■西上州/鹿岳一ノ岳南壁「西上州岩場調査隊ルート」 [登攀]

2009.4.19
鮎島仁助朗、渡辺剛士
 目指すは鹿岳(かなだけ)南壁。かの「西上州のフィッツロイ」と異名を取る大岩壁である。登られた記録があるので何とかなるとは思うのだが、でもCJ以外の情報なんてまったくないところ。どーなんだろ。毛無岩は案外と対応可能だったけど・・。まぁ、やはりそれは残置次第なんだろーな。ま、楽しみ楽しみ。

鹿岳全景とルート

「ホールインワン」未遂ピナクルと苦笑いするナベ
5P目を登る鮎島 8P目。頂上へとランナウトするナベ
 下高原の鹿岳登山口にはいい駐車スペースはなく、歩いて3分ほどの戻ったところの工事現場入り口の路肩に車を止め、一晩明かす。
 鯉のぼりがある小屋の入り口から登山道を忠実に辿る。なお、この道は1:25000の地形図には載っていないがエアリアには載っている道である。出だしちょっと迷ってしまったが、なかなか道は良く整備されている。基本沢筋を詰めて行く登山道を40分ほど歩くと沢は二俣となり、道は左股を詰める感じなる。この二俣でなんとなく鹿岳南壁が杉林の奥に"ドン"と控えているような雰囲気となり、登山道から離れ右俣の支沢(水は流れていない)を詰めていくとやはり"ドン"と杉林の奥に見える。うぉぉ、これがフィッツロイ??・・・。実物見たことがないのでピンと来ないけど、とにかくデカい。デカいぞ、西上州のフィッツロイ・鹿岳南壁!!!
 緊張の面持ちで岩壁基部へ。岩壁基部は河又の岩場のような感じで広場となっており、祠が2つある。トポではこの祠のすぐ右から取り付いているような感じなので、あるべきボルトを探すが、・・・あれっない。おかしいなーと思い、目をさらにして探すと、祠からちょっと右、10m近く右のところに美しいリングボルトラダーがあるではないか!なるほど。ここが取付きね。

