■後立山/鹿島槍ヶ岳北股本谷 [滑降]

2009.4.11-.12
佐藤勝(シーハイル)、鮎島仁助朗
 あれは5年ぐらい前だろうか。「北股本谷だけ滑れれば死んでもいいんだよ、一緒に行こうよ」と誘ってくれたのは。仲間を捜索をするため何度となく鹿島槍北股を訪れ、鹿島槍北峰と南峰の間から一直線に下る北股本谷を見て、「いつかは・・」と思っていたらしい。いわば本人にとっては追悼山行だが、そこにあえてこの私を誘ってくれたことに私は感激し、瞬時に快諾したことを覚えている。  でも、なかなかいけなかった。山スキーシーズンとなると毎年、今年こそは・・と約束するのだけれど、とにかく決行すらできなかった。そして、5年の月日が流れてしまった。  しかし今年。修行を重ねてきた甲斐もあり神々は我々を見捨てなかった。幸いにもこの1週間、ずっと天気がよく、雪も安定している上、決行する土日の天気が約束される状況。また突発的な事件もなく、なんとか決行にこぎつけることができた。まずは、幸先がよい。
滑降ルート 喉へ滑り込む
 朝6時。目覚ましがなっているが、全然起きられない。結局、松本を出たのは7時過ぎ。7時半に大谷原を出る予定が、最終的には9時になってしまった。
 天気は快晴。1時間で西沢出合。雪はほとんどの部分繋がっているが、一部担がなければいけないところもある。
 スキーを担いで赤岩尾根なんて登ってられないので、西沢をそのままシール登高。西沢は広い沢筋で、少なくともその日登った時点ではデブリも少なく、とても快適な沢である。また、数日の快晴で雪も安定しているように思える。途中バテながらも、1時間で300m標高を上げるスピードで上がるが、1時間ごとに30分休憩・・。完全に雪は腐り、若干ラッセルとなるし、久々に泊まり装備を担いで登るのでなかなかスピードが上がらない。当初は4時間ぐらいで登れるもんだと思っていて、適当に冷池山荘周辺の斜面を滑ろうと思っていたのだが、途中からあきらめ、「今日は登り専念で行きましょう」という合意に変わったのだった。
 しかし、それにしても遠い。14時、ようやく標高2100mを越え、赤岩尾根まで200mちょっとというところをセコセコ登っていると、後からゴゴ~と音が聞こえる・・。振り返ってみると1時間前に通ったところが雪崩れ、30分前にいた休憩ポイントも雪崩の通過道だった・・。雪崩れそうな雰囲気はまったくなかったのだが・・。やはり午後になると本当に雪崩れやすくなるんだということが身をもって学んだ。出発が遅かったです。やはり、ヤバいす。(なお、翌日、北股本谷滑降後、西沢を滑ったパーティに会ったのだが、彼らによると西沢は全面デブリだったそうな・・。我らが登った時点ではまったくなかったのに・・・)。お互い、顔を見合わせた後、急斜面を若干ペースが早くなって登りきり、ようやく赤岩尾根2350m地点。安全地帯に到達!いやー長かった、
 10年前の過去に線香・黙祷を捧げ、北股本谷のドロップポイントならびにルートを観察・・。う~ん、ドロップポイントやっぱ南峰と北峰のコル、雪庇の左側だね。それにしても、傾斜強くないですかね、60度ぐらいありそうなんですけど・・。三浦さん、北峰から右俣滑ったって??ウソでしょ・・。
 ここからはスキーを担ぎ、アイゼンに履き替えて、トレースをついていって主稜線、あとは冷池山荘のすぐ上を整地してテントを張った。
 天気は無風快晴、明日への期待を胸に、テント生活を満喫する。やはり、山で泊まるっていいね。久々に山で食べるカレー、昔話で久々に飲むYEBISUはやはり美味しかった。

