■北ア/槍ヶ岳北鎌尾根クライムアンドライド
<新穂高温泉〜千丈沢[滑降]〜北鎌尾根[登攀]〜飛騨沢[滑降]>

2008.5.2-.4
鮎島仁助朗、佐藤益弘、山崎洋介


あまり視界のない千丈沢上部大斜面を滑る
 今山行で勝負の1日目---。なにせ、距離はともかく高度差が半端じゃないのよ。新穂高温泉から千丈沢乗越まで1700mも登るのかよ・・。だいたい、なんで新穂高の標高は1000mしかないんだ!?。わけもなく腹立たしいが、こればっかりは飛騨沢を滑るため・・と諦念するよりほかないけど、問題は千丈沢か・・。上部は快適だという評判だけど、千天まではどうなってるのよ?ようやく見つけ出した記録でもはっきりしないし。
 前夜、山崎さんを松本でピックアップして、新穂高に着いたのは01時30分ころだった。そこから少し飲んで4時起床。眠いけど、一睡もしなかった高橋さんと比べりゃましか。
 それにしても、やたらペースが速いのですけど‥。結局、槍平まで4時間で着いてしまった。重荷をしょっているのに高橋さんたちより30分早いぜ。しかし、明らかに飛ばしすぎ。そこからは、まったくペースがはかどらず、関西弁のおばちゃん連中とほぼ同じペース。さらに、なかなか千丈沢乗越が見えそうで見えないのが悲しい。まぁ、かなり高いところにあるのを見ると、逆に見なきゃきゃよかったと思うことになるのだが・・。最後はツボ足となってガンガン上がると、目標より早い12時過ぎには乗越に着くことができた。
 さゃ、千丈沢を滑降できるぞ‥と思いきや、いきなりというか、3分の差で視界がなくなってしまった。うーむ、何も見えない。ものすごくいい斜面と思われるところを、慎重に200mほど下ると、ようやく視界が利いてくる。千丈沢はあまりデブリが出ていないし、シュプールも一切なく、とても気持ちの良いところだ。ウヒョィ。いいね。今回、私だけが兼用靴だが、やっぱり滑りはいいね。というか、よく佐藤さんと山崎さんはプラ靴で滑れるよね。
 最後は右の台地から沢へ下るが、左岸から中山沢が出合うところまではものすごく快適であった。しかし、そこから水流が出てくるので、右岸を進む。北鎌尾根側からのデブリが多いが、逆に雪が繋がっているということだ。でも、こういうところは不安定なショートスキーではとても疲れるわけで、山崎さんのアルミポールが折れてしまったほどだ。(でも、山崎さんはしっかり直していた‥すごいぜ)。そんなハプニングもありながら、結局、  さて、千天出合---。あれ、天上沢、どう渡るの‥?せっかく持ってきた足袋を駆使して、出合辺りのところをジャンプでクリアしようと考えてみたものの、よくよく見ると天上沢の左岸を高巻けそう・・。ということで、無理せず、まずはスキーを担いで高巻くことにする。でも、沢登りティックな巻きをやりつつ天上沢の左岸を200mほどで・・。しょうがない、渡渉だ。
 石飛びでは対岸に渡れそうもないが、膝程度までつかれば渡れそうなところがあったので、鮎島、佐藤、山崎の順に渡っていく。が、結構岩がヌルヌルなのね。その順番に派手に転ぶが、まぁなんとか天上沢の右岸に渡ると、トレースを発見。ちょっと古いような気もするので、GW前半のものだろう。今日はP2に上がる取り付きに幕営しようと思っていたが、このトレースと山崎さんの記憶(10年ほど前に牧野さんと北鎌には行っているらしい)についていったら、完全に通過してしまった。そう気づいたところがちょうど平らなところで、水も簡単に汲めそうなところだったので、そこに張ることにした。


