■南ア/戸台川イワンヤ沢(右俣ゴルジュ突破、左俣溯行〜右俣下降)

2008.7.26-.27
鮎島仁助朗、渡辺剛士、大部良輔
 昨年11月、R口ルンゼに行った。本当に素晴らしかった。この世にこのような景色があるのかと・・。遠藤氏の「夢の通い路」という表現ただしく、まさに夢中にそこを駆け上がって行った。
 このような地形は石灰岩だからこそできるようだ。そう考え、それからというもの石灰岩のゴルジュが他にもないかと探したこと、探したこと。しかし、数多く探してみたけれど、ようやく見つけ出したのは鈴鹿の滝洞谷と戸台のイワンヤ沢の二つだけ。以降、私は勝手に『日本三大石灰岩ゴルジュ』と認定し、残り二つについてはいつか絶対に行こうと心に誓ったのだった―。

右俣F7の激シャワー中をユマーリング
 「ヤバい、おろしてくれ」「お、あの高速バス停のヤブいいねぇ」「ヤバい、もう一度おろしてくれ」「お、今度のバス停のほうがナイスだな」
 ナベは<フレンチスタイルトイレティング>と評しているが、やっていることは完全に禁断の高速道路道端×ンコに相違なく、それも2回もやったとなれば、もう彼は「中央道フレンチスタイル評論家」気取りなのである。諏訪からは毎度の長渕「Captain〜」で鮎&ナベは気合を入れるが、大部クンにはイマイチ伝わっていないのがわかって慙愧の念に耐えないが、気合を入れていたら道を間違えてしまった。結局、戸台についたのは予定よりもかなり遅い11時すぎだった・・。
 それにしても、クソ暑い。今日は各地で猛暑日になるらしいが、この戸台川は広大な河原で我々の頭に直射日光が否応なく降り注ぎ、半端ない。ウェットなんて着ている場合ではない、そもそもウェットいるのか?半信半疑だが、まぁそんなに遠くないのでもって行くことにしたのが、今回の勝因だった。
 駐車場から北沢峠方面を眺めると戸台川右岸に大きな岩壁が臨まれるが、イワンヤ沢は丁度その手前から右岸に流入する沢でわかりやすい。駐車場から25分程度歩けば平凡な出合につき、それなりに近い。
 溯り始めてすぐに10m滝。奮闘すれば登れなくはないが、別にコレを登りに来たわけではないのであっけなく右岸のトラロープ伝いに巻く。あとはしばらくゴーロ歩き。それにしても石が白い。石灰岩の沢だ。しだいに左岸がキレ落ちてくる。石灰岩の大岩壁。素晴らしい光景。右岸からは崩壊が入ってくると右に曲がってトンネル滝。もちろん登れず、トンネルの外からこれまた右岸から巻くが、ここから臨む右岸の石灰岩大岩壁は本当にデカイ!まぁ未登だろうが、弱点もなさそうだ。あとしばらくいくと1:1の右俣と左俣の二俣。ここまで出合から1時間。ちょうどこの左岸に平坦ないいところがある。今晩はそこに泊まることに決め、そこに幕営具などの登攀道具以外のものをすべてデポ。
 完全装備を着込んで右俣へと向かう。『日本の渓谷'97』の記録は左俣溯行、右俣下降を日帰りでやっているが、どうせ2日あるのなら、右俣のゴルジュと左俣のゴルジュ両方を突破したいという思いがあり、それでは「右俣ゴルジュを遡行すると考えるとぞっとする」なんて書いてあり、「ヨシッ」ということで一発目は右俣へ行きたかったのだ。
 そのキャンプ予定地を発つこと1分で、いきなり右俣ゴルジュの入り口F1があり、ここでロープを出し、クライミングシューズを装着する。
 F1はスラブ状の4m滝で右壁はツルツルだが左壁はリスがつながっており、フリーでは厳しそうだが、ネイリングでいけそうだ。鮎島が、エイリアン黄色、アングル、ナイフブレードをクラックorリスにぶち込んででエイドし、ヌメヌメ落ち口を慎重に越える。上には支点がないのでボルトを打つ。さすがにナベのヨセミテハンマーは早い。10分弱で打てた。壁よ、スマン。後続はこのボルトを支点にユマーリングで。なお、ボルトはホームセンターで売っている50本2000円のオールアンカータイプで、ペツルハンガーをレンチで締めるタイプ。ボルト(一つ40円)は惜しくないが、ペツルハンガー(一つ500円)だけは惜しいので回収した。
 この上すぐで沢は右に曲がりF2(2m)がある。まったく弱点はないが、左壁からショルダーで何とかいけそうだ。ショルダーの上は体重の軽い大部クンが乗るのは規定方針だが下は交代でということでまずはナベ。1度目は失敗したものの、2回目は精一杯のナベのがんばりと大部クンの根性のスメアマントルで越え、あとは釜に浸かりながらの肩がらみ(支点なし)でのユマーリング。