 雪が緩まないと滑れないので、とりあえず9時頂上を目安に出発する。もちろん、最後尾である。
 昨日は日差しが強すぎるほど快晴だったが、今日はなんか曇っている。視界はいいのだが、ちょっと不安だ。しかし、目安どおり9時に山頂につくころには、太陽も顔を出し、なんとなく雪も緩んでいるような気がする。頂上は記念撮影、またドロップポイントの再確認だけして、さっさとコルへと下る。ちょっと怖いクライムダウンをして、まだ白い羽毛を纏う雷鳥が陣取っているコルに到着。
 覗き込む。滑り出しは40度であとは35度というところか。赤岩尾根から望んだよりずっと傾斜が緩く感じる。雪も緩んでいて、転んでも止まりそうだし、なんとかなりそうに思える。
 ビーコンチェックをしたのち、勝さんからドロップイン、その後間隔をあけて滑り込む。雪崩・落石対策のため、一人滑っては一人待ち、一人滑っては一人待ちをくりかえし、一気に標高をおろしていく。沢はゴルジュの部分で左に折れる。両岸からの落石だけ注意する。この部分まではずっと35度くらい。ここを抜け、鹿島槍北峰から一気にくだる右俣を合わせるとようやく、下まで全部見渡せられるようになり、傾斜は一段落。しかし、右俣からのデブリが沢全体を覆いつくしている。できる限りデブリのないところをスキーをつけていくが、途中からはビッチリとデブリで埋められる。強引に降りてもどうせ転んでその分体力を使うだけなので、スキーに拘るよりは歩いた方が合理的だ。しかし楽だといっても、スキーで滑るよりはという話で、ところどころハマって疲れるし、それに両岸からは融雪がすすみ絶えずどこからかスノーシャワーが落ちていてなんとも気味が悪い。体力的にも精神的にも疲労感が増加する。しかし、デブリの末端についてもソコで休憩するのも気味が悪く、安全地帯と思われる布引沢出合まで一気にすべり、一服入れる。ここまでおよそ1時間。
 安全地帯に到着した。しばし、余韻に浸る。あぁ、下りきったぜ。あぁ、本当にやりきった。些かの焦慮もなく、打ち眺める鹿島槍はやはり潔い。
 お互いのパートナーシップを築いて滑りきった山はやはり充実感がある。西沢出合まで滑ればあとは林道を滑るだけだ。
 北股本谷の滑降自体は緊張する場面もなかったし、難しくない部類に入ると思う。しかし、総合的な判断、プランニングが難しいと思う。この中途半端な距離・傾斜をどのように克服するか、つまりは重荷を担いで1泊2日でいくか、ワンデイで疲労の残った足で滑るかのどちらかしかない点が問題なんだと思う。確かに確かにワンデイでやった記録も多数ある。しかし、1800mの標高差を上りきった後の滑降がどれくらい足への負担が大きいか、またどんなに頑張ってもドロップインは午後になり、明らかに午後では雪崩リスクが高いこと、それに疲労満点でデブリ帯を通過する大変さを考慮すると、我々の実力ではやはり1泊2日がベターだったと思うし、北股本谷への思いの強さを考えると日帰りで余裕なく抜けるよりはじっくりと取り組めたことが本当に良かったと思う。
 やはり5年だ。こんなに長く思い続けたルートというのはこれまでにない。それも素晴らしいパートナーと共に思い続けていたルートって言うのは。どうやら山への思いというのは徐々に風化していってしまうのは否めないが、我々は違った。逆に、北股本谷だけは滑らねばという思いで、ずっと我らは繋がっていたと思うし、その思いがだんだんと深くなって行ったような気がする。
 共有できていた夢を手放すことは惜しい。しかし、この寂しさの中にこそ喜びがある。
 「スーパーマリオも1-1面がずっと続いていたら、どうなんだよ。クリボを倒したらゴールじゃん。楽しくないじゃん、やっぱ俺はそんな人生いやなんだよ」
 なるほど。さて、次はどこ狙おうか・・。

2009.4.13 鮎島 筆

【記録】
4月11日(土)快晴
 大谷原0900、(西沢経由)、冷池山荘1545
4月12日(日)晴
 冷池山荘0650、鹿島槍ヶ岳南峰0900、南峰・北峰コルドロップポイント1000、大谷原1220

【スキーセット】
 佐藤=板:BlackDiamond「Nunyo」167cm、ビンディング:Diamir「FREERIDE」、靴:Nordica「TR12」
 鮎島=板:SALOMON「Teneighty Thruster」153cm、ビンディング:silvretta「Pure Performance」、靴:SCARPA「Spirit4」

【使用装備】
 アイゼン各自、ピッケル各自、テント1~2人用

【写真】
西沢にて。この後、下で雪崩が発生し、肝を冷やす
赤岩尾根上部ではスキーを担ぐ
2日目。布引岳にて。後ろに剱岳が美しい
剱岳山頂にて
ドロップインポイント
上部。傾斜は40度くらいか
上部。傾斜は40度くらいか
上部
少し休憩
喉の部分へと滑りこむ
喉の部分へと滑りこむ
喉の部分から抜け出る
右俣と合流してからはデブリ帯
デブリ末端から上部を望む
あとはゆっくり滑降するだけだ
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