■西上州/妙義山 入山川裏谷急沢(アイスクライミング)

2008.2.16
鮎島仁助郎、佐藤益弘、渡辺剛士

F6の凸部を登るナベ
 明け方は寒かった。テント撤収中にいかにも怪しいオヤジがプラッとやってくる。このオヤジ、まるで名のある武士がお忍びで街中で出ているような目出帽(鞍馬天狗風)をつけているし、しかも500円ヤッケをちゃんと着こなしており、只者ではない。このオッサンと“カイラス”然した岩山の雰囲気に圧され、とりあえず「今日は外来語禁止で行こうか」と適当なことを提案するが、やはり無謀なことはやめておくに限る。
 路肩に車を止めるが我々のほかには誰もいない。上手く入山川を渡渉して対岸に渡ると、いきなりF1が見える。このアプローチの近さがいいね。F1は今シーズン初めての我々にはアイスの感触を戻すのにはちょうど良いものだ(ノーロープ)。上はゴルジュ地形が少しあって、きっと雪がなければナメ氷床なんだろうなぁという感じの沢を進むが、いきなり、ナベが「※◎★」と叫ぶ。私には、なぜそんな言葉を発する心境になったのか、いまいち理解不能であるが、この誰もいない裏妙義的にはOKのようなきがした。
 やがて、F2が見える。70度ぐらいの10mちょっとはあるので、ここはさすがにロープを出すことにして、今シーズン、アイス4回目でまた、先ほど気合を入れていたナベがリード。スクリューを2本セットして、抜けて行った。まぁV+程度であろう。3人は「この程度が余裕がありつつアイスをやっているという気になって一番楽しいよねぇ」との意見に合意。F3/F4/F5はどれがどれだか分からないうちに越えて行き、本当はナメなんだろうなぁという景色が続くが、そこは雪で埋もれており、ひたすら足首程度のラッセル(?)でF6下まで。
 F6は10mのナメのあと、垂直部10mという構成だが、先ほどのF2で実力のほどを再確認した我々には、上部の垂直っぽいところをリードするのはちょっと・・。というより、最初からその気概がなかったと言うほうが正確だろうか。結局のところ「誰か一人が巻いて、トップロープをセットして順々に登ろうね」と落ち着く。というわけで、じゃんけん。まず、ナベがチョキで勝って抜け、佐藤さんと私の勝負となった。「じゃんけんは心理戦ですよ」と理屈付け、「ボクはチョキだしますんで・・」と事前申告するという姑息な手段はさすがに佐藤さんには通じなかった。申告どおり、チョキを出したところ、やはり負けて私がトップロープをセットしに行くことになった。普通、「ありがとう」「頑張ってね」とかお世辞でも言ってくれるものだが、そんな暖炉つきの別荘のような雰囲気は一切ない。<ナベとのタイマン勝負だったら絶対に勝ったのに・・>と根拠のない悪態をつきつつ、巻きは左岸からでロープをセットし、懸垂下降をする。よく考えれば2ヶ月ぶりの懸垂下降で結構怖い。スキーばっかりやっている弊害である。このF6は佐藤さんがまず左のビショビショの凹角を登り抜けて行った。ナベは果敢に凸部をワンテンで。そしてわたしは勿論、佐藤ラインで。どうやら凹部はW+程度、凸部はそこから1ランクか2ランク難しそうだ。まぁ、どちらにせよ腕とふくらはぎが張ったね。私と佐藤さんにしてみれば、一昨年の岳沢以来のもので、オフト監督によって日本にもたらされたアイコンタクト技術を駆使し、お互い、何も言わずとも<今日帰ろう!>ということは了解済みである。
 そこからは、しばらく雪床と化した氷床をひたすら登り、適当なところから尾根状をつめる。いい加減、休憩したかったが急傾斜の草付で休めるスペースもない。結局、ヒィヒィいいながら谷急山頂上まで行ってしまった。天気は快いほど澄み渡り、頂上は風もない。上信越道の軽井沢I.C.がすぐ下に、浅間山がその奥に見え(この冬型気圧配置でも浅間山は晴れるのね・・、風は強そうだが)、なかなかロケーションが良く、あぁ山に来たなぁという感覚が心地よい。ついでに温め続けてきている妙義馬蹄形縦走、名づけて「ディープインパクト」の足跡を辿ろうとするが、あまりよくわからないのはしょうがない。まぁ、これは今年の11月の課題。
 20分程いて下山。この下山路が「核心」とする資料もあったが、実際もその通り。ロープを使うほどでもはないが、かなりのナイフリッジで怖い。しかも、その部分がまた結構長い。途中でアイゼンをはずし、沢の右岸へ下った。久しぶりにスキーではない下山に足がガクガクである。車に戻ると隣にパジェロ2台が置かれている。ナベはさっきの「※◎★」絶叫を後悔しているようだが、もう遅い。もし聞かれていたら、完全に変態パーティと思われたに違いないが、F6でも追いつかれなかったし、きっと大丈夫だろうと思うことにした。
 おっさんが立ちションしているのが様になっている林道を戻り、18号に戻ってすぐの山形屋ドライブインというところでメシを食う。豊富なメニューの中でも燦然と輝く「特製カツラーメン(700円)」に目が行き、3人とも頼むが、「旨いのだけれど、一緒にする必要性が感じられない」(ナベ談)という評価。今思えば、9年前、鹿児島市内のラーメン屋(なぜかカラオケ装置完備)で同じようなものを食べたような気がするが、あれはトンコツ味だったけなぁ・・。まぁ、小出の「カツカレーうどん」といい、汁物にトンカツを入れるのはやはりイケてないという結論に達したのだった。
 ともあれともあれ、裏谷急沢は氷床となるところに雪が積もってしまっているとは言え、滝はちゃんと凍っていたしで、景色も良かった。というわけで、冬季溯行ティックなアイスを満喫でき、また楽しい山行となったわけである。

2008.2.18 鮎島 筆
【記録】
2月16日(土)快晴
 駐車地0815、F1下0825、F6上1130、谷急山1245、駐車地1440

【使用装備】
ロープ60m×1、スクリュー12cm×2など

【写真】
F2をフォローする佐藤さん