■尾瀬/至仏山<ムジナ沢滑降、ワル沢滑降>
2008.2.9-.11
高橋、鮎島、武井、佐藤
「厳冬期・尾瀬」。4年前から企画・実行し、これまで2回も悪天で撤退している2月の恒例計画である。2回も敗退し、それでも我ら2人を惹きつけているのは、至仏という百名山への執念と、東京至近なのに静かで奥深い雰囲気を味わえたという実感だ。この厳冬期、この有名観光地・尾瀬には誰もいないのだ。リーダーの系譜が高橋さんに受け継がれた今回、武井さんと佐藤さんが加わった。天気予報は二つ玉がくるだろうと言う、最悪の状況ではあるが、今回は3日間フルで予定する。まずは至仏山登頂が第一だ。
3日目。晴れた尾瀬ケ原を眺める高橋
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凄い渋滞を越え、ようやく戸倉についたのが9時。行きの車窓からは快晴の山並みが見え、逆に憂鬱になる。
ゲート前に車を置き出発。この厳冬期尾瀬の一番の核心部は間違いなく鳩待峠までの林道である。これまでは、重い板を履き、ひたすらラッセルをしたため、足の付け根が苦しめられ、意気消沈という感じだった。今回、幸い、トレースはバッチリだ。それも津奈木橋までで、津奈木橋で二人パーティーがテントを張っている。ここからはラッセルで林道を詰めて行き、本流を渡るところで尾根を上がってショートカットする。午後の天気は悪くなると言う予報だったが、薄日が射すちょうどいい天気で1866.9mの標高点ピークまで上がる。後ろを見ると、我々とは違うところからあの2人がやってきている。早いな。とりあえず「鉄人」と呼んでおこう。我々は、その1866.9mピークの上の木に囲まれた風のなさそうなところに幕営した。
ラジオでは荒れるとしきりに言っていて、確かに雷鳴のような音が聞こえているが、テントを張った場所が良かったためかそれほど風も強くなく、また雪もそれほど強いとは思われなかった。しかし、日曜日の予報では午後になればなるほど天気がいいということで、出発を遅らせることにしたために、起床も6時半と遅めである。9時過ぎに出発する。南岸低気圧のためだろうか、心なしか雪が重く感じられ、ラッセルがたいへんである。視界は過去2回と比べれば断然よいし、風もないに等しい。さすがにオヤマ沢田代過ぎからは視界も悪くなったが、至仏山に無事たつことができた。3度目の正直となった私と高橋さんはがっちり抱擁である。
さて滑降であるが、当初はムジナ沢右岸尾根の登山道を尾瀬ヶ原まで滑る予定だった。なんといっても沢沿いは危険に感じたからだ。予定通り下り始めるが、滑り出す段になっていきなり視界が悪くなり、また斜面もガリガリだ。GPSで方角を見ながら滑るが、高天原までくると視界が多少良くなり、先が見渡せるようになると、右岸尾根はすべりに適してなさそうに見えた。そのため、ムジナ沢側へくだることを皆で確認して、ガリガリ斜面を慎重に下っていく。ある程度まで下りると、視界は良くなり、雪も柔らかくなっていき、雪質は安定しているので一気に下る。といっても、傾斜がよく分からず苦戦する。それでも中腹まで滑れば、安定した雪質のパウダーを満喫することができ、特に佐藤さんはここぞとばかりに飛んでいる。すげぇぜ。こういうときはPublicでくればよかったと思うのだが・・。傾斜が緩くなれば、あとは沢の右岸をトラバースする感じですべり、尾瀬ヶ原へ。おぉ、ムジナ沢やったぜ。これがムジナ沢か。素晴らしい。まぁ、上部で視界がよければもっと良かったが、満足だ。余韻に浸りつつ、山の鼻小屋まですぐそこに見えるので歩くが、これが結構遠い。でもまぁ誰もいない尾瀬ヶ原なかなかいい。
