■甲府/太刀岡山鋏岩左岩稜[登攀]

2008.12.6
鮎島仁助朗、大部良輔
 11月末にネットサーフィンをしていたら、もうシーズン終わりだというのに面白そうなマルチピッチルートを見つけてしまった。それがこの甲府の太刀岡山鋏岩左岩稜。
 これは太刀岡山でも「100岩場」にも出てない、いわゆる“ゲレンデクラシックルート”という奴で、近年の商業雑誌や本には紹介されていないルートであるが、間違いなくいいルートであろうことは容易に想像できた。まず、基本ゲレンデなのでアプローチがとても近い。冬でも登れる。また、それほど難しくはなさそう。でも、マルチピッチで、なにより、とんでもなく見栄えがする!これは行くよりほかないでしょう。
駐車地からの鋏岩全景とルート ハイライト5P目を登る大部
 当初は前夜発の予定だったが、そんなに早く取付いても寒そうなだけだったので朝発に変更。7時に豊田を出て9時に駐車地に到着。駐車地からは鋏岩がすぐそこに見え、とってもカッコいいのだが、う〜ん、日が当たってなく、寒そう・・。鋏岩へ直に行く方法もあるようだが、よくわからなかったので登山道を15分程度歩いて小山ロックへ行き、そこにいらない荷物(シングルロープなど)をデポしたあと、鋏岩基部まで落ち葉でわかりづらい道を下降した。おかげさまで多少なりとも体は温まった。鋏岩の一番左側をよく見ると赤いペンキでルート名が小さく書かれており、「左岩稜」と書かれてあるところからじゃんけんに勝ったオーブ君から登り始める。

1P(大部、V+・A1、35m)
 リングボルトのラダー。まず3ポイントの人工で小テラスに上がり、凹状の垂直の壁をなおも5〜6ポイントの人工であがる。その後右に乗り移り、ルンゼ状の木登りで適当な木まで。これがちょっと凍っていたりして悪かったりする・・。このピッチ、リードしたオーブ君は「上手いヒトならフリーでも行けますよ」と言うが、う〜ん、どうなんでしょう?
2P(鮎島、V、40m)
 ルンゼに導かれるまま登り、右壁にボルトラダーがあったのでそれを辿り5ポイントのA1をやるが、ラダーは途中で終わっていて、その上はハング・・。なんなんだよ!というわけでロワーダウンし、ビレイ点まで戻り、草付バンドを今度は左に上がって、後は木登り30m。ロープ一杯で左稜線に出て岩峰の基部にあるボルトまで。まぁ所謂「泥臭いピッチ」。難しくはないが寒い。
3P(大部、W-・A1、35m)
 岩峰を登る。クラックからフェースを登るが、ちょっとハングしているので、迷うことなくA1。4ポイントの人工で小ハングを越える。その上のスラブがチョイ怖い。「ダブルリングボルト」という初めて見たボルトもあり、時代を感じる。その後、高度感が出始めたリッジを忠実に木まで。このピッチ、リードしたオーブ君は「左のクラックからいけば、上手いヒトならフリーでも行けますよ」と言うが、う〜ん、どうなんでしょう?とにかく寒くて、ヤル気なし。
4P(鮎島、V、45m)
 リッジを忠実に辿る。高度感があって気持ちよい。3mぐらいのフリーが3箇所ほどあるがそういうところにはしっかりボルトがあって、かつガバがあるので難しくはない。このピッチからようやく日が当たるようになる。でも寒い。リッジ上の小テラスに2本のボルトが打ち込まれていたのでそこまで。
5P(大部、W、35m)
 左岩稜のハイライトピッチ。高度感もあって見栄えがするスーパー快適。ただし、冷風が半端じゃないほど強い。オーブ君は「ムリです。左手がカジかんでホールド握れません」と泣き言を漏らすが「チョークバックで手を温めんかい!」という下からの緊張感のないアドバイスの甲斐もあり(?)キレイにピナクルを抜けて行った。あとは馬乗りするぐらいのナイフリッジを10mほど。W+はないかもしれないけど、とにかくフォローで行っても風に飛ばされそうだったんで、体感として。
6P(鮎島、V、20m)
 リッジから頂上広場へ。ごく簡単。
 6P終了後、広場から簡単に登山道にトラバースできたので、あまりの寒さに巻いて終了としてしまった。その後、ザックをデポした小山ロックまで戻ると、なんと鋏岩頂上からそこまで2分の距離・・。あれっ、こんなに近いの?なら、あの鋏岩の最後の壁やろうよということで、ロープはシングルに変えて、そのほか「あったか」装備を持参して再度取付く。
7P(鮎島、X-、15m)
 順番的にはオーブ君だが、思えばVしかやってないので、譲ってくれた。慈悲溢れる若者でうれしいね。圧倒的なハングを直登すればA2というボルトラダーは横目に、フェースを登る。一度落ちかけるが、テンションはかかっていなかったということで夜露死苦。そこそこ面白い。懸垂して元に戻る。