 F3は2mのナメ滝。別にどうってことはないが、とにかくヌメヌメでつるって行きそうなので慎重に一人ひとりいく。
 F4は倒木のある2m滝。釜に腰まで浸かりながらのショルダーから大部クンがヌメヌメの樋状を渾身のスメアで抜ける。下は完全にシャワーをモロに浴びながらも踏みつけられるのは、つ、つらい。上には残置ボルトがあり、それを支点に後続はユマーリングで。
 ヌルヌルのナメを慎重に越えるとゴルジュはものすごいことになってくる。側壁は15mは聳えたち、幅は狭く、すごい光景だ。
 F5は釜が大きい2m滝。例に漏れず、ヌメヌメ。それぞれ一度はドボン。でも足がつかないほど深いのね。コツをつかみ、各々慎重に越える。
 F6はこれまた釜の大きい逆くの字5mナメ滝。ヌメヌメなのでチョイ怖い。
 F7は一目見て弱点などなく核心だとわかる5m滝。っが、パイプラダーが左壁に残置されているので、それを使えばいいのだが、問題はどうやってそこまで行くかだ。ラダーは中途半端に滝の中段までで終わってあり、それを掴むまで弱点などありゃしないし、完全に猛烈シャワーだ。とりあえず、今日は高速とF2の土台でしか見せ場のなかったナベが突っ込むが、そもそも釜が深いうえ、安定して立てるところがなく、まずショルダーは無理そうだということがわかった。そうこうしていると、左壁にボルト穴があることを発見。とりあえず打ってみる。しかし浅くすぐ抜ける。ということで、ナベがシャワーを浴びながら(!)拡張工事開始。カンカンカンカン。それを、後ろからしばらく見ていると、大部クンが「あのラダーに向かって投げ縄ってどうすかね」と呟く。さすが若者は発想力が違う。難工事に没頭中のナベに、それとなく「投げ縄っという案も出てるんだけど」といってみた。一瞬の沈黙のあと、「とりあえず、これだけはやらせて!」ということで、とりあえず一本を打った。しかし、打ってみたのはいいもののその後、つづかない・・(後からは想像していた)。激シャワーを浴びつつボルトラダーを作る元気もない。ということで、大部案採用。選手交代で大部クンがせっかく打ったボルトで体を固定し、ハンマーをラダーの穴めがけて投げる!10回以上やったがダメ。そこにいるだけでシャワーを浴びて体力が落ちるので、再び選手交代、鮎島。元野球部の意地で投げると3回目でラダーではないが、これまた中途半端に引っかかっていた残置ロープが下まで降りてきて、残置ボルトにアブミをかけて、精一杯手を伸ばすと掴めた。っで、それにユマールをかけて激シャワーを浴びながらのユマーリング(つらい)。急転直下の展開だった。後続は鮎島が引っ張って行ったロープでユマーリングであがる(滝上には残置ボルト3本あり)。でも、どうやってこのパイプラダーをかけたんだろう?すごいぜ。でも、あのシャワーを浴びながらボルトを打つ姿は、今日のナベの一番の見せ場だったが、結果的にはあのナベが打ったボルトがたいへん役に立った。
 少しいくとまた大きな釜を持ったF8、5m樋状滝。また鮎島が釜を左からへつり、水流をまたぎながらの突っ張りフリーで越えるが、ノーピンだしまたヌルヌルで恐怖感いっぱい。後続は滝上の残置ボルトを支点にユマーリング。
 F9。3m滝。左壁に残置スリングがぶら下がっているが、無視してフリーで登る。
 これでようやく、ゴルジュは抜けたようだ。右俣ゴルジュ完全突破だ。残置を最大限利用したけれども。うれしいぜ。
 時間はすでに17時。幕営地まですぐそことはいえ、さすがに遊びすぎだ。さっさと同ルート下降。F9は残置スリングでゴボウで下り、F8は残置ボルトから懸垂下降。F7・F6は残置ボルトから一気に下り、F5・F4はウォータースライディングで釜にドボン。F3は慎重に下り左岸の台地に入って、潅木を支点に懸垂下降7mでゴルジュ入り口。あとはクライミングシューズのまま幕営地に帰るだけだ。
 薪は豊富。じゃんじゃん燃やし、ビールも上手い。水もすぐそこにあるし、虫もいない。焚き火でピーマンやらナスやらウィンナーなどを焼き、さらに鍋を食べると、20時には眠くなってしまった。

