■西上州/南牧川「蝉の渓谷」ゴルジュ

2008.5.24
鮎島仁助朗、高橋弘、渡辺剛士

核心1m滝をネイリング中
 高橋号は何の変哲もない南牧川沿いの県道をすすんでいく。この県道が右岸から左岸に渡るところ、そこが蝉の渓谷だ。でも、下流(南牧村役場)方面から、来るヒトはきっとまったく気づかずに通り過ぎてしまうだろう。ボクは1ヶ月前にタカノス岩北稜に行った(ここも面白いよ)ときの帰り、つまり上流方面から県道を走っていたときに見つけたわけだが、行きのときはまったく気づきもしなかった。しかし、そんな何気ないところにはあるが、一目見れば、「おぉぉー」と言わざるを得ない。「うぉぉ、これか」という感じである。すごいよ。とりあえず、すごいよ、マサルさん!?
 県道のすぐ脇だし、長さはたった250m。チンケといえばチンケだし、山ともいえない・・。でも、圧倒的に・・。おそらく、たいていのゴルジャーなら、これを突破しようとしている自分を想像したくなるものだ。そして、熱くなっている自分に気づくはずだ。蝉の渓谷とはそんなところだ。まずは、橋の上から偵察。まずは下部の通称「蝉渕」。細い水路で流れが強そうだ。まずはここが第一の難関だろう。そして、上部の滝2つ。2つ目は何とかなるとして、1つ目の滝が窺い知れない。ちょっと緊張してくる。完全装備(上下ウェット&ライジャケ)に着替えて、芭蕉橋を渡ってそこから、川に下りる。
 浸水式はまず「よろしくお願いします」の握手から。その後「やっぱり冷たいね」の言葉・・。まぁ危険ではない冷たさであるので構わず浸かっていく。さて、いきなり細い水路の「蝉渕」だ。幅は150cm程度で長さも20mほどと長い。上から見ると、ヤバそうなというか、足がつかなかったら「まず突破不可能だな」と思っていたところだ。が、そこは人間様にやさしくできていた。足はつく。およそ腰から胸までの水位。よって普通に突破できた!でも、流れは強いぜ。これが増水時だったら、確実にここで敗退だろうが、第一の難関(と思っていた)蝉渕はあっけなく突破だ。
 続くところは確かに側壁は10mほどあり、とてもエスケープできるような感じはしないが、膝くらいの水位しかないので簡単にすすんでいく。もう、この辺まで来ると、なんだか「楽勝!」という雰囲気が蔓延し、高橋さんなんか、もう興味なくなって側壁でボルダーをしようとしている。まぁ、何とかなだめ、蝉橋をくぐり、河原をすぎ、なおもいくと、橋の上からは窺えなかった1メートル滝が見えてきた。“おい、どうやるの?”とナベの目が語っている。そう、見るからにヤバそうなのだ。1メートルと侮るなかれ。すごい激流。しかも、完全に白泡立っている。まずはロープをつけねば。
 まず、ナベが突っ込んでいく。おぉーダメだ。その後も、鮎、弘の順番に行くが皆、文字通り“たらい回し”にあって帰ってくる。なにせ@流れ強ぇA足がつかねぇB引き込み強ぇC水、まずいという感じ。で、皆、最終的にはちょっぴり溺れ、ロープに引っ張られて帰ってくるわけだ。ロープをつけてなけりゃ、限りなく生命の危険性があり、本当にヤバいす。し・か・も。それがなんと、民家から丸見えなんだな。このギャップがやるせないっす。何度となく、いろんな方法で挑戦する(高橋さんが一番しつこかった)が、・・まったく、解決策がわかってこない。とりあえず、河原まで戻って、作戦会議しようということになった!
ナ「泳いでフックで体を安定させて、それからは、何かぶち込む。これしかないでしょ」