 再度、2分の距離で小山ロックへ。こっちは風が当たらずあったか〜い。「君の瞳に乾杯」(5.9)のフリークライムを1本ずつリードして帰った。なお、この5.9はおそらく左岩稜7P目の方が難しかったと思うような、お買い得ナインだった。

 「サムい〜、勘弁してくれぇ」と何回呟いただろうか?叫ぶ元気もありゃしない。だいたいが「ビレェくわぁぁいじょぉぉぅ」と絶叫コールをするのだが、まったく声が届きやしない。風である。風なのです。本当に飛ばされそうな風。BAKU-FUです。加えて、日が当たらない。。。そんなことだろうと思って、夜発から朝発に変えたのだが、それでも5P目以降じゃないとまったく当たらないのは誤算だった。ゴッツ寒い。とにかく、ネックウォーマーをして、上も下も3重に着込んだダルマ状態でマルチピッチクライミングをするのはスマートじゃないネッ!これが結論。なにせ、それだけ着込んでも、手と足のくるぶしは無防備な素肌わけで、そこがおイタなのだ。「もっと暖かいときに来ようかな・・」そう思うこと、しきりなのです。
 でも、まぁそういうことです。もう一回行ってもいいなぁ。ハイライトは奇数ピッチだけれど、じゃんけんで負けたせいで偶数ピッチだったしねぇ。それに今回は「寒い」と言うだけがマイナスポイントだったわけで、それ以外は本当に素晴らしい。なにより
@アプローチが近い
A素晴らしい高度感
Bカッコいいライン取り
C岩は堅いし、支点もバッチリ(ハンマーなんていらねぇ)
D適度な技術的レベル
Eきっと誰も取付いていない
F小山ロックでのフリーもセットにできる・・
などなどのセールスポイントがあるわけで、すなわち「オ★ス☆ス★メ」です。特に、高橋さん。ショートをやって次はマルチだぁ!というとき、その第一戦としてはナイスじゃないでしょうか。一部A1が入ってしまいますが、何と言ってもこれだけ長いピッチができる「ゲレンデ」は他には二子山中央稜と三ツ峠ぐらいしかないですからね。とても貴重ですよん。まぁオーブ君が"可能性が見えた"というフリー化は多分難しいとは思うけれど、支点はリングボルトながらしっかりしていると思うので、トライしてみるのも一興かも。

2008.12.8 鮎島 筆

【記録】
12月6日(土)快晴 強風
 駐車地0915、(小山ロック経由)、取付1000、終了点1330、その後フリー、駐車地1530

【使用装備】
 ダブルロープ×2、クライミングシューズ各自、アブミ各自
※カム、ハーケンは一切使用せず。
※ヌンチャクはパーティに10個ぐらいあると便利

【写真】
1P目。「左岩稜」の赤ペンキが見えるところから 1P目を人工で登る大部
3P目を人工で登る大部 3P目を人工の後のスラブ
4P目の岩稜。ここは簡単 ハイライト5P目。ロープが風に靡いている
ハイライト5P目。写真以上に高度感があります 6P目より5P目の終了点。後ろのナイフリッジを辿っています
6P目。後ろは冬枯れです 7P目を登る鮎島
7P目を懸垂して戻る。すぐそこに駐車地が見える 鋏岩全景

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