■北ア/穂高岳屏風岩東壁雲稜ルート[登攀]

2008.8.2-.3
高橋弘、寺本久敏
 THE WALL。
 横尾の谷の輝く壁。
 それは厳しくも充実した登攀だった。
 GW北尾根の敗退行の帰路、涸沢から下山するときに初めて正面からまみえた。そのときにナベが"絶対今年は登りたいですねぇ〜"などというものだから敗退にいたる唯一絶対の原因となった俺は"そうだな!"とうなずくしかなかったのだ。それまでは高田・青山さんの時の話をきいても俺にはまあ関係ないな見たいな気分でいたし、治さんが登りたいといったときも曖昧にウ〜ンとしか言えなかったのである。
 そんなわけで最高の沢を小又峡遠征で堪能したあと、同意してしまったからには気になっていた宿題、屏風岩を決行せねばというわけで7月23日の例会に屏風岩を持ち出した。当然、ナベと行くことが前提だったがナベオの返事は"どうしようかな〜"。な、な、このヤロー。いや、日程なら仕様がない。しかしそうじゃないようなのだ。ほんじゃ俺に言わないでくれるう〜!幸いに寺さんが俺が行きたいと言ってくれたので盛り上げた気持ちを冷ます必要はなかったのである。ナベはといえば鮎とこそこそ相談して俺達は屏風右岸壁の"大ジェードル"に行きますときた。とどのつまり、"雲稜"はやつの屏風ではなかったようなのだ。大ジェードル?なんじゃそりゃ?飲み会でトポを見せてもらうとルートグレード5級下。まあ、人気度×印ではないようだが、初めての屏風でそんなルートを選ぶ変態はこっちから許してくださいってなもんだ。こっちは寺さんとノーマル路線で行くんで燃料油高騰の折協力してアプローチしようということになった。
 計画は土曜アプローチ、日曜に登攀・下山だったので初日はどう考えても、仮にT4まで登ってビバークするにしてもだ、急ぐ必要はないのでノンビリ沢渡を出発して上高地入りした。なにせ高・青コンビは初日に屏風を登って翌日の東稜に備えてT4でビバークしたってんだから。一本しか登らない俺達は無理して早出するとすることがなくなってしまう→挙句の果て早くから飲酒→深酒→翌日の寝坊または志気減退 目に見えるぜ。できればT4、悪くてもT4取り付きで泊まりたかったが変態コンビが横尾でテントを張っているのを見て、つい隣にツエルトを張ってしまった。夕食は彼等に焼肉とかキャベツ・ナス料理をごちそうになりました。ありがとうございます。結果的に横尾のあとは水場が一切なかった(横尾谷の渡渉はふざけるなっ、てくらいに冷たくて一瞬にして感覚が麻痺してしまうのだが、涸沢からの汚水で飲料不可だそうである)ので正解○。ツエルトをはったあと水、登攀具をT4取り付までデポしに向った。ついでにT4尾根下部2ピッチを試登。登ってみると見た目以上の傾斜があり、岩に砂がのっていて甘くなかった。特に2P目は寺さんが何でそこに向うの?っていうラインに向って奮闘して登ってしまったので(あとでトポ見たらバリエーションV+〜V)、フォローしたあと懸垂して、明日に備えてノーマルラインを再度登る。とにかく我等にはこの日のデポが成功の大きな要因だった。

 日曜は3時に出発した大ジェードル隊を見送って3時20分くらいに横尾出発。T4取り付き手前で先行パーティに追いつくた。遠藤ガイドの二人組で今朝(っちゅうか深夜だね)徳沢を出発したそうで雲稜を登って屏風の頭から奥白又経由徳沢に下山するという。懸垂ルートを聞けたのでとても助かりました。この日は屏風東壁に俺達と遠藤パーティしかいなかった。雲稜2P目ですでに遠く離され、3P目を登っている間に視界から消え、壁を独占!ノンビリ登ることができたのはよかった。

T4尾根
1P(寺本)30M W+
 昨日登っているからいいものの、甘く見てると面食らうと思う。ブヨ多し
2P(高橋)25M W+
 凹角からフェースに乗り移るところがポイント。ブヨますます多し

