■鈴鹿/犬上川滝洞谷[溯行]

2008.11.2
鮎島仁助朗、渡辺剛士、大部良輔、鈴木仮兵衛
 この関西の石灰岩の沢の存在、その高い評判を前々から聞いてはいたが、本格的に意識したのはやはりR口ルンゼを登ってからということになる。その後、今年7月に行ったイワンヤ沢は期待をまったく裏切らない極上の楽しい沢で、どんなに東京から遠かろうがこの11月、滝洞谷へ向かうことを私に決意させた。ナベの日程調整を機に、イワンヤメンバーが集結。加えて関西の雄、鈴木さんも参加され、さらに濃い〜メンツでの決行となった。

半裸で迷路ゴルジュ最後の滝の釜に入水する鈴木
 お昼を甲府の"Bんち"取った後、中央道経由で彦根まで。夜7時に鈴木さんと合流し、お墓のある林道終点で幕営。お墓前で宴会。
 朝6時に起床、1時間後に出発、2分林道を歩けば堰堤。左から越え、水が一切流れていないゴーロを3分歩くといきなり石灰岩ゴルジュのはじまり始まり・・、とものすごく近いアプローチだ。
 最初は3mのチョックストーン滝。なんだかハングしていて難しそうに見え、鈴木さん以外はクライミングシューズに履き替えるが、近づいてみればCSの右から簡単に越えられそう。ロープを引っ張る必要まったくなし。というわけで、まずはオーブ君に突っ込ませ、後の3人は記念写真にとバシャバシャと即興写真撮影会の場と変化した。なんだか、まったく緊張感がない。
 ゴルジュはなお続き、変な水たまりがある小滝をそれを避けながら登っていくと、5mぐらいの滝。水は流れていないが、釜には背丈ぐらいの水が溜まっている。右壁には残置ハーケンが見え、そこをエイドで登るようだ。鈴木さんがリード。しかし、少ししかないと思っていた残置も、実際はずっと近い間隔でハーケンがある。ちょっと落ち口は怖いものの5ポイントぐらいの簡単なアブミの架け替えですんだ。あぁ、残置がなければ楽しいエイドなんだろうけれどなぁ。もったいない。まぁ、一個抜けてしまったもの以外はバッチリ利いていたし、故意に抜く必要もないので、そのままにしておいたけど・・。
 続いて2mのCS滝。ナベがここぞとばかりにヒールフックを決めて、難しそうにでもカッコよく抜けて行ったが、実際のところ鈴木さんが編み出した「背面ツッパリ」で登れば、超楽勝に登れるので、ナベが用意したお助け紐は完全に無視された。これにて洞窟ゴルジュは終了。
 鹿が上を走っているのか落石が多い沢筋を行くと7m滝。まぁ簡単に右岸から巻けるのだけれど、東京からわざわざ来て、巻いてしまうのはもったいない。というわけで、鮎島がリード。出だしがなくナイフブレードを打ち込んで、それにアブミで乗り込んだあとはカムをランナーにフリー。ここは皆、巻いてしまうのだろうか、残置もなく、よほど洞窟ゴルジュのエイドより楽しいクライミングだったと思う。簡単に巻けちゃうけど。
 2mのちょっとイヤらしい滝を越え(鮎:落下)、ちょっとしたコケむした小滝を越えてなおも行くと、井戸底ゴルジュに入る。
 確かに井戸底にいるようなゴルジュに7m滝がある。オーブ君に「やるかい?」と聞いたら「やっていいんですか!」と来た。そうでなきゃね。オーブ君はルンルンと残置ハーケンにかけて、カムをぶち込みあとはサクっとフリーで抜けて行った。Wぐらいかな。でも、沢靴だと厳しいだろうね。
 越えてすぐその上も7mぐらいの滝。ここは鈴木さんがリードするが残置がない。まずは左のカンテ状を3mほど登り、右に回り込んでチューブ状スラブを登ろうとしていたが、かなりためらっているのが下からでも覗い読める。下から「どうした〜?」とからかえば、「ホンマに悪いねん」と一喝。結局、あまり良い支点もとれない中、ツルツルなスラブへ突入し、悪そうに越えて行った。フォローしてみればビックリ。あぁよくこれをプアプロで、しかも沢靴で突っ込んだなぁというエグいシロモノであった。「さすが鈴木さん」というところの見せ場で、おそらくこの滝洞谷の技術的な核心はここだった。
 これで井戸底ゴルジュは終了。ゴーロを少し行けば、今度は迷路ゴルジュがコケむした滝となって開始。
 ここはここまでまったく見せ場がないナベの出番だ。確かに、あのヒールフックは鈴木さんに「ムダな動きをするでない」だと喝破されてしまったしね。ナベは左のコケコケのスラブを避けて、右のハングしているバンドを左へトラバースするようにボルダームーブで越えていく、カッコいい!でも、荷上げの最中、「ナベのムーブ見ると、簡単にいけるんちゃう?」と鈴木さんがおっしゃり、実際にロープなしで登り始め、簡単に登ってしまった。という私も、左のコケむしたスラブがどうなのか確かめたく取り付いたら、実際は簡単でナベのビレイ点に達し、結局ナベのロープを使ったのはオーブ君だけだった・・・。これを見たナベは「せっかくリードしたのに、意味ないじゃん!それはないでしょ」と人権侵害を訴える。「あると思います」で返し、とは言いつつもかわいそうなので、その上にまだ続くチューブ状のスラブ滝もやってもらうことで宥めることにした。なお、その上のスラブはちょっといやらしく、我々もおとなしくフォローしたことは明記しておく。
 これでゴルジュは終わりだと思ったら、しかし、なんとその上が一番のポイントであった。ただのツルツル1m滝なのだが、釜が深く水が溜まっているのだ。これを越えるには絶対にそれに浸からなければならない。11月なのに・・。うーん、巻いちゃう?という現実的な雰囲気になるが、「いや、ここまで全部直登しているので、巻いちゃダメでしょ」ということで、ローテーション的に私がジャブジャブと入水して越えようとするが、水中にホールドがない。さすがに3分ほど浸かると冷たいのでさっさとあきらめ、水中ショルダーに戦略変更する。ナベにきてもらって、私を踏んづけてもらって越えてもらった。11月の水中ショルダーの土台だぜ。これで今回のMVPはもらったぜ、そう思ったら甘かった。オーブ君がまるで南アジアの写真でよく見る光景で頭の上に荷物を乗せて、首まで浸かって行くではないか・・!!左から行けば、腰ぐらいまでで済むのに、なぜあえて首まで浸かるのか!?やられた・・。オーブ君がMVPか・・。そう、思ったら、鈴木という名の山崎さん(実名出しちゃうぜ!)は上半身裸になって入水し始めるじゃないか・・。11月に半裸で水に浸かるんですか!?ヤバい、上には上がいる。MにMをカブせてくるとは・・。いつの間に眼鏡が変わって、スマートなインテリにイメチェンされていたが、中身はパワーアップしてるじゃん!どちらにせよ、このM男の競演劇場は、図画的にありえないほどオモしろく、大ウケだった!
 これを抜ければ、ゴルジュは終了。ゴーロを歩けば、水流が出てきて、それをしばらく辿ると左岸にビニールテープが巻かれた植林が出現。それを合図として左岸に這い上がる。稜線にでて大見晴(全然見晴らしが良くない)を登った後は、エアリアの登山道を探したが、まったくわからないのでそのまま稜線を下る。途中、ナベはどうやらに土の中に隠れていた蜂の巣を踏んだらしく、3箇所ほど蜂に刺され、ささやかにM男をアピールしていたが、あの入水シーンのインパクトには勝っていなかったのは間違いない。ちょうど入り口の堰堤のところに下り、あとは林道を2分で駐車地。
 なお、この沢の遡行中、終始、ナベを先頭に関西弁を基調としたバカ話がなされていたが、後から思い返すと内容のレベルがあまりにひどく、文字にするのが恥ずかしいため記録できないことを追記しておく。
 やはり、すごいです。楽しいです。面白いです。さすがは石灰岩。石灰岩の沢は特異な造形で、テクニカルな素晴らしい渓なのはわかっていたけれど、滝洞谷もその例外ではなかった。惜しむらくは残置がたくさんあることだが、アプローチも近く、面白い滝も多く、また石灰岩の沢ということを否が応にも見せ付けてくれ、充実した溯行になること請負だろう。これだけのために関西へ遠征するのも悪くないと終わった後も私は確信している。それだけ、おススメです。
 これにて鮎島公認の日本石灰岩ゴルジュ三部作は完結。私の完結後の感想を率直に言わせてもらえば、「やっぱりR口ルンゼに勝るものはなかったな」ということかな。だって、私をこのすばらしいイワンヤ沢と滝洞沢へ向かわせたのが、そもそもR口ルンゼなのだから・・。でも実のところ、どれがNo.1なんて人それぞれで感じ方は違うだろうし、あまり意味がないものだ。意味あるのは、石灰岩ゴルジュは確かに素晴らしく、楽しいという感覚。イワンヤ沢の縁でこれに共感してもらい、わざわざ関西まで一緒に遠征をしてもらえたナベとオーブ君には感謝感謝なのです。またそして、こんな素晴らしい沢に、こんな楽しいメンツでいけることは生涯二度とないもので、鈴木さんへも深謝多謝なのです。ありがとうございました。
 これにて三部作は完結しましたが、私はまだ四部作目があることを実は信じています。今後もまだまだ日本全国を捜し求め続け、遡行します!。情報ある方、ぜひ御一報を。また、完結されてない方、踏み入れていない方、ぜひこの三部作へ。行けばきっとわかると思う。この面白さが。この素晴らしさが・・。もっとも、コンプライアンス上、強くはおススメしませんけどね。

