。ところどころ何故か赤テープがある。下部はあまりに林が濃く、「もう山スキーじゃないね」(高橋談)というほど。残り500mを切った平坦地にてテントを張る。テント内では足の付け根・ふくらはぎ・内腿・膝・腹筋などが攣り始め、「あ゛」「ぐふ」「おぅ」「痛ぇ」などの言葉がコダマする。
昨夜の鍋は長嶋さんの大根がおいしかった。寺本さんもテレショップで購入した“NASA開発断熱シート”(?)が触れ込みどおりの威力を発揮し、安眠できたようだ。昨晩の雪は20cmほど積もり、昨日のトレースがすべて消えている。林道のトレースも消えていたら最悪だと思いつつ、テントや幕営具などはデポして、まずは頂上へ頂上へ。幕営地からは山スキー向きの広いメローな斜面をひたすら登っていく。次第に傾斜が増してくると、ラッセルも半端でなくなってくる。深いところで腰だ。厳しいが4人団結して進み、ずっと頂上までスキーラッセルで高橋さんが一人目のサミッターとなった。天気は快晴とはいかないまでも、青空も望まれ、視界もよい。風もない。
すこしゆっくりするも、あまり時間がない。行きの林道ラッセルから逆算すると、明るいうちに戻るには12時には林道上にいたいのだ。頂上でシールをはずして滑降。・・が、全然滑らない。あまりディープなのだ。結局、メローなところは行きのトレースを辿り、傾斜の強いところは“ウッキー”とガンガンに行く。一箇所、5mほどスキーをはずして登り返さないといけないところがあるが、幕営地までは概して快適快適。あっという間にテン場まで下りられた。しかし、これからが問題の密林帯。しかも重荷をしょってである。それでも、木にぶつかりながら張り出した雪庇を使い、1384.7mの標高点ピークまで行けば、そこからは沢状を使って林道まで。これが案外、快適なパウダーだったのがうれしい。長嶋さんの魂のパウダーワークもしっかりと目に焼き付けられた。
しかししかし、林道上のトレースを見てがっくり・・。トレースが埋まっている。奥志賀までは今度は逆に登りとなるのでお先真っ暗だ。しょうがなく歩き出し、野沢分岐までようやく辿り着くと、“ブンブン”とエンジン音が聞こえる。こ、これは・・。スノーモービル軍団だぁ。よっしゃぁ。ラッキー。自然とガッツポーズがでたぜ。軍団(8名ほど)は萱の平の往復らしく、“ごめんね”との言葉を残して、我々を追い越していくが、私は逆に感謝したいぐらいだ(でも、高橋さんは「ごめんと言うなら荷物ぐらい持ちましょうかぐらい言え」と豪語)。モービルは別荘地方面へ上がり、残り1.3kmはラッセルしなければならなかったが、なんとか16時前には着くことができた。そこから駐車地までの車道歩きは空荷で行くが結構厳しかった。車にも雪15cmほど積もっていた。
鳥甲山は週末レジャーの範疇を超えている。甘っちょろい気持ちで目指すと痛い目にあう。9kmの林道ラッセルがどれだけ激しいのかは行ってみないと分からないだろう。それに加えて、頂上直下のラッセルの深さよ。スキーを履いてところどころ腰までとは。つまりは今回も間違いなく「激」だったわけである。そう、鳥甲とは、レジャーの真反対にあるいわゆるマジ激山のことなのです。
まずは、高橋さん、長嶋さん、寺本さんに感謝!。この厳冬期で突っ込むにはもちろん二人ではお話にはならず3人でも無理。4人以上いることが最低条件。それに天気・モービル軍団!ありがとう。感謝の言葉しかない。
中野の町でとんかつを食べに車から出たとき、皆、足がガタガタでフラフラだった。このとき、私は歩きとおしたという悦びを実感した。私としては白神と函岳以来のもの。これまでの経験から、1年に一度味わえるかどうかのなんともいえない達成感だ。今回の“歩きとおした感”は、ほとんど林道によるが、それでもいいのだ。激山を実感し、満喫できた鳥甲。これも会心の山行の一つとなった。だから、快晴の妙高の山並みに陽が沈みゆくのをみて、“あぁ、妙高に行けばよかったね”なんて言葉を発するのは言語道断なのだ。
2008.1.29 鮎島 筆
【記録】
1月26日(土)晴のち雪
奥志賀0845、南西尾根取付1230、南西尾根上標高1600m幕営地1500
1月27日(日)曇時々晴のち雪
幕営地0645、鳥甲山0930、幕営地1030、尾根取付(林道)1135、奥志賀1550
【Note】
・川越から奥志賀まで4時間。交通費は3500円/人。
・奥志賀と鳥甲(栄村)の天気は違う。栄村は終始、雪。頂上に立つときのみ視界が良かった。
・幕営ポイントは標高1600mから1700mまではどこにでもある。
・南西尾根はアイゼン・ピッケル&ロープは必要なし。
・1384mポイントから1500mまでは密林の尾根。そこ以外はスキーが結構楽しめる。
【写真】
林道1.7km地点 まだまだ先が長い