■北ア/赤谷尾根[登攀]~剱岳北方稜線[登攀]~チンネ左稜線[登攀]~剱岳~東大谷左ノ左俣[滑降]

2009.5.1-.3
鮎島仁助朗、佐藤益弘、鈴木仮狩
 2008年GW、北鎌を舞台に渾身のクライム&ライド(C&R)を完遂した。新穂高温泉から千丈沢乗越を越えて千丈沢を千天出合まで滑降し、今度は北鎌を登り返して槍ヶ岳に登頂、飛騨沢を滑降して下山するというこの山行は、内心、2008年度山登魂No.1の山行だったと自負しちゃったりしているのだが、まぁそれはとにかく充実度は素晴らしいもので、オーソドックスな登攀でもスキーを加味してC&Rにすることで+αの新鮮な広がりを見せ、かつとても合理的で素晴らしい登山手法であることが実感できた。
 となると、味をしめ、早々に次年の計画を立てようというもの。目標はすぐに決まった。やはり槍の次とくれば、剱なのだ。しかし難しい。何が難しいかといえば、剱を舞台とするといえども、具体的にはどこを通ろうかということ。槍のときは最初から北鎌&飛騨沢という軸を考えたので、まったくプランにブレはなかったが、なにせ今回は「剱を舞台とする」という漠然とした目標の設定から入ったので、まず優先順位から設定することにした。①剱を舞台にする以上やはり剱岳の登頂はしたい。②せっかく剱まで行くのだからチンネ左稜線の登攀はしたい。③チンネまでの登りはどこかの雪稜から登りたい。④下山はスキーで一気に滑降したい。という具合に。
 具体的な最初の二つを軸に考えれば、③は小窓尾根か赤谷尾根のどちらかで登ればよく、これはメンバーに合わせれば良く、技術的にも対処可能だ。しかし、問題は④。剱岳からどこを滑降する??剱岳山頂からの滑降は池ノ谷も東大谷も明らかにエクストリーム、重荷を背負って滑るのは厳しい。室堂乗越まで縦走しての立山川滑降なら難しくはないが、剱岳からあまりに遠すぎる・・。逆に白萩川も考えたが、剱に登頂した後、逆縦走するのが気に食わない。・・・そう、今回計画するにあたり、一番迷うところは実は下りをどこに取るかだった。そもそも剱岳、特に西面のスキールート情報はあまりなく、苦労するのだ。が、いいルートを見つけ出すことができた。それが東大谷でも左ノ左俣。これならば合理的なラインになりそうだし、なにより、知り合いに滑った人がいるので早速確認してみても、これはなんとかなりそうだとの感触。  小窓尾根はすでに登ったことがあるらしい鈴カリさんに合わせて赤谷尾根を登りにすることで、北方稜線も辿れるようになり、これで剱岳でオイシイところをすべて辿る洗練された剱岳西面周遊ルートプランになった。天気・都合に合わせて入山を予定より1日早くして、昨年の北鎌C&Rメンバーで再度臨むに至った。

ルート

剱岳山頂にて
赤谷尾根上部をシール登高する佐藤 赤ハゲ付近を通過する佐藤
チンネ左稜線を登る佐藤 東大谷を滑降する
 一日目。
 ネットで発見した川越IC近くの南大塚駅前Times(1日最大500円←テラさん駐車場が使えなくなった今、待ち合わせにとても有効?)でトーマスさんと合流後、4時間で魚津駅。仮眠して4時50分着「きたぐに」でくる鈴木さん(カリ)と合流。クネクネした道で馬場島まで。平日だからだろうか、駐在はなぜかおらず、また車も想像していたよりも少ない。
 とりあえず計画では赤谷山までの行程だが、天気予報のことを考えると3日間ですべてやりきりたいような気もしたので、できれば池の平山で行きたいねーと目標を設定するが、う~ん・・・。明らかに赤谷尾根が黒い!雪なんか下部は無さそう・・。前言撤回、大窓を目標としましょう!
 まったく雪の無い林道を1時間歩いて、赤谷尾根の取付き。っというか、良くわからない。もっと踏まれているもんだと思ったが、よくわからないので適当に赤テープがあるところから上り始める。次第に踏み跡が出てくるが、全然雪がなく、つらい。スキーも木に引っかかり腹が立つ。それに、あぢ~。標高1500mぐらいまではこんな感じがずっと続いた。1563mのポイントからはようやくスキーが使えそう。というわけで履くが、500mぐらいでまたはずさなければならない。履けるところは履くがあまりはけないのね。1863mポイント直下は斜度も強く、担いだ方が早い。1863m地点から1時間は快適なシール登高。っというか、後になって気づけば、スキーが有効活用できたのはここだけだったのだが・・・。赤谷山の急登を消えかけのトレース(うちらは2パーティ目ぐらいだったのかな)にしたがって1時間ちょっと登ると待望の主稜線だ。あぁ疲れた。なにせ、ここまで標高自体1500mも登っているのだ。
 2263mピークは左からトラバースして赤ハゲまでの鞍部。ここに幕営跡があった。赤ハゲのきつい登りで鮎島完バテ。ここまでつぼ足でもまったく問題なかったが、この先の稜線はアイゼンをつけたほうが良さそうなので、アイゼンに履き替えれば、それほど難しくなく、白ハゲ。もうここまでくれば、大窓までは下るだけだ。後から来たパーティも大窓で泊まるようだ。