そのあと、ロープを解いて途中 FIXロープを掴んだりしてT4まで。なるほどツェルトどころかテントさえ張れる。まだまだブヨ。ここでは虫除けスプレーはフィフィと同じくらい必須装備だ。

雲稜ルート
1P(寺本)45M X-
 オープンブックのコーナーをステミングして体をのけぞらしてロープ一杯登っていく。まるでヨセミテのようだ!(笑)。まだ7時前だってのこの太陽の暑さはやばい。他パーティがいないのもうなずける。
2P(高橋)35M X+(5.9)
 ピナクルから右上してルンゼ状に入ってから階段状を左上。出だしのテラスを右往左往。どこも難しそう。どこがいいと思う?と相談しようにも一段下でビレイしている寺さんは視界の外。プロテクションからは左に離れるが真ん中から細かいカチをクロスムーブで試してみる。一段上がったらもう戻れなく、久しぶりにアドレナリン放出。
3P(寺本)35M A1/W+
 看板ピッチであるが全ルート中2番目にやさしいピッチ。ボルトの架け替えとはいえ上部でブランクセクションをつなぐフリーが2箇所ありそこは確実に難しい。特筆すべきは基部の扇岩のテラス。ここより素晴しいビレーポイントを俺は知らない。背後の岩で日射が遮られ、壁の傾斜が人間工学的に優れ、寄りかかると垂直のスラブ人工している寺さんを疲れなく目で追える。馴れない人工を時間をかけて登っているのだから煙草をやりながらでも文句はないでしょう。フリーのラインにペツルが3本あるがこんなところをフリー(11C)で登るところを見てみたいものだ。言うまでもなく俺には可能性が全く見えなかった。ついでに右の旧ファイナルカット(10B)のラインもどこかわからなくこんなとこ登れんのって感じ。
4P(高橋)30M A1/V
 フリーで登ると10Aということで、登る前はいっちょトライしてみっかと思っていたのだが、現実は・・・落ちる可能性とプロテクションの強固さを量りに掛け一瞥速攻A1を選択。左の巨大なフレークを利用するのかな?触ってみたらはがれそうだったんですけど。まあ、3P目でA1しているのでもうなんでもOKです。結果全ルート中一番やさしいピッチに化す。東壁ルンゼに廻りこむときれいなクラックが続いていたがキャメ3番くらいが必要そう。途中のピトン一本では不安が生じ、右の踏みあとを回り込んだところでピッチを切る。ルート中唯一の灌木帯。
5P(寺本)25M W/A1
 例のクラックの上部はコーナーになっていて、楽ではない。同様にアブミに躊躇なくなっている寺さんは奮闘する前にA1。
6P(高橋)30M W+/A1
 コーナーに覆いかぶさる岩を左に回りこみスラブにでるところでまたアブミ。もう節操がない。フリーの可能性は充分感じられたが5.8くらいか。その上は・・・快適なスラブだあー?"難しい"をクライマーは"快適"と呼び変えているわけ?
7P(寺本)40M W+/AO
 ここからは傾斜も寝て楽勝そうなので6P目で終えようかと寺さんと話しもしたが、やっぱりここはこの1Pを登ってスラブのドンつき、ブッシュの始まるあそこまで登ろうと二人で決める。3級だあー?フォローはA0しなかったけど、最後這い上がる所はW+はあるね。足元から樹林帯への踏みあとが始まるのでここで終了。同ルート(ラインは雲稜とズレル部分が多いが)懸垂で下降。

 とにかくどのトポでもU(フザケルナ!)〜Wと簡単な記述しかない俺達で言うところの5/6/7Pが甘くないのだ!だから充実するのかもしれない。この前登ったチャンピオン岩稜より難しかった。当たり前?屏風の雲稜って人気ルートなんで楽だろうとおもっていたのだが間違ってました。あの高度感だけでも特筆に価する。

 横尾に戻ると俺達よりずっと時間が掛かるに違いないと考えていた大ジェードル組がすでに戻ってテントをたたんで木陰で横になってた。変態だけど偉いよ。よく登ったよ。

記:高橋

【記録】
8月3日(日)
 横尾0320 - T4尾根取り付き0430/0500 - T4 0600/0630 - 終了点 1100 - 同ルート懸垂 - 横尾1500 - 上高地1730

同時登攀 右岩壁大ジェードルルート

山登魂ホームへ