弘「いやいや、左壁にはリスがあるので、そこをネイリングでいけばなんとかなるよ。最後は振り子で流れを渡れば・・」

鮎「ナベ、『何か』って何だよ・・。高橋さん、あんな激流、渡れるはずないじゃないですか。ここはやはりボルト連打しか・・」
……。後続の楽しみを奪ってしまうわけにも参るまい。だから、正解を明かしはしないが、正直言えば、上のどれも正解ではないよーん!ま、一番正解に近かったのはナベで、実際にナベが最初に突破したのだが、結局は左手の使い方がポイントだったんだ。それさえわかれば、技術的にはそれほど難しくはない。しかし、それがわかるまでの2時間半はここでバッチリ楽しませていただいた。しかし、この間、確実に民家から晒しに合っていたのだが・・。観客はいなかったのでよかった、よかった。
 なお、ハーケンを残置してしまいました。高橋さんが、根性こめて打ったナイフブレード。でも、あんなところに打ってもねぇ。回収できないよ。そもそも、その前のピンが抜けちゃったから抜くためにネイリングしないといけなかったし。というわけで、「初突破」の勲章・痕跡として残させてください。クリーンクライミングの時代に逆行するようでちょっと心痛いですが、代わりにゴミを拾って帰りましたので、清掃登山ということでご容赦を。(抜けるもんなら抜いてみな!)
 さて。2つ目の滝、4メートル滝は左壁をフリクションで難なく登り、その上はU字溝となる。このU字溝は水流中を行くにはものすごくリスクが高すぎるので、その前で右岸から左岸にジャンプして渡れば、右壁を簡単に登れる。これにて蝉の渓谷は終了。握手だけではなく、熱い抱擁までさせていただきました。適当なところで、県道に上がり、駐車地までたった1分。下山も近い。雨もまだ降ってこず、当分は余韻に浸っていたいが、周りから見れば、我々はウェットスーツ・ライフジャケットに大量の登攀具と完全に怪しい集団なので、さっさと着替えるに限る。

 「日本秘湯を守る会」の会員の下仁田温泉で暖を取り、帰る。この温泉、城ヶ崎で「ダメに決まってるでしょ」といわれたタダ風呂ができそうな雰囲気があるいい露天風呂だった(通常800円)。もう行かないだろうけど。

 蝉の渓谷。行けばわかるよ。すごいよ。楽しいよ。
 何気ないところに、圧倒的なゴルジュ。「ひろし!ひろし!」と囃したてた声も、2時間もそこを動けずにいる我々は結局のところ“セミ”に過ぎず、ゴルジュ内に響いていた。季節柄、蝉なんてもちろんいませんでしたが、「閑けさや 岩に染み入る 蝉の声」と詠んだ芭蕉はとても先見性があったといえるでしょう。
 いや、それにしてもよく来たよ。俺たち。いろいろなHPの写真があるとはいっても、記録なんてないからね。実際、途中までは「はずれ」だったしね。でも、なんといっても、あの核心部。1メートル滝が白泡立ってとてもヤバかった。3人とも、ちょっと溺れたし、飲みたくもない水も飲んだ。まったく2時間たっても、光明がささないとき、途方にくれましたよ。しかもその姿が、民家から丸見えというギャップ。タマらないですね。でも、高橋さんのあのしつこさ、よくやるよ。ナベの初突破。カッコよかったよ。
 とにかく、我々3人の総合力で、(おそらく)初突破を成し遂げてしまいました!やったぜ。
 あぁ。「閑けさや 岩に染み入る 蝉の声」か。芭蕉の句で一番好きな句になりましたよ。なんか共感し始めてきました。芭蕉ってすごいね。日本っていいね。Discover JAPANだ!
 それにしても、いやー、夏に向けてモチベーションあがってきました。あのR口ルンゼ後に「冬に向けてモチが上がってきましたよ」と言ったA君は、この冬に烏帽子大氷柱に登ってました・・。高橋さん、ナベ、今夏シーズン、なかなか幸先がいいんじゃないんですか??
 最後に高橋さん・ナベ。どうなるかわからない計画に乗ってくださいまして、ありがとうございました。でも、もう一つ、鮎島オリジナルプランがあるんだよね。『北山崎トラバース』!。これもいずれ・・!。

2008.5.26 鮎島 筆

【記録】
5月24日(土)曇一時晴 ゴルジュ入り口0900、ゴルジュ終了1200

【使用装備】
ウェットスーツ、ライフジャケット、エイリアン(緑)、ロープ40m×1(30m×2がベストだと思う)、<アブミ、ハーケンなども使ったが、最終的には意味なかった>