 二日目。
 11時までにチンネに取付こうということで4時半出発を目指して3時おき。
 朝方は斜面も堅く、アイゼンで快調に大窓の頭・池平山に登る。池平山までは消えそうなトレースしかなかったが、池平山からは黒部横断したパーティであろう新しいトレースがばっちりあり、小窓への急な下りも木を伝ってロープを出さずに下れた。
 しかし、小窓からの登り返しが厳しい。なにより太陽をさえぎるものがなく、風もない。熱射病になりそうな感じ。大窓に泊まっていた他パーティ3人組(福岡から来たそうな)にあっさり抜かれ、ヘロヘロになりながらなんとか小窓の王。バッチリした懸垂下降支点があったので、疲労困憊の身を鑑み、念のため懸垂下降50mしたのち、ちょっと上り返すと三ノ窓だった。時間は10時半前。よし、いちおうなんとか合格だ。
 テント設営・いらないものをデポしたのち、チンネの取付きへと向かう。トレースはバッチリだ。というか、我々が三ノ窓に着いたころに取付いたらしく、我々が取付きに着いたころ、完全に氷結したルンゼを登っていた。あれっそこから取り付くのか・・。完全にアイスクライミングじゃん。うちら、スクリューはおろかダブルアックスなんてないのですが・・。というわけで、あえて同じところから取付く必要もなかろうということで、夏ルートを純粋に辿ることにした。
 雪のついたバンドをロープを出し、鮎島リードで左トラバース。まぁなんとかトラバースし終わったところから、傾斜の緩い壁を登るが、アイゼンで登るとわ・わるい。この後、したから見る限り、雪がついていなさそうだったので、クライミングシューズに履き替えることにする。
 2ピッチ目、鈴カリさん。クライミングシューズに履き替えたのはいいものの、下からは窺えない雪が結構、べったりついているらしく、苦戦している。その後「ここ落ちるかもしれんからよろしく」といって迎えた草付き帯。あるはずの残置は雪に埋もれ、フラットソールに氷結した草付はあまりにも相性が悪い。案の定(?)滑って、落下し、15mぐらい「あ゛ぁ゛~~」という絶叫と共に落ちてくるが、なんとかストップ。こんな感じの落下でワタシは足首を骨折したので大丈夫かどうか心配だったが、この先週、誕生日を迎えて本厄を抜けたばかりの男はケツを打っただけでとりあえず大丈夫らしく、ひとまずは安心。
 が、とにかく戦意喪失・・・。まぁなんとか回収して、今日はテントに帰ろうよということで一致して、トーマスさんが回収に向かい、懸垂して取付きの雪渓に戻り、あとはトレースを逆に辿って三の窓のテント。時間はまだ14時。ぽかぽか陽気の中、テントの外でとにかく飲んだくれて作戦会議。
 当初はチンネはパスして直接、剱岳本峰に向かおうという雰囲気だったが、落ちた張本人の鈴カリさんが「やっぱりチンネやらへん」との力強いお言葉。それならということで、1ピッチ目は夏ルートではなく彼らが取付いたルンゼルートをダブルアックスで登り、後は今日取付いたパーティに状況を伺おうという安全策で進めることにした。今日取付いたパーティは18時ごろに戻ってきた。
 状況を聞いた後、18時半には就寝。

