海谷/駒ケ岳南壁「ワニ口の大滝」登攀

2008.7.6
鮎島仁助朗、渡辺剛士

F1から上へ
 ナベは越後駒のエアリアを持ってきたが、もちろん今回のエリアはそんなところに載っているはずもない。中央道を経由して、大町・白馬を過ぎ、現地に到着したときには4時間半を経過していた。根知の梶山新湯に向かう林道の適当な路肩に車を置いてその隣にテントを張るが、朝4時に起きたら、「ドンピシャ」で元湯ノ沢出合のところだった。なんだか、うれしいぜ。
 元湯ノ沢は右岸に作りかけの林道が途中まで平行していた。でも、無視して出合から忠実につめていく。途中の何個かある滝はすべて難しくなく直登できる。30分ほどいくと、湯気が立っているところ発見。これが元湯ノ沢の由来の「梶山元湯」だ。確かに温度はちょうどよいが、ここで入ってしまったらちょっとね。
 この少し上で、お駒の前沢が右岸から入っているらしいが、ちょっと行き過ぎてしまった。少し藪をこいで、お駒の前沢に入る。このあたりの景色はすごい。生憎の曇りがかった天気は水墨画の世界を作り出し、いかにも“荘厳”という言葉が相応しい圧倒的な雰囲気をかもし出してくれている。そして、お駒の前沢を詰めていくと、大滝がドカンっと・・。「ワニ口ちゃん」はガスに隠れて全貌が見えず、それが逆にヤバそうな空気を纏わせ、屹然としてある。
 とりあえず、取り付きで準備をすると、ナベが「●×■の裏を刺された」とうるさい。そう、虫が多いのだ。ブヨだ。やはり、雪国はおおいね。顔や足首周りを集中攻撃されていく・・。しかたなしに無視することにし、まずはF1から登り始める。資料上ではF1は右から巻くような感じで書いてあるが、実際のところは巻かずにも登れそうだ。
F1@(10m、V−、ノーロープ)
 沢の右側を登る。ホールドは多い。ただし、沢靴で登ったら結構怖いので、この上でクライミングシューズに履き替えた。
F1A(30m、V、ノーロープ)
 沢の左側から登る。最初はハング気味だが、潅木を頼りに強引に越し、後はスラブを右上して、沢身に近づく感じで登る。コンクリートに小石を埋め込んだような岩質でちょっと怖いが、ここはしっかり埋まっているので大丈夫。どうやらこの上がF2のようだ。ここからはロープを出したほうがよさそうなので、ロープを出すことにした。
1P(40m、V+、ナベ)
 滝身から10mほど左のルンゼ状の凹角を30mほど登り、スラブを10m右上したところまで。10mところ行ったところのハングを越える所が核心。そこではカムで支点が取れるし、ガバなので難しくはないが、いきなりスタンスが崩れたときにはかなりビビリが入っていた。上のアンカーもカムで。
2P(40m、V、鮎島)
 右のバンドをトラバースして、滝に突入。シャワーを受けながらさらに右上し、滝右の細い潅木まで。水が流れているところは磨かれており、岩もがっちり入っていてグイグイロープを伸ばせる。このピッチ、ノーピン。
3P(35m、V、ナベ)
 さらに滝から離れて右上する。まったく難しくないが、滝から離れるに従い、ホールドが緩くなっている。アンカーはカムで。
 これでF2を登り終えるが、次はF3が聳えている。このF3は右壁が堅そうだがハング、左壁がいかにもボロそうなスラブ。もちろん、どちらも残置支点はまったく期待できない。資料では左から登っているし、スラブのほうが何とか対処できそうだったので、ノーロープで30mほどF2の落ち口まで歩き、さらに包丁草の生えた緩傾斜を10m行き、左壁に取り付く。
4P(40m、W−、鮎島)
 うーん。やっぱり見た目からしてヤバいぜ。特に色がね。さっきまではコンクリート色だったのだが、土色なのよ。資料では「ロープの流れだけでも落石が起きる」ので「ロープ操作は慎重に」とか書いてあるが、ここを登るのに必要なことはそんなことでは絶対にない。具体的に書こう。まずビレイヤーは絶対にハング下にいること。これは最低条件。実際にナベの頭上を100石程度は越えて行っただろう。そしてトップは確実に3点支持をこなすこと。実は、一度スタンスが崩れて結構ヤバかったのだが、それでも何とか耐えられたのは基本に忠実に登っていたためだ。本当に冷や汗かいたなー。なお、潅木でランナーがとれるが、実際に落ちたら抜けそう・・。技術的にはV+あるかどうかなんだけど、精神的にはW+。
