■西上州/タカノス岩北稜

2008.4.27
鮎島仁助朗
 土日、北鎌尾根に備えて、腰の安静に勤めようかと思っていたが、日曜日は天気が良くなりそうだ。そうなれば、タカノス岩北稜だ。
 このルート。あれは、私がR口ルンゼを登ったあと、他にどこかそのような隠された秘景がないかとネットサーフィンしていたときに、本当に偶然見つけたホームページにあったひとつだ。
 そのホームページは、匿名で単独行の記録が徒然と書き記されたページだが、この一覧を見て私はただならぬものを感じた。どこが私の琴線に触れたのかをひとことで言えば、それは彼の価値観というべきだろうか。最近、多くの記録で感じるのはグレード志向もしくはコレクション志向のどちらかしかないことだ。この際、はっきり言わせてもらう。まったくオモロくない。もっとも私もそのように陥りがちなのだが、実際のところ山登りの本来の姿は登りたいところを五感で見つけ出すところから始まり、そこを登るべきはずなのだ。そう私は信じている。その私の信念を体現する記録が一切見かけず、まったく面白くない。それがどうだ。このホームページはガイド本ではなく自分の感性で登りたいルートを探り出して登っているではないか。これは興味を示さずにはいられない。すかさず私の「お気に入り」に入れてしまったが、それはそうと、この記録群は技術レベル的にも私と変わらなそうで、なかなか刺激を与えてくれるルートが数多く、その中でも登りたいところが「タカノス岩北稜」であった。


碧岩北稜岩から見たタカノス岩(右のスカイラインが北稜)
 午後のほうが天気がよさそうなので、なるべく出発を遅らせるべく、朝7時に家を出る。上信越道経由で現地の駐車場に着いたのは10時過ぎであった。6台ほどしか止まれない駐車地はすでに満車である。しょうがなく、ちょっと上に水道の建物があり、その前に記念碑があってその隣に駐車スペースがあったのでそこに停める。
 徐々に太陽が顔を出し始め、いい感じ。駐車地からハーネスを履いて、車道を100メートルほど歩いて、対岸にお墓が見えたらそこで川へ下り、右岸に渡ってお墓に行く。資料どおり、お墓の右端から植林用と思われる踏み跡が続き、それを忠実に辿る。途中からわかりづらくなるが、なんとか見つけながら急傾斜を登っていくと10mほどの岩場が出てきた。これは右側から巻くように登ると、ようやく明確な稜線となる。少し行くと藪岩壁が出てきた。これは木の根っこをつかみながら行くが、久しぶりでちょっと怖い。これを登りきるとP1だった。
 天気もだいぶ良くなり、P1は視界も開けていて、なかなか気持ちの良いところだ。P2がすぐそこに、そしてタカノス岩が・・。オイっあれ登れるんかね。結構な迫力よ。ちょっとビビリが入る。
 P1の下りは踏み跡が明瞭で間違うことはない。ほんの少しのくだりでP2の登りへと差し掛かる。P2の上りも泥つきで木の根っこをつかみながらいくが、ルートファインディングが難しい。ここはさらにP1の登りよりもちょっと緊張した。資料ではあっけなく行っているような感じがするのだが・・。なにせ、北面だからであろうか、昨日降った雨により地盤が軟らかく、ちょっと足場が不安定なのも増して、さすがに半年振りのこの“ジャパーン”という感じのクライミングなのだ。おぉコワェ。それにしてもP2からの眺めは絶品だ。とくに碧岩。とんがって格好いい。それにしてもタカノス岩・・。結構傾斜があるけど、本当に登れるんだろうか。
 P2のくだりは北面とは違って、ずっと岩っぽいが、なにせ太陽が当たって地盤も乾き、安定。まったくロープは必要なく下れる。
 P3の登りに入るが、これはP2からP3をみたときに、全然傾斜もないし、たいしたことないように見えたので、甘く見ていたのだが・・。ヤバい。はっきり言って、一番ヤバい。足場も安定しないし、ルートファインディングも難しい。最初に「ここだ」と思ったルート(直登)はダメで、左トラバースをしたら、何とか抜け出ることができた。緊張度合いはP1  P3の下りはなんとなく左へ左へという感覚で下ると上手くいける。ここから本峰の登りだ。しばらくはなんてことはない、ただの樹林帯を登る。100mも登ると大きな藪岩となる。最初は右から回りこむようにして登り、リッジに出た後、そこからちょっとはリッジの木を登る。普通、リッジの木登りだと高度感があって緊張するものだが、ここは枝が張り出しており、それほど高度感がない。まぁ慎重に慎重に登って、最後は右から回り込むように登ると、頂上だった。当初、この頂上への登りがいちばん難しそうに見えたが、実際のところ、P1の登りよりも怖くなかった。慣れてきたというところもあるのだろうけれど。
 今回登り出しから、頂上まで1時間半しかかかっていないが、おそらく純粋なクライマーだったらもっと時間かかるだろうな。ともあれ、頂上は何の花かわからないけれども、桃色の花(山桜?)が咲き乱れてとても心地よい。碧岩はニョキッと立っていて格好いいが、まぁ同じような藪岩なんだろう。北側へと目を向ければ、辿ってきた稜線が見える。ここからみるとP2なんかものすごく岩々している感じがあって、よく下ったなという錯覚を起こさせるが、意外と弱点はあるものなのだな。立岩の向こうに、浅間山がズシっと頭だけ突き出ている。あぁやはり浅間山はいい山だね。
 15分ほどいて、下山。下山は南側へいくとコルになりそこに同じ木に5箇所ほど赤テープが巻かれているところから左へ。全然、道らしきはない。まぁ、ざれているので下ろうと思えば下れるが、快適ではない。そんなところを10分ほど行くと川についた。あとは少し沢を下ると登山道が現れ、あとはこの登山道を下る。三段の滝よりしたは登山道がかなり整備されていた。

 はっきり言おう。これは非常にいいルートだ。本当に。でも、私が思うに、やはり秋よりも春に行ったほうがきれいだと思う。
 今回、陽光があふれ、新緑がまぶしく、花も咲き乱れ、頂上に立つと雪をまだかぶっている浅間山を眺めることができた。下山も沢近くの道で、三段の滝・せせらぎも心地よい。しかし、なんといってもあの藪岩壁だ。あのHPには「タカノス岩北稜は気味悪いところがまったくなかった」とあったが、実際のところ半年振りにこのような藪岩壁登りをしてみると、かなりシビれた。この感覚がよい。いいね、藪岩壁、草付き。
 あの藪岩壁・草付き・木登りといい、風景といい、これを登ることによって夏へのモチベーションアップにとっても役立った。だから無雪期の締めくくりとではなく夏への準備としてたいへんお勧めしたいところである。
 帰り、南牧村役場のちょっと上流に「蝉の渓谷」というのがあった。ここは白いチャートのゴルジュがあって、とても印象的だった。あぁきっと夏登ったら楽しいだろうな。まぁ長さ的には200mぐらいしかないけど・・。なかなか、パートナーを探すのが大変そうだ。
 ともかく、あのHPありがとう。あれがなかったら、私がここにくることはなかっただろう。いいルートの情報、感謝感謝である。

2008.4.28 鮎島 筆

【記録】
4月27日(日)快晴
 駐車地1020、タカノス岩頂上1200、駐車地1250

【使用装備】
 登攀具は特になし。

【写真】
P1よりタカノス岩北稜