1P(鮎島、15m、A1)
 じゃんけんに勝った鮎から。見事なボルトラダー。ハングしているがボルトの間隔は近い(何個か怪しいものもあるが、大丈夫でした!)。でも、久しぶりのエイドなので時間がかかってしまった。A1も体力が必要なのよ。なお、上部はフリーでいけなくはなさそうだが、あえてフリーで登る理由もなく、ずっとエイドにて。2本打たれている支点まで。
 上でナベのビレイしようとしたら・・・・「ガーン、ATC忘れた!」。あちゃー意味なく軽量化をやってしまった。痛恨のビレイ具忘れとは・・・。取付きで気づいたら即、撤退していたけど、でも、もう1P登ってしまったからね。それに、まぁ懸垂下降で下るところじゃないし…。ということで、今後セカンドのビレイは半マストでビレイということで登攀続行する。
2P(ナベ、8m、Ⅳ)
 右のバンドをトラバース。腐ったハーケンをキャメ#1.0で補強しランナーとして木。あとは脆い凹角を上ってハング下まで。そのままハングを登ってもいいが、エイドになるので、念のためそこでピッチをきる。なお、このトラバース、悪いです。でも、1ピッチ目とこの2ピッチ目は一緒に登るのがストレートなんだろうな。
3P(ナベ→鮎島、15m、Ⅲ・A1)
 ハング壁を左上する感じでハーケンのラダーがある。しかし、どう見ても腐っているんだな・・。ナベは「なんだか気乗りがしないなー」とリードをためらっているが、結局リード。でも、ナベの中では腐りハーケンでの人工はさすがに「ナシ」らしい。その直下に走っているクラックにエイリアン緑を突っ込み、テスト。大丈夫らしいということでアブミに乗り込んだ0.5秒後、落ちた・・。ドスっ・・。といってもたった50cm落ちただけなんだけれどねッ。でも、なぜかナベは悶絶。額は脂汗をかき、私も骨折したことがあるからわかるが、その時のような反応をしている。少なくともたかが50cmの痛がり方じゃない。「ど・どうした?大丈夫か?」と聞けば、ピナクル状に尖がっている岩と自分の尻を指差した・・。っえ?どうやら運悪くそのピナクル状の岩にケツから・・・?「っで、まさかホールインワン??」と私は笑って聞くよりほかないが、どうやらそれだけは免れたようだ。
 しばし、休憩後、今度は残置ハーケンでエイドしようとするが、あまりの腐り具合に顔が引きつき、「俺にはダメだー」ということで選手交代。
 鮎島は基本、「50万円以内の融資なら無条件に信用」というサラ金なみのハイリスクハイリターンを残置に期待するので、こんな腐り残置でも平常心で登れるのだ。というわけで、4手のエイドを無難にこなし、木から左のスラブに回りこんだところまで無事登る。なお、ナベはやはりその腐り具合がやはり気になるらしくフォローしながらもそのハーケンをチェックしている。曰く「このハーケン、グラグラしてるじゃん」→鮎「うるせぃ、レビューするんじゃない、グラグラしてたって登っちゃえばこっちのもんなんだよ」。・・。この部分、安全に再登するためには新たに支点を打ち足すことをおススメします。
4P(ナベ、35m、Ⅳ‐)
 ケツはまだ痛いらしいが、何とか大丈夫らしい。ということでその後はつるべでリード。そのまま直上できるような感じでどこでも登れそうな感じだが、う~ん、傾斜が強い・・・。トポを見ると左のリッジから登っているようなので、おとなしくそれに従う。草付きから傾斜の弱いところをなるべく登る逃げのラインに見えたが、いや、意外と悪い。右上ハングの一番左端下の潅木大テラスまで。
5P(鮎島、25m、Ⅳ‐)
 右上ハング下を忠実に右上する。岩は案外堅く、スッキリしている。スラブ状で順層。いやー残置も多くうれしい。途中、ハング状となるところで、右のリッジにトラバースする一手が高度感もあり、緊張するが、それだけ。一人分のテラス(バケツテラス)まで。
6P(ナベ、35m、Ⅳ)
 登り始めはカンテを今度は左へ回り込むように登るのだが、傾斜も強くて悪い。15mほど登ると右上ハングの右端に達し、あとは草付き・潅木のようなところを登ってバンドまで。
7P(鮎島、35m、Ⅲ+)
 ようやく頂上らしきものが見えるが、ずっと奥。どこでも登れそうな感じで、実際、グレード的にもⅢ級を越えないのだが、ランナウト。ボルトが一個打たれていたバンドまで。私はランナウトにビビッてしまって途中、何とかランナーがとれないかとリスを探しながら登っていたら時間をかけすぎてしまい、ナベに怒られちゃった。
8P(ナベ、40m、Ⅳ)
 傾斜の強い壁を右の松の木まで行って稜線へ。
 しかし、リードしたナベはこう言う「自分の息が臭いのに気づいた」と。ナベはこうも言う「守るべき何かを持っているヤツにはリードできまい」と・・・。「笑っていいとも」じゃないけど、「そーですね」というより他ありません。うん、私はここのリードは無理だったでしょう。私にはどうやら守るべき何かをもっているようです・・。
 ・・・というのはともかく、25mのランナウトです。資料でも「『まだ生きてるぞ』コールに現実味が沸く」と書いてあるところだ。いやーでも、甘く見てました、25mランナウト。どぅすか。スラブじゃありません。ほぼ垂直です。でも、ホールドは全ガバです。しかも堅いです。どこでも登れそうです。実際、ムーブのグレード的にはⅢ+級を越えません。っえ?楽勝だろっって!?しかし、堅い全ガバとはいえ、なんだか剥がれそうなんですよ。しかも残置がありませんのよ。しかも、あまりいいクラックもリスもありませんのよ。オーホッホッほ・・・。いやーどうなんですかね。一見、脆そうで実はメチャ堅い全ガバの垂壁で素晴らしい高度感のあるランナウト。「プエルトリコリーグにようやく参戦できるぐらいのレベル」(高橋代行評)にしかない我々にはちょっと頑張ってしまったのです。でもね、「難しいとか簡単だとかそんなことはどうでもいい。怖いか怖くないか。ビビるかビビらないか。それこそが、問題だ」(byフトンビシの記録より)。そうだよ、この言葉をまた思っちゃたよ。そして「いい山登りの良し悪しの基準とはビビるかどうかだ」(和田城志氏評)としたら、このピッチのクライミングは間違いなく、素晴らしいクライミングでした。