 2日目。
 夜はすごい雷雨があったが、爆睡できた。朝5時おき、水量も変わったとは思われない。焚き火をして温まり、いらない荷物はデポし、完全武装して左俣突入だ!出発すること30秒で左俣ゴルジュはいきなり始まる。右俣ゴルジュもすごかったが、雰囲気的には左俣のほうが側壁は高く、35m程度はあり、威圧度は高い。
 すぐでF1。チョックストーン状4m滝。・・・。いきなりですか、猛シャワー。若い大部クンは動じることなく、さっさと顔面にシャワーをモロに浴びながらも越えて行ったが、後ろから見てる我らは<朝一発目からコレカヨ>と想うと、たいそうツラいものがあるのだ。だいたい、水流中にしかホールドがないのだからそうならざるを得ないのだが、コンタクトレンズだと確実に外れそうだ。手術してよかった〜。後続も荷上げしてもらう。
 F2。5m滝。昨日は辛い役目しか見せ場がなかったナベがリード。出だしがシャワーモロなのであっけなくフリーで行くのを断念し、トライカムでA1していたが、あとは残置ハーケン(回収してしまった)とエイリアンでランナーをとってフリーで抜ける。意外とスタンスがあるが、抜け口がこれまたヌルヌルで怖い。滝上には残置ハーケンで支点があり、それに補強したアンカーで後続はユマーリングで上がる。
 F3は1mのちょっとした段差でこれは簡単に登る。
 F4。5mの樋状滝で左俣の核心となった。順番的に鮎島リード。右俣のF8と同じように水流をまたぎながらフリーでいけそうかナと思っていたが、そんなに甘くない。そもそも釜が深いし、へつりも厳しく水流落ち口までたどりつけないのだ。しょうがなく、すこし左側をヘツったあとそのまま左壁を右上するように登る。途中、ロストアロー(後続ユマーリング中に抜けた)とエイリアン緑でランナーをとり、ナイフブレード。このナイフブレードにアブミに乗り、その後はフリーでちょっとずり落ちるようにして落ち口に下りる。後続は、倒木を支点にユマーリング。ここまでまったく日が当たらず、もう震えが止まらないほど寒い。
 F5の1mは単なる段差で簡単に越す。
 F6は左壁に残置ロープがぶら下がった2m滝。残置を無視するように大部クンはフリーで厳しそうに抜けて行ったが、鮎&ナベは残置に抗うことなく大いに活用してゴボウで登った。
 これにて左俣ゴルジュは抜けたようだ。結果的に右俣のほうが長いし難しいが、左俣の方が圧倒的な側壁を持つ。両方いいね。クライミングシューズを脱ぎ、アブミやいらなさそうな荷物をザックにしまったあと、左俣上流部を溯行するが、20m滝までの1時間は平凡な渓相、20m滝からは連瀑となるが3回ほど左巻きで越す。なおもいくと、源頭の様相となり、適当なところから左岸の尾根に上がり、左俣溯行終了。まぁあのゴルジュ以外はたいしたことはない。
 尾根を越え、沢上を一本横切りさらに行った尾根から下降して右俣に入る。右俣の源頭は、V字状に崩壊している。ガンガン下っていくが、右俣は左俣以上に何もない普通の沢だ。1時間ほど下ると、さっきまで暑いくらいに晴れていた空模様が曇ってきて、次第には雷が鳴り出す。さらに急ぎ下ると、15m滝。記録では懸垂したようだが、簡単に左岸から巻き下れる。このころから、もう大雨だ。こんななかゴルジュを下るんかい!とも思い憂鬱だが、昨夜の雷雨でも増水はなかったので至って冷静だ。15m滝すぐで、右俣ゴルジュへと突入し、昨日と同じ要領で懸垂下降3回、ウォーターシュート3回でゴルジュ下、幕営地まで下った。
 デポ品を回収し、トンネル滝を越えたところで、雷雨は上がり、一安心。あとはゆっくり下って、戸台川の河原。再び酷暑の中、半裸の状態で歩くと駐車地までは近かった。