2008.11.4 鮎島 筆

【記録】
11月2日(日)曇ときどき晴
 駐車地0710、井戸底ゴルジュ入り口0945、迷路ゴルジュ上1230、稜線1315、駐車地1450

【使用装備】
 ロープ(30m、20m)各1、カム(#0.1~#1.0)各1、ハーケン(軟鉄、ナイフブレード)、アブミ各自、クライミングシューズ各自
※鈴木さんはずっと沢靴で登っていたが、明らかにクライミングシューズの方が有効
※後続はユマーリングの方針だったが、時間的に余裕があったのですべてフォローした。
※ロープはこの組み合わせで大正解。長いと不便だが、2本あると荷上げが楽。


【写真】
最初のCS滝で写真撮影会 洞窟ゴルジュのエイドクライミング。楽しいけど、惜しむらくは残置バリバリなこと・・
鮎リードの7m滝。実は左から簡単に巻けるが、残置なくちょっと楽しい 井戸底ゴルジュ最初の滝。オーブ君はサクッと越えた
井戸底ゴルジュ2つ目の滝。ここが核心。怖いです 迷路ゴルジュ3段25m滝中段を登るオーブ君
衝撃写真1(オーブ南アジア越え) 衝撃写真2(鈴木さん半裸越え、前から)
衝撃写真3(鈴木さん半裸越え、後から)