っで、明日どうするかを山の鼻の小屋前で皆で相談。当初はアヤメ平に登り返し、適当なところで幕営。それで明日は富士見峠から戸倉スキー場に下るという案にしようとしたが、予報では明日は天気がいいことを前提に考えなければならない。ここは高橋リーダーが決断した。
「今日中に鳩待峠まで登り、明日はワル沢を滑ろう」
と。確かに快晴の中、ワル沢滑るというのはたいへん魅力的だ。しかし、問題は、鳩待峠まで登れるかどうかだ・・。トレースもなく、全装備担いでのラッセルで、今日中にたどり着けるだろうか。今山行の一番の踏ん張り時がこの山の鼻から鳩待までの登り返しにあることは明らかに想像できたが、もはやリーダー命令である以上頑張るしかない。
「ラッセルっちゅうのは一人の犠牲から始まるものです」
なんて格好のいいことを抜かして、休憩もそこそこに歩き始め、ラッセル開始。そしてなんとか、鳩待峠についたのが16時。まぁ予測より早くついたというところか。鳩待峠の適当なところに幕営した。
放射冷却であろうか、さすがに夜は寒かった。翌朝は雲一つない快晴の中、まだ暗いうちから歩き始める。ワル沢滑降だが、とりあえず10時がドロップリミットということで、まずはできるだけ高いところを目指すわけだ。一昨日のトレースのあるところまでは今日もラッセルとなるが、軽荷のためまだマシ。一昨日のトレースからは「鉄人」トレースも加わり、スピードアップ。まさに快晴の中で、鳩待峠から3時間で至仏山頂上に再びやってきた。頂上からの風景がすばらしい。尾瀬が原の向うに燧ケ岳が悠然と聳えるこの景色が我々にどう写ったかは高橋さんの背中が顕著に物語ってくれている。昨日は、あまり視界がなかっただけに、今日はこの景色とも会いにきたというべきだろうか。
さぁワル沢滑降だ。昨日のムジナ沢は出だしがガリガリだっただけに不安はあるが、こちらはどうだろうか?いや、まったくそんなことはない。また、雪質も非常に安定している。まずは、高橋さんが突っ込む。前述した素晴らしい景色がパノラマ上に広がる中、足元に広がるはバージンスノーの大斜面・・。もう言うことはない。本当に素晴らしい。白銀のキャンパスに思い思いのところにシュプールを描く。これだけ広い斜面なのに、皆、高橋さんと頃を滑っていってしまうのはなんというか貧乏性というべきだろうか。まぁ私は、昨日のムジナ沢のパウダーではできなかった分、一番右端をあえてジャンプするようなショートターンで鋭角なシュプールを刻み込んだ。 充実するぐらいまで滑り込んだあと、左へトラバースするように下り、ちょっと谷中を滑った後、右岸をすべる。この下部は、ムジナ沢と比べてダラダラ感が強いが、まぁそれもよし。昨日のトレースに出会い、峠まで登り返す間に見る我々の弧を見る。なんとも充実感が再燃するところだ。
テントを回収して、あとは林道沿いに戸倉まで。なお、鉄人たちはまだ津奈木橋に屯っていて、林道ラッセルをしてくれなかったので、その称号を剥奪させていただいた。
まず至仏山に2回も登頂できたこと、ムジナ沢&ワル沢の両方を滑れたこと、そしてこの大舞台を我らが占有できたこと。厳冬期だからこその充実感。本当に満足なることこの上ない。とくにワル沢は西ゼンと負けず劣らず素晴らしいものだったと今後記憶されるはずだ。あぁ、至仏頂上から伸びる4本のシュプールよ。――良い。それしか表現しようがない。つまるところ、まさに「『厳冬期・尾瀬』計画は、これで完結した」と納得できるぐらい、もう思い残すことはない山行となったわけである。
2008.2.15 鮎島 筆
【記録】
2月9日(土)曇時々晴
戸倉0930、津奈木橋1115、1867m幕営地1445
2月10日(日)曇時々晴のち雪
幕営地0915、至仏山1145、山の鼻1330、鳩待峠1600
2月11日(月・祝)快晴
鳩待峠0600、至仏山0910、鳩待峠1130、戸倉1415