 結果も当初の期待を裏切らない極上のゴルジュだった!評価「特B」では収まりきらない楽しい沢が戸台にはありました。高橋さん、いいですよ!絶対に楽しいですよ。側壁が高く幅の狭い素晴らしいゴルジュ。5mクラスの滝が続き楽しいゴルジュ。確かにR口と比べると側壁は高くないし意外性も少なく感動するまでにはいたらないけれど、R口と比べると長いし、水量も多い。二俣でベースを置いて右俣ゴルジュと左俣ゴルジュの両方登れば充実の一本となること間違いなし(ゴルジュだけなら夜行日帰りで両方できるかも?)。が、真夏での溯行ならびにウェットでの完全武装と長渕DVDでの気合注入?はお勧めしたいところですね・・。
 とにかくとにかく、大部クン大満足!?の一本でした。大部クン、なんでもありの渓谷登攀の世界へようこそ。ナベもあのボルトうちサンクスでした。また、やりましょう!
 あとは鈴鹿の滝洞谷か。誰か11月に行きません??大阪わらじの岩崎さん大絶賛の谷ですよ。大募集中!

【記録】
7月26日(土)晴 戸台駐車地1130、イワンヤ沢出合1200、二俣1300、右俣ゴルジュ終了点1700、二俣幕営地1730
7月27日(日)晴一時雷雨 幕営地0715、左俣ゴルジュ終了点0900、左俣溯行終了点1110、右俣下降開始点1145、二俣幕営地1315、駐車地1430

【使用装備】
ロープ8mm×50m×1、カム(エイリアン、トライカム)、ハーケン(ナイフブレード、アングル、ロストアロー)、ボルト2、ユマール2s、アブミ各自、ウェットスーツ各自、クライミングシューズ各自
※ロープは下降のことを考えても30m×1で十分だった。
※ボルトは工事用オールアンカーで残置。ハンガーは2つとも回収。
※ライジャケは必要ないが、ウェットは欲しい。
※基本ヌメヌメなのでフェルトの方がいいが、やはり立ち込みではクライミングシューズのほうがよい。
※大きいカム(キャメロット系)は使えない。小さめカムとハーケンが有効。
※右俣F7はチョンボ棒が使える??

2008.7.28 鮎島 筆

右俣F1をネイリング中

右俣F2をショルダー

右俣F3をツッパリで越える(ヌルヌルなので怖いよ)

右俣F7でシャワーを浴びながらボルト打ち

左俣F1をシャワークライミング(顔面モロ)

左俣F2をシャワーを浴びながら登る

左俣F4の左壁を登る

核心部遡行図