 たどり着いた縁は広場となっており、一息つく。ナベは座ると痛いらしく、まともに座れない。あぁ疲れたー。結局、いろいろあって6時間半もかかってしまったが、まぁしょうがないでしょう。でも、3時間半で登り切った恩田隊長は素晴らしいね。
 下りは二ノ岳とのコルから登山道を忠実に下高原へ。1時間もかからず着いた。やっぱり近かった。
 我々は敗退する充分な理由があった。だいたいが、鮎島は現代登攀具の主、ATCを忘れるなんて大ポカこいているし、なんといってもナベはケツにピナクル串刺し!!マジで痛がる本人には本当にかわいそうだが、笑っちゃうよりほかなかったぜ。まぁ、こんなこともありながら良く登ったよ、登りきったよ、西上州のフィッツロイに。
 ん?みんなナメてるでしょ。ATC忘れ&穴ピナクルでも完登できたんでB級系だと思ってるでしょ!?この西上州のフィッツロイ。いやいやいや、そんなんじゃないですよ。
 9ヶ月前フトンビシの記録で私はこう書いた。「難しいとか簡単だとかそんなことはどうでもいい。怖いか怖くないか。ビビるかビビらないか。それこそが、問題だ」と。うん、自分で言うのもなんだけど、いいこと書いたねぇ。いや、でもそんな感覚あんまり味わいたくないわね。でも今回ズバリ、またそれを味わっちゃいました。そう、つまるところ、「いい山登りの良し悪しの基準とはビビるかどうかだ」(和田城志氏評)としたら、今回のクライミングも間違いなく、「ビビったクライミング」=素晴らしいクライミング=「魂のクライミング」だったのです。
 ピッチグレードもⅤはないしで、甘く見てしまうかもしれないけど、総合的には毛無岩烏帽子直上より2ランクは難しいぜ。いやー登攀終了後のへたれ方が本当に違います。あ~つかれた~。とくに、一番最後のピッチは本当に精神的に疲れた。いつもは「たましい~」というガンバコールを今回はCJにならって「生きてるか~?」→「確かに生きている」でやっていたが、最終ピッチは本当にやっぱり実感がこもってましたね。
 オススメですか?どうでしょう、毛無岩はともかく鹿岳についてはちょっと安易にはおススメできませんね。ちょっと、塩沢の集落から望む鹿岳南壁を見てください。どうすか?最後はあの垂直に見えるところを直上するんですよ。ちょっと気楽に取付きたいところじゃないでしょ?まぁでも、内容的にはもっと登られていいような気もします。確かに技術的な難しさはそんなにないし、なにより、アプローチも近くて、200mを越す大岩壁なんてそうそうないですしね。それに硬いですよ、快適ですよ。見栄えもしますよ、カッコいいですよ。でも、でも、でもでもでも~。つかれますよ、精神的に。それだけは覚悟すべし♪
 下仁田で美味しそうなメシ屋を発見したが、次にここに来る課題は・・・。う~ん、ドロミテ立岩?確かに立岩を登れば南牧岩峰三部作完登だけれど、どうなんだろ!脆いというしなー。三軍改め「プエルトリコリーグ参戦部隊」は次も狙います。まぁとりあえず、下仁田じゃないけど西上州とすれば妙義の五輪岩がターゲットだね。秋です。しくよろ。

※鹿岳南壁にはこのルートしかないと思いますが、他にもあるかもしれないのでとりあえずルート名は参考にした資料(CJ2号)にしました。もっとも、その資料によると、富岡労山が拓いたルートらしいです。

2009.4.20 鮎島 筆

【記録】
4月19日(日)快晴
 駐車地0610、取付き0700、登攀開始0730、鹿岳山頂1400‐1430、駐車地1515

【使用装備】
 ダブルロープ50m×2、アブミ1s各自、フィフィ各自、カム(#0.1~1.0)、ハーケン(ナイフブレード、アングル)各1、ヌンチャク・スリング多数
※カムの大きいのは使えないが、小さいのはもっと使えそう。
※ハーケンを打とうと思えば、もっとつかえると思う。
※南壁なのでとにかく暑い。5月~9月は適期じゃないと思う。

【写真】

左/取り付き。結構な広場になっている。 右/1P目のリングボルトラダー。
 

左/1P目をリードする鮎島  右/1P目をリードする鮎島2
 

左/1P目をリードする鮎島3  右/1P目をフォローするナベ
 

左/2P目をリードするナベ  右/このピナクルです。ホールインワン未遂。
 

左/3P目をリードする鮎島  右/4P目をリードするナベ
 

左/4P目をフォローする鮎島  右/5P目をリードする鮎島
 

左/5P目をリードする鮎島  右/5P目をフォローするナベ
 

左/6P目をリードするナベ  右/7P目をリードする鮎島 
 

左/7P目をフォローするナベ  右/7P目をフォローするナベ
 

左/8P目をリードするナベ  右/8P目をリードするナベ
 

左/頂上にて  右/頂上にて(看板は戻しましたよ)
 

左/塩沢集落から望む鹿岳南壁  右/アップ…垂直です。このフェースを登りました
 


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