 三日目。
 とりあえず前日のうちにライバル(?)パーティがいることは確認済みだったので、朝イチで取付くべく、今日も3時起床。4時過ぎにはテントを出発、少しの差で一番に取付くことができた。
1P目(鈴木、30m、Ⅳ)
 昨日の作戦通り今日はルンゼから取付く。目測Ⅲ+級というところで、まぁ難しくはなさそうだが、平爪アイゼンだし、アックスもアイス用じゃないしスクリューがない中で、突っ込めるのはやっぱり登攀エース鈴カリさん以外におらず、トーマスさんのアックスを渡してダブルアックスでリード。完全なるアイスクライミングである。やはり状況は悪くⅣ級ぐらいに感じる。ルンゼアイスはその後も続いているが、支点がなさそうなので左へトラバース、夏ルートの2P目終了点と合流し、あとは忠実に夏ルートを辿る。後続パーティの女性はルンゼをそのまま直上。50mノーピンの鈴カリさんもビックリの「魂のクライミング」を実践していた。いいものを見てしまった。
2P目(佐藤、25m、Ⅲ+)
 三者アイゼン。ピナクルからフェースを登る。
3P目(鮎島、45m、Ⅰ)
 三者アイゼン。簡単なリッジ。ロープ一杯伸ばしたハイマツまで。
4P目(鈴木、45m、Ⅲ)
 三者アイゼン。草付みたいなところ。ロープ一杯伸ばしたピナクルまで。
5P目(佐藤、25m、Ⅲ+)
 三者アイゼン。あまり覚えていないが、ピナクルが乱立するところ。ロープが重くなったので途中で切る。
6P目(鮎島、25m、Ⅲ)
 三者アイゼン。核心ピッチの手前T5まで。下からは後続パーティのほかに、左方ルンゼを登ってきた関西からきた2人組も上がってきた。
7P目(鈴木、45m、Ⅴ)
 鈴カリさんがアイゼンでリード。ワンテンしたのちロープ一杯まで伸ばしてピナクルまで。鮎島&トーマスは無理せずクライミングシューズに履き替えて登る。いやぁアイゼンは厳しいでしょ。鈴カリさんは良く登ったね。
8P目(佐藤、25m、Ⅲ+)
 佐藤・鮎島=フラットソール、鈴木=アイゼン。ロープの流れが悪くなったところまで。
9P目(鮎島、45m、Ⅲ)
 佐藤・鮎島=フラットソール、鈴木=アイゼン。気持ちのよい高度感を感じながら終了点まで。9時。
 チンネ自体、核心の7P目以降はアイゼンは不用だったと思うが、それまではアイゼンが欲しいし、後続パーティは核心部以降もみんなアイゼンで登るようだ。
 終了点でアイゼンに再度履き替えて、池ノ谷ガリーを下降。10時に三ノ窓BC。まずまずだ。この調子なら、今日中に東大谷へドロップインできそうだ。今日は憲法記念日ということでの憲法論議もそこそこに、さっさと撤収、剱岳へ。
 きつい池ノ谷ガリーの登り返しも何とか登りきれば、あとはトレースについていくだけだが、三日目ともなると体力的に厳しい。12時半なんとか剱岳山頂に到着。記念写真もそこそこに早月尾根を下山開始。東大谷を滑降といえども、中俣や右俣なんて壁だからね。ソッチはスーパーエキストリームの世界。重荷を背負って滑れるのは左俣も左の左俣ぐらいしかないのだ。そのドロップポイントまでいくためには早月尾根を1時間ほど降りて2614mポイント手前のコルまで行く必要がある。13時半に到着し、14時にドロップイン。
 朝方よかった天気も少し下り坂。風が吹付けて寒く、また下を見下ろすと雲が湧き出ている。でも、側壁からの落石はなさげの雰囲気ださし、雪崩も大丈夫そう。まぁ大丈夫でしょう。傾斜は30度ぐらいというところか。斜面は広くないが南面で雪は腐っているので、恐怖感はない。途中、完全に雲の中に入り視界が50mぐらいになるが、あまり離れないように滑降していくと、30分ほどで左俣本流との合流点。ここまではデブリなどは一切なく快適だったが、ここからは左俣からのデブリがすごい。それでもここからは広い斜面となるのであれていないところを選んで10分ほど滑ればと中俣と合流し、一息つける。なぜか中俣には最近のトレースがあった。
 ここから先、立山川との合流点までにゴルジュっぽいところがあったが、雪も繋がっていて、簡単に通過すれば、後は斜度もゆるやかに立山川と合流。ここからは立山川からのシュプールがあり、それについていけば快適に毛勝谷まで滑れる。毛勝谷を過ぎると2~3回板をはずさないといけないところがあるが、渡渉はなく、また迷うところもトレースに従えば安心というもの。ハゲマンザイ沢出合までつけば、林道終点にかかる橋まではあと少しだった。直前でスキーをはずさなければいけないが、結構スキーが使えた。
 後は林道を1時間たらたらあるけば馬場島。
 赤谷尾根から剱岳北方稜線を経由し、三ノ窓に定着してチンネを登る。その後、本峰に登頂して、東大谷の滑降で一気に下山―――。剱岳を舞台にClimb&Rideを実行するとなったら、これ以上の合理的で魅力的なプランはおそらくでてこまい。そんな自画自賛プランだが、なんといっても計画の核心はチンネ。 皆さん、御存知ですか??GWのチンネってアイゼンで登るのがフツーなこと、そして実は1ピッチ目は完璧なアイスクライミングになってしまうこと・・。いやぁ知らんかった。そして苦労したぜ。
 ・・・ゲロすると、実はチンネ。一度敗退しましたっっ!いやぁGWのチンネって夏の状態と同じだと思ってたからね、完全にナメてたのよ。ところがどっこい、完璧に下部は雪がついてるやんけ。そして取付から悪いやんけ。夏ルートから取付いたら、「ウゲゲっ→ピューン→ドコッ」となったわけ。それでも気を取り直して三日目に再度チャレンジできたのは、落ちたのが鈴カリさんだったことなんだろう。なにせ、敗退した当初は、「もうチンネやめようよ」という雰囲気だったのに、落ちた張本人の鈴カリさんが「やっぱりやらへん」という心強い一言がなかったら、きっとスルーしただろうからね。
 とにかくとにかく。チンネも加味したこの剱岳西面周遊クライム&ライドは昨年の北鎌C&Rにならぶ充実度。あえて比較するなら、技術レベルは剱の方が上、体力レベルは北鎌のほうが上だとおもうが、どちらも古典ルートにプラスアルファしただけなので極端に難しいものじゃない。でも、見渡す限りこれらをセットしたプランは前例を見ないわけで、なによりプランニングに多少なりとも頭を使ったプランで実際にとても充実した山行となった。いちおう計画より1日早く目論みどおり3日間で完遂することができたので、結果的に大成功。これは天気・運・鈴カリさんの不屈の精神に助けられたとはいえ、我々3人のチームワークによるところ大だと思う。良くやったね、やりきったね。。トーマスさん、鈴カリさん、ありがとうございました。・・・。ゴメンす。コーディネーター特権ということで、実は一番年少だった私の共同装備が明らかに一番軽かったのです。この場でお詫びいたします。
 う~ん、来年ね。槍・剱ときたら次はやっぱり穂高なんだろうなぁ。でも、来年は1日休めば1週間お休みなので、白神みたいに純粋に山深いところに入ってみたいんだよなぁ。というわけでGWについてはひとまずペンディング。でも、せっかくスキーも簡単なクライミングもできるうちは、このあまりに合理的な登山手法を止める理由もないもないわけで、この「なんちゃってC&R」の課題はまだまだ追求していく。スキーもクライミングもできる方、募集中です。