P3の登りで山崎さん大ハマリ
 2日目。3時起床の予定だったが‥。「なんだか、明るくない?‥」「おい、4時半だぞ」‥。あわてて起床。お茶も飲まず出発!。
 きっと右岸から左岸に渡ったところがP2に登る取り付き点であろうということで、昨日辿ったトレースを10分ほど戻ると、我々が目星をつけた取り付き点に別パーティがいて出発の準備をしていた。昨日の夕方通り過ぎたときにはいなかったのだが・・。
 気にせず、急登開始。ところどころ岩が露出してあるが、それほど難しくない。しかし、稜線に立ったときには、すでに疲労困憊である。なにせ、昨日の疲れが取りきれていないうえ、どうやらこのGW、P2より登るのは我々が最初らしく、ここまでトレースなど一切ないのだ。と言っても、山崎さんがほとんど先頭きってくれたんだけど‥。サンキューです。
 途中、P2を越えたところで順調に先頭を歩いていた山崎さんが見事に嵌り、余分な体力を使ったところで、ようやく取り付きで出発準備をしていた3人組に追いつかれ、このさきP4手前までは追いつき・追い越せとなる。しかし、この3人組、ずっと一人のヒトが先頭を歩いている(まぁうちらも6割は山崎さんだったけど・・)。ガイドか?と思わなくはないが、違う雰囲気もあり・・なんともわからない3人組だった。
 天気は晴れ、順調に雪も腐っており、膝ときどき腰のラッセルはズボンをぬらし、それが結局靴の中までもぬらしてゆく。P4を越えるころには3人とも、靴の中がチャプチャプ音がしてくるほど・・。本当に参った。
 幕営するのに快適そうな4/5のコルを越え、P5となるが‥。山崎さんも佐藤さんもまったく記憶がなく、トレースもない。資料どおり天上沢側を巻き始めるが、ちょっと不安定な雪。どこまで巻けばよいのかわからないが、とりあえず大巻きすると正解のようだった。
 ここからなぜか下からのトレースがある。P6は右から巻いてピークに立ち、P7も簡単。さて、もう14時だけれど、今日の幕場予定の北鎌のコルってどこ‥。えっ!?ここを下ったところ?。もう、ここまで来てるんだ---という感じで楽勝ムードに浸っていたが、山崎さんの「じゃぁ、P8は越えられるね」との発言はちょっと‥。「山崎さんの見通しは信じるな!」と教育されている私は「絶対に3時間はかかりますよ」と全力で否定することにし、その手前の平坦な台地を今日の幕地にしようということで、納得していただいた。
 しかし、実際、このP7の下りがナイフリッジで緊張するところで、思い返せば北鎌尾根でここが一番ロープを出しても良かったなぁと思うところだった。でも、ロープを出すことなく下って北鎌のコル。その後もトレースについていくが、これがなかなかグサグサ雪で、全然前に進まないし、さらに足も濡れる。ようやく目星をつけた幕営地についたときにはコルから1時間半もかかっていた。今日もヘロヘロだ。
 天気は無風快晴。3人とも、靴を外で干していると、水がかなり絞れる--。


独標を登る
 3日目。さすがに独標は雪が締まっているときに登りたかったので、今日はしっかり3時に起床。
 5時前に出発。今日はしっかりアイゼンを履いて出発だ(2日目は佐藤さん以外は一度も着けなかった)。順調にP8・P9を越え、独標の下へ。
 独標は周知の通り、直登とトラバースの2つルートがあるが、実際にトレースも2つあった。我々はまぁスキーも担いでいるしということで、トラバースすることに。このトラバースも結構怖く、その最中に私の兼用靴からアイゼンが外れたときにはちょっとビビッた。それはともかく、その途中で、なおもトラバースを続けるトレースから外れて、我々はルンゼの雪壁を直登。リッジを左に回りこんで、再び雪壁を登ると独標のピークだった。まだ7時半で、この時点で、今日中に下ってしまおうという夢が現実的なものに思えた。それにしても、山崎さんのアイゼンワークは素晴らしく、いいものを見せてもらいました。
 ここから北鎌平までは結構、アップダウンがあったりするものの、2ピッチほどでついた。それにしても今日は3日間の中で一番天気がよい。独標を登るときには風があったが、このあたり まで来ると、風すらない。
 槍ヶ岳への登り、途中、岩セクションで落石をしたりするが、トレースもあり、天気もよく、まったく悲壮感はない。結局、ロープを出すことなく、頂上に着くが、頂上に上がるときには、オジサン・オバサンから「すごいわねぇ」とかどうでもいい歓声を浴びせられるが、意外とスキーを担いでいることを無視されると、なぜか悔しい。
 穂先には座る余裕もないので、記念写真だけとって、さっさと肩に下りる。続々と登ってくるが、登りと下りで道が分かれているのね。完全に忘れていた。私は3回目の穂先だったが、7年 ぶりだしな。でも、登りでアイゼンを履いていない人もいたけど‥。見なかったことにしよう。
 肩の小屋から滑り込むことはできないので、飛騨乗越側へしばらく行って、滑れそうなところで休憩し、アイゼンを脱ぐ。
 千丈沢を滑り出しは、視界がなかっただけに大斜面だ。すでに2日間で3000m以上登っているわけで、足がガタガタで一気には下れず、休み休みだが、槍平まであっという間。結構雪がつながっているもので、結構スキーが使えた。後は担いで林道歩き。今日も12時間行動で、車に着いたときにはもう座り込むより他ないが、駐車料金5,500円の数字に愕然、平湯温泉のヒトの多さに驚愕だ。

2008.5.9 鮎島 筆
【記録】
5月2日(金)晴のち曇
 新穂高温泉0500、槍平0900、千丈沢乗越1210、千天出合1530、天上沢1700M地点幕営地1700
5月3日(土・祝)晴
 幕営地0540、稜線0730、北鎌のコル1430、標高2650M地点幕営地1600
5月4日(日・祝)快晴のち曇
 幕営地0450、独標0730、槍ヶ岳1115、飛騨乗越1210、新穂高温泉1650

【使用装備】
スキーセット、幕営具、ダブルアックスのみ
※ロープなどは一切使用しなかった。

【写真】

千丈沢は左岸より中山沢を入れると水流が出てくるが、
デブリ豊富。

天上沢で初渡渉

北鎌の朝焼け(3日目)

F槍ヶ岳頂上にて

G快晴の飛騨沢を滑降