■北ア/穂高岳屏風岩右岩壁大ジェードルルート

2008年8月2〜3日
渡辺剛士・鮎島仁助朗
 屏風岩右岩壁「大ジェードルルート」。岳人の「マイフェバリットルート」を読んで存在は知っていた。5月連休に涸沢から降りてくる時、「おお、明瞭ですっきりしたラインじゃん。」と思い、いつかは…と思っていたが、あっさりそのときはやってきた。
 メジャー路線を頑なに拒否する鮎島さんというパートナーを得て、二人とも「右岩壁で屏風デビュー」というマニアック路線を突っ走ることになってしまったのだ。飲み会で盛り上がって、酔いがさめてからトポを見ると「5級下」「Xが連続」…。うーん、大丈夫か?と思ったが、たまたまカモシカへ装備を買いに行ったときにやっていた佐藤祐介さんの講演会でハートに火がつき、「行くのは誰だ〜そうお前だ〜」と勝手に盛り上がる。

8/1(金) 西国分寺〜沢渡
寺本車で沢渡へ。

8/2(土)沢渡〜上高地〜横尾(BC設営)〜屏風岩右岩壁偵察〜帰幕
 美しい樹林の中を横尾へ向かう。ハイカーをガンガン抜き去るが、なんとツアーパーティーに抜かれた。さすがコリアンツアー、徴兵制の国は民間人でも気合が違う。長い林道歩きを経て横尾へ。
 横尾にBCを張る。東壁・雲稜狙いの高寺コンビも、T4ビバークから横尾からのBC形式に切り替える。
 13時ごろ偵察に出る。樹林の合間から見える屏風岩東壁を見て、「立ってるな〜」と心底思いつつ、岩小屋跡で高寺コンビと分かれる。
 その先はチラチラと樹林の切れ目から屏風を見つつズンズン進む。ようやく右岩壁が見えてきた。まあ東壁よりは寝ているのが救いだが、それでも立っているように見える。
 右岩壁は下部岩壁の下に草原が広がっているのだが、よく見ると、ルンゼ状スラブの下に押し出しだか踏み跡だか分からないが草原の切れ目がある。まあ、右岩壁のルートのほとんどはルンゼ状スラブと取り付きを共有しているので、ふみ跡くらいあって当然だが。で、「あれを目指そう」ということになる。
 本谷橋を渡ってから、涸沢右岸の藪を漕いで踏み跡を探すが見つからない。しばらく行ってから「このあたりから直登りすればルンゼ状スラブの下にでるだろう」と検討をつけて右岩壁方面へ向かうとルンゼ状スラブの押し出し(ふみ跡)に入った。さすが鮎っちである。
 ルンゼ状スラブ取り付きにガチャをデポして下降。下りながらケルンを作ったり枝を払って見通しをよくしたりした。めんどくさいが、やり始めるとハマる。最終的に、本谷橋の100mくらい下の川原に出た。夜は宴会。我がマイフェバリットつまみである「中華風エノキワカメ」は大好評であった。

