■八ヶ岳/赤岳東壁Aルンゼ(大門川Aルンゼ)

2008.10.4
鮎島仁助朗、大部良輔、渡辺剛士
 八ヶ岳のバリエーションはやはり積雪期というイメージが強い。それはこの山が火山性の岩質でちょっと脆いからなのだろう。しかし、無雪期なりの良さが八ヶ岳にはある。なにより、あの風景。アルペンチックでボルケイノイック。日本ではなかなか味わえないような景色を無雪期の八ヶ岳は見せてくれることをあの「エギーユしし」は教えてくれた。爾来、心の中ではししが岩リベンジとともに無雪期の八ヶ岳、特に晩夏の八ヶ岳へ私の課題となっていた。その筆頭が赤岳東壁ともいえる大門川奥壁Aルンゼ。ナニに加えても名山の頂崖は美しいものだし、大系の記述も心くすぐる。

赤岳東壁全景とルート
 夜。「うぉぉ」。ナベ氏が呻いている。魂の継承者と目される漢はそんなところまでも無意識のうちにH氏を意識しているようだ。確かにうるさいが、でも気持ちはわからなくはない。なにせ寒い。氷点下まではなっていないはずだが、とにかく寒い。今回はフレッシュ3人組が集まったわけだが、この3人がそろうと幕営地からの顔シャ(顔面シャワー)記録、30秒という記録を樹立したイワンヤ沢をどうしても思い出してしまい、今回、実はそれを更新する場所だったらどうしよう・・と思わず考えてしまう。でも、その場合は今回もオーブ君に突っ込ませてちょっと様子見しようと戦略立てると気が楽になるってもんだ。(敗退もまた良し)
 林道を歩く。途中、県界尾根の登山道を右へ分けたあともまだ林道を歩く。天気は快晴。赤岳もきれいに見渡せられる。実のところ、昨日までは赤岳にそもそも東壁なんかあったっけ?という感じで大系の記述を見ていたけど、いやいやいや・・。うーん、ある!明らかにある!それも明らかにブッ立っているのがある!いやでも、Aルンゼってスラブなんでしょ。あれは全然スラブじゃねぇよな。オイオイ。楽勝気分だったが緊張が走ってくる。さらに拍車をかけるのが、林道のアザミ・・。痛ぇよ。ちょっとオーバーリアクション気味のナ&鮎の一方、オーブ君はまったくノーリアクション。北又谷でオロロアブに集られつつも無反応だった鈴木さん(仮)はまさしくそんな感じだったが、まさか、彼はそっちの継承者を目指しているのか・・?そっちはさらにヤバいぞ。今後、注視が必要のようだ。
 最終堰堤を越えるとこの林道も終了。さて、ようやくアザミから開放される・・と思ったら、ガーン・・。目の前には、約50m続くアザミゴルジュ・・・。とりあえず作戦通りオーブ君を突っ込ませて様子見ようか?ウソです。巻けるぜ。よかった。しかし、巻いたらなんか変な支沢に入ってしまった。だいたい、ものすごくわかりづらいのよ。このあたり。本流をただ辿ればいいはずなのだが、全然水が流れておらず、どれが本流なのかまったくわからない上、なんか同じような幅の沢が入り込んで、複雑な地形なのだ。幸い、修正可能な位置だったので、戻る。それにしても水が流れていない。まったく水を汲んでこなかったナベにはちょっと焦りの色が浮かんでいる。最悪、頂上で水購入だな・・と思ったらようやく水が出始め、安心安心。あぁ長い伏流だった。
 なおも複雑な地形を慎重に進んでいくと、ナメになり、少し行くと二俣。右へ入るとちょっと滝が出始める。まぁ楽勝な部類だ。それにしても東壁と目していた壁。うーん。ブッ立っている。普通、スラブって近づいていくと「あぁ寝てるね」ということになるのだが、明らかに寝てない!うーん。でも行くしかないのだ。沢といえば沢、ガレといえばガレという地形をさらに高度を上げる。でも後ろを振り返ると、なんと景色の素晴らしいこと。すごいね。きれいだね。なにせ明るく、駐車地から辿ってきた道、すべてが振り返られる。それにこの高度感。八ヶ岳の沢でしか味わえない本当に風景が足元に広がっている。
 簡単な滝をいくつか越えると奥の二俣まできた。左がAルンゼ右がB/Cルンゼだ。Aルンゼの滝は10mほどでハングしている。とても登れないので真ん中のリッジから樹林を拾いつつ巻くが、途中スラブがあったりしてちょっとショッぱい。ロープは出さなかったけど、出しても良かったかもしれない。滝上には折れ曲がったRCCやハーケンが残置されていた。
 Aルンゼに入ってなおも高度を上げていく。すると、東壁と目していたブッ立っている壁がどんどん右へ離れていくではないか・・。あれ?おかしいな。途中でどこか左の沢に紛れ込んじゃったかナ??いや、そんなことは無い。大系の記述どおり来ている自信はあるんだけど・・。となると、あのブッ立っているところはAルンゼじゃないの??確かに、大系の溯行図を見ればBルンゼの奥壁がある。それか・・!まぁ良かった良かった。でも、一気にテンションは下がる。
 二俣っぽいところを右へ行き、4m程度の滝。ハングしているが、ちょっと登れそう。とりあえずここでクライミングシューズを履く。しかし、取り付いてみればムリ。左岸から巻く。ここから涸連瀑(水は奥の二俣のあとない)となる。クライミングシューズを履いているし、ホールドもガバが多く、また岩も決して脆くなくロープは出さない。でもちょっと高度感があるので、あってもよいかもしれない。実際、一つRCCが打たれている滝もあった。
 あとも順調に滝かスラブか良くわからないところをガンガン高度を上げていく。もう鮎&ナはバテバテである。なにせ寝不足+1000mUP+久しぶりの標高2500mオーバー。ちょっと高山病気味なのか、息も絶え絶え(?)なのだ。ということで、休憩が多い。そして、ゴミも多いね。ゴミの多さで言えば、これまで経験したルートの中でも随一。スパッツ、帽子、スリング、アイゼンはもちろん、ドラム缶、バケツ、シャベル、2月の赤岳天望荘の一酸化炭素中毒のお詫び看板まである。使えるものが一つもないのが悔しい。いやでも、足元はすごい景色だ。二俣ですら結構よかったが、ここまで上がってくればなお素晴らしい風景が眼下に流れている。ゴミ多いけど、この風景を見るだけでも来てよかったぜ。
 ようやく赤岳山頂小屋が見えてきた。そこまで何の障害もなさそうだ。東壁?まぁいいや。滝やらスラブやらよくわからない岩場を登っていくと、スラブ。大系では300mと書いてあるがその1/10程度、30mくらいだろうか。でも、「やったぜ」という感じでこのスラブを登りきると、あとは岩質はいきなり脆くなる。まったく難しくはないが落石しないようにすることに気を使う。そういうところを100mぐらい登れば、赤岳山頂小屋にモロに突き上げた。あとは石垣を登り、登山道へトラバースするだけだ。
 景色最高の赤岳山頂に40分ほど佇み、下山。県界尾根は下り始めは鎖場が多く、傾斜が急だが、大天狗までくだれば歩きやすい道だった。山頂から2時間で駐車地。
 あぁ、一箇所も顔シャがなくてよかった。