5P(40m、V+、ナベ)
 F4は完全にハングしているので、そのまま左壁を登る。でも、土壁や草付がけっこうイヤらしい。ここも終了点はしっかりとした潅木で安心。
6P(45m、V、鮎島)
 傾斜が緩くなったスラブをノーピンで。この辺から岩質が最初の「コンクリート」色っぽくなり、安心安心。プワァーとガスが晴れ、高度感が気持ちよい。
7P(45m、V、ナベ)
 傾斜が緩いスラブをノーピンで。ロープは一応出すという感じ。
 その後は問題なさそうだったのでロープをしまい、スラブを登る。水流は三つに分かれる感じになり、その真ん中に行く。そこにかかる10mほどの滝を越えると赤いナメになり、それも30mほどいくと水流は消える。ここでクライミングシューズから沢靴へ履き替え、藪に突入。この藪、なんかトゲトゲしたものが腹立たしいしが、20分ほどで登山道に着き、短くてよかった。そこから山頂までは10分程度だった。
 この下山路は楽しい。あの高名な「青年団バンド」を辿るのだが、すごいぜ、駒ケ岳南西壁。下から見ると、「ありえない」ところを歩いていたからね。ここにカネコロンができるのか。でも長い。特に林道に下りてから。最終的に荷物を置いて車まで30分歩いたのだが、もう蒸し暑いし、脱水気味でヘロヘロで、車にたどり着くなり座り込んでしまった。
 谷川が脆いだぁ?キミは本当の脆さを知っていてそんな事を言っているのか?わかってるのか、本当の脆さを・・。我々はついに踏み出してしまった。再びその領域に―。
 な〜んてね。ご存知の通り、私はモロいのは嫌いじゃないので実のところ許容の範囲内でしたけど、でも1年ぶりにドパーミン(?)全開となりました。なにせ、あそこは「5割がウソぴょーん」という感じなんですから。しかも一度、OUTになりかけました。でも、ものすごく悪いのはそこだけで、それ以外は思ったよりは悪くなく、厳かな風景を堪能でき、海谷がさらにLOVEになったのです。
 でもはっきり言うと、事前に思っていたよりも難しくはなかった。私は4年前にも「海谷スラブのグレーディングは甘め」だと感じていたが、今回もやはりそれを実証するものだったのだ。それもそのはず、彼らは登山靴でこのスラブを登っているのだから。逆に、登山靴でこの細かなスラブを登ったのかと思うと、尊敬するしかないのだが。
 しかしなぁ、総合的にはやはり「悪い」部類に入ると思う。まったく残置がないし、自分たちでルートを読む能力を試されるし、なによりこの岩質。すべてがホールドに見え、すべてが剥がれそう。岩を見る目が試されるのだ。特に4P目は5割が「外れ」という感覚。うーん、たまんないね。
 ってなわけで、グレード以上の悪さを感じ、かなりシビれます。あいにく、天気は悪くていい写真がとれなかったけれど、きっと晴れていたらすごいところにあるのは容易に想像でき、そこを登るのだから、結構爽快なルートです。まぁやってください。きっとこの壁も続登者を待っているはずです。でも、ちょっとした覚悟をして望んでくださいませ。
 ワニ、いただきました。ごちそうさまです。ナベちゃん、ありがとうございました。次は海川本谷・・かな。
【記録】
7月6日(日)曇 駐車地0445、取付0615、稜線1110、駒ケ岳1120、駐車地1400

【使用装備】 沢靴、クラミングシューズ、ロープ8.5mm)×2、カム(小さめ)×3
※ハーケンは一切使用せず。(リスはないし、途中から探すのもあきらめた)
※ボルトは敗退用に必要?(気合を入れて10本ほどもって行ったが、一度も使わず)

2008.7.8 鮎島 筆


取り付き付近から見たワニ口の大滝
(見えているのは多分F2)

F2の左の凹角を上るナベ
(もろそうでしょ、実際このあとスタンスが崩れます)

2ピッチ目
(かなり快適なピッチ)

3ピッチ目
(奥に見えるはお駒の菱。登れるわけもなく、左へトラバース。)

6ピッチ目
(ほぼ終了点から。このあたりの景色は最高!)