8/3(日)
2:00起床 2:50横尾BC出発 4:10ルンゼ状スラブ取り付き(登攀準備) 4:30登攀開始 5:30(?)大ジェードル取り付き 10:45カモシカ尾根 13:30横尾BC 15:00撤収 17:50上高地
 昨日作ったケルンを利して、サクッと取り付くことができた。
 大雑把に言えば、本谷橋を渡らずに左岸の川原を歩き、100mくらい下ったところで渡渉して右岸に渡り、つくっておいた巨大ケルンから藪に突入し、一段上がったあと左(下流側)にちょっとトラバースしたあと、どんどん登っていく感じだ。
 取り付きでキジをうったり、ちょっとウダウダして時間をつぶす。傾斜が寝ているのでフリーソロ×2でバンドまで上がる予定だったが、こう暗くては無理だ。日の出とともに登攀開始。ちょっと悪いトラバースがあるほかは問題なくバンドまで上がり、バンドをトラバースして2ルンゼ近くまで。どん詰まり、つまり2ルンゼ入り口の右壁なのか、そのちょっと手前のスラブなのか迷うが、2ルンゼ入り口の右壁は壁というより大滝なのでパス。スラブに取り付く。それにしてもブヨが多い。こんなの聞いてないよ!
1p目(ナベ W+)
出だし、細かくてリーチイなスラブを右上。珍しい形のボルトにクリップできたが、まあ落ちたら飛ぶだろう。回り込んで凹角に入ると、潅木で支点は取れたが先のスラブが濡れ濡れで話にならず、ピナクル状のブロックから凹角を形成する左の段にあがり、あまり良くない草付スラブを少し登ったらまた行き詰ったので右の凹角へ降り、凹角を少し登ったあと、段差の上にビレイ点があったので、上のほうにテラスがありそうだったが誘惑に負けて、段差の上に上がってビレイ。ハーケンとRCCだったと思うが、RCCのアゴがきちんと効いていて好感を覚えるビレイ点だ。立っているところはレッジなので居心地は悪い。このピッチ、特に難しいというわけではないが、ルートが複雑で時間がかかってしまった。当然ビレイした鮎さんはボコボコ。ちなみになぜかここのブヨは顔面にたかる。二人とも耳をやられてものすごく腫れた。
2p目(鮎 X- 〜 X)
段の上をそのまま直上すると、1p目からテラスがありそうに見えたあたりに入り、ビレイ点からは見えなくなった。結構苦労しているようだ。
フォローしてみると、見えなくなったあたりはテラスどころではなく、岩が超もろい。そこを抜けると美しく白い小カンテで、このルート中唯一フリーっぽいムーブで楽しい。レイバックチックなムーブなのだが、カンテ裏のクラックが閉じていたりするので、リードは大変だ。
3p目(ナベ W AA0)
出だしからハングの木登り。足がないので疲れる。しかも木の上には何も無く、無理やり木の上に立って左の垂壁にハーケンを叩き込んでA0気味に左へ乗り移る。その後も悪い木登りが続く。
4p目(鮎 W+ AA0)
見た目はすばらしいコーナー。越沢バットレスの「右の滑り台」に似ている。「ちきしょー、難しそうだけど面白そうだな、ついてねーな」と思いながらビレイしていたが、出だしからちょっと難しくてキャメ#2でAA0を使い、その後も脆い岩に奮闘していた。「ああ、リードじゃなくてよかった」。フォローしてみると、脆い!この傾斜とランナウトでホールドが動くというのはヤバイ。一応左のコーナークラックからキャメでランナーは取れるし、たまに残置ピトンもあるが、コーナーは脆いしピトンはたいていひん曲がっている。これはリードだと精神が磨り減るだろう。
コーナーを抜けたところにリングボルトのビレイ点があったが、鮎っちはその上の潅木まで伸ばしていた。このリングボルトのビレイ点でさっきから我慢していた○○○をハンギングで決行。ナベのフレンチスタイルはついに高速バス停○○○からバーチカル○○○へと進歩した。これでビッグウォールも怖くないぜ(いないと思うけど、08年8/9〜10に登攀予定の方は、私の残置に気をつけてください。まあ盆までには雨で綺麗になっているでしょう)。
5p目(ナベ V+)
正規ルートは、左のぬれたコーナーから、(どうなっているのか分からないが)上に行って振り子らしいが、どう見てもぬれているし脆そうなので右手の潅木付きスラブへ。右上していくと潅木に囲まれた小スラブにリングボルト1本のビレイ点があり、足場は安定していたが信用ならないので上の太い潅木でハンギングビレイ。このピッチ、よく見て動かないと潅木が途切れて行き詰るので注意。大体2時の方向。
6p目(鮎 V)
同じく木登り。大体1時の方向。
7p目(ナベ W)
すぐに「白樺テラス」へ到着。右へ行き、スラブをトラバースして(怖い)、バンドへ。本来はそのままバンドを辿ってカンテを回り込むようだが、回りこめるように見えなかったので右上してしまい、脆くて悪いフェース&草付きをノーピンで上る羽目になる。潅木でビレイ。
その後、フォローしてきた鮎さんがもう10m伸ばしてカモシカ尾根到達。
その尾根を下降しようとしたが、すぐに右岩壁に吸い込まれていきそうだったので、小ルンゼを1本渡った向こう側の尾根を下る。藪がひどいだろうと覚悟していたが、鹿道が結構使えて、藪は時々という感じ。やがて尾根が切れ落ちたところでY字状に尾根が分かれていた。「うわーどうしよう」と思って見回す。視力2.0コンビの目はごまかせない。Y字の付け根にある太い木に残置スリングを発見。手術してよかったぜ。
ここから懸垂4発で3ルンゼ押し出しへ。押し出しから10分も歩かないうちに登山道に出た。

横尾BCで待つこと1時間半、高寺コンビが下山してきた。
長い林道を経て上高地へ。本当に疲れた。
帰りの竜島温泉は、温泉も飯も質が高く大満足。

【装備】
50mロープ2本 → これじゃないと下降でお話にならない。
キャメC4#0.75〜4 → #4は使わなかった。#1・2・3は結構活躍した。
TCU#3〜4(キャメ#0.3〜0.5に相当) → よく覚えてないけどあまり使わなかった。
エイリアン黄・青(もう1つあったけど忘れた) → これもあまり使わなかったが、どこかでガッチリ効いていたのを覚えている。
ピトン大量 → 薄刃ピトンを1回こっきり
⇒ ダブルロープ大前提、キャメC4を#3まで、スモールカム1式、ピトンは少なめ、潅木が多いので長いスリングを多めで。

【感想】
 本谷橋あたりから見える大ジェードルは本当にカッコいい。しかし、実際に登ってみると草付は多いし岩は脆いしで、ぜんぜん快適ではない。振り子に行っていないから言い切ってしまうのは問題だが、あの壁が上部で急に硬くなるとは思えない。冬にきちんと着雪・氷結したならば、クリーンな冬壁として中〜上級者向けのいい課題になるだろうけど。
 すべてを終えた今、思う。
 高橋さんは「変態」と評していたが、まさに変態プレイであった。我々の「屏風童貞」は、変態へとささげられてしまったのだ。
 「やっぱり、アブノーマルの良さは、ノーマルを飽きるまでやってからじゃないと分からないね☆」
 そう思うことしきりである。もちろん、それなりの良さはあったけどね。ほとんど残置なんてなかったし。

1枚目:2p目をリードする鮎さん。藪の向こうはボロボロです。
2枚目:4p目。見た目は最高のコーナー。ムーブは難しくないが、ガバの3割は「ウソピョーん」。スタンスもたまに欠ける。当然支点は超プア。



記)渡辺