 赤岳東壁は、立っている感じの壁が目に入って一見オイオイオイッ嘗められねぇぜと思いますが、Aルンゼは実はその壁の左で難易度的には全然難しくないです。おそらく単独でもOKでしょう。
 いやでも、ちょっとおススメしたいですね。登山ルートとして。適度にちょっと刺激あって、明るいし、こんな秋晴れの日ならものすごく高度感あって景色がいい。ゴミが多いのがちょっと難点ですけど、薄くら〜い奥秩父に行くよりは個人的には好きだな。八ヶ岳サイコー。
 ナベ&オーブ君お疲れ様でした。全然、難しくなかったけど体力勝負の癒し系というパターンで、個人的にはGood&Enjoy Climbingでした。ベリーサンクス。
 なお、2回戦を予定していた「ぼんち」。やってなかったっすよ。 休みあるんすね。残念ですが、代わりに行った石和にある20号線沿いの「丼多来」という店は大盛無料かつ量も食べられる範囲内でナイスでした。味もナイス。でも、石和だからね。あまり行かないでしょうけど。ご参考まで。

2008.10.6 鮎島 筆

【記録】
10月4日(土)快晴のち曇
 駐車地0610、二俣0750、赤岳1100-1150、駐車地1350

【使用装備】
 クライミングシューズ
※ロープは補助ロープ程度で十分だと思う。

【写真】
赤岳東面全景 赤岳東壁拡大図ならびにルート
大スラブ(30m)を登る 終了点の赤岳山頂小屋。