2009.5.7 鮎島 筆

【記録】
5月1日(金)快晴
 馬場島0620、赤谷山1300、大窓1645
5月2日(土)快晴
 大窓0440、池平山0700、小窓0800、三ノ窓1025、チンネ左稜線取付き1115、敗退点1300、三ノ窓1350
5月3日(日)晴のち曇
 三ノ窓0425、チンネ取付き0440、終了点0900、三ノ窓1000‐1040、剱岳1225、早月尾根2600mドロップポイント1330‐1400、立山川林道終点1620、馬場島1710

【使用装備】
 ゴアテント2~3人用、ダブルロープ50m×2、アイゼン各自、ピッケル各自、フリートレック各自、クライミングシューズ各自など
※鮎島はダブルアックスで雪稜を上った。
※鈴木はクライミングシューズは使用せずアイゼンで登った。
※冬用靴は鮎島=スキー兼用靴、佐藤・鈴木=プラスチック登山靴を使用。

【写真】
赤谷尾根上部をシール登高
赤谷山を越え、赤ハゲへ向かう
赤ハゲを越えたあたり。ここでアイゼンに履き替えた
大窓からの富山平野の夜景
二日目。大窓の頭へと登る
小窓からの登り返し。バテた
二日目。チンネ敗退し三の窓へトボトボ戻る
チンネ1ピッチ目。完全なアイスクライム
チンネ7ピッチ目
チンネ8ピッチ目
チンネ9ピッチ目
池ノ谷ガリーを登り返しきって頂上へと向かう
剱岳山頂にて。やったね
東大谷左ノ左俣上部
東大谷左ノ左俣上部②
東大谷左ノ左俣中部。ガスの中下る。
東大谷左ノ左俣下部
東大谷左俣
東大谷左俣
最後この橋を渡れば待望の林道である